【Color.15】制作担当 宮下直也さん 「一歩引いた視点で撮影現場を支え、 映画の“景色”を作り出す 映画『ラブ≠コメディ』制作部の仕事」

制作部 宮下直也

制作担当

宮下直也

制作部 宮下直也

長野県出身。フリーの制作部・ラインプロデューサー
主な担当作品に『TAP THE LAST SHOW』(17)『花束みたいな恋をした』(20)『太陽は動かない』(20)『ノイズ』(22)『パレード』(24)『片想い世界』(24)『笑うマトリョーシカ』(24)『楓』(25)『人はなぜラブレターを書くのか』(25)など

Chapter 1

制作部の仕事

制作部の仕事のなかで最も大きな役割が、ロケーション探しです。ドラマや映画の画面に映っている場所はすべて、制作部が探し、撮影の交渉を行っています。また、宿泊や移動、食事の手配など、スタッフやキャストのライフラインを整えることも制作部の重要な仕事です。

現在ではあまり使われない表現ですが、僕が見習いだった頃、制作部は“撮影隊のお母さん”と呼ばれることがありました。スタッフやキャストの皆さんが忙しい撮影の合間にほっと一息つけるように、食事の時間を整えたり、休憩のコーヒーを用意したりと、現場を支える役割を担っていたんです。一方で、「次に何を撮影するか」を決め現場をリードする演出部は“撮影隊のお父さん”と表現されることもあり、“お父さん”と“お母さん”の両輪で撮影隊を率いていくイメージでしたね。

ポジションとしては、監督のもとにカメラマンや美術部、衣装部といったメインスタッフが並ぶ一方で、制作部は一歩引いた立場から現場全体を見渡しているような存在です。撮影に集中している皆さんを俯瞰で見守りながら、現場が滞りなく回るようにフォローする。いわば、縁の下の力持ちのような部署だと思っています。

Chapter 2

監督のイメージを具現化する
ロケ地探し

企画が動き始めてからさまざまな部署のスタッフが作品に関わっていきますが、制作担当は比較的早い段階から作品に参加します。台本を読み込み、“柱”と呼ばれる「シーン1:教室」といった場面の設定をもとに、イメージに合う場所を探して監督に提案することで、監督が作りたい世界を具体化する手助けをしていくんです。

また、初めてロケ地としてお貸しいただく場合には、「こんな作品を作るために、この場所をお借りしたいです」と、作品の魅力や撮影の意図をプレゼンすることもありますね。

制作部 宮下直也

ロケ地探しで重要なのは、
物語の背景や説得力

たとえば「家」という設定では、「洋風か、和風か」といった見た目のイメージだけでなく、登場人物の背景を第一に考えます。このキャラクターなら駅から徒歩何分の家に住んでいるだろう、この職業でこの性格だったらこんな街を選ぶだろう、といったように。そこから導き出されたいくつかの候補を監督に提案し、よりイメージに合う場所をメインスタッフとともに現地で確認したうえで、最終的なロケ地を決定していきます。

また、たとえば映画『ラブ≠コメディ』には、そのロケ地では限られた時間しか撮影ができないため、体調の悪い南風美里(長濱ねる)が無理をして撮影に挑むシーンが登場します。このシーンのロケ地を考える際に意識したのは、「どうしても今日、ここで撮影しなければならない」という説得力。作中の「この撮影に何百万円かかっている」というセリフに観客が納得できるだけの、インパクトのあるロケ地を選びました。

ロケ地探しにおける、
“条件”とのせめぎ合い

本作でも限られた条件のなかで撮影する難しさが描かれていましたが、実際の撮影でも、季節や時間などの条件によって撮影が大きく左右されます。とくにナイターシーン(夜の撮影)はロケの条件に制約が多く、調整が難しいんです。本当は2日間かけて撮りたいシーンなのに、ロケ地が1日しか使えなかったり。別の場所へ変更すれば、2日かけて撮影できる。ただ、その場合は当初のイメージから少し離れてしまう。そんな選択肢のなかから、監督とともに最終的な判断を行っていくのも、制作部の役割です。

また、イメージにぴったりなロケ地だとしても撮影条件が難しい場合には、あえて監督に提案しないこともあります。監督が「撮りたい」と思った映像が結果的に撮れなくなってしまうとなると、悔しい思いをさせてしまいますから。そんなふうに、理想と現実のバランスを見極めながら提案していくことも大切です。

映画『ラブ≠コメディ』

映画『ラブ≠コメディ』の
注目ポイント

映画『ラブ≠コメディ』は、映画やドラマの撮影に関わるさまざまな部署を丁寧にフィーチャーした作品になっています。現場で働いている僕たちからすると、とても嬉しいことですね。

そのうえで観客の方にぜひ注目していただきたいのは、「俳優部は普段、こうしたスタッフたちに囲まれながらお芝居をしているんだよ」ということ(笑)。50〜100人ものスタッフに見られているなかで、壁ドンをしたりハグしたりと“ラブコメ”を演じている俳優部さんのすごさにも、ぜひ注目していただきたいです。

