

共同テレビ
紙谷楓

大阪府出身。映画監督、演出家。主な演出作品はドラマ「彼女はキレイだった」(21)、「わたしのお嫁くん」(23)、「スノードロップの初恋」(24)「お迎え渋谷くん」(24)「問題物件」(25) など。『ラブ≠コメディ』で長編映画初監督。
映画監督の仕事
一言でいうと、“台本に書かれている文字を具体化する仕事”です。たとえば「おはよう」というセリフが書かれていたら、「どんな気持ちで言っているのか」を考え、お芝居の方向性を伝えたり。また、「道を歩く二人」というト書きがあれば、海辺なのか道路なのか、「どんな場所なのか」をイメージしながらロケ場所を決めたりします。台本を作るところまでは、監督も参加しつつ、プロデューサーや脚本家が中心を担い、できあがった台本をどう映像として表現するのかを考えるのが監督の仕事です。
紙谷監督最新作
映画『ラブ≠コメディ』への
参加が決まるまで
島本プロデューサーから「こんな映画を作りたいのですが、監督をやっていただけませんか?」とお話をいただきました。そのときは、第一稿が出来ていた段階。そこから脚本は改稿を重ねていますが、企画の内容や主演が中島健人さんということは当初から既に決まっていましたね。
テレビドラマの演出を担当する際も、誰かが動かし始めた企画に参加することが多く、企画内容や座組との相性を踏まえてオファーをいただくケースがほとんどです。

ドラマと映画での“監督”の違い
実は、今回初めて長編映画の監督を務めました。映画では“監督”、ドラマでは“演出”と肩書きがつくことが多いですが、実は私も“監督”と“演出”の違いを深く理解しているわけではなくて(笑)。仕事として行う業務はほとんど同じですが、“監督”は作品全体を担う立場で、“演出”は数ある役割の一つの演出担当、という認識でしょうか(笑)。
ドラマと映画、それぞれに良さがありますが、気軽に触れることのできるドラマに対し、映画はお金を払って劇場に足を運んでいただくもの。その分の価値を生まなければならないことはプレッシャーに感じましたね。「劇場に足を運んで良かったな」と思っていただける作品になっていたら嬉しいです。
テレビドラマの撮影現場が
舞台となる
映画『ラブ≠コメディ』
“テレビドラマの撮影現場”という、自分がこれまで主戦場としてきた場所が舞台となる映画なので、撮影にはとても取り組みやすかったです。各キャラクターの立ち振る舞いや現場での動きを考えるうえでも、撮影部、照明部、衣装部、メイク部など、それぞれの仕事をよく知るスタッフがすぐ近くにいるので、イメージを共有しやすかったですね。
また、スタッフに「こういう画を撮りたい」と相談する際も、共通のイメージがあるおかげで、「ではキャストはこう配置しよう」と具体的なアイデアをすぐに落とし込むことができました。よく知った世界を描く作品だからこそ、より気持ちを乗せて描くことができた気がします。
“仕事”というドラマを描き出す
私は、現場が大好きなんです。みんなが素敵な映像を撮るために命を懸けているような、その熱量がすごく好きで。そんな現場の熱量が伝わる映画になれば良いな、と思って撮影していました。
ポスターのキャッチコピーにも書かれている「恋よりアツい、仕事(ドラマ)がある」という言葉は、まさにこの作品を表していると思います。“ラブコメ”と付くタイトルですし、中島さんと長濱さんというキラキラしたお二人が主演とヒロインを演じられるので、一見「ポップなラブコメになるだろう」と思われるかもしれません。でも、そこからもう一歩踏み込んで、仕事に向き合う情熱や痛み、チームワークも描きたかったんです。「与えられた場所でちゃんと咲こう」と、ガムシャラに頑張る人たちのかっこよさが伝わったらいいな、と思います。
とはいえ、ラブコメのシーンもしっかり撮っています(笑)。私自身、もともとテレビドラマでラブコメ作品を多く手がけてきましたし、中島さんと長濱さんのご共演だからこそ期待されるラブコメならではの楽しさにも、きちんと応えたいと思っていました。

