映画『モブ子の恋』
静かな優しさが、確かに届く物語。
あたたかくて愛おしい、
〝脇役〟を演じたふたりのスペシャル対談
スポットライトが当たるたび、必ずできる周囲の影。眩しい主人公たちで埋め尽くされた世界のなかで、自分の存在をちっぽけに感じてしまう日もある。だけど⸺道端に咲いた小さな花や、何気ないおはようの挨拶。主人公たちの物語では省略されてしまうような優しい出来事が、どこかで誰かの支えになっているかもしれない。そう思えば、心はそっと前を向ける。映画『モブ子の恋』は、そんな小さなぬくもりに気づける〝脇役〟のふたりが、ゆっくりと、でも確かに進めていく物語。
映画『モブ子の恋』

-イントロダクション-
社会現象を巻き起こしたドラマ「silent」「海のはじまり」を手掛けた風間太樹監督。次世代を担う俳優、桜田ひよりと木戸大聖のふたりをW主演に迎えておくるのは、再び人々の孤独と優しさに焦点をあてたラブストーリー。総発行部数150万部を超える田村茜による同名漫画を映像化した本作は、文学的な余白の中で、言葉にならない心の機微を繊細かつ大胆に表現し、風間太樹監督の新たな傑作となった。これは、目立つことを避けてきたすべての人へ贈る、自分を好きになるための物語。
-STORY-
モブ(mob)とは、群衆、脇役、背景と同化しているキャラクターのことである。田中信子(桜田ひより)は、その定義に自分を重ね合わせ、常に誰か別の主人公たちが輝く世界を遠くから眺めて生きてきた。そんな彼女の視線の先に、スーパーで働く入江博基(木戸大聖)が現れる。誰も気づかぬ足元の小さな花を、力いっぱいカートを操って避ける入江の姿。その自然な優しさに触れた信子は、次第に入江に惹かれはじめる。その出会いをきっかけに、「人とちゃんと関わりたい」——自らを縛っていた殻を破ろうともがき始めた信子。しかし、現実は甘くない。就職活動の面接では「あなたのことを話して」という問いに言葉が詰まり、厳しい現実を突きつけられる。そんな彼女の背中を静かに押してくれるのは、お節介なほど明るい後輩の安部ちゃんや、厳しくもあたたかい先輩の篠崎さんといった仲間たち。一方の入江もまた、彼女が隅っこで魅せる静かな優しさに気づき、その存在をまっすぐに見つめていた。お祭りの灯りや、ふたりで運ぶ荷物の重みといったささやかな日常の積み重ねが、やがてふたりに前を向く強さを与えはじめる。誰かに見つけてもらうのを待つだけではない、新しい人生のあり方を見つけたふたりに待つものとは…?
田中信子役 桜田ひより
×
入江博基役 木戸大聖
映画『モブ子の恋』
×
桜田ひより 木戸大聖
LANDOER:本作への出演が決まったときの感想を教えてください。
桜田ひより(以下、桜田):もともと原作を読んでいたので、「演じたい」と思っていた信子を自分が演じられることが、本当に嬉しかったです。風間太樹監督とご一緒させていただくのは今回で三度目ですが、どの作品も印象深く、自分自身でも成長できたと感じる経験ばかりだったので、今回の映画でも新たな一面を引き出していただきながら、監督と一緒に素敵な信子を作り上げていけるよう頑張りたいと思いました。
木戸大聖(以下、木戸):原作や台本を読んで、「自分は“脇役”だ」と思っているふたりがゆっくりと時間を紡いでいくところに、この作品ならではの魅力を感じました。だからこそ、原作を読んだときに抱いた“包み込みたくなるようなふたりの愛おしさ”を、ひよりちゃんや風間監督とともに丁寧に作りあげなければならないな、という責任感を感じましたね。
LANDOER:おふたりと風間監督の新たな物語、とても楽しみです。監督との再会を機に何かお話しされたことや、印象に残っている出来事はありますか?
桜田:実は、最後に監督とお会いしてからそこまで間が空いていなくて。映画『バジーノイズ』(2024年)の宣伝などで定期的にお会いしていたこともあり、あまり“久しぶり”という感覚はなかったんです(笑)。ただ、衣装合わせや撮影現場を見たときは、とても懐かしさを覚えました。
木戸:僕もドラマ『海のはじまり』(2024年)から一年も経たずして本作へ参加したので、そこまで久しぶりな感じはなかったですね。でも、ドラマのときよりもガッツリとご一緒できることにとてもワクワクして、監督とふたりで喜んだことを覚えています。

