【監督・池田千尋×俳優・奥平大兼】映画『君は放課後インソムニア』「また彼らに会いたくなる」あの夏を思い出すノスタルジー対談

監督・池上千尋×俳優・奥平大兼

映画『君は放課後インソムニア』
「また彼らに会いたくなる」
あの夏を思い出すノスタルジー対談

毎日同じ道を通り、毎日同じ席に着き、同じ顔ぶれとともに一日を過ごす。校舎という箱のなかで息をする小さな社会は、時折、誰にも話せないような孤独を生み出してしまうことがある。青春の眩しさを感じている人たちを横目に「どうせ分かってもらえない」と諦めては、ひとりを選ぶことだってある。でも、そんなの寂しすぎる。自分なりの大きさでいい、表現でいい、〈声〉を聞かせて。その〈声〉に集まった誰かは、きっと一緒に放課後を彩ってくれるはず。特別じゃなくて、眩しくもなくて、けれどキラキラと普通な放課後を。

監督・池田千尋

北海道生まれ、静岡県出身。2008年、西島秀俊を主演に迎えた『東南角部屋二階の女』で長編監督デビュー。主な監督作に『先輩と彼女』(15)、『スタートアップ・ガールズ』(19)、『記憶の技法』(20)など。熱狂的なファンを生み第59回ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞受賞するなど絶賛されたドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」(21/関西テレビ系)では第108回ザテレビジョンドラマアカデミー賞監督賞を受賞。脚本家としても活躍しており、『クリーピー偽りの隣人』(16/黒沢清監督)、『Red』(20/三島有紀子監督)、『空に住む』(20/青山真治監督)などにも共同脚本として参加している。

映画『君は放課後インソムニア』

映画『君は放課後インソムニア』
©オジロマコト・小学館/
映画「君ソム」製作委員会

石川県七尾市に住む高校一年生・中見丸太(なかみ・がんた)は、不眠症のことを父親の陸に相談することもできず、ひとり憂鬱で孤独な日々を送っていた。そんなある日丸太は、学校で使われていない天文台の中で、偶然にも同じ悩みを持つクラスメートの曲伊咲(まがり・いさき)と出会い、その秘密を共有することになる。天文台は、不眠症に悩む二人にとっての心の平穏を保てる大切な場所となっていたが、ひょんなことから勝手に天文台を使っていたことがバレてしまう。だが天文台を諦めきれない二人は、その天文台を正式に使用するために、天文部顧問の倉敷先生、天文部OGの白丸先輩、そしてクラスメートたちの協力のもと、休部となっている天文部の復活を決意するが――。

-中見丸太(なかみ・がんた)-

眠れない夜を過ごし、
偶然にも天文台で伊咲と出会う男子高生。

監督・池上千尋×俳優・奥平大兼

監督・池田千尋 が感じた
“俳優・奥平大兼”

池田千尋監督(以下、池田監督):初めて奥平くんにお会いしたとき、「今回は普通の男の子の役をやろう」と話したのを覚えています。私のなかで『MOTHER マザー』(2020)の印象が強く残っていたので、実際にお会いして「あれ、いい意味ですごく普通の男の子なんだ」と感じたんです。同時に、普通の部分をあまり出していないんだな、とも。そういった話をしながら「実は普通を演じるのが一番難しい」という話になり、「今回はそれをやってみようよ」と。

LANDOER:お会いする前の印象と、実際の奥平さんに素敵なギャップがあったんですね。実際に撮影がはじまって、さらに知った部分はありましたか?

池田監督:奥平くんが芝居をするときの、“自分の身を預ける潔さ”ですかね。人間ってどうしても防衛本能があるので、頭でいろいろと考えて動いてしまうものじゃないですか。彼はそれらを飛び越えて「これでもか!」というほどバーンッと自分を預けてくれるんです。撮影現場で私が「こうしてみよう」と言ったことに対して、楽しんで身を投じることができる。そんな俳優さん、なかなかいないと思います。

森七菜 × 奥平大兼
ユニークなバッテリーの誕生

奥平大兼(以下、奥平):僕、歳下でも同じ歳でも、無意識に敬語を使って自分の心地よい距離を作ってしまうところがあって…。監督にそのお話をしながら「それは良くないよな」と思って、今回の現場では役の丸太と同じように、共演者のみんなに一歩ずつ歩み寄っていくことを意識していました。

LANDOER:奥平さんご自身と役の足取りを重ねられたんですね。

奥平:そうですね。撮影の最初の頃は、意識的に「頑張ろう!」と気合を入れて動いていました。僕、最初は森(森七菜)さんと全然話せなかったんですよ(笑)。

LANDOER:え!そうなんですか?

