

音響監督
岩浪美和

音を作り続けていつのまにか40年以上たっちゃいましたねぇ
現在の主なお仕事
僕の仕事は、吹き替え作品やアニメ作品の「音響監督」です。映像作品の“音”は「セリフ」「効果音」「音楽」の3つの要素に分けられるのですが、声優さんや音響効果さん、作曲家さんといった各分野のプロフェッショナルたちと協力しながら、監督の右腕として“音”の演出をしています。
具体的に説明すると、「セリフ」に関しては、声優さんがアフレコを収録する際、ディレクションや演出を行います。「効果音」については、音響効果さんと作品全体の方向性を打ち合わせしたり、実際に音響スタジオでブラッシュアップを重ねたりします。劇伴などの「音楽」に関しては、作曲家さんに「こんな音楽を作ってください」とイメージを共有して音楽を作っていただいたり、その音楽を「どこからどこまで、どのように使うのか」の指示をする“選曲”の作業をしたりしています。一言でいえば、“音に関する演出のリーダー”でしょうか。
TVアニメーション
『ガンバレ!中村くん!!』
作品テーマに合わせた音作り
お仕事の依頼をいただいた際は、作品ごとのテーマや、作品が何を求めているのかを一つひとつ読み解きながら、「どんな“音”ならお客様に楽しんでいただけるのか」「どのように“音”を構築していくべきか」を考えていきます。
原作『ガンバレ!中村くん!!』は、ジャンルとしてはライトなBLコメディ。そんな中村くんの恋模様を通じて描かれているのは“人が人を好きになるのは素敵なこと”だと感じました。その魅力を最大限に引き出すためにはどのような音作りが必要なのか、原作 シナリオ 絵コンテから検討しました。

毎話ごとに音を作る
「フィルムスコアリング」という手法
TVアニメーション『ガンバレ!中村くん!!』で大きな特徴となったのは、毎話毎話映像に合わせて作曲家さんに音楽を書き下ろしていただく「フィルムスコアリング」という手法を取り入れたことです。
これまでのTVアニメでは、「ためどり」と呼ばれる、あらかじめ“悲しい”“楽しい”などの項目ごとに制作した音を映像に当てはめていく手法が一般的でした。少し前まではその手法で十分成立していたのですが、現代のエンタメ作品はテンポも速く、情報量も多い。さらに物語や感情の振れ幅も大きくなっているので、同じ楽曲を繰り返し使うだけでは太刀打ちできなくなってきているんです。
従来の「ためどり」ではワンクール12話×30分構成のアニメにつき40曲程度で成立するところ、この「フィルムスコアリング」の場合は200~300曲ほど書き下ろしていただく必要があります。当然、曲数が増えるにつれて、手間もコストも大きくなる。それでもこの手法を選んだのは、視聴者の方により強く“親近感”を感じながら作品を体験していただきたいからです。
物語と感情の変化に
繊細に寄り添う音作り
ワンクールかけて、中村くんと広瀬くんの関係性はどんどん変化していきます。物語の雰囲気も、終盤へ向かうにつれてどんどんドラマチックになっていく。だからこそ、その変化に合わせて音も変えていく必要があると考えました。クライマックスに繋げるためにどう音を積み上げていくかは、本作で特に意識した部分です。
また、本作では中村くんの感情がテンポよく次々と切り替わっていきます。「ドキドキ」「うまくいかないな…」「どうしよう」「でも頑張らなきゃ!」と、細やかな感情の変化を音でも丁寧に表現していきました。
こうした“関係性や物語の変化”と“感情の揺れ”の両方を「フィルムスコアリング」によって表現できたことが、本作における最も特徴的な音作りだったと思います。きっとTVシリーズを最後まで観ていただくと、なぜこの作り方をしたのかわかっていただけるはず。もちろん、視聴者の方には難しく考えず、まずは純粋に「面白い!」と思って楽しんでいただくことが一番嬉しいんですけれどね(笑)。

