【坂井真紀】舞台『橋からの眺め』「人間って、面倒くさくて愛おしい」〈人生〉を眺める骨太群像劇が日本上陸

坂井真紀

舞台『橋からの眺め』
「人間って、面倒くさくて愛おしい」
〈人生〉を眺める骨太群像劇が日本上陸

優しくて、仁愛に溢れていて、間違ったことなど絶対にしない。そうあれたら良いのかもしれないけれど、人間ってそんなに簡単じゃないし、人生ってそれだけで歩いていけるほど穏やかじゃない。荒れ狂う風にあらゆる角度から立ち向かい、時に振り出し地点まで戻されたり転びそうになったりしながら、自分の描く人生の到達点まで進み続けるしか〝生きる〟方法はない。その歩みを、人は〈努力〉と呼ぶのかもしれない。「〝生きる〟ことを努力をしなきゃ」と、チャーミングな雰囲気、声色、表情で、大切なことを伝えてくださった坂井さん。そんな佇まいに彼女の〈強さ〉を感じた、ある夏の日のこと。

PARCO PRODUCE 2023
『橋からの眺め』

PARCO PRODUCE 2023 『橋からの眺め』

-Introduction-

英国内外で活躍する演出家、
ジョー・ヒル=ギビンズが日本で初演出!

ローレンス・オリヴィエ賞、トニー賞に輝いた巨匠アーサー・ミラーの骨太な社会派ドラマ。『セールスマンの死』(ピュリツァー賞、トニー賞受賞)、『るつぼ』などで有名な、20世紀を代表するアメリカの劇作家アーサー・ミラーの社会派ドラマである『橋からの眺め』。ニューヨークの貧民街を舞台に、最愛の姪をひきとり暮らす夫婦が違法移民の従兄弟を受け入れたことで一家に巻き起こる悲劇を描いた作品です。近年、ウエストエンドでリバイバル作品として上演され、ローレンス・オリヴィエ賞、トニー賞の各賞を総なめにしました。本作の演出を手掛けるのは、演劇とオペラの演出家として定評があり、コンセプチュアルな演出で評価も高く英国内外で活躍するジョー・ヒル=ギビンズ。かねてより本作の演出を熱望していた彼が、初演出となる日本でどのような作品を誕生させるのか、期待が高まります。

-Story-

弁護士アルフィエーリによって語られ、ニューヨーク・ブルックリンの労働者階級が住む波止場が舞台。イタリア系アメリカ人の港湾労働者エディは、妻のビアトリスと17歳になる最愛の姪キャサリンとの3人暮らし。エディは幼くして孤児となったキャサリンをひきとり、ひたすら姪の幸せを願って育ててきた。そこへ、ビアトリスの従兄弟マルコとロドルフォが同郷のシチリアから出稼ぎ目的で密入国してくる。最初は、エディも歓迎するが、キャサリンが色男ロドルフォに徐々にひかれていくようになると、彼らに対する態度が豹変する。そして、自分の気持ちを抑えきれなくなったエディがとった最後の手段は……?

-ビアトリス-

エディの妻。

坂井真紀

『橋からの眺め』× 坂井真紀

私にとって初めてのこと尽くしの作品だったので「チャレンジしてみたい!」と思い、出演を決めました。翻訳劇も初めてですし、海外の演出家の方とご一緒するのも初めて。しかもそれを、骨太な人間ドラマで知られる劇作家・アーサー・ミラーの戯曲で。「どんなふうに作品を作りあげていくんだろう?」という興味をキッカケに、チャレンジの気持ちが湧いてきたんです。加えて、戯曲のストーリーがすごく面白かったのも出演の決め手になりました。

戯曲を読まれて、坂井さんが感じた
「アーサー・ミラー」という作家の
魅力を教えてください。

人間の弱さを突き詰めていて、一見救いがないようにも見えるのだけれども、決して思いやりがないわけではなく、優しさもちゃんとある。そういった “人間”を描いているのが作家・アーサー・ミラーの魅力だと思います。

坂井真紀

人間だからこそのエディの“歪んだ愛”、
それによって生まれるビアトリスの
〈嫉妬心〉も描かれている今作。
坂井さんは〈嫉妬心〉についてどう考えられますか?

