【Color.23】 VFXスーパーバイザー 上田倫人 「映画『わたしの知らない子どもたち』 クオリティと予算の狭間で〝魔法〟を設計する 世界観の構築者「VFX」という仕事」

VFXスーパーバイザー 上田倫人

VFXスーパーバイザー

上田倫人

VFXスーパーバイザー 上田倫人

VFXスーパーバイザー、ポスプロスーパーバイザー。在学していた早稲田大学大学院の授業で、樋口真嗣監督、尾上克郎監督と出会い、映画の道へ。是枝裕和監督作『ルックバック』(26)、庵野秀明監督作『シン・ゴジラ』(16)『シン・仮面ライダー』(23)、『シン・ウルトラマン』(22/監督:樋口真嗣)などに参加

Chapter 1

VFXスーパーバイザーとして
映画を支える
上田さんの働き方

映像のなかのVFX(ビジュアルエフェクト)を担当しています。CGや合成を使って、映画の時代背景や物語に合う世界観を作ったり、逆に必要のないものを画面から消したりする仕事です。「エフェクト」という言葉の音が「FX」に近いので、VFXと略されています。

制作依頼が来てから完成までの間には、大きく分けていくつかの段階があります。まずは脚本の段階。「これは実現できるか」「どのくらい予算がかかりそうか」といった相談を受け、依頼作品の内容を把握したうえでロケハンに向かいます。実際に撮影で使用する予定のさまざまな場所を回りながら、現実的に撮影できる場所か、現存の景色にVFXを施すことで思い描いている世界観が表現できるかどうかを監督やカメラマンと一緒に考えていきます。

準備期間だけでなく、クランクインのあともほぼ全ての撮影に同行し、必要なデータを撮ったりその場で合成の提案をしたりしながら現場に参加します。そうして撮影が終わったあとから、映像に合成を加えてVFXとしての納品物を仕上げます。室内作業のイメージをもたれることも多いのですが、実際は外に出る機会もとても多く、折りたたみ傘やクーラーボックスは必要不可欠です(笑)。

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上田さんが
VFXアドバイザーにたどり着くまで

もともと僕が映画に興味をもったキッカケは「音楽」でした。ずっと吹奏楽をやっていたこともあり、映画音楽に興味があったんです。そこで「将来は映画音楽を決める仕事に就きたい」と思い、音楽大学へ相談に行ったのですが「そんな仕事はない」と言われてしまって…。「映画の場合、音楽を決めるのは映画監督だ」と教えられて、もともと映画が好きだったので、映画そのものの勉強をしようと思ったのがこの世界に入ったキッカケです。

大学を卒業し、大学院に進学した先で主に特撮について学ぶことになるのですが、その際に指導してくださった先生が映画『シン・ゴジラ』(2016)などで知られる樋口真嗣監督でした。「卒業後も一緒にお仕事をしたい!」と思い、仕事としてこの業界に入ることに決めました。ただ、僕の場合は最初からVFXだったわけではなく、樋口監督や庵野秀明監督のもとで助監督として働き始めたのがキャリアのはじまりで。助監督として働いていくうちに、撮影期間よりも仕上げ(CGや編集)の期間の方が長いことに気づき、だんだん撮影以外の仕事に比重が移っていきました。 その後、仕上げの現場に関わる時間が増えるにつれて、自然とVFXを専門とする立場を任されることに。さまざまな現場を経て、今度はVFXだけでなく音楽や編集まで含めて映画全体を取りまとめる「ポスプロスーパーバイザー」という役割を経験し、いまの「VFXスーパーバイザー」という仕事にたどり着きました。一般的にはVFX作業を極めていくうちにVFXスーパーバイザーになっていくのが一般的なルートですが、僕の場合は助監督の経験が先にあった分、少しイレギュラーなキャリアかもしれません。

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Chapter 2

上田さん最新作
映画『わたしの知らない子どもたち』
での仕事

映画『わたしの知らない子どもたち』
©2026 K2 Pictures・AOI Pro.

半年に及ぶロケハンで決まっていく
映画の合成プラン

映画『わたしの知らない子どもたち』の場合は、半年ほどの期間、2〜3週間に一度くらいのペースでロケハンに同行しました。僕にとってのロケハンは、実際にいろいろな場所を回りながら「ここなら合成でこう見せられる」「ここは合成が多くなりすぎるので、別の場所を探そう」といったプランを現場で監督やカメラマンと一緒に考える時間。「こちらは荒川で橋が3連、こちらは中川で橋が1連」というように、事前に映画の舞台となる時代のロケーションの特徴を調べておいて画づくりに活かすこともありました。

物語に出てくる上野駅のシーンもVFXで再現されているのですが、撮影自体はグリーンバックの限られたスペースだけで行われているんです。いまから約80年前の上野駅で人を動かすためには、当時の柱の位置や人の流れを細かく検証する必要があるため、VFXのスタッフだけで上野駅に足を運びデータをとりました。できるだけリアルに近いイメージを探して、みんなで共有していった作業は本作の作業のなかでも特に印象に残っています。

本作のVFXはチームの規模も大きく、メインで動いていたのは30名ほど。そのさらに上でまとめ役をしているのが6〜7名で、一部制作を担当してもらったイタリアのチームも加えると、最終的に100人を超えるスタッフがクレジットに並んでいました。

監督の喜びが、チームの原動力に

本作で僕が一番やりがいを感じたのは、西川美和監督が合成チェックのときに見せてくれた反応です。「初めて見た!」「すごい!」ととても喜んでくれて、それがチームみんなのやりがいになっていました。合成のチェックの場合、途中経過はあまり見せず、完成に近いクオリティで初めて確認してもらうことが多いので、監督にとっても毎回の合成チェックが楽しみな時間になっていたそうです。