配信やショート動画が
主流の“現代”に
現代に合わせた音作りは、かなり意識しています。いまはテレビだけでなく、配信サイトやSNSを通して作品が楽しまれる時代です。宣伝として作品の一部を “切り抜き”してSNSなどで使用することも多いため、どのシーンを観ても音が効果的に存在していて、短い時間でも印象に残るような音作りをしています。
また、配信が主流になったことで、“倍速で観られない作品作り”も重要になってきました。実際、電車の中でたまたま「この人、僕が携わった作品を観ているな」と気づいて見てみると、イヤホンもせず、字幕だけで倍速視聴している場面に遭遇することもあるんです。そんな瞬間は、「自分の仕事って何なんだろう…」と考えてしまうこともあります(笑)。配信サイトによっては視聴時間が作品自体の収益にも関わってくることもあり、コンテンツに“飽きさせない工夫”が求められる現代。では、どうすれば視聴者を作品に引き込み続けられるか、その答えの一つが“音”なんです。
人の心を動かし、
“飽きさせない”音の設計
たとえば、音数を増やしてテンポ良く情報を重ねることで、「次は何が来るんだろう」と自然に視聴を引っ張っていくことができます。海外配信サイトのヒット作品には、そうした“飽きさせない音の設計”が巧みな作品が多いと感じていますが、日本はまだ比較的遅れている印象を受けますね。ショートコンテンツが主流になり、20~30分の映像作品ですら「長い」とされる現代では、音の設計によって「もう終わっちゃうの!?」と思うほどの没入体験を与えることで、作品の印象も、視聴数も大きく変えることができます。
音は目に見えませんが、最終的には脳科学に近いと考えていて。たとえば綺麗なオーケストラの旋律を聴いて自然と涙が出てくることがあるように、音は人の記憶や感情と強く結びついています。興奮してドーパミンが出たり、心が和んでオキシトシンが出たりと、脳内物質が出るきっかけは“音”ととても親和性が高いんです。だからこそ、「どのような音を作れば、作品の視聴という“擬似体験”を通して脳内物質を出させられるのか」、言い換えれば、どうすれば人の心を動かせるのかを、音の作用を計算しながら考えて制作しています。

配信時代に求められる
グローバルな視点
さらに、近年は海外で日本のアニメを楽しまれる機会も急激に増えてきたため、グローバルな視点も意識するようになりました。これまでのように、“日本人同士なら共有できる感覚”だけでは成立しなくなっているんです。
日本には、「最小限の表現で想像させることによって、最大限の効果を生む」という、“引き算の美学”があります。俳句や書道、石庭に通じる感覚ですよね。ただ、その繊細なニュアンスは、文化的背景の異なる海外の方には伝わりづらい場合もある。だからこそ最近は、国や文化を超えて誰にでも感情や場面を伝わりやすくするため、音を使って多めに説明するよう心がけています。
“多様性”が広がるいま、
TVアニメーション
『ガンバレ!中村くん!!』を
通して届けたい想い
ショート動画や配信サイトの普及によって、視聴者層や作品の受け取られ方が、多種多様に広がっています。本作の主人公・中村くんは、内気なゲイの男の子。日本では、まだまだLGBTQ+に関する理解や法整備が十分とは言えない部分もあります。だからこそ、この作品を通して「誰かを好きになることは素敵なことなんだよ」というメッセージを、小さなお子さんから大人まで、幅広い世代に伝えられたらと。どなたでも観やすい作品になっていると思うので、少しでも多くの方に届いたら嬉しいですね。

音響監督になるには?
音響制作会社に所属するケースが一番多いです。最初は「音響制作進行」という、音響監督のアシスタントのような役割からスタートし、予算やクオリティを管理する仕事を担います。そこから徐々に経験を積み、音響監督へステップアップしていく流れが一般的です。
そのほかには、録音スタジオに勤めて、「ミキサー」と呼ばれる音響調整のエンジニアからキャリアをスタートさせることもあります。
僕自身は、もともとテレビ番組などの映像を制作する録音スタジオに勤めていました。6年ほど経った頃、「この仕事をやめて映像の演出家の道に進もうかな」と考えていたタイミングで、一緒にお仕事をしていた方から「音響監督をやってみない?」と声をかけていただいて。それをきっかけにしばらく映像演出の仕事と音の仕事を並行していたのですが、徐々に音の仕事が増えていき、いつの間にか音響監督という立場になっていました。
岩浪さんが
エンジニアを目指したきっかけ
僕は子どもの頃から映画が大好きでした。街の名画座へ入り浸って3本立ての映画をずっと観ているような子だったので、漠然と「映画を作る人間になりたい」という想いはあって。
進路を考える年齢になって自分を振り返ってみたときに、海外のラジオ放送を聴いたり、カセットテープでいろいろな音を録音したり、友達と自主映画を作って音響をやったりと、「自分は音でモノづくりをすることが好きなんだ」と気がつき、エンジニアを目指しました。子供の頃は「音が好き」という自覚があったわけではないのですが、自分が面白いと思って夢中になっていたものを振り返ると、全てが「音」に繋がっていたんですよね。