中島健人さん、長濱ねるさんの
魅力を引き出す
お芝居の演出
中島さんへは、「神崎麗司は中島健人じゃないからね」と伝えました。彼は楽しくなると、つい“ケンティーらしさ“が出てくるんですよね(笑)。その魅力も大切にしながら、あくまで神崎麗司という人物として存在してもらうために、「もう少し“ケンティー”を抑えて!」と言ったり、逆に「もうちょっと出して!」とお願いしたりすることもありました。
長濱さんには、最初のお芝居が少し感情を抑えた方向性だったこともあり、「もう少し感情を強く出してみましょう」とお伝えしたことを覚えています。中島さん演じる神崎麗司の恋の相手でありライバルでもある存在なので、同じ熱量でぶつかっていただきたくて。また、強烈なキャラクターだからこそ、思い切り振り切って演じてもらうことで、その魅力がより観客に伝わると考えたんです。最初は戸惑いもあったようですが、完成した作品では感情がグッと浮かび上がる、とても魅力的なキャラクターになったと思います。
一番の魅力は“≠ラブコメディ”
やはり“≠” 。ラブコメだけではないところが、本作の一番の魅力だと思います。仕事に対する愛であり、チームに対しての愛であり、映画に対する愛であり……。さまざまな“愛”が込められた作品になっていると思います。
どのシーンにもこだわりが詰まっていますが、あえて好きなシーンを挙げるならば、中島さん演じる麗司が水を吹き出す場面でしょうか(笑)。本当に綺麗に撮れていて、私自身びっくりしました。水しぶきが全部風に流されて、後ろにいるマネージャー役の前野朋哉さんやスタッフに降り注いでしまったことも含めて、思い出に残っています(笑)。

監督の道を目指したきっかけ
もともとテレビドラマや映画が大好きでした。きっかけは、小学5年生の頃に父に初めて劇場へ連れていってもらって観た映画『アルマゲドン(1998年)』。ものすごく感動して、ブルース・ウィリスを見て「この人と仕事をしたい!」と思ったんです。
その後、ハリウッドを目指して英語の勉強をしたりアメリカに留学したりしましたが、いまはこうして日本で仕事をしています(笑)。言語の壁もありましたし、あるときから「日本人なんだから、まずは日本でドラマや映画を作りたいな」と考えるようになったんです。そこで映像制作会社を中心に就職活動をした結果、共同テレビに就職が決まりました。
監督へのステップアップ
監督になる道はさまざまですが、大きく二つに分けると、私のように映像制作会社やテレビ局に所属する方法と、フリーランスとして活動する方法があると思います。もし「監督になりたい」という気持ちがあるのであれば、私自身の経験からすると制作会社をおすすめしますね。テレビ局の場合は、ドラマ部の現場に携われるかは配属次第になってしまうこともあるので。
一方で、若いうちから自主制作映画を撮り、映画賞への出品をきっかけにフリーのキャリアをスタートさせる方もいます。どの道のりも一長一短がありますが、私は着実に経験を積みながら成長できる、会社へ所属する道があっていました。会社ではまずADからキャリアをスタートさせ、助監督になってからも4th助監督、3rd助監督、2nd助監督、チーフ助監督と4段階のステップアップを経て監督に辿り着きます。ちなみに私は29歳のときに、他の作品で助監督を担うこともありつつではありますが、初めて深夜ドラマの監督を務めました。

