【Color.25】 プロデューサー 山田周 「一人ひとりの才能が輝く場所をつくる オリジナルTVアニメメーション『風を継ぐもの』 プロデューサーの仕事」

プロデューサー 山田周

プロデューサー

山田 周

プロデューサー 山田周

テレビシリーズアニメをはじめとして、実写映画、MV、CM等を幅広くプロデュース
代表作に「ねこねこ日本史」シリーズ、映画「奇跡」、「釣りキチ三平」等がある

Chapter 1

企画を立て、人を集め、
作品を世に届ける
プロデューサーの仕事

プロデューサーの仕事は、まず企画を立てるところから始まります。そのうえで、監督や脚本家、アニメスタジオなど、制作の骨格となるスタッフを探して集めていく。それらと並行して、作品を作るための出資を集めて製作委員会をつくる、というのが最初の仕事です。

企画が成立したら、今度はアニメを作るための予算とスケジュールを組み、TVシリーズであれば放送まで、映画であれば劇場公開までの道筋を立てていきます。

制作が順調に進んでいるかどうかを確認する仕事でもあるのですが、僕は「管理する」という言い方をあまりしたくないと思っていて。というのも、アニメはたくさんの人と一緒に作っていくものなので、「みんなの力を借りながらやっている」という感覚の方が強いんです。上から人を管理するというよりは、みんなで集まってひとつの作品を築いていく。その目線を大切に、しっかりとサポートをしていくのがプロデューサーの役割だと思っています。

山田さん最新作
オリジナルTVアニメーション
『風を継ぐもの』

この企画が生まれたのは2021年頃、ちょうどコロナ禍の時期でした。あの頃は、人に会うことも、外にごはんを食べに行くことも控えなければならない時代で、みんなの〈価値観〉が大きく変わっていくのをひしひしと感じていたことを覚えています。そんななかで、同じチームのプロデューサーと「次はどんな作品を作ろうか」と話しているときに、「当たり前の日常がどれだけ大切だったのかを、いまほど世の中の人がわかっている時代はない。それなら『明日の命の保証がない若者たちの青春群像劇』をやってみよう」という話になったんです。そこから『風を継ぐもの』の第一歩が始まりました。

では、なぜ新選組だったのか——。今回の制作チームの前作が『ねこねこ日本史』(Eテレ)という子ども向けの歴史アニメだったこともあり、せっかく同じメンバーでやるなら歴史もののオリジナル作品がいいだろうという話になったんです。そのアイデアを起点に“現在と同じように価値観が大きく変わった激動の時代”を探していったところ、幕末にたどりついて。『新選組』を題材に、僕らの想いがこもった作品を描くことにしました。

TVアニメ『風を継ぐもの』

舞台の世界観と出会い、
新たな『風を継ぐもの』が誕生

本作は演劇集団キャラメルボックスの舞台『風を継ぐ者』をはじめとした、「立川迅助シリーズ」と通じている部分もあるのですが、もともと舞台をアニメ化するつもりはなく、先述したように、あくまで「新選組のオリジナルアニメを作る」という企画からスタートした作品。オリジナル脚本をお願いする脚本家さんを探していくなかで、「舞台でよく『新選組』を描かれているキャラメルボックスの劇作家・成井豊さんに書いていただくのがいいのではないか」という話になり、今回のタッグが実現しました。

そうして脚本を書き進めていただく過程で、成井さんから「もとの舞台で創作された設定を使っていきたい」というご提案をいただいて。「それなら、僕らが作りたいものと成井さんが作りたいものを掛け合わせて、新しい形の『風を継ぐもの』として打ち出していきましょう」という方向に意見がまとまり、本作が誕生しました。そのため、表記こそ舞台とは変えていますが、名前は同じものを使わせていただいています。

