【伊藤健太郎】映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』この先の世代へ繋ぐ〈未来〉のために闘った、あの日の日本の物語

伊藤健太郎

映画
『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』
この先の世代へ繋ぐ
〈未来〉のために闘った、あの日の日本の物語

「元気に行ってまいります」そう、言葉を遺して旅立っていった命たち。彼らが記した最期の手紙には〝すりきれる〟という表現がぴたりと当てはまるほど、読み込まれた跡が残っている。それはきっと、手紙を受け取った家族、恋人…かけがえのない誰かの温度。人を愛すること、夢に向かうこと、それがこんなにも切望される時代を生きている私たちは、自分の人生を胸いっぱい味わえているだろうか。この時代を〈未来〉と呼び、〈希望〉を託した人がいる。託された〈希望〉を、私たちは新たな〈未来〉へ繋いでゆこう。

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』

親や学校、すべてにイライラして不満ばかりの高校生の百合(福原遥)。ある日、進路をめぐって母親の幸恵(中嶋朋子)とぶつかり家出をし、近所の防空壕跡に逃げ込むが、朝目が覚めるとそこは1945年の6月…戦時中の日本だった。偶然通りかかった彰(水上恒司)に助けられ、軍の指定食堂に連れていかれる百合。そこで女将のツル(松坂慶子)や勤労学生の千代(出口夏希)、石丸(伊藤健太郎)、板倉(嶋﨑斗亜)、寺岡(上川周作)、加藤(小野塚勇人)たちと出会い、日々を過ごす中で、彰に何度も助けられ、その誠実さや優しさにどんどん惹かれていく百合。だが彰は特攻隊員で、程なく命がけで戦地に飛ぶ運命だった−−−

石丸

特攻隊員。歌うことが好きなムードメーカー的存在の青年。

伊藤健太郎

『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』
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伊藤健太郎

今回この映画で石丸を演じるにあたって、まず思ったことは「事実を知らなければならない」ということ。撮影前に靖国神社の遊就館へ行き、実際に特攻へ行かれた方が遺した手紙や、残された家族の手記などを読ませていただいて、少しでも1945年の日本を生きていた方たちの感覚に近づこうと、できる限りの準備をして撮影に臨みました。

ご親戚に特攻隊員の方もいらっしゃったとか。

そうなんです。祖母の家に特攻へ行った親戚の写真が飾ってあり、小さい頃から話を聞いていたので、個人的にこの作品にご縁を感じている部分もあって。勝手ながら、背負うような気持ちで作品に関わらせていただきました。

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』

元々、特攻隊に興味はおありだったとのことですが、
今回、作品を通して
改めて感じたことはありましたか?

僕を含め、現代を生きている世代って“戦争”に対して、どこか他人事の感覚をもってしまっていると思うんです。ニュースで目にしても“自分とは遠い世界の話”といいますか。僕自身、この作品を通して、朝、何も考えずに起きられること、不自由なくごはんが食べられること、日々の些細なことがとても幸せでありがたいことなのだと実感しました。同時に、食料不足の時代にも関わらず、当時「生き神様」と呼ばれていた特攻隊員に出すごはんの豪華さに、現代では考えられない感覚を感じたりもして。正直、どんなに理解しようとしても完全に理解することはできなかったですし、受け入れることも難しかったです。ただ、いろいろな資料を読んでいくうちに「すごい時代が存在したんだ」と、いままでより深く知ることができたように思います。

現代の当たり前が当たり前ではない時代を
目の当たりにして、
伊藤さんご自身に変化はありましたか?

これまでも気をつけていた部分ではあったのですが、〈感謝〉を持ち続けることの大切さを改めて感じました。ごはんを残さず食べるだとか、そういった小さなことの積み重ねを一人ひとりが〈感謝〉をもって行動に移すことができれば、平和に近づくかもしれないな、と。

伊藤健太郎

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伊藤さんが演じられた『石丸』は、
とても明るい青年。
“明るさ”こそが、彼の優しさであり
強さだと感じたのですが
伊藤さんは石丸をどんな青年だと思われますか?

石丸は一人きりでいるところがあまり描かれていない青年だったので、「彼は一人でいる時、どんな感じなのだろう?」と考えていました。みんなの前ではとても明るいけれど、きっと一人の時には、涙したり、考えたりすることもあったと思うんです。でもそんなことを言っていたってキリがない、そんな風に自分に言い聞かせていたように思います。当時は「お国のために死にに行く」ことが正義で、それを「嫌だ」と言えば非国民と言われた時代。そんな時代のなかで、常にムードメーカーとして居続けられるところが石丸の強さだと思いますし、当時、彼のような人間に救われた人は実際にたくさんいたんじゃないかな、と。その場にいる人を安心させたり、「本当は戦争中じゃないんじゃないか」と思わせるほどポジティブでいたり、本当に素敵な青年です。

