【久保史緒里】パルコ・プロデュース2022『桜文さくらふみ「挑戦」と語る作品にしたためられた満開の桜が、咲く前のお話

久保史緒里

パルコ・プロデュース2022『桜文さくらふみ
「挑戦」と語る作品にしたためられた
満開の桜が、咲く前のお話

吉原遊郭に並んだ桜の木、彼らが見てきた数多の人間の「美しい“夢物語”」。その一編には、夢のような儚さと現実ではない虚しさが息を潜めている。笑っている人が、果たして笑っているのか?泣いている人が、果たして泣いているのか?それとも、笑っているのに実は泣いているのか?夢の住人たちが「見たい」と願った、遊女たちの〈真(まこと)の姿〉。しかし〈真〉を見せぬことこそが、遊女たちの〈真〉。これは、そんな一人の遊女が“ひとりの女性”としてしたためた〈真〉の物語。

PARCO STAGE『桜文』

PARCO STAGE『桜文』

-STORY-

明治後期、激動の時代の吉原遊郭。当代随一と謳われる花魁、桜雅(おうが)は、その妖艶な佇まいとともに、決して笑顔を見せないことでも、その名を知られていた。何とか桜雅の笑顔を引き出そうと、当代きっての大店、紙問屋の旦那、西条宋次郎(さいじょう そうじろう)は、その財力で豪華絢爛、贅を極めた花魁道中を出させることに。一方、吉原のような世界とは全く縁のない堅物で生真面目な若き小説家の霧野一郎に花魁道中の記事を書かせようと、新聞社が白羽の矢を立て、見物に参加させていた。全く笑わない桜雅を目の前に、霧野は、純真な心で思わず『笑ってください』と、叫んでしまう。途端に、『なぜ…』と発しながらゆっくりと倒れていく桜雅。混迷する花魁道中、騒然となる大勢の見物客。それは、決して思い出さないように心の奥深くに閉じ込めていた想いが、一瞬にして呼び覚まされてしまった瞬間だった。桜雅が雅沙子として過ごしていた頃、心から想いを通わせ合っていた少年、仙太。二人の淡く儚い初恋の想いと残酷な顛末。仙太と同じ目を霧野は持っていたのだった。花魁道中で笑顔を引き出せそうもなかった西条は、桜雅が突然意識を失ったことで体面が保たれた、と霧野をかばい、匿う。果たして、この奇妙な出会いがもたらす運命とは?物語の歯車が動き出す……。

-花魁 桜雅(おうが)/雅沙子-

吉原遊郭の当代随一と歌われている花魁。美しく妖艶な佇まいとともに、決して笑顔を見せないことでも名を知られている。

久保史緒里

『桜文』× 久保史緒里

初めて台本を拝読した時、「苦しいな」と思う部分が一段階ではなく、何段階にも重なってゆく作品だと思いました。今まで携わってきた作品とは一味違う、すごく苦しい役どころだな、とも。加えて、『桜文』の時代に沿った浴衣を着ての所作のお稽古や、桜雅と雅沙子の1人2役の役柄のお稽古など、私にとって挑戦の多い作品でもあります。

台本を読んでいた時と、稽古に入った今、
“桜雅”に対するイメージの変化はありましたか?

台本を読んでいた時は、“笑わない花魁”という役柄に難しさを感じていて。いくら当代随一の花魁と言えど、彼女にも日常があって、日常の会話の中でクスッと笑ってしまうような時もあるんじゃないか、と思っていたんです。けれど、そこでも桜雅は笑わない。最初はそんな桜雅を「常に冷酷な女性なのかな?」と想像していたのですが、稽古に入って桜雅を知っていくうちに、彼女にも表情を綻ばせる瞬間があることを発見しました。

だんだんと桜雅が見えてきたんですね。
初めての花魁役のお稽古はいかがですか?

今まで一度も触れたことのない時代、文化のお話だということもあり、セリフ回しもイントネーションも、花魁言葉にもとても苦戦しています。台本を覚えるのも、今まで以上に苦戦しました…(笑)。立ち稽古が始まったと同時に所作の稽古も始まったのですが、和装を着ていると、ついカッチリとした動きになってしまうんです。日常では花魁たちも足を崩すような瞬間があったと知り、“綺麗にしすぎないこと”を意識すると、それがまたすごく難しくて(笑)。今は意識的に“外す”ことを考えながら稽古に励んでいます。

久保史緒里

久保史緒里

確かに、あえて“外す”、“解く”というのは
綺麗にこなすより難しそうです。
花魁言葉や所作以外で
ご準備されていることはありますか?

