「世界は奇跡で溢れている」
言葉がなくとも世界中を笑顔にする
〝イリュージョン〟という〈魔法〉の使い手
世界には夢が溢れている。そして、その夢を持って叩くことのできる扉も。「いつかは…」と、置き去りにしてきた夢のカケラは、彩度を落とすことなくいつまでも心で光り続け、どんなに隠しても目を背けようとしても、絶対になくならない。数々の大舞台でマジックという夢を見せてきたHARAさん。世界中を飛び回り、大きな世界をその瞳で見た彼が「世界はあなたを待っている」と口にする今の時代。Ordinary Miracle(ありふれた奇跡)が散りばめられたこの世界は、今日もきっと光り続けるあなたの夢を待っている。
イリュージョニスト・HARA
PROFILE
最寄りのコンビニまで車で1時間かかる秘境で生まれ、幼少の頃より独学でマジックを修得。2009年、ラスベガスで開催されたマジックの世界大会「World Magic Seminar Teens contest」で日本人初のグランプリ受賞。その軌跡を追ったドキュメンタリー映画「Make Believe」は、「ロサンゼルス国際映画祭」でグランプリを受賞した。ハリウッドマジックキャッスルで開催された「Future Stars Week」に日本人初出演。アメリカの人気番組「America’s got talent」では、最先端テクノロジーとマジックの融合作品”IBUKI”を披露した。2019年、マジック界のアカデミー賞「マーリン・アワード」で最も独創性あるパフォーマンスを行うイリュージョニストに与えられる“Most creative illusionist”を日本人初受賞。2021年には雑誌『Newsweek』が選ぶ「世界が尊敬する日本人100」にも選ばれた。世界30か国以上のテレビ・ショーにゲスト出演。プロジェクションマッピングやホログラム演出のアドバイザーとして国内外の舞台・ライブなどの演出を務める。今、最も世界で注目を浴びるイリュージョニストのひとり。
HARA × マジック
僕がマジックに魅せられたのは5歳の時。吉祥寺の井の頭公園でピエロがシャボン玉を球に変えるマジックを披露していて、それを観た時に「これをやってみたい!」と思ったのがマジックを始めたキッカケです。当時はいまのようにYouTubeもなければ、僕の家にはインターネットも繋がっていなかったので、たまにテレビで放送されていたマジックをビデオに録っては、コマ送りや逆再生にしてなんとなく真似をしていました。いま思えば、自分なりに始めた真似事が僕のマジックのスタート地点でしたね。
初めて誰かにマジックを披露した時のことを
覚えていらっしゃいますか?
覚えています。一番最初に多くの人に見せたのは、小学2年生の時のお楽しみ会でした。当時好きだった女の子にアプローチをしたくて(笑)。その前の年に歌を歌ったんですけど、いまでも忘れられないほど教室中がシーンとなって空調の音だけが響くという事態になり…(笑)。そこで「歌はダメだ」と悟り、マジックを披露したらみんながすごく喜んでくれたんです。その顔を見た時に「マジシャンになる」と決意したのを覚えています。
そこから本当に夢を叶えられたんですね。
日本でマジックを生業にするのは
難しいこともあったのでは?
よく“生業”と言われることが多いんですけれど、僕自身は生業というより趣味の延長線を仕事にしている感覚なんですよね(笑)。一番好きだったマジックでみんなが喜んでくれる、それが楽しいうえにお金までいただけるんですから(笑)。そのお金で「また新しいアイテムが作れるな」と考えたり、本当に毎日夏休みのような感覚で生きています(笑)。もちろんしんどいこともあるんですけど、基本のベースはそんな気持ちですね。だからこそ仕事のオンオフがないんですよ。どこにいても「何かマジックにできないかな」と常に考えていて。なんなら寝ている時ですら夢の中でマジックのビジョンを描いていますね(笑)。
マジックを作られる時は
「こんな現象を起こしたいな」と思うビジョンから
逆算して作られるんですか?
昔は「こういうのを作ろう」と決めて、ロジックを立てて現象を入れて…と会議室などでガチガチに考えこんで作っていたのですが、それじゃ面白いものはできないな、と気づいて。それからは自然の中へ散歩に行って、目に入ってきた自然の現象をマジックで表せないかを考えるようになりました。葉がひらひらと落ちてきたり、海の波が綺麗だったり、自然には魔法が溢れていると思えるようになったんです。
なるほど!
HARAさんの日本の美しさを紡ぐマジックたちは
その視点から生まれていたんですね。
そうですね。「トランプの青と白を使ってドミノみたいに倒したら波のように見えるんじゃないか」など、目で見て綺麗だと思ったものをマジックで表現するにはどうすればいいかを考えるようにしています。先ほども言ったように、自然って一番の魔法なんです。毎日陽が沈むこと、冬になったら雪が降ってくること、春の桜もすべて魔法。言うなれば、この世界では毎日マジックが起きているんですよ。
何気なく“マジックアワー”などと呼んでいる事象も
確かに本当にマジック(魔法)ですよね。
そうなんです。でも人間って慣れてしまうと何も感じなくなってしまうじゃないですか。そのことに気づかせてくれたのは、1歳になる娘。毎日娘と散歩へ行くと、電柱を見ただけで、海の水に触れただけでものすごくびっくりしているんです。娘が毎日前に進んで新しいものに感動している姿を見て「あ、この感覚、自分にはなくなっていたな」と思って。そこから自然に目を向けるようになったら、世界がキラキラしているものだらけに見えるようになったんですよね。いまは毎日、一度生まれ変わったんじゃないかと思うくらい新しい発見の連続です。大人になって日常が何気ないものになってしまううちに忘れていただけで、実はこの瞬間も奇跡は起こり続けているんだな、と。英語で『Ordinary Miracle』(ありふれた奇跡)と言うんですけど、いまはそのミラクルを毎日感じて、娘を驚かせるためのマジックを作る日々です(笑)。
“Ordinary Miracle”、素敵な言葉ですね。
世界各地でマジックショーをされている
HARAさんですが、
自分のほうが驚いた外国の方々の反応って
何かありますか?