石丸と千代の恋にも、
彼の優しさと笑顔が浸透していましたね。

正直、千代への恋心はすごく考えた部分でした。もし自分があの時代に生きていて好きな人がいたとしたら、しかも明日死にに行かなければならない状況になったらどうするだろう、と。そして相手はどう思うんだろう、とも。考えても考えてもリアルにたどり着くことはできなかったのですが、2人が良い感じであればあるほど切なくなってしまって。「結末が見えているからこそ、一緒にいられる時間を明るくポジティブな時間にしたいはず」と、思いながら演じていました。

伊藤健太郎

「千代の記憶に残る自分を“笑顔”にしたい」
そんな石丸の想いが伝わるシーンが
たくさんありました。

僕にとっては“千代に対する姿=観てくださる皆さんへの姿”だったので、千代に対してはもちろん、「映画を観終わった皆さんが石丸を思い出すとき、彼の表情が“笑顔”であって欲しい」と、願いながら演じていました。最後に唯一、少しだけ切ない表情をする場面があるのですが、そこ以外は明るい石丸で居続けたかったんです。

『お腹ペコペコ隊』のシーンにも、
笑顔が溢れていて微笑ましかったです。

お腹ペコペコ隊のみんなとは、作品に入る前から軍人の所作指導で一緒に訓練を乗り越えていたので、距離が縮まるスピードがとても速くて。ただ、訓練自体は実際の訓練と同じくかなり体育会系のテンションで、ものすごくハードでした。撮影現場でいうと、日に日に坊主が増えていくのがとても面白かったです(笑)。初めて自分の坊主姿を見たときはとにかく変な感じで、お風呂上りにバスタオルで頭を拭くとタオルに頭が引っ掛かることに驚きました。首がもっていかれそうになるくらい引っ張られるんです(笑)。

伊藤健太郎

坊主になったからこそ、の発見ですね(笑)。
みんなのお母さん的存在である
ツルさん役の松坂慶子さんとの
ご共演はいかがでしたか?

あのなんとも言えない、みんなをあたたかく包み込んでくださる松坂さんの雰囲気に助けられました。「こんな食堂があったらいいな」と心から思いましたし、ツルさんが松坂さんだったからこそ、切ないだけでなく心温まるシーンになった部分がたくさんあったと思います。

現代と違い、男性と女性の価値観や立場が
大きく異なっていた時代。
当時を生きた女性の姿は、
伊藤さんの目にどう映りましたか?

「やっぱり女性は強い」と、思いました。特攻へ行く男性にも強さや葛藤があったと思うのですが、同時に残される側もかなりきつかったと思うんです。そんな状況のなかで、ああやって男性を送り出せる強さにはすごいものがあると感じました。男女の価値観も含め、現代と大きく異なる部分を自分なりにすり合わせるため、資料館に2回ほど行ったのですが、どちらも気づいたら閉館時間になっていて。石丸としてどこまで当時の方に近づけたのかは観てくださる方の判断になると思うけれど、触れることで知れたこと、知らなかったら気づけなかったことがたくさんあったので、僕にとってはとても貴重な経験になりました。

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Dear LANDOER読者
映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』
From 伊藤健太郎

きっと時間が経てば経つほど、実際に戦争を経験された方とふれあう機会がなくなっていくと思います。日本で生活をしていると、“戦争”という存在自体がどうしても無縁なものになりがちだけれど、映画に限らず、戦争を題材としているものに触れることはすごく大事だと思っていて。とはいえ僕自身、この作品に出逢っていなかったらここまで考えることはなかったかもしれません。映画を観るキッカケが「ラブストーリーが観たい」でもいいですし、「好きなキャストが出演しているから」でもいい。入り口はどうであれ、作品に描かれている大切な部分が観てくださった皆さんに何かしら引っ掛かってくれたのなら、それがこの映画が生まれた意義だと信じています。

伊藤健太郎

伊藤健太郎

いとう けんたろう

6月30日生まれ。
“幸運”をもたらすツバメのように、
芝居の翼で幸せの春風を巻き起こすDOER

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』
2023年12月8日(金)ロードショー

原作:汐見夏衛『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(スターツ出版文庫)
主演:福原遥、水上恒司
出演:伊藤健太郎、嶋﨑斗亜、上川周作、
   小野塚勇人、出口夏希
   坪倉由幸、津田寛治、天寿光希、
   中嶋朋子/松坂慶子
主題歌:福山雅治「想望」(アミューズ/Polydor Records)
監督:成田洋一
脚本:山浦雅大 成田洋一
製作:映画「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
配給:松竹

Staff Credit
カメラマン:興梠麻穂
ヘアメイク:西岡達也( Leinwand )
スタイリスト:前田勇弥
インタビュー・記事:満斗りょう
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