吉原に関しては当時の資料がとても多いので、その資料を読んだり、映画を観たりして花魁の世界に触れるようにしています。中でも私が一番「こんな風になっていたんだ!」と驚いたのは、当時の吉原の地図。吉原の全体像を見た時に、自分の中で想像がすごく膨らんだんです。きっと観に来てくださる皆さんも、吉原や花魁の世界観に触れていただけると思います。

久保さんご自身は、
非日常的な当時の花魁の世界に触れてみて
いかがでしたか?

最初は、すごく華やかで美しい世界のイメージを持っていたのですが、資料を読んでいくうちに“遊女の涙”という絵画があったり、表に出ていない彼女たちの表情だったりを知って、「こんなにもそれぞれの花魁に苦しい物語があったんだ」と胸が締め付けられました。それでも涙を見せずに花魁として生きる、そんな彼女たちの、華やかな見た目からは想像のできない世界に衝撃を受けました。

久保史緒里

資料を見て一番衝撃を受けたものや、
特に覚えているものを教えてください

一番「そうだったんだ!」と驚いたのは、花魁の年齢。私が見た資料だと21歳が一番多かったらしいのですが、それが今の自分の年齢とちょうど同じで。私と同じ年齢の子が、こんな苦しみを感じながら生きていたのか、と思うと、この役を演じる上でさらに身が引き締まりました。

一気に親近感も湧きそうですね。
今回は桜雅と雅沙子の1人2役ですが、
どのように演じ分けようと考えられていますか?

16歳の雅沙子は、桜雅ほどいろいろなことをまだ諦めていない子だと思っているんです。“年相応の女の子”といった感じも台本から見受けられるな、と。雅沙子に関しては、その年相応の部分をしっかりと表現したいと思っていますし、きっと、雅沙子が桜雅とかけ離れていればいるほど物語が深いものになっていくと思うので、2役の違いを意識しながら演じていきたいと思います。

久保史緒里

同じ人間でありながら、年齢の違う2人を
久保さんがどう築かれるのか楽しみです。
妖艶な美しさを纏う秋之さんの台本は
いかがでしたか?

読みながら思ったのは、ト書きや描写がとても細やかだということ。当時の景色がすっとイメージできたのは、秋之さんの台本のおかげだと思います。セリフ以外の動作の部分だけでなく、その時の様子や、見えている桜などの様子まで細かく書いてあったので、とても想像しやすかったですし、シーンや役についても考えやすかったです。実際に秋之さんとお話させていただいた時、「悲恋の話ではあるけれど、悲しみに引っ張られないで欲しい」というヒントをいただいたんです。そのヒントを大切に、“笑わない”という役柄の中でも「悲しみを引っ張らないように」ということを意識しながら稽古に臨んでいます。

Dear LANDOER読者
From 久保史緒里
舞台『桜文』

今回の舞台はセットもすごく豪華だと思います。いろいろなシーンに切り替わる構成ですし、時代まで変わる作品でもあるので、物語の軸に合わせて変化していくセットがとても面白いと思います。その豪華なセットに負けないように、私たちも存在感を出していかなければならないな、と。稽古ではそれも意識しながら頑張っているので、会場でセットも含めて、作品を味わっていただけたら嬉しいです。

久保史緒里

久保史緒里(乃木坂46)(21)

くぼ しおり

2001年7月14日生まれ。
しなやかに作品の〈いとぐち〉を読み解きながら、
さりげなく零す自身の“色”で世界観をさらに深めるDOER

PARCO STAGE『桜文』

パルコ・プロデュース2022『桜文』
PARCO劇場:2022年9月5日(月)~25日(日)

詳細スケジュール

出演:久保史緒里(乃木坂46) ゆうたろう 
   /松本妃代  石田圭祐 阿知波悟美
   加納幸和 木村靖司 有川マコト 塾一久
   /石倉三郎 榎木孝明 ほか
作:秋之桜子 演出:寺十吾

Staff Credit
カメラマン:鈴木寿教 
ヘアメイク:宇藤梨沙
スタイリスト:倉島千佳
衣装協力:DEICY
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:吉田彩華