年齢を重ねるにつれて「そんなことを考えている時間がもったいない」と、思うようになりました。「私にはもっと違う良さがある」、そう思考をチェンジする。それが一番良いのではないかな、と。ただ、ビアトリスのように“家族”という狭いコミュニティのなかで、自分が「夫から女として見られなくなってしまった」と、感じながら抱く〈嫉妬心〉はかなり辛いものですよね。彼女はどうすればよかったのか、稽古をしながら私なりの答えを見つけていければいいな、と思います。

確かに、胸が締めつけられるものがありますね。
坂井さんが舞台でお芝居をするときに、
大切にされていることを教えてください。

やっぱり“ライブ感”ですね。生でお芝居ができる場なので、そのときに生まれるもの、一分一秒を大事にしたいな、と思ってやっています。そして「決して慣れないように」と。もちろんお客様の反応もすごく気になります。目の前に観てくださる方々がいらっしゃるというのは、大きな力にもなりますし。せっかく同じ空間にいることができるので、「一緒に何かを共有できたら最高だな」と思いながら、お芝居をしています。

坂井真紀

坂井真紀

海外の演出家のジョー・ヒル=ギビンズ氏との
初セッションはいかがですか?

新鮮なことばかりです。ジョーさんの演出を受けて「私たちって論理的にきちんと言葉にすることに、あまり慣れていないんだ」と、実感しました。ジョーさんに「あなたと役の似ているところはどこですか?」と聞かれて「ここは共感できます」と答えたときに、「共感できるところではなく、似ているところを教えてください」と返されて。ジョーさんとの話では一つずつきちんと言葉にすることを求められるんです。時間をかけて、似ていないところから探してみたりしているうちに似ているところが見つかってくる。そんなふうに役を解体して、言葉にして順序立てながら役に近づく。そういった経験はほぼ初めてで、すごく新鮮に感じています。いままでは台本を何度も読んで、役について考える、ほぼ一人の作業。ジョーさんのお稽古で役への新しいアプローチの仕方を経験できてすごく楽しいです。

確かに“考えたものを言葉にすること”が、
果たしてどのくらいできているのだろう、
と思いますね。
ちなみに、ビアトリスと似ていると
感じた部分はどこでしたか?

私が似ていると言ったのは、〈母性〉の面。ビアトリスとキャサリンは血こそ繋がってはいないけれど、2人の間には親子のような絆が形成されている気がして。ゆえに、ビアトリスには親としての〈母性〉があると感じたんです。私にも子供がいるので、〈母性〉をもつ者同士の類似点があると思いました。あとは“人が好き”という面。よく「お人好しだね」と言われるのですが、お人好しというよりは、彼女同様人がすごく好きなんです。

坂井真紀

「この作品に人生を強く感じた」
というコメントを出されていましたが、
ずばり、坂井さんにとって
〈人生〉とはどんなものですか?

私にとっては“学びの日々”です。“修行”と言ってしまうと重くなっちゃうので(笑)、あえて〈学び〉と言わせてください。年齢や経験を重ねても、学ぶことは絶え間なくある。それこそが人生の面白さだと思うんですよね。王貞治さんの「努力は報われる」という言葉は、本当にそう。努力をし続けることは大変かもしれないけれど、やっぱり“生きる”ことにちゃんと努力をすべきだと思うんです。大人になるといろいろなことが分かってきて達観するようになると想像していたのですが、全然違いました。きっと、一生努力し続けていくのだろうな、と思います。

努力の途中で疲れてしまったとき、
どのように気持ちを切り替えられていますか?

そこはやっぱり、結局〈人〉に助けられますね。もちろん自分でも「ポジティブに考えよう!」と思うようにはするのですが、それでも疲れてしまうときはあるので。そういったときは、頑張っている人だったり、人の笑顔だったりに救われます。最近でいうと、大谷翔平選手のホームランを打った姿とか。「大谷選手、あんなにカッコよく頑張っているんだから、私も頑張ろう!」と、〈人〉から力をもらっています。

坂井真紀

Dear LANDOER読者
From 坂井真紀
PARCO PRODUCE 2023
『橋からの眺め』

戯曲『橋からの眺め』は、いまから68年前に書かれた作品なのですが、決して古くは感じない物語です。人間関係が希薄になっている、と言われている現代でも、私たちの魂の中にあるものって普遍的なような気がしていて。人間って面倒くさいけれど愛おしくて、業の部分すらも愛してしまう。そんな“人間らしさ”を抱えて進んでいくのが〈人生〉なんだ、という描きが伝わるといいな、と思っています。

坂井真紀

坂井真紀

さかい まき

軽やかな可憐さを纏う一方で、
しっかりと根を張った〈真〉が、言葉・所作・在り方に薫るDOER

PARCO PRODUCE 2023 『橋からの眺め』

PARCO PRODUCE 2023
『橋からの眺め』

東京芸術劇場プレイハウス:2023年9月2日(土)―24日(日)
※他 10月 北九州、広島、京都公演あり

作:アーサー・ミラー 翻訳:広田敦郎
演出:ジョー・ヒル=ギビンズ
出演:伊藤英明 坂井真紀 福地桃子
   松島庄汰 和田正人 高橋克実

Staff Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:ナライユミ
スタイリスト: 梅山弘子
衣裳協力:デパリエ 03-6696-6745
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:古里さおり