自身を“脇役”と捉えながらも、
懸命に生きる信子ちゃんと入江くん。
そんな魅力をふたりはどう演じたのか⸺
LANDOER:今回、『信子ちゃん』『入江くん』という役を築くうえで、考えたことや大切にしたことはありますか?
桜田:信子は、自分のことを「ごく当たり前にいる脇役的な存在」と捉えている子だと思います。ただ、それを卑屈に感じているわけではなく、些細な楽しみを大切にしながら懸命に生きている女の子なんです。他人から見たらマイナスに映る部分も、信子自身は前向きに受け止めている。突出した何かがあるわけではないけれど、静かに、ひっそりと過ごしている姿がとても素敵なんですよね。役作りでは、人との向き合い方や行動、ふとした心配りなど、信子がもっている要素を私のなかに落とし込みながら、逆に私自身が持っている要素も信子に投影できたらいいな、という想いで演じました。
木戸:入江くんは感情を表に出すことが上手ではないけれど、信子と同じようにそれを卑屈に思っているわけではなく、むしろ信子以上に「それが自分だ」と認識している子なんです。だからこそ信子の気持ちが理解できるし、「分かってあげたい」とも思っている。彼女の頑張りに対して、「何か自分にできることはないか」と悩める男の子なんですよね。僕自身は入江くんを、“吸収力はあるけれど、放出力が弱いタイプ”だと捉えていて。そのため信子とのシーンでは、自然と入江くんの“受け”の芝居が多くなっていきました。映画のラストには、入江くんの言葉が信子を大きく動かす契機となる重要な〈放出〉の場面があったので、そこに至るまでは「いい意味で我慢」と思いながら。吸収して吸収して、とにかく視野を広くもちながら、信子の言葉の一つひとつを受けとめるよう意識して芝居しました。

カタチを変えて確かに届いていく、
あえて“脇”に徹する人々の優しさに触れて
LANDOER:本作は「モブ」とよばれるふたりが主人公の物語ですが、周りにいる登場人物たちが、大切なふたりのために“あえて脇役に徹する姿”も描かれている作品だと思いました。おふたりの目には、彼らの静かな優しさはどのように映りましたか?
桜田:こんなに悪い人が一人も出てこない作品って、なかなかないですよね。登場人物のみんながもつ優しさが、カタチを変えながら信子、入江くんに届いて、その想いによってふたりの向き合い方や距離感も少しずつ変わっていく。みんなの言葉や想いがふたりにちゃんと届いたのは、お互いへの思いやりとリスペクトがあったからこそだと思います。そんな素敵な関係性を、お芝居を通して一緒に形にしてくださったキャストの皆さんには、感謝の気持ちでいっぱいです。
木戸:この仕事をやっていると、「僕らの仕事は本当にたくさんの方に支えられてできているんだな」と実感することが多くて。エンドロールを観るたびに、改めてそのありがたみを感じます。すべてのスタッフの方々が“主役”でありながらも、スクリーン上では“脇役”に徹してくださっている。僕らが表に立って芝居をできるのは、そんなふうに現場を支え、環境を整えてくださる皆さんがいるからこそだと、毎作品感じています。

