〈愛〉を信じ笑って生きるすべての人類へ

映画『宇宙人のあいつ』

〈愛〉を信じ笑って生きる
すべての人類へ

映画『宇宙人のあいつ』
©映画「宇宙人のあいつ」製作委員会

-Story-

真田家四兄妹の次男になりすましていた[あいつ]。
ところが地球を離れることになり…。
映画史上[誰も観たことのない別れ]がある!!

家族になりますまして23年―。人間の生態を調査しに土星から来た宇宙人は、真田家の四兄妹の「次男・日出男」として暮らしていた。兄弟の親代わりで女性とは無縁の長男・夢二、DVの彼氏から離れられない長女・想乃、高校時代の同級生から復讐される三男・詩文…喧嘩もするが助け合う兄弟たち。家族というものがわからない日出男は、夢二から教えてもらう。「……兄ちゃん、家族って何?」「自分よりも、大切なものがあるってこと。」毎日一緒にご飯を食べ、働き、慌ただしい日々の中、地球を離れる日が近づいてきてしまう。日出男に残された時間は、あと3日間。人間として“やり残したこと”への日出男の奮闘が、今始まる!

伊藤さとり’s voice
伊藤さとり’s voice

飯塚健監督の作品は毎回、俳優陣の個性を引き出すキャラクター構築が特徴的だ。『荒川アンダーザブリッジ THE MOVIE』(2012)、『ステップ』(2020)、『ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜』(2021)他、今までの作品にも共通するのが“情熱”“絆”“愛嬌”という3つの柱。今作でもそれらは健在で、宇宙人が家族のフリをして生活に溶け込む中で、遂に星へ帰らなければならない日が近づき、ある選択を迫られるという展開に、しっかりこの3つが描かれている。

特に象徴的なキャラクターは日村勇紀(バナナマン)演じる長男。脚本が上手いなと思うのは、長男だけは弟が宇宙人であることを以前から知っていて、しかも日夜、4兄弟が手を取り合って生きていけるよう「真田会議」を開き、信頼関係を築き上げている明るい熱血兄ちゃんだから、弟や妹がグレないという点だった。本作では、日村と普段から交流関係がある中村倫也が宇宙人の弟を演じ、遊び心溢れる宇宙人パワーをあえてチープに見せる演出で、“この映画は軽やかに笑えるコメディ”だと観客に認識させている。しかも中村倫也の変顔は妹役・伊藤沙莉のアイデアから生まれたもの。更に伊藤沙莉や柄本時生扮する妹や弟にも乗り越えなければいけない問題を作り、全員の心の成長を描いていくのが群像劇としてもよく出来ているし、家族とは血の繋がりではなく信頼関係であることまで綴られている。

興味深いのは悪役サイドにも弱さを見せることで滑稽さを醸し出していたこと。お陰で憎まれ役なのに憎みきれないのは、世の中に心底悪い人はそう居ないと監督が願っているからだろう。他に声の出演者も豪華で、ジャガ役に情報番組で「天の声」も務めていた山里亮太、鰻のお母さんの声に井上和香(飯塚健監督の実生活の妻)、司会者役に情報番組のMCでも知られる設楽統(バナナマン)など、現実とリンクする配役にも遊びがある。映画から読み取るメッセージは「遊び心が世界を救う」。確かに「笑い」と「愛嬌」の根底に「真剣さ」があれば人の心を動かす。どんな困難が訪れようとも、素直に仲間に甘えてアドバイスを貰い、自分で納得して一所懸命乗り越えようと行動をすればなんとかなるし、その時の苦労も後に笑い話になる。それを信じるキャスト、スタッフによる全人類に向けた愛による人類救済SFコメディだった。

映画『宇宙人のあいつ』
2023年5月19日(金)全国ロードショー

出演:中村倫也 伊藤沙痢 日村勇紀(バナナマン)柄本時生
   関めぐみ 千野珠琴 細田善彦 平田貴之 山中聡
   井上和香 設楽統 山里亮太
監督・脚本:飯塚健

映画『宇宙人のあいつ』
©映画「宇宙人のあいつ」製作委員会