【大倉空人】映画『ヒッチハイク』「なんか気味が悪い」〝違和感〟と〝伏線〟が纏わりつく狂気の話

大倉空人

映画『ヒッチハイク』
「なんか気味が悪い」
〝違和感〟と〝伏線〟が纏わりつく狂気の話

都市伝説、それはどこで誰によって生み出されたのかも、どこで誰が経験したのかも、一切分からない話。不確かだから興味深くて、永遠に未知だから気味が悪い。もしもあなたが、いまの生活に不満を感じて山奥に足を踏み入れたくなったら、どうか一度この映画を思い出して。ふと感じる違和感の数々、危機感を感じずにはいられない意味不明な言動たち、そのすべてが、きっとあなたの五感を研ぎ澄ませてくれるから――その先で見つけるのは、本当の自分自身か、それとも…

映画『ヒッチハイク』

映画『ヒッチハイク』

-Story-

異次元の山奥で繰り広げられる
惨劇の一夜。

大学生の涼子と茜は、ハイキングの帰りに山道で迷ってしまう。やっとバス停に辿り着いたものの、バスが来る気配は全く無かった。さらに、涼子は足を怪我しており、茜の彼氏も飲み会で迎えに来られないらしい。ふたりは、意を決してヒッチハイクをすることに。こんな山奥で無謀にも思えたが、運良く一台のキャンピングカーが停まる。運転席から降りて来たのは、時代錯誤のカウボーイの格好をしたジョージと名乗る男。ジョージは快くふたりを受け入れ、車内へと誘う。そこには、ジョージの家族も同乗していたが、どこか異様な雰囲気が漂っていた―。一方、過保護な親にウンザリしている健は、悪友の和也を誘い同じ山でヒッチハイクの旅をしていた―。

-自立できない青年・健-

過保護な母親にウンザリしている大学生。
悪友の和也を誘い、初めてヒッチハイクの旅に出る。

大倉空人

『ヒッチハイク』 × 大倉空人

今回の作品は僕にとって初めてのホラー映画であり、主演映画。最初、マネージャーさんから「主演です」とオーディションの結果報告がきたとき、嬉しいよりも驚きが勝ったのを覚えています。報告を聞いた直後はなかなか実感が湧いてこなかったのですが、母に報告したり、打ち合わせをしたりしていくうちに「僕が主演だ、頑張らなきゃ!」と、だんだん実感が湧いてきて。そこからいろいろな作品のクランクアップの動画や撮影のメイキング動画を観て、主演の方がどんな行動をされているのかを研究しました。皆さん握手をされていたので、「まずはこれだ!」と思い、僕もクランクアップのときにしっかりと握手をして(笑)。何事もカタチから入るタイプなんです(笑)。

なんて可愛らしいエピソード(笑)!
主演として他にも意識されたことはありましたか?

今回、川﨑(川﨑麻世)さんなど、大先輩の皆さんがいらっしゃったので、「お芝居で引っ張っていこう!」と芝居の部分を意識をするのではなく、スタッフさんとたくさん話したり、現場が明るくなるようにしたり、そういったところに意識を向けていました。

大倉空人

原作は掲示板で有名な都市伝説。
台本を読んで感じた
映画としての描かれ方を教えてください。

僕、実は『ヒッチハイク』の投稿を知らず、出演が決まってから原文を読んだんです。都市伝説として語られてきた内容が映画向けに少し変わっていて、原文からさらにパワーアップした都市伝説になっていると感じましたし、作品に携わっていく身として、台本を読んだ時点で「面白くなるだろうな」とも感じていました。ただ僕、小学生のときに『キョンシー』と『ジョーズ』を観てから、ホラーのジャンルが苦手になっちゃって、お化け屋敷にすら行ったことがない人間で…(笑)。ホラー映画を観て勉強することは不可能だったので、都市伝説の内容を調べて台本と照らし合わせながら、原文と映画の違いを分析して撮影に臨むようにしていました。

原作が都市伝説という珍しいカタチですが、
健という役柄についてはどのように分析、準備を?