“初めて尽くし”のチーム
だからこそ生まれた
独特な作風

今回のチームは「シリーズアニメは初めて」という方がすごく多いんです。成井さんはもともと舞台の方ですし、劇中の音楽を作ってくださっているくるりの岸田繁さんも、シリーズアニメは実質初めて。映像面では『Live2D』という技術を使っているのですが、これはもともとVTuberやゲームなどで多く活用されているイラストを動かすための技術なので、Live2Dで長編アニメを作ること自体が初めての試みでした。さらに、それを伝統的なセルアニメと組み合わせるのも初めてで。

これだけ初めて尽くしなので、普通のアニメとは違う独特な作品になっているはず。結果的にそうした挑戦の一つひとつが、本作ならではのこだわりや強みにつながったと思います。

プロデューサー 山田周

原作がないからこそ、
トライアンドエラーを重ねた
キャラクターデザイン

もちろん、オリジナルならではの難しさもありました。原作がないので、たとえば主人公の迅助一人とっても、どんな顔立ちなのか、スタッフによって思い描く姿が違ったんです。全員が納得できるキャラクターにするため、複数のデザイナーさんにラフを描いてもらって見比べたり、実際に映像を作って試したりと、何度もトライアンドエラーを繰り返しました。

実はこの作品、当初は未就学児や小学生向けのショートアニメの企画で、二頭身のキャラクターをイメージしてスタートしたんですよ。ところが、本作のキャラクターデザインの蝦名さんが描いてきた沖田総司を見て、「これなら対象年齢をあげて30分のシリーズアニメにしましょう」という話に変わったんです。ハードボイルドな題材として描かれがちな新選組を、可愛らしいタッチで描くのはありそうでなかなかないこと。子ども向け企画の名残がいい意味での親しみやすさとして残っていると思います。ちなみにスタッフの7〜8割は女性でして、色使いも含めて、スタッフのみんなが「自分たちが見たい」と思うデザインを採用したのも本作の特徴です。

TVアニメ『風を継ぐもの』

歴史を描くときに大切にしている、
“血の通った人間”を想像すること

作品で『歴史』を題材として取り扱うときは、「実在した人々に想いを馳せること」を大切にしています。学校で習う教科書には起こった出来事しか書かれていませんが、実際はそこで生きて、生活していた人たちがいる。その〈個人〉にちゃんと想いを巡らせたいんですよね。

なかでもとくに気を遣っているのは、誰かを一方的に悪者として描かないこと。たとえば芹沢鴨は、乱暴狼藉の末に粛清されたという史実が残っていますが、彼にも彼なりの理由があったはずだし、いいところもきっとあったはず。そうやって、一人ひとりを血の通った人間として想像していく。結論さえ史実とつじつまが合っていれば、その過程には遊びしろを作ることができますから。

視聴者の皆さんに「この人は本当にこの世の中に生きていたんだな」と感じていただけるかどうか、そこの描き方はかなり意識しています。

山田さんが思う、
アニメ『風を継ぐもの』の魅力

「いま作るべきアニメは何か」を考えて生み出した作品なので、すごく時代に合った一作になっていると思います。主人公の迅助が記憶を失ったまま激動の時代を一生懸命に生き抜く姿は、先の見えない現代を生きる私たちにも重なる部分があるはず。そんな彼の姿から何かを感じ取っていただけたら嬉しいですし、長く人々の心に残る作品になってくれたらいいなと思います。

プロデューサー 山田周
Chapter 2

山田さんのとある1日の流れ

担当している作品がどの工程にあるかによって一日の動きが全然違うので、決まったルーティンはありません。だいたい朝10時か11時ごろから動き始めて、一日中社内でデスクワークや打ち合わせをすることもあれば、朝からアフレコでスタジオに缶詰めになり、そのまま別作品のスタジオ作業へ向かうなど、終日外に出っぱなしの日も。帰りは「夜8時には帰りたいな……」という気持ちで働いています(笑)。理想を言えば、夕方5〜6時には帰りたいんですけどね。