池田監督:そうだったね(笑)。一度、撮影に入る前に都内の高校を貸し切って、望遠鏡の使い方などを練習しながら「みんなで仲良くなろう!」という会を開いたのですが、奥平くんは「どこにいようか…」と探っている感じがあって(笑)。

奥平:あはは(笑)。そうですね(笑)。

池田監督:でも撮影がはじまってから、急激に仲良くなっていった印象があります。

奥平:森さんが積極的に僕に話しかけてきてくれたおかげです。

池田監督:うんうん、そんな感じだったね(笑)。森七菜ちゃんは、自分の感性や考えで作ったすごく面白いボールをバンバン投げることができる人なんです。そして奥平くんは、そのボールを柔らかくキャッチできる人。七菜ちゃんが投げるボールって変化球が多いのですが、奥平くんはその変化球を毎回違う角度できちんとキャッチしていて。個人的に、そんな2人を見ているのが本当に面白くて楽しかったです。

リンクする“神社の夜”の思い出

奥平:撮影のすべてが印象に残っている現場で、今でもふと「『君は放課後インソムニア』の撮影、楽しかったな」と思い出すことがあります。特に覚えているのは、森さん演じる伊咲と伊咲のおばあちゃんの家へ行くシーン。「伊咲さん、かっこいいです」という丸太のセリフがあるのですが、そのシーンが一視聴者としてすごく好きで。撮影当時の自分がどういった気持ちでセリフを口にしたのか、細かいところまでは覚えていないのですが、スクリーンで観たときに「素直に“かっこいい”と思って口から出たんだろうな」というのが伝わってくる、素敵なシーンになったと思っています。

池田監督:わかる!撮影全体でいうと大変なこともあったのですが、おばあちゃんの家に行って、奥平くんのシーンの撮影をしている時間、すごく良い時間だったんですよ。

LANDOER:スケジュールでいうと、インしてからどのくらい経った後の撮影だったんですか?

池田監督:みんながギューッと仲良くなった中盤くらいですかね。一度、段取りで奥平くんにお芝居をやってもらったときに「これ、こんなふうに撮影するとすごくいいな」というイメージがパッと見えたんです。その後(段取りの時に)見えたイメージと奥平くんの本番でのお芝居が合わさって「めちゃくちゃうまくいった!」と、自分でも感じることができて。場所もすごく良かったよね。

奥平:本当に。最高の場所でした。

なんでもない瞬間の、忘れられない表情

池田監督:奥平くんって、なんでもない瞬間にふっとすごく良い表情をするんです。それこそ先ほども話していた神社のシーンなのですが、丸太がひとりだけで神社に行ったシーンで空を見上げる動きをしたときの表情がすごく良くて。

奥平:え、全然意識していないところでした(笑)。

池田監督:私はあの表情を見て「この人はこんな表情もできるんだ」と、感動したのを覚えています。きっと、それまでの撮影で丸太として生きてきた時間が奥平くんのなかに蓄積されていて、丸太としての感情が無意識にスッと彼に流れ込んでいるんだろうと思ったんです。それって本当にすごいことだな、と。

映画『君は放課後インソムニア』
©オジロマコト・小学館/
映画「君ソム」製作委員会

現場で見つけた『中見丸太』

LANDOER:現場に入るまでに考えていた『中見丸太』と、撮影がはじまって見えてきた『中見丸太』に違いはありましたか?

