【幾田りら×内澤崇仁】映画『アナログ』「この〈愛〉に祝福を」劇伴とインスパイアソングが繋いだ作り手同士のスペシャル対談

幾田りら × 内澤崇仁

映画『アナログ』
「この〈愛〉に祝福を」
劇伴とインスパイアソングが繋いだ
作り手同士のスペシャル対談

数年前、世界が「会う」ことを諦めなければならない日々があった。愛する人や好きな人、触れられていた温度に触れることのできない日々が続いた。「人に会う」、いままで当たり前にしてきたことが、どれほど尊くて、どれほど素晴らしくて、奇跡のようなことだったのか。ずっと隣にいたはずの奇跡が、それまでよりずっとずっと眩しく目に映った。人には必ず、この世界と、この世界に住まう人たちとの「サヨナラ」が訪れる。だからいま「会いたい」のです。会っても会っても足りないくらいどん欲に、たった一人の大切なあなたに〈愛〉に行きたいのです。これは、そんな〈愛〉の姿に〈音〉のリボンをかけた、2人の作り手の物語――

映画『アナログ』

映画『アナログ』
©︎ 2023 「 アナログ 」 製作委員会
©︎ T.N GON Co., Ltd.

愛する人を想い続ける心に、涙する。
この秋一番の感動作。

手作り模型や手描きのイラストにこだわるデザイナーの悟。携帯を持たない謎めいた女性、みゆき。喫茶店「ピアノ」で偶然出会い、連絡先を交換せずに「毎週木曜日に、同じ場所で会う」と約束する。二人で積み重ねるかけがえのない時間。悟はみゆきの素性を何も知らぬまま、プロポーズすることを決意。しかし当日、彼女は現れなかった。その翌週も、翌月も……。なぜみゆきは突然姿を消したのか。彼女が隠していた過去、そして秘められた想いとは。ふたりだけの“特別な木曜日”は、再び訪れるのか——。“大切な人に会える