監督も俳優部も含め、関わる全てのスタッフがプロとしてのリスペクトをもって作品作りに取り組んでいることが、映画を通して伝われば嬉しいですね。

制作の仕事で忘れてはいけない、
「生活の場にお邪魔している」
という意識

ドラマや映画の撮影は、人が生活をしている場所にお邪魔して行うものです。周囲の方に協力をお願いすることが大前提となるなかで、いかに円滑に進めながら、撮影隊が最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を整えられるか。それが、制作の仕事をしていて一番難しい部分だと思います。

もちろん、すべてをセットで撮影することが出来れば、一般の方にご迷惑をおかけすることもなく、時間的な制限も少なくなります。ただ、作品を作るうえで、どうしても実際の街や建物で撮影しなければならない場面も出てくる。その際に生じる様々な制約やご負担をできる限り円滑に調整していくことが、制作の難しさですね。

映画『ラブ≠コメディ』
Chapter 3

制作の仕事に携わり始めたきっかけ

大学を卒業した頃は映画の制作会社や宣伝会社を中心に就職活動をしていたのですが、実はすべて落ちてしまって。その後、半年ほど夜間の専門学校に通いながらアルバイトで情報番組のADを始めたことが、この業界へ入るきっかけでした。

ADとして働いていたところ、専門学校で知り合った方から「ハリウッド映画に関わる仕事がある」と聞いて。もともと映画の世界に入りたかったこともあり、「映画の仕事だったらなんでもやります!」と飛び込んだ先が制作部だったんです。

実は、仕事を始めるまで“制作部”という仕事があることすら知りませんでした。ただ、制作部は映画や映像の専門教育を受けていなくても挑戦できる、比較的間口の広い部署でもあって。そうして制作部の見習いとして働き始めてから、今日までずっと制作部の仕事を続けています。

制作部でのステップアップ

制作部にはトップに「制作担当」という責任者が、その下に「制作主任」という役割があり、主にこの二人がメインとなってロケ地探しを進めます。

若手は「制作進行」というポジションからスタートし、お弁当の手配などの業務を担います。僕の場合は、4年ほど制作進行を経験したのち制作主任になり、その後4~5年ほどで現在の制作担当になりました。ただ、この年数は業界や個人の能力によって人それぞれですし、長年制作主任として活躍されている方もいます。

制作部 宮下直也

制作現場の
ライフラインを整える仕事

一番若手の「制作進行」が最初に担う仕事の一つが、スタッフやキャストの食事を手配することです。ドラマや映画の撮影では、少なくとも50人、多い作品だと150人もの人が現場に関わります。

撮影地は地方や山間部などさまざまで、必ずしも休憩時間内にコンビニや飲食店へ行って帰ってこられる環境とは限りません。そんな場所に皆さんをお連れすることになるからこそ、食事を用意するのは重要な仕事です。タイトな撮影スケジュールのなかで、唯一の休憩時間になることもある食事の時間。限られた予算のなかで少しでも喜んでいただけるものを届けたい、という思いで手配をしていますね。

食事の手配では、その時間にその場所まで配達していただける業者さんも探さなければなりません。映画の場合は1ヶ月、連続ドラマであれば4ヶ月ほど、ほぼ毎日の食事を手配し続けることになるので、実はなかなか大変なお仕事です。手配を間違えてしまって、同じ日に二つのお弁当業者さんが来てしまうなんてことは、制作進行の失敗あるあるですね(笑)。

立場の変化による、
視点の移り変わり

制作進行の頃は、スタッフがスムーズに撮影できることを最優先に考えていました。「あの人、今日来ていないけれど体調は大丈夫かな」「雨が降りそうだけれど雨具はあるかな」と、常に現場で働く目の前の皆さんのことを気にかけていたんです。

一方で、ロケ地を探して交渉する立場になると、今度はロケ場所や地域の方々への配慮がより重要になります。ときには、監督やスタッフに対して「時間になったので撮影を終了してください」などと、心苦しいお願いをしなければならないことも。現場の気持ちを理解しながらも、広い視野で状況を整え、撮影隊に対しても交渉を行う必要があるんです。

自分自身が撮影に没頭しすぎてしまうと、周囲への配慮が欠けてしまうこともあります。だからこそ、キャリアを重ねるにつれて、一歩引いた視点で現場を見るようになっていきました。

制作部 宮下直也

映画やドラマの
現場だからこそのやりがい

情報番組のADをやっていた頃は、一回の収録が終わってもすぐに次の回の準備をしなければならず、なかなか心が休まらなかったことを覚えています。一方で、ドラマや映画の現場には作品ごとにゴールがあり、達成感を味わえるのが好きなところです。

また、自分が携わった作品が、実際にオンエアされたり映画館で上映されたりして、カタチになる瞬間も嬉しいですね。制作部の仕事はなかなか表に見えないので、普段どんな仕事をしているのか、なかなか伝わりづらいんです。だからこそ、完成した作品を観ながら「実はこんな仕事をしたんだよ」と家族に伝えたり、エンドロールに自分の名前を見つけたりすることができるのは、この仕事ならではの喜びだと思います。

「やめたい」と思ったことは?