一番大変なのは“企画の成立”
しかしその後も
プロデューサーの仕事は止まらない

プロデューサー業務のなかで一番大変なのは「企画を成立させること」で、そこまでこぎ着ければ仕事の半分は終わったようなもの。とはいえ、その後も予測できない事態によって制作が予定どおりに進まなかったり、スタッフ同士の人間関係について相談を受けたりと、課題は次々に出てきます(笑)。

とくにクリエイティブは繊細な世界なので、ビジネスのように「あいだをとってこうしましょう!」が通用しないんです。「カッコいいデザインがいい」「かわいいデザインがいい」と意見が分かれたときに、「じゃあ中くらいで」とはいかない。原作があれば「マンガがこうだから」と判断の拠り所にできますが、オリジナルにはそれがないのでとくに気を遣います。

また、制作が止まってしまった際も、前回うまくいった解決方法が今回も通用するとは限りません。毎回事情が違うため、そのつど状況に合わせて軌道修正していかなければならないのも、この仕事の難しさです。

だからこそ、悩んでいる人や問題が起きている現場に真摯に向き合うことを大切にしています。まずは話をしっかり聞いて、自分で答えが出なければ周りのスタッフも巻き込んで「どうすればいいと思う?」と相談する。プロが揃っているチームなので、誰かしらが解決策を持っていることも多いんです。昔は自分で答えを出さなきゃと思っていましたが、いまはみんなの力を借りながら、一つひとつ乗り越えています。

プロデューサー 山田周

好きな業務は
「脚本の打ち合わせ」と「ダビング」

プロデューサーの仕事のなかで好きな業務は、まだ制約が少なく自由に発想できる段階での「脚本の打ち合わせ」と、映像に音楽や効果音をつける「ダビング」です。なかでもダビングは、アニメの完成形が初めて見えてくる工程なので、最初の視聴者として作品を観られるのがすごく楽しいんです。

プロデューサー業のやりがいは、
作品が誰かの人生に届いたとき

大変なことも多いプロデューサー業ですが、お客さまの反応に触れると、それまでの苦労もすべて吹き飛びます。前作はNHKの作品だったこともあり、お子さんが手の込んだ絵を描いた色紙を送ってくれたり、親御さんからメッセージをいただいたりと、計200通ほどのお手紙が届いて、本当に嬉しかったです。また、以前手がけた歴史アニメでは「アニメをきっかけに歴史が好きになり、社会科の先生を目指して教員試験に合格しました」というお便りをいただいたことも。メールで手軽に連絡できる時代に、わざわざ手紙を書いてくださるのは相当なこと。すべてのお手紙に目を通し、「やっていてよかった」と心から実感させていただいています。

プロデューサー 山田周
Chapter 3

山田さんが
プロデューサーになったきっかけ

正直なところ、主体的にプロデューサーの仕事を選んだわけではないんです。「プロデューサーになっちゃった」というのが正しい表現ですね(笑)。僕が就職活動をしていた当時は就職氷河期で、銀行や不動産なども含めて100社近く受けたもののすべて落ちてしまい、たまたま受かったのがエンタメの会社でした。最初は音楽の宣伝を担当していたのですが、会社が映像事業に参入することになり、25歳でいきなり実写の映画プロデューサーを任されたんです。

アシスタント経験もなく、現場は50〜60代の職人気質の方ばかり。最初は誰も言うことを聞いてくれず、教えてくれる人もいないなか、手探りでなんとか仕事をこなしていました。そんな環境でも辞めずに続けられたのは、決して綺麗な話ではなく「仕事があるだけありがたい」という思いで、毎日を必死に過ごしていたから。

僕の場合はかなりイレギュラーな形でいまのポストにつきましたが、一般的には映像制作に関わる会社に入って、プロデューサーのアシスタントや制作進行として経験を積んでいくのが王道のルートだと思います。もちろん、違う業界から入ってくる方も多いので、決まった道があるわけではありませんが。

