映画『魔女の香水』
初の映画製作現場で聴こえてきた
プロが奏でる交響曲
何かを生み出すとき、“ひとり”で作る世界と“多数”で作る世界が存在する。「音楽制作の答えは100％自分がもっている」と言いきる、アーティスト・川崎鷹也。一方で、映画撮影現場の「プロ同士の意見のぶつかり合い」を目の当たりにし、ひとりのチームメイトとして映画製作に参加した、俳優・川崎鷹也。“ひとり”で生み出す世界を知っている彼の瞳には、“共に作る”がどう映ったのか。ぶつかり合い、という言葉だけでは語れない、制作現場のぶつかり〈愛〉をお聞きしてまいりました。
映画『魔女の香水』
－Introduction－
白髪の美しく高貴な上品さを漂わせる女性・白石弥生（黒木瞳）が香水店で２つの香水を見せながら常連客を相手に語っている「世の中には似て非なるものがたくさんある」。一方、華やかなセレブ達が集まっているバンケットホールで派遣社員として奮闘する若林恵麻（桜井日奈子）。高卒の恵麻は、いつか正社員になって、一流の仕事を与えられることを目標に頑張っていたが、後輩の見習い女性への上司のセクハラ行為を抗議したことで職を失ってしまう。自暴自棄になった恵麻は、夜の街のスカウトマンに連れられ「魔女さん」と呼ばれる弥生の店を訪れ、その店を手伝うことになった。ある日、金木犀の香り漂う男性・横山蓮（平岡祐太）と巡りあう。弥生に授けられた言葉と香りによって自分の人生を切り開くのは自分自身だと気づかされ、天職を探し求めるように香料会社で働き始める恵麻すっかり香りの世界に魅了されていく恵麻は、営業先で蓮と再会することに―。魔女の香水『Parfum de prières（パッファンドプリエール）』の力に後押しされるように懸命に未来を切り開いていく恵麻の運命は、果たしてどんな風に変わっていくのだろうか？！
－ 河原優也－
恵麻の会社の仲間
芝居 × 川崎鷹也
僕にとって初めてのお芝居の現場、知らない方や知らないことだらけだったので最初は不安で仕方なかったのですが、日奈子（桜井日奈子）ちゃんが優しく気遣ってくださり「この現場にいていいんだ」と安心することができました。僕の曲も聴いてくれていたみたいで、そのお話も一緒にできて嬉しかったです。本当に太陽のような方でした。
音楽の制作は“自分との対峙”が
主なのかな、と思うのですが
芝居となると“相手との対峙”になりますよね。
そういった部分での難しさはありましたか？
めちゃくちゃ難しかったです。音楽制作の場合は100％の正解を僕が持っているので、自分のやりたい表現を自分の見せたい歌い方で歌うのですが、映画などの映像作品は監督がいて、共演者の方がいて、と、他の誰かと一緒に作る部分がほとんど。僕が考える河原と監督の考える河原が違うことも当然ありえるわけで。カットがかかるたびに日奈子ちゃんに「今のあってた？」と聞いたり、監督に「どういった（セリフの）言い方がいいですか？」と質問をしたりしていました。
そこで何か発見したことがあれば教えてください。
“相手のセリフをしっかりと聞いたうえで、自分のセリフを出す”というのは、やっぱり共演者の方と一緒にやってみないと分からないことでした。脚本をいただいて、いくら自分の家でひとりで練習をしていても、実際現場でやるとまったく違うことが起こるんです。相手のテンポ感や表情、僕のセリフを受けてのリアクションもありますし。いろいろなことが“相手がいて初めて成り立つ”という、芝居の現場ならではの技術を学ばせていただきました。
これまでもMVの制作などで
映像作品自体には多く関わられてきたと思うのですが、
映画の現場は川崎さんの目にどう映りましたか？
まず、僕自身「いままでカメラマンさんやスタッフさんのことを、しっかり見ることができていなかったんだな」と思いました。というのも、MVの撮影って数時間で終わることがほとんどで、カットや自分の立ち位置が変わらないことも多いんです。それが映画の撮影となると、何日間も皆さんと一緒にいることになるので、カメラマンさんや照明さんがどういった方なのかが理解できてくるんですよ。そんな風に、作り手同士の理解が深まっていくのが面白いと感じました。「監督はこういう画を撮りたいんだな」と感じる一方で、「カメラマンさんにはこういった正義があるんだな」という想いも感じる。さまざまなプロたちの意見のぶつかり合いに心打たれましたし、演者の芝居を100％で魅せることができるように、皆さんが考えてくださっていて感動しました。「これは、みんなでひとつの方向に向かって本気で作りあげている作品なんだ」と、撮影をしながら感じていました。
プロ同士の切磋琢磨、カッコいいです！
