【若葉竜也】映画『ペナルティループ』「めちゃくちゃな作品を作ろうとしている人がいる」コロナ禍に届いた一冊の本が〈希望〉にこれは、誰も観たことのない〝タイムループサスペンス〟

若葉竜也

映画『ペナルティループ』
「めちゃくちゃな作品を作ろうとしている人がいる」
コロナ禍に届いた一冊の本が〈希望〉に
これは、誰も観たことのない
〝タイムループサスペンス〟

誰かを恨んだり、怒ったり、人に向ける〈陰〉の感情には多大なエネルギーが要される。それでも私たち人間は、最古の昔より、妬み、恨み、憎しみながら生きてきた。それは決して悪いことではない。清々しく幸せな陽があれば、粘性ある暗い陰が存在するのが、この世の理。どちらを生きるかはあなた次第。ただひとつ言えることは「撃たれる覚悟がない者に、撃つ資格はない」ということ。たった一度のループのない人生で、あなたはどんな〝人間〟を生きますか――?

映画『ペナルティループ』

映画『ペナルティループ』

それはたぶん、史上最悪のループ。

ディストピア・ミステリー『人数の町』が国内外で称賛を浴びた記鬼才・荒木伸二監督が『街の上で』の若葉竜也を主演に迎え、オリジナル脚本で撮りあげたタイムループサスペンス。仇討ちという古典的なテーマを、『ペナルティループ』という新たなアイデアに落とし込んだ。奇想天外なアイデアに個性派が結集し、これまでのタイムループものと一線も二線も画す、突然変異、唯一無二の異色作が誕生した。

-あらすじ-

岩森淳(若葉竜也)が朝6時に目覚めると、時計からいつもの声が聞こえてくる。岩森は身支度をして家を出て、最愛の恋人・砂原唯(山下リオ)を殺めた溝口登(伊勢谷友介)を殺害し、疲労困憊で眠りにつく。翌朝目覚めると周囲の様子は昨日のままで、溝口もなぜか生きている。そしてまた今日も、岩森は復讐を繰り返していく――。

岩森淳

映画『ペナルティループ』

恋人を殺された復讐を繰り返す主人公

映画『ペナルティループ』
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若葉竜也

本作のお話をいただいたのは、コロナ禍真っただ中で、娯楽の世界がどんどん保守的になっている時期でした。当時はそんな時代の空気を肌で感じて、怒りや破壊衝動のようなものが僕にも蓄積してきていて。そんなときに、『ペナルティループ』の台本が届いたんです。台本を読んで「こんなにめちゃくちゃな映画を作ろうとしている人たちがいるんだ!」と、救われたのを覚えています。手を差し伸べられているような気持ちになったんですよね。

人が直接会うことができなかった時期、
一冊の台本を通して〈希望〉が届いたんですね。

「こんなにワケの分からない本を書いている人に、まず会ってみたい」と思ったのが、僕が映画『ペナルティループ』に関わることになったはじまりです。いままでに触ったことのない手触りの台本で、最初は「エンタテインメントに昇華できるのか」と、少し不安もあったのですが。

若葉竜也

若葉さんにとっての
“物語をエンタテインメントに昇華するために
必要な要素”とは何ですか?

極論を言えば“人に面白いと思ってもらえること”です。日本語でいうと〈面白い〉という言葉で一括りにされてしまうのですが、僕は何も笑顔でハッピーなだけが〈面白い〉じゃないと思っていて。例えば「おかしい」や、「感動した」「哀しい」など、〈面白い〉には、いろいろな感情が含まれていると思うんです。傷ついたり、喜んだり、“人間らしく気持ちが動くこと”こそが〈面白い〉なんじゃないかな、と。映画を観に来てくださる方たちに、そういった意味での面白さを届けることが、エンタテインメントに必要なことだと思っています。

本作を拝見して、
確かに人間的な感情が揺さぶられたように思います。

僕も『ペナルティループ』には、前述したようなエンタテインメント性を感じています。いろいろな作品を観ていると、「バカにしてんのか?」と、モヤモヤするほど言葉に頼っている作品に出会うことがあるのですが、『ペナルティループ』は、そういった説明的な部分を極限までそぎ落とした作品だと僕は思っていて。もちろん、観る方が内容を理解できるレベルの説明性をもたせたうえで、伝わるであろうギリギリのラインを探っていった作品であり、言葉の壁を越える表現を求めた作品でもあるんです。日本語が分からない方が本作を観ても、少ない翻訳で内容が伝わったり、世界に没入して感情が揺さぶられたり、そういった可能性を感じる作品になったと思います。