監督を目指す道のりのなかで、
壁にぶつかった時期
3年目の頃、現場での人間関係がうまくいかず、一度仕事を離れたこともありました。ドラマの撮影現場というのは、約4ヶ月間、朝から晩までチームと非常に密に関わる環境で。当時はまだ若手だったこともあり、人間関係がうまく作れず悩むことも多かったんです。
でも、きっと「まだ続けたい」という気持ちがあったんでしょうね。2~3ヶ月ほどお休みをいただき、会社にも支えてもらって少しずつ復帰することができました。
私にとって救いだったのは、ドラマや映画の現場は作品ごとにチームが変わること。「合わないな」「しんどいな」と思うことがあったとしても、4ヶ月頑張れば終わりがくるんです。チームを組み、解散し、また新しいチームを組み、と繰り返すなかで、自分なりに環境や関わり方を選びながら、少しずつ現場に馴染んでいくことができたように思います。
嬉しい瞬間は、
“思い描いた映像を実現できたとき”
監督の仕事をしていて楽しさや喜びを感じるのは、キャストの皆さんとお芝居についてやりとりを重ね、思い描いていたお芝居を引き出せたとき。「理解し合えたな」と思える瞬間が一番嬉しいですね。
逆に難しさを感じるのは、イメージしていた映像が実現できなかったとき。思い描いていたお芝居を引き出せなかったときをはじめ、理想のロケ地が見つからなかったときや、時間や予算の関係で何かを諦めなければならないときに、悔しさを感じます。
天候や体調など、さまざまな条件を乗り越えてようやく映画やドラマは完成します。その分難しさもありますが、そうした状況にも、もう少し臨機応変に対応できるようにならなければいけないな、と思っています。
思い描いた映像を実現させるために
気をつけていることは?
仕事をするうえで気をつけているのは、人とのコミュニケーションですね。思い描いていた映像を具現化するためにも、俳優部やスタッフと丁寧に対話することを大切にしています。
とくに意識しているのは、相手の意見を最初から否定しないこと。俳優部やスタッフがもってきてくれたアイデアを第一声で否定してしまうと、そこで会話が終わってしまう気がするんです。
監督という立場上、自分が「ノー」と言えばそのままノーになってしまうこともあります。でも、それでは私の考えだけになってしまう。だから、まずは一度意見を受け止めたうえで、「私はこうしたいと思っているのですが、どうでしょう?」と相談するようにしています。映画やドラマは監督一人では作れず、たくさんのプロフェッショナルの力が集結して初めて成立するもの。それぞれがこだわりや専門性をもっているからこそ、意見がぶつかることもあります。そんなときは譲り、譲られですね。アイデアを出し合い、お互いの意図を擦り合わせながら、対話のなかで一番良いカタチを探していくことを大切にしています。

監督に多いのは“妄想力のある人”
監督には“妄想力がある方”が多いかな、と思います。漫画や映画、ドラマが大好きで、気づけば自分の世界に入り込んでいるような方。そうした自分なりの世界をもっているからこそ、その世界を映像として表現できるのではないでしょうか。
紙谷監督から、監督を目指す読者へ
まずは作品をたくさん観ることが大切だと思います。最初から専門的なことを学ぶよりも、さまざまな作品に触れて、興味の幅を増やすことが大事なのではないでしょうか。知識やプライドが邪魔をして、かえって視野が狭くなってしまうこともありますからね。まずは、ただひたすら作品をいっぱい観る。それだけでも十分だと思います。

紙谷監督の撮影のある一日
04:30
起床
06:00
都内に集合 ロケ場所へ出発
08:00
撮影開始 お昼休憩や交代、夜休憩を挟みながら撮影
21:00
撮影終了
23:00
帰宅
取材協力:株式会社ストームレーベルズ
株式会社ライブ・ビューイング・ジャパン 株式会社ガイエ

映画『ラブ≠コメディ』
出演:中島健人 長濱ねる
板谷由夏 塩野瑛久 本多力 前野朋哉
今野浩喜 野村麻純 宮崎吐夢 磯山さやか
岩井拳士朗 信川清順 工藤美桜
今野大輝(B & ZAI) 北代祐太
アパッチ長男 / 菊田竜大(ハナコ)
三石琴乃 光石研 / 財前直見
監督:紙谷楓 脚本:大北はるか 音楽:宮崎誠
主題歌:中島健人「Fiction Love」(Sony Music Labels Inc.)
Staff Credit
編集:Asaka.T
インタビュー・記事:Suzu
ページ運用:Mo.et