奥平:今回の作品は漫画原作の実写ということ、そして、僕自身が実写作品に関わる経験があまりないこともあり、撮影に入る前に台本と原作を読みながら『中見丸太』について考えたのですが、やっぱりお芝居に関してはやってみないと分からない部分も多いので、一か八か、お芝居をしている自分にかけようと思って撮影に臨みました。

LANDOER:共演者の方との掛け合いも大切になってきますもんね。

奥平:そうですね。そこの余白を作っていっていた分、伊咲への森さんなりのアプローチにも素直に対応することができたんじゃないかな、と思っています。監督が僕らのやりたいようにやらせてくださったおかげで、『中見丸太』を“生きている”実感と、丸太の半分に『奥平大兼』が存在しているような境目のないふわふわとした感覚が同居している日々でした。そういった感覚を現場で体験できたのがすごくありがたかったですし、丸太として生きているのがすごく楽しかったです。

「七尾市に住む、あの子たちにまた会いたい」
そんな感情が芽生える作品

奥平:この作品は実写の映画だけれど、とてもリアルに七尾市で生きている登場人物たちの姿が見えてくる作品。僕自身、みんなで集まっているシーンを観ると、いまでも「戻りたいな」と思ってしまいます。

池田監督:うん、私もすごく思う。今回、漫画作品をお預かりして実写化させていただく、という企画の段階で、原作への敬意を込めて脚本内に原作に描かれている“大切なもの”をしっかりと埋め込みました。だからこそ、現場では固めすぎることなく、キャストの皆さんを信じてやろうと思っていたんです。最初の頃は「こんな風にやってみようか」と、話をしながら撮影していたのですが、徐々に「え、どうやる?」と七菜ちゃんと奥平くんにまるっと聞いていました(笑)。

奥平:そうでしたね(笑)。

池田監督:奥平くんと七菜ちゃんのシーンって「2人を見ていたい」と思わせられるんですよ。「ちょっとどんな風にやるのさ、見せてよ」と(笑)。先ほど奥平くんが言っていたように、役と自分の“境目”がなくなるところまでいってほしかったんです。見ている側だけでなく、奥平くん自身もその感覚を感じられていたと聞いて嬉しかったです。

監督・池上千尋×俳優・奥平大兼

Dear LANDOER読者
映画『君は放課後インソムニア』
From 監督・池田千尋

高校生活を題材とした作品って、キラキラとしている生活が描かれていることが多いと思うのですが、この作品は「私、キラキラしていないな」という思いを抱えている人たちに「実は、いま生きている時間はすごくキラキラしているものなんだよ」というメッセージを伝えられる作品になったんじゃないかと思っていて。作中の伊咲と丸太がそうであるように、青春時代って自分の存在がすごく不確かで、苦しいことも多い時間じゃないですか。そのなかで「私、生きていていいんだ」と、自分が生きていることを肯定できる〈力〉が届けばいいな、と思っています。そして、大人になった方たちには高校時代を思い出していただけたらな、と。過去を肯定することが、今を肯定することにもきっと繋がると思うので、幅広い世代のいろんな方に観ていただけたら嬉しいです。

From 中見丸太役・奥平大兼

高校生ならではの悩み、自分の抱えているものや葛藤、そういったものが映画を観ることですべて解消できるわけではないけれど、「ひとりじゃない」と思うことができるんじゃないかな、と思います。自分のいる環境で、自分なりに行動することで必ず得られる面白さがある、現役高校生の皆さんにはそういった部分も感じてもらえたら嬉しいです。ちょうど、アニメ『放課後インソムニア』の放送が終わる頃に実写の映画が公開されるので、作品として見比べていただくのも楽しいんじゃないかな。是非、アニメならではの面白さ、実写ならではの面白さを味わってみてください。

俳優・奥平大兼

奥平大兼(19)

おくだいら だいけん

2003年9月20日生まれ。
“芝居の海”に思いっきり身を投じ、
予測がつかない千波を楽しみながら〈役〉を生きるDOER

映画『君は放課後インソムニア』
2023年6月23日(金)ロードショー

出演:森七菜 奥平大兼
   桜井ユキ 萩原みのり 工藤遥
   田畑智子 斉藤陽一郎 / 上村海成 安斉星来 永瀬莉子 川崎帆々花
   でんでん MEGUMI 萩原聖人
原作:オジロマコト「君は放課後インソムニア」
    (小学館「週刊ビッグコミックススピリッツ」連載中)
監督:池田千尋 
脚本:高橋泉 池田千尋

映画『君は放課後インソムニア』
©オジロマコト・小学館/
映画「君ソム」製作委員会

Staff Credit
カメラマン:鈴木寿教
スタイリスト:伊藤省吾(奥平さん) 上地可紗(池田監督)
ヘアメイク:速水昭仁(奥平さん) 中野雅世(池田監督)
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:古里さおり