映画『ペナルティループ』

毎ループ変わる岩森のグラデーションが、
まさに、“言葉が少なくても没入できる表現”
だと感じました。
岩森を表現するにあたっての
面白さと難しさを教えていただきたいです。

本作は、最初から〈言葉〉という表現方法をひとつ奪われている非常に難しい作品だったのですが、だからこそ、少ない表現方法のなかでアプローチを間違えないよう、監督と密に話し合って作品を築いていける過程がとても面白くて。芝居に関して「表現しない」という選択をしました。

台本制作から関わられていた、と伺いましたが、
現場でも監督と密に話し合いをされていたんですね。

そうですね、かなり試行錯誤しながらやっていました。最近は、制作の現場がだんだんと効率主義になっているように見受けられるのですが、ものづくりって一つひとつをしっかりと確認し合いながら、面倒くさい方法をとっていく必要があるものだと思うんです。「ちゃんと面倒くさいことをやる」、その大切さを改めて実感した現場でした。個人的に、効率主義はあくまで“効率”に焦点を当てたものでしかないことが明確になった気がします。もちろん効率が必要なこともある、でもそこには限界がある、と僕は感じました。

作品から感じた熱量は
きっと“面倒くさい”を選んでくださった、
皆さんの努力の温度ですね。
本作で描かれている〈復讐〉という
“人間の性”については
どう思われましたか?

ある一人のライターさんが「『ペナルティループ』のペナルティの言葉は、主人公に向けての言葉のように思いました」と、仰っていたんです。それを聞いたとき、僕は「確かに」と納得しました。何度も復讐のループを繰り返す『岩森淳』としてこの作品に関わり、「人間ってここまで残虐になれるのか」と思いましたし、人間という生き物を見つめなおしました。子どもって、虫を残虐に殺したりするじゃないですか。実はあれって、人間の本能的な姿なのではないか、と思ったりもして。大人になるにつれて、社会性を身に着けて抑圧されて、その凶暴性が奥のほうへと姿を隠してゆく。けれど本当は、人間は自分以外の生物に対して、“無自覚な傲慢さ”があるのかもしれない。僕は本作に描かれている〈復讐〉と向き合って、そう感じました。

若葉竜也

若葉竜也

確かに岩森自身は、
自分の残虐性がループを繰り返す度に
上がっていることに
気づいていないように思いますね。
知らぬうちに“無自覚な傲慢さ”が目覚めていた、
といいますか。

そうなんです。とあるシーンで銃を手にした岩森が、本当は一発でいいはずなのに何発も溝口を撃つ描写があるのですが、彼のその姿には人間の凶暴性や暴力性がものすごく見え隠れしているんです。そういった“人間の愚かさ”の描き出しが、本作の面白いところでもあると思います。

Dear LANDOER読者
映画『ペナルティループ』
From 若葉竜也

自分たちでつくった映画ながら、本当に好き嫌いが分かれる作品になっていると思います。もし興味があったら、ぜひ観に来ていただいて好きか嫌いかを見極めてほしいな、と。そのうえで、ご自分のエネルギーをもって感想をいただけたら嬉しいです。他の人の意見ではなく、好きか嫌いか、面白いか面白くないか、を、好きなように判断していただければ、と思います。

若葉竜也

若葉竜也

わかば りゅうや

6 月10日生まれ。
役を演じ、葉風を吹かせ、
人々の静まり返った〈人間味〉を刺激的に揺さぶるDOER

映画『ペナルティループ』
2024年3月22日(金)全国ロードショー

出演:若葉竜也
   伊勢谷友介 山下リオ ジン・デヨン
   松浦祐也 うらじぬの 澁谷麻美 川村紗也 夙川アトム
脚本・監督:荒木伸二
配給:キノフィルムズ

映画『ペナルティループ』
© 2023『ペナルティループ』FILM PARTNERS

Staff Credit
カメラマン: 加藤千雅
ヘアメイク:FUJIU JIMI
スタイリスト:タケダトシオ(MILD)
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:Mo.et