今回のチームは監督の前作から続いているスタッフがほとんどで、僕らは一作遅れで加わった立場だったのですが、ロケハンをしながら「僕はこう思うんですけど」「ここはこうしたいです」とフランクに話せる関係を作ることができ、とてもやりやすい環境で制作することができました。本作もそうですが、大きなチームだと最後まで監督と直接顔を合わせない作業スタッフも多いので、そういうメンバーにも「すごく喜んでいたよ」「みんなびっくりしていたよ」と、監督や現場の反応をできる限り伝えるように意識しています。

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上田さんが思う
映画『わたしの知らない子どもたち』
の魅力

この作品には、西川監督が何年もかけて調べ、書き上げた強い想いが込められています。撮影、照明、美術、衣装・メイク、音楽、編集、そしてVFX——それぞれのチームが得意なアプローチを持ち寄りながら、監督の想いを一つの形にしていきました。キャストも含めて、みんなでその熱量を具現化していった作品だと感じています。

Chapter 3

一番好きな作業は
目の前の景色をキャンバスに、
合成プランを練っていくこと

数ある作業のなかでも僕が一番好きなのは、ロケ地でその場に合成プランを組み立てていく瞬間です。カメラマンがファインダーを覗いたタイミングでiPadに画をスクリーンショットして、そこに「この山は消します」「奥にもう一本橋を足します」というふうに、実際に消す・足すものを描き込みながら監督に見せて確認。そこから「もう少しこっちに寄せたほうがいいかな」など、その場でやり取りをしながらイメージを固めていき、画が決まったら「じゃあここで目線をこっちからこっちに動かしましょう」というふうに、役者の芝居の細かい部分まで一緒に決めていきます。

ロケハンの段階で「あっちに橋がある」くらいの共有はできていても、実際にカメラを構えたときにどう画面に収まるかは、その場に立ってみないと分かりません。だからこそ、あらかじめロケーションを調べ尽くしておいて、その一瞬に応えられるようにしておく。そうして自分が最初に決めた画が、その後チーム全体が作り込んでいくときの指針になるので、責任は大きいですが、そのぶんやりがいも感じる作業です。

大変なのは、
予算とクオリティのせめぎ合い

個人的にこの仕事の一番大変だと思うところは、予算の中にクオリティを収めていくことです。やろうと思えばどこまでも作り込めてしまうからこそ、どこで折り合いをつけるかが難しい。たとえばビルを10棟作るとして、1棟ずつ丁寧に作ると単純計算でもコストが跳ね上がってしまいます。解決策としては、手前は丁寧に、奥に行くほど少しずつクオリティを落とすなど、見え方を工夫しながら全体のバランスを取るようにする——そんなふうに、常に予算とクオリティの狭間で起こるジャッジが大変です。

僕の場合、ジャッジをくだす際は「これは妥協ではなく、演出としてどう見せるか」というデザインの一部だと思って判断するようにしています。予算感を踏まえて「ここは力を入れる」「ここは少ないコストでもいい見え方にする」といったプランを、自分の中でランク付けしながら考えていく感覚に近いですね。

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Chapter 4

この仕事に向いているのは、
〈好き〉を深く掘り下げられる人

僕が思うこの仕事に向いている人は、”自分の好きなことを深く掘り下げられる人”です。VFXやCGとひと口に言っても、実際の作業は驚くほど細かく分業されています。たとえば海外では、CGに光を当てる「ライティング」だけを専門にする人がいたり、建物などのモデルを作る人と、それを画面に合成する人が別々の担当だったりします。日本でも分担することもあれば、一人で両方をこなす人もいますが、いずれにしても自分の担当範囲をどこまで深く突き詰められるかが仕事の質を左右します。

そこで大切になってくるのが、合成した時の光や色のわずかな違和感に自分自身で気づけるかどうか。チームで作っているように見えて“自分との戦い”の部分も大きいので、VFXの作業を好きになれる人、そして好きなものをとことん突き詰められる人がこの仕事に合っていると思います。

上田さんから
働くことに向き合う読者へ

先述したように“好きなものを突き詰めること”が、仕事をするうえで一番の強みになってくれると思います。僕自身、最初は「そこまでやらなくていい」と言われていた仕事も、続けているうちにだんだん普通になっていって、気づけば任せてもらえる範囲が広がっていました。だからこそ皆さんも、好きなことを見つけたら迷わずに突き詰めてみてほしいです。好きなものを突き詰めていくこと自体が、仕事のなかで一番楽しいことだと僕は思っています。

VFXスーパーバイザー 上田倫人

上田さんのとある1日

8:00

起床

9:00

朝型メンバーへメール返信開始

10:00

自分の作業(調べごとや合成作業など)

13:00

打ち合わせ開始

15:00

打ち合わせ終了、自分の作業や休憩

18:00

各チームとの確認・調整、適宜に休憩

20:00

夜型メンバーの作業チェック開始

24:00

チェック終了(遅い日はこの時間まで)

※土日はどちらかで作業を行い、
月曜10時までに返信するというサイクルが多いです。

映画『わたしの知らない子どもたち』
2026年10月16日(金)より公開
出演:小八重葵美 二階堂ふみ
   坂東龍汰 櫻井海音
   北村有起哉 吉田羊 竹野内豊
   岡田准一 / 田中裕子 役所広司
原案・脚本・監督:西川美和
音楽:原摩利彦 VFX:白組

映画『わたしの知らない子どもたち』
©2026 K2 Pictures・AOI Pro.

Staff Credit
インタビュー:Suzu
記事:満斗りょう
ページ運用:Mo.et