肌でその緊張感を味わうことができて、さらに皆さんのプロ魂に魅せられましたね。僕はもちろん、僕の周りのスタッフさんも芝居の現場が初めてだったので、分からないことも多かったみたいで、一度マネージャーさんがめちゃくちゃ戸惑っていたことがあって（笑）。音楽の現場だとマネージャーさんが常に近くにいて、「カット」がかかった瞬間にお水を持ってきてくれたり、ケアをしてくれたりするのですが、映画の場合はカットがかかった後に画角の調整などが始まるので、基本的にはその場から動いちゃいけないんです。ただ、初めての現場だったこともあり、カットの後にいつも通りマネージャーさんが水を持ってきてくださったのですが、僕のマネージャーさんだということを知らなかったカメラマンさんに「画角に映ってる！！」と、指摘されて、ものすごくアタフタしていたのを覚えています（笑）。
初めての現場だとそうなってしまいますよね（笑）。
今回は主題歌『オレンジ』でも
作品に色を添えられていますが、
制作の過程を教えていただけますか？
今回は「主題歌を書き下ろしてほしい」というオファーをいただいた後に、「お芝居に興味はありますか？」と、出演のご提案をいただいたんです。僕のなかに福山雅治さんや星野源さんなど、役者としてもアーティストとしても活躍している方たちの姿があったので「機会とタイミングがあったら是非」とお答えしたら、結構セリフのある河原という役での出演が決まって（笑）。現場に行くことができるのであれば、そこで曲を作りたいと思い、撮影の2日目くらいに皆さんの前で「主題歌を書きます！」と宣言して作曲を始めました。日奈子ちゃんの演技、監督や現場での雰囲気を感じて完成したのが『オレンジ』なんです。
なんてカッコいい宣言（笑）！
監督から作曲に関してのオーダーは何かありましたか？
監督からは「河原から見た恵麻の曲にしてほしい」と言われました。河原と恵麻は会社の仲間という設定だったので、監督に「河原は恵麻のことをどう思っているのか？」と相談したら「（恋愛として）好きだよ」と言われて、「え！？そうなの！？」と（笑）。脚本中にも作中にも、そんな描写がひとつもなかったので驚いたのを覚えています（笑）。ただ、撮影が始まって河原として恵麻を知っていくうちに、恵麻のひたむきで真面目で頑張り屋なところに惹かれる気持ちが分かりました。恵麻って、最初は頑張り方を知らない子なんです。それに比べて河原は東大出身でキャリアもある、いわばエリートと呼ばれる設定の人。恵麻と関わるなかで「頑張り方を教えられる役回りになりたいな」と考えていたので、絶妙な距離感で恵麻の成長を見守る河原が、恵麻のまっすぐでピュアな姿に惹かれるのは自然なことだろうな、と。そんな河原の目線を落とし込んで、隣に日奈子ちゃんがいる状態で『オレンジ』を書きました。
実際にエンドロールで流れる
『オレンジ』を聴かれてみて、いかがでしたか？
僕、楽曲を書くときに、映画の最後のカットからどのようにエンドロールにいくのかを考えていたんです。まだ撮影も終わっておらず、どんなエンドロールになるのか、尺も何も分からない状態のなか、なんとなく「あのカットでこんな風に終わるんじゃないかな」という予測を立てていて。「そうであれば、曲の最初は壮大でインパクトのあるものにしないと」と思って書き始めた楽曲が、ぴったりと予測したラストカットにハマったんです。完成作品を観て「よっしゃ！」と嬉しくなりました（笑）。
Dear LANDOER読者
From 川崎鷹也
映画『魔女の香水』
この映画は「働く女性に向けて」というコンセプトがあるのですが、女性だけでなく頑張っているすべての“働く人”に届いてほしい映画になったと思います。僕自身、サラリーマンも経験しましたし、そのなかで新人教育も経験して「うまくいかないな」「理不尽だな」と納得できないことにたくさん出会ってきました。そんな環境のなかで日々頑張っている皆さんには、河原や周りに助けられながら成長していく恵麻の姿を自分に投影して観ていただけるんじゃないかな、と思います。うまくいかないことだらけで、納得できなくて、ワケの分からないことで上司に怒られて…その気持ちが分かるからこそ、映画を通して「明日からまた頑張ろう」と思っていただけるようなエールを皆さんに送ることができたら嬉しいです。
川崎鷹也（28）
かわさき たかや
1995年5月16日生まれ。
合理的な下地に自由な余白を重ね、
唯一無二の描き方で〈愛〉を物語るDOER
映画『魔女の香水』
2023年6月16日（金）よりTOHOシネマズ日比谷 他 全国ロードショー
出演：黒木瞳 桜井日奈子
平岡祐太 水沢エレナ 小出恵介
落合モトキ 川崎鷹也 梅宮万紗子 /
宮尾俊太郎 小西真奈美
Staff Credit
カメラマン：田中丸善治
ヘアメイク：髙徳洋史（LYON）
インタビュー・記事：満斗りょう
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