自然体で向き合えたからこそ生まれた、
あたたかくて優しいふたりの芝居
LANDOER:お互いの第一印象と、共演を通して変化した部分があれば教えてください。
桜田:テレビで拝見していたときの印象そのままの方でした。木戸さんが笑っていたり、お話しされていたりすると、こちらまでポカポカした気持ちになれるような。「周りをあたたかくしてくださる方だな」という第一印象は、いまもずっと変わっていません。その柔らかい雰囲気が、入江くんの空気感にもすごく通じていると思います。本作は、約一ヶ月間というかなりタイトなスケジュールで撮影していたのですが、最初から木戸さんがたくさん話しかけてくださったおかげで、とても良い環境でお芝居をすることができました。私は現場で自分からコミュニケーションをとるのが少し苦手なタイプなので、「本当にありがとうございます!」という気持ちです。
木戸:いやいや、こちらこそです(笑)。僕も同じで、こんなに居心地の良い方はなかなかいないと思っています。年齢こそ6つ離れていますが、ひよりちゃんの豊富な経験のおかげか、年齢差を感じることなく同じ目線で話すことができるんです。本当に視野が広くて、周囲の人の些細な変化にもすぐ気づいてくれるんですよね。「僕のほうが年下なんじゃないか」と思うくらい、出てくる言葉もしっかりされていて。そんなひよりちゃんだからこそ、同じ俳優として居心地の良い仲間になれたのだと思います。自然体で向き合うことができた延長線上で、『入江くん』としていられたので、信子に対して無理に感情を作り込まずとも、ひよりちゃんの素敵な部分を自然と信子に重ねていけたんです。本当に感謝しています。

LANDOER:桜田さんは「自分からコミュニケーションをとるのが苦手なタイプ」とおっしゃっていましたが、本作の現場でおふたりの距離がグッと近づいた印象的な出来事などはありましたか?
木戸:撮影中にひよりちゃんから「実は現場であまりしゃべらないタイプなんです」と聞いたのですが、その時点ですでにたくさんおしゃべりしていたので、全然想像がつかなくて。「え?」となりました(笑)。
桜田:嘘ついてると思いました?本当なんですよ!私のマネージャーさんの顔を見てください(笑)!
木戸:本当なんだね(笑)。でも、この現場では最初からたくさん話してくれていたので、「あの出来事で一気に距離が縮まった」という大きなきっかけはなかったかもしれません。ただ、他の現場では「どういった会話をしたらいいんだろう」と悩むことがあると聞いて、「ひよりちゃんでも悩むんだ!」と驚きましたね。
桜田:ありがたいことに、これまでコミュニケーション能力の高い方とご一緒する機会が多く、積極的に話しかけて、打ち解けやすい環境を作ってくださる方に恵まれていたんです。でも、私自身は人に話しかけることがすごく苦手で…。「どんな人なんだろう」、「どんなテンションでおしゃべりしたらいいんだろう」と、いろいろ考えてしまうんですよね。最近は「人に頼りっぱなしは良くない」と思い、「自分から話しかけよう!」と気合いを入れて挑むのですが、どうしても上手くいかないこともあって。だからこそ、木戸さんのように自然に会話をしてくださる方の存在は、とてもありがたかったです。

こだわりが細部まで宿る作品作り、
絶妙な心情を体現する、プロの仕事
LANDOER:おふたりが印象に残っているシーンはありますか?
桜田:私が印象に残っているのは、劇中に登場する“シロツメクサ”です。地面の割れ目やタイルの隙間から生えているのですが、実は美術さんが一つひとつ丁寧にシロツメクサとミツバを配置しているんです。風が吹いて少し曲がってしまうと、監督から「もう少しまっすぐにしてください」と声が飛んできて。「このミツバは抜いてください」「右から2番目の葉っぱはもう少し前に向けてください」と、本当にミリ単位で調整されていました。そうした些細なところまで、ものすごくこだわり抜かれた作品になっています。
LANDOER:そんな細部まで徹底して作り込まれていたのですね…!
桜田:そうなんです!衣装の色味や形にもこだわりが込められていますし、自分たちのお芝居に関しても、手の動き一つひとつまで丁寧にこだわりながら撮影しました。
LANDOER:大きなスクリーンでこだわりを堪能できるのが楽しみです。木戸さんはお気に入りのシーンなどはありますか?
木戸:僕は、“砂場での信子の笑顔”がお気に入りです。入江くんが何気なく就活の話をするシーンで、信子が入江くんの質問にうまく答えられず、無理して笑顔を作るカットがあるんです。台本には確か「ヘラッと笑う」と書かれていたのですが、一体どんな笑顔なのか、文字だけではイメージが掴みきれなくて。でも、実際にひよりちゃんのお芝居を見た瞬間に「あ、この表情だ!」と確信しました。追い詰められているのに、自分のせいで空気を悪くしたくなくて頑張って笑おうとする。そんな信子の絶妙な心情を体現されているひよりちゃんの笑顔に、ぜひ注目していただきたいです。