15年かけてたどり着いた
プロデューサーの本質

いきなりプロデューサーを任されてから仕事に慣れるまでには、4〜5年かかったと思います。実写映画は企画から公開まで3年ほどかかるので、並行して2〜3本を経験したころに、ようやくひとつの型が身についたという感覚でしょうか。ただ、『プロデューサー』という職種の本質に気づくまでには15年ほどかかりました。

僕がたどり着いた理想のプロデューサー像は、“ただ自分がそこにいるだけで名作が生まれる”というもの。細かくディレクションせずとも、才能ある人たちが存分に力を発揮できる環境を整えてあげられれば、自然とおもしろいものが生まれてくるんですよ。逆に自分が細かく口を出しているうちは、思い描いたとおりのものはできても、想像を超える作品にはならない。だからこそ言わない、答えを出さない。企画意図から方向性がズレそうになったときに、軌道を戻す案内役くらいがちょうどいいのだと気づきました。

……だから、僕が作るものはおもしろいんです。冗談です(笑)。

プロデューサー 山田周

プロデューサーに向いているのは、
“人が好きな人”

プロデューサーは、画を描いたりCGをデザインしたりする技術があるわけではなく、会話を通じて人を集め、みんなのやる気を引き出していく仕事。なので、“人が好きな人”が向いていると思います。

とはいえ、僕自身最初はコミュ障で、就職したての頃はラジオ局に担当アーティストを売り込みに行っても、怖くて一言も喋れずに帰ってきていました…(笑)。当時の上司に厳しく鍛えてもらったおかげで、いまがあります。この経験からもわかるように、コミュニケーション能力は訓練すれば誰でも身につけられるもの。そのうえで人が好きなら、なおさら強みになるはずです。

山田さんから学生の皆さんへ
いまのうちにやっておくといいこと

学生時代は、人生のなかでも特に多感な時期。エンタメに限らず、吸収できるものはできるだけ吸収してほしいなと思います。クリエイティブは自分自身を削り出して表現していく仕事なので、そこで知った感情や感覚がきっと生きてくるはずです。

僕自身がやってよかったと思うのは“旅行”。アニメのようなクリエイティブは、究極的に言えば〈自然界の再現〉なので、違う場所の空気や景色に触れることはとても大切なんです。美しさを表現するうえで、自然から学べることって本当に多いんですよ。旅行やアウトドアを通じて自分の目で見て感じたことは、いつか必ずものづくりに役立つと思います。

逆に、やっておけばよかったと思うのは団体スポーツ。学生時代は剣道や水泳などの個人競技ばかりだったので、みんなで一つのゴールを目指す経験がなくて……。もしチーム競技に参加していたら、いまこんなに苦労しなかったのかなと少しだけ後悔しています(笑)。

プロデューサー 山田周

山田さんのとある1日

11:00

始業

日中

社内でデスクワーク・打ち合わせ
スタジオでアフレコ作業など

21:00

帰宅

TVアニメ『風を継ぐもの』
2026年11月13日(金)より2週間限定上映
2027年1月よりCBC / TBS系全国28局ネット「アガルアニメ」枠(日曜夜11時30分~)にて放送決定

声の出演:佐久間大介
     梶裕貴 悠木碧 内山昂輝 中村悠一
     加瀬康之 上川隆也(友情出演)
原作:アニプレックス/成井豊
監督:河村友宏
脚本:成井豊
原案協力:真柴あずき
キャラクターデザイン:蝦名芙美
音楽:岸田繁
アニメーション制作:Live2D Creative Studio × ドライブ
配給:ANIMEC
劇場先行版主題歌:
羊文学+くるり「涙の河」(F.C.L.S / Sony Music Labels)

TVアニメ『風を継ぐもの』
©藤沢とおる/講談社/カンテレ

取材協力:株式会社アニプレックス

Staff Credit
インタビュー:Suzu
記事:満斗りょう
ページ運用:Mo.et