まず、自分に似ているところを探しました。健は親からの愛情を一心に受けて育ってきた子。それゆえに過干渉気味の親にストレスを抱いてしまっている青年なんです。僕自身、小さい頃から愛情をたっぷりもらって育ってきたので、そこは似ている部分として持っていたのですが、僕はその愛情に対して「うざい!」と思うほどのストレスを抱いたことがなく…。健の感じる大きなストレスを表現することがすごく大変でした。僕、芝居をするときに怖い場面であれば「怖い怖い」と、自分に思い込ませて表現をするタイプなので、健の心情に関しても「うざい!うざい!」と思い込ませて、気持ちを作っていました。

似ているところを感じつつ、
似ていないところをご自身で
補完されていったんですね。

そうですね。もともとなんでも書いて整理するタイプで、健に関しても「こんな性格」や「母親へストレス」、「和也との関係」などのキーワードをとにかく書き出して、撮影に向け準備をしていったんです。書いているうちに自分とのギャップが出てきたら、自分自身に思い込ませて…と、人一倍時間のかかるやり方なのですが、僕にはこのやり方があっていて。そうやって自分の役を把握した結果、健のポイントになっているのは「家族とのすれ違い」だと思い、そこに重きを置いていました。

それだけ入り込んで役のことを考えていると、
役に引っ張られそうになることもあるのかな?
と思ったのですが…

それが引っ張られないんです。きっと引っ張られないからこそ、いちいち書いて思い込ませているんだと思います。引っ張られたらすごく楽なんですけど(笑)。芝居中、僕のなかに表に出ている言葉と心で思っていることが並行して存在しているので、「カット!」がかかった瞬間に大倉空人に戻ることができるんです。別々の作品の撮影が並行してあった際には役に立つ能力だと思ってプラスに捉えています。

大倉空人

確かに、役立つ能力ですね!
とはいえ、演じているうちに
役の気持ちと自分自身が
ピタッとハマる感覚になることも?

あります!今回の作品でいうと、作品の最後のほうにある山小屋のシーン。健の恐怖心と自分の恐怖心がピタッとハマって…本当に怖かったです(笑)。自分で完成した作品を観たときにも「上手い!」と思いましたもん(笑)。ただ、一方で「ひとり言でのお芝居が苦手なんだな」という反省点も見つけました。演技力の高い役者の皆さんのなかにいると、自分の気持ちを引っ張ってもらいながらお芝居ができるのですが、ひとりになると感情の見せ方が分からなくなるといいますか。自分にとっては反省点になったので、次に活かしたいと思います。

今作で演じた健という青年。
観ていて、複雑でつかみどころのない
難しさを感じました。

おっしゃる通りで、超難しいんです、この子(笑)。親に反抗した結果、こんなことに巻き込まれちゃって、逃げなきゃいけないってときに「でも、この女の子を守りたい」という揺らぎが芽生えて…と、「本当はこうしたいけど、これもしたい」といった矛盾が多い子だったので、その言動の裏付けを監督と一緒に探していました。例えば「この女の子を守りたい」と思う理由の裏付けとして、その前のシーンで女の子から言われた「ありがとう」の言葉に心が動かされていた、とか。普段「ありがとう」と言われ慣れていないから、実はすごく喜んでいたという設定にすることで、「女の子を助けたい」と思う気持ちに繋げたんです。セリフごとの心情を具体的に分析して、健の複雑な部分をひとつずつ払拭して撮影に臨んでいました。

大倉空人

難しい役どころに加え、苦手なホラーへの挑戦。
撮影秘話があれば教えてください。

僕よりも母のほうが怖がっていました(笑)。というのも、共演者の皆さんがすごく明るくて良い方ばかりだったので「怖い!」という思い出が特になくて。その現場のままの気持ちで母親と電話をしていたら、「撮影前に神社とか行ったの?そのまま帰ってくるのやめてよ」と言われ…(笑)。コンビニで塩を買って家に帰りました(笑)。

Dear LANDOER読者
From 大倉空人
映画『ヒッチハイク』

今回、僕にとって初の主演映画であり、初のホラー映画作品です。いつも応援してくださっているファンの皆さんに「ホラーが苦手です」と言っている身でありながら「観てください」というのも恐縮なのですが(笑)、ただ、この作品は怖いだけではなく、それぞれのキャラクターのバックボーンや伏線が丁寧に描かれていて、カメラワークひとつ、目線ひとつにしても、「ん?」という違和感に注目して楽しめる映画だと思います。違和感を違和感で終わらせるのではなく、抱いた疑問を持ちながら映画を観ていただくのがオススメです。そうすることで、点と点の繋がった怖さを感じてもらえると思います。どんなに怖くても、是非、大画面で観てください(笑)!

大倉空人

大倉空人(21)

おおくら たかと

2002年4月12日生まれ。
ひたむきに対峙してきたすべての経験を“表現”の倉に蓄え、
自身の手で追い風を生み出すDOER

映画『ヒッチハイク』

映画『ヒッチハイク』
2023年7月7日(金)
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか、全国ロードショー

出演:大倉空人 中村守里 平野宏周 高鶴桃羽
   速水今日子 結城さと花 結城こと乃 保田泰志 / 細田善彦
   川﨑麻世
監督:山田雅史 脚本:宮本武史

Staff Credit
カメラマン:北野翔也
ヘアメイク: Takuya Masuzawa
スタイリスト: TAKURO
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:古里さおり