アフリカへ行った時、マジックを一度も見たことのない現地の子供たちの前でショーをすることになったんです。「すごく盛り上がるだろうな」と、期待に胸を膨らませてやってみたら、最初の簡単なマジックでみんな走って逃げちゃったんですよ(笑)。「えぇ!?」と、かなり驚いたのを覚えています(笑)。どうやらアフリカではマジックは黒魔術の意味が強いらしくて、ありえないことが起きたら悪のエネルギーが自分にも降りかかるんじゃないかと思うらしいんです。その後、「これは魔法っぽく見えるエンターテインメントだよ」と説明をして楽しんでいただきましたが、僕からしても新しい発見でした…(笑)。
確かに、観たことのない方が観たら
パニックですよね(笑)。
そんな風に世界各地でショーをされていくうちに
エンターテインメントについての考え方に
変化はありましたか?
僕の“マジック”というエンターテインメントへの考え方が劇的に変わったのは、初めてアメリカのコンテストに出場した高校2年生の時。僕と同年代のアメリカのマジシャンたちが多く出場しているコンテストだったんですけど、その控室での彼らの在り方が日本とは全く違って。日本のコンテストだと、控室で「この技すごくない?」「この技見てよ」と自分の技術を見せ合うんですよ。でもアメリカの子たちって、みんなそれぞれ大きな鏡の前に立ってどんな風に立つと一番よく見えるのかを研究しているんです。どうすれば身体を大きく見せられるのか、どんな笑顔だったら観客を魅了できるのか、と。自分のマジックの話は一切せず「この衣装よくない?」などのショー全体を見据えた会話しかしないんですよ。それを見た時に「あぁ、なるほど。マジックはエンターテインメントでなければならないんだ」と痛感しましたね。
技術ではなく、“SHOW”なんですね。
では最後に、HARAさんのような
〈エンターテイナー〉になりたいと思っている方々に
メッセージをいただけますか?
僕が伝えたいのは「世界はあなたを待っているよ」ということ。日本のダンサーの方や役者の方、アーティストの方って、海外に挑戦したいと思っていても「自分なんかダメなんじゃないか」とか「自分のレベルでは世界には挑戦できないんじゃないか」と、トライする前から自信を失っている人がすごく多い気がするんです。でもいまの時代は、スマホの電源をオンにして、カメラをオンにして、自分を撮影してYouTubeなどにアップすれば一瞬で世界と繋がることができるわけじゃないですか。だったらもう恥ずかしがらずに「世界中の人が自分を待っている!」ぐらいの気持ちで、いまこの瞬間に発信していこうよ、と僕は思うんですよね。
確かに、どこにいても
“自分”を魅せられる時代ですもんね。
そう。実際に僕自身もそう感じたことがあって。以前、アメリカのオーディション番組『America’s got talent』に出場する機会があったのですが、その番組は通常であれば何万組もの応募の中から3回ほどオーディションを勝ち抜いてやっと番組として放送されるステージに立つことができるらしいんです。ただ僕の場合は、たまたまYouTubeにアップしていた再生回数600回ぐらいのマジックの動画を番組プロデューサーが観たらしく、プロデューサー本人から連絡をもらって出場することになったんですよ。僕にとっては「チャンスって常にどこにでも広がっているんだな」と感じられた出来事でした。ただ、先ほどの奇跡の話と同じで「チャンスはある!」と信じていないと例えチャンスが来ても気づけないと思うので、日常にあるいろんなことに目を光らせて、いろんなものを信じて生きて欲しいと思います。チャンスがこんなに広がっている時代なんだから、周りと比べて自分がどうなのかなんて考えずに「自分は最高だ!」と、どんどん発信していって欲しいですね。そんなあなたを求めている人が必ずいる、そう信じて種を蒔き続けてください。
HARA(31)
ハラ
1990年4月16日生まれ。
自然に息吹く美しさ、朽ちていく儚さ、
その情景を世界というキャンバスに大胆に描き続けるDOER
自伝的小説『マジックに出会ってぼくは生まれた』
2022年3月14日(月)小学館より発売
▽あらすじ
大自然に囲まれた秘境・奈良県十津川村に生まれた大樹は5歳のとき、ピエロのパフォーマンスに魅了され、見よう見まねでマジックの練習を始めた。高校生になり、完全独学で習得したマジックで「プロになる」ことを夢見る大樹だったが、プロの世界に入ることは厳しく難しいものだった。夢を諦めたくない大樹は、アメリカで行われる世界大会での優勝を目指し、孤独な練習を重ねるが…。過疎村出身の高校生が、ラスベガスのマジック大会で見事グランプリを勝ち取るまでを描いた感動の青春小説!
Staff Credit
カメラマン:眞弓知也
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:吉田彩華