毎回思っています。……というのは冗談ですけれど(笑)。とはいえ、制作進行をしていた頃は、正直「この作品が終わったら辞めよう」と毎回思っていましたね(笑)。

どんな仕事でも見習いの頃は仕事の全体像が見えずモチベーションを保つことが難しいですし、「もっと自分に合う仕事があるんじゃないか」と考えてしまうと思うんです。とくに僕が見習いだった頃は、現在のような“働き方改革”もなく早朝から深夜まで撮影が続いていたので、本当に大変でした。

でも不思議なことに、クランクアップをして乾杯した瞬間、辛かった記憶は全部忘れちゃうんです(笑)。そして「次はこの仕事をよろしくね」と言われると、「はい!」と答えてしまうんですよね。そうやって、この仕事を続けてきたんだと思います。

制作部 宮下直也

仕事を続けられるモチベーションは

また、自分一人では決して見られない景色に出逢えることも、この仕事を続けてこられた理由です。
ロケ地を見つけるだけでは、映画は完成しません。美術部、装飾部、カメラマン、照明部、衣装・メイク、俳優部、たくさんの人の力が重なって、やっと映画の世界が完成します。

すると、僕が写真を撮って「この場所でどうですか?」と監督に提案した場所も、映画の中ではまったく別の場所のように映るんです。普段みんなが普通に利用しているカフェや街並みが、たくさんのスタッフの力で、映画のワンシーンになる。そんな、自分一人の力では絶対に観ることのできない景色に出逢えることこそが、制作部を続ける一番のモチベーションになっていると思います。

仕事をするうえで心がけていること

ロケ地の交渉から撮影隊との調整まで、制作の仕事ではさまざまな場面でコミュニケーションが求められます。そのなかで、僕がとくに大切にしているのは「残念なお知らせほど早く伝える」こと。

どんな仕事でも同じだと思いますが、やはり残念なお知らせは、後になればなるほど取り返しがつかなくなってしまいます。「言いづらいから明日言おうかな…」という思いがよぎったとしても、その場ですぐに電話する。嬉しい話は後から聞いても嬉しいけれど、嫌な話は後から聞くほど揉めますからね(笑)。それが、周囲の方との信頼関係を築くために一番大切なことだと思っています。

Chapter 4

制作の仕事に向いている人は
楽しみを見つけながら続けられる人

語弊があるかもしれませんが、「制作部に向いている人」はいないかもしれません。というのも、制作部ではゴミ出しをしたり一般の方のご案内をしたりと、いわゆる“雑用”のようなありとあらゆる仕事をするんです。だからこそ、特別なスキルが必要というわけではないんですよね。

ただ、唯一制作部に必要な才能があるとすれば、「続けられる」こと。どんなに映画やドラマが好きでこの世界に入っても、どうしても続けられない人はいます。それは人それぞれの事情があるので決して悪いことではありませんが、長く続けている人を見ると、やはり「続けられること」そのものが一つの才能なんだな、と感じますね。

仕事を始めたばかりの頃は、きっと大変なことばかり。そんななかでも、たとえば「明日はこんなお弁当にしてみよう」「次はこうやって動いてみよう」など、一つでも二つでも楽しみや発見を積み重ねていける人は、この仕事を続けていけるのではないかと思います。制作の仕事は大変なことも多いですが、そんな小さなワクワクを日々感じられる世界でもあるんですよね。

制作部 宮下直也

宮下さんから、
制作部を目指す読者へ

制作部という仕事は、人生で経験してきたことすべてが力になる仕事です。映画やドラマをたくさん観ることなどはもちろん、「飲み会ならこの店」「デートならここ」といった何気ない日常の経験も、すべてが仕事の引き出しになります。アルバイトの経験も、友人と遊び回った経験も、決して無駄にはなりません。だからこそ、「これが将来の役に立つかな」と考えすぎずに、やりたいことを思い切りやってほしいですね。

宮下さんの一日

4:30

起床

6:00

ロケ場所到着・現地の方にご挨拶、美術部準備開始誘導

06:30

支度場所作り

07:00~8:00

撮影隊車、スタッフ案内

21:00

撮影終了

23:00

後片付け撤収・掃除終了

24:00

帰宅

取材協力:株式会社ストームレーベルズ 株式会社ライブ・ビューイング・ジャパン 株式会社ガイエ

映画『ラブ≠コメディ』

映画『ラブ≠コメディ』
出演:中島健人 長濱ねる
   板谷由夏 塩野瑛久 本多力 前野朋哉
   今野浩喜 野村麻純 宮崎吐夢 磯山さやか
   岩井拳士朗 信川清順 工藤美桜
   今野大輝(B & ZAI) 北代祐太
   アパッチ長男 / 菊田竜大(ハナコ)
   三石琴乃 光石研 / 財前直見
監督:紙谷楓 脚本:大北はるか 音楽:宮崎誠
主題歌:中島健人「Fiction Love」(Sony Music Labels Inc.)

Staff Credit
編集:Asaka.T
インタビュー・記事:Suzu
ページ運用:Mo.et