LANDOER:お芝居を近くで見ていたおふたりだからこそ感じる、お互いのお芝居の好きなところを教えてください。
桜田:入江くんは、信子が気づかないところで見守ってくれていたり、知らない間にいろいろ考えてくれていたりすることが多いんです。“信子的には”その優しさになかなか気づけないのですが、“桜田的には”木戸さんのお芝居から(優しさを)ひしひしと感じていました。入江くんを演じているときの視線が本当に絶妙で、見守ってくれているあたたかさが一緒に流れてくるんです。入江くんの包み込んでくれるような優しさ、居心地の良さは、木戸さんのお芝居だからこそ生まれるものなんだなと、“桜田的”には実感していました。
木戸:ありがとうございます(照)。僕はひよりちゃんのお芝居を見て、「こんなにも“動揺しているお芝居”が上手な方は初めてだ」と思いました。分かりやすくあたふたした芝居が求められることもありますが、本作においては、もっと小さな心の揺れを表現しなければならなくて。沸騰したやかんの蓋がカタカタとなるような、絶妙なフツフツ具合の塩梅がものすごく上手なんです。わずかな目線の揺れや手の動きだけでリアルな動揺を表現しつつ、さらにそれを愛おしく魅せられる。本人は至って真剣に動揺しているのに、はたから見るとそれすらも可愛いらしい。そんな“トータルのお芝居”ができるひよりちゃんを、俳優として心から尊敬しています。

Dear LANDOER読者
映画『モブ子の恋』
From 桜田ひより
原作がもっている、信子ちゃんや入江くんをはじめとした登場人物たちの雰囲気がそのまま反映されていて、観てくださる方にも「みんなが現実にいたらこんな感じなんだろうな」と思っていただけるナチュラルな世界が仕上がったと思います。また、言葉のないシーンや表情から読み取れる、風間監督ならではの繊細な内面の描きも楽しんでいただけたらうれしいです。
From 木戸大聖
原作がもつ空気感と、風間監督による映像表現の魅力がかけ合わさり、時間がゆっくりと流れていく素敵な作品が完成したと思います。僕自身、本編を初めて観たときに、視聴者としてストーリーを“追いかける”のではなく、物語の登場人物たちと“並走している”ような感覚になりました。シーンとシーンの間の余韻やのりしろ的な部分があるおかげで、客観的に眺めるのではなく、自分と重ね合わせながら主観的に観ることができるといいますか。ラストスパートに向かって信子が少しずつ変化していく姿には素直に拍手したくなるし、人によっては「自分にもこんなことがあったな」と思い返すこともあるかもしれません。時間が丁寧に積み重ねられた〈共感性〉の高い作品になっていると思うので、ぜひ劇場でお楽しみください。


映画『モブ子の恋』
2026年6月5日(金)全国公開
出演:桜田ひより 木戸大聖
早瀬憩 唐田えりか 草川拓弥 荒木飛羽
蒼戸虹子 占部房子
吉田ウーロン太 TheWorthless
中村優子 古舘寛治
監督:風間太樹
脚本:倉光泰子 音楽:坂本秀一
プロデューサー: 青柳秀隆 伊藤修嗣
平林勉 橋本ヒロト 熊谷喜一
主題歌:にしな「クローバー」(ワーナーミュージック・ジャパン)
原作:田村茜『モブ子の恋』(ゼノンコミックス/コアミックス)

Item Credit
桜田さん
ブラウス¥8690/リリアン カラット
ワンピース¥17050/ココ ディール
その他スタイリスト私物
※プライス税込表記です
Staff Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:桜田さん・徳永舞(BEAUTRIUM)、
木戸さん・速水昭仁
スタイリスト:桜田さん・前田涼子、
木戸さん・富田彩人
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:Mo.et