岩浪さんが考える、
音響監督という仕事の面白さ
音の作業は、映像作品を作るうえで “仕上げ”にあたる部分。アニメ作品は企画の立ち上げから放送終了まで数年かかりますが、僕らが関わるのは最後の半年~1年ほどになります。プロデューサーさんや監督さん、脚本家さん、アニメーターさんたちが長い時間をかけて繋いできたバトンを、最後に受け取ってゴールへ届けることができるんです。いわば毎日ダルマに目を入れるような感覚で音に魂を込め、作品を完成へ導けることが、この仕事の一番の楽しさだと思います。
また、作品ごとにまったく違う課題が与えられることも、この仕事の面白さです。どうすればこの作品が一番輝き、お客さんに喜んでいただけるか。それを毎回考えなければならず、常にチャレンジが求められることが、この仕事を続けてこられた理由ですね。
この業界で働くうえで大切なのは?
たくさんの人が関わる仕事なので、やはり社交的な方が多いと思います。声優さんや作曲家さん、音響効果さんをはじめ、いろいろな方面のプロフェッショナルの方と一つの作品をつくりあげるので、コミュニケーションを取りながら「良いものを作ろうぜ!」と団結できる方が向いている気がします。特に、この仕事はプロジェクトが変わるごとに関わる人も変わっていくので、チームとして関わり合いながらどう良い作品にしていくかを考えられることは、とても大切ですね。

岩浪さんから、
この業界を目指す読者へ
「アニメが好きだから」「声優さんに会いたいから」といった理由でこの業界を目指す方もいますが、それだけではなかなか続けられません。一番大切なのは「ものづくりが好きかどうか」ということ。なかなかコンスタントに求人のある職種ではありませんが、音やものづくりが好きで、良いご縁があれば、ぜひ挑戦してみてほしいですね。
また、エンタメのお仕事に関わる方は本当に映画が好きな方が多いので、映画をたくさん観ておくと良いと思います。映画は「総合芸術」と言われる通り、文学、演劇、絵画、音楽、ファッションなど、様々な要素がパッケージングされて一本の娯楽になっているもの。だからこそ、エンタメを仕事にしている人に限らず、映画を活動のヒントにしている方は多いんです。まずは検索すれば出てくる「名作何選!」のようなものを足掛かりに、配信サイトで映画をたくさん観てみてください。そこから「この監督好きだな」「この俳優さん素敵」「この音楽良いな」と興味を広げて関連した作品を観てみてください。人生において絶対損することはないと思います。いわゆる“名作”は、先輩との会話のタネにもなりますからね!
岩浪さんの一日
9:00
起床 卵かけ納豆ご飯の朝飯
10:00
移動 車内で最新のヒットチャートをラジオで聴く
11:00
録音スタジオで楽しくアフレコ
14:00
台詞 音楽 効果音をミックスする楽しいダビング作業
17:00
帰宅 選曲 どうしたら良い作品になるか
映像と音楽のベストなマッチングを試行錯誤
20:00
夕食 映画を観ながら その後だらだら飲酒
01:00
就寝
取材協力:株式会社アニプレックス

TVアニメーション『ガンバレ!中村くん!!』
毎週水曜24:30よりTOKYO MX、とちぎテレビ、群馬テレビ、BS11ほか各局にて放送中!
毎週水曜24:30よりHuluにて地上波1週間先行・見放題最速配信!
ほか各配信プラットフォームにて毎週水曜24:30より順次配信
【CAST】
小林千晃 榊原優希
江口拓也 ファイルーズあい 野津山幸宏 田丸篤志 小市眞琴
舞原ゆめ 笹 翼 山口勝平 竹内順子
大地 葉 武内駿輔
【STAFF】
原作:春泥『ガンバレ!中村くん!!』(ヒーローズ刊)
監督・脚本・キャラクターデザイン:梅木 葵
監督補佐:吉邉尚希/
シリーズ構成・脚本:蒼樹靖子(スタジオモナド)/
コンセプトディレクター:畳谷哲也
美術監督:李 天馥(ST.BLUE)/
色彩設計:大野春恵(MADBOX)
撮影監督:若林 優(ENISHIYA)/
ビジュアルディレクター:神田智隆/
編集:上野勇輔(柳編集室)
カラースクリプト:ゆえ/
プロップデザイン・2D ワークス:永木歩実/
衣装デザイン:中村ユミ
音楽:辻田絢菜/音響監督:岩浪美和/
アニメーション制作:ドライブ
【主題歌】
『瞬発的に恋しよう』(作詞・作曲・編曲:岡村靖幸)
岡村靖幸・中島健人Produced by 岡村靖幸
Staff Credit
編集:Asaka.T
インタビュー・記事:満斗りょう
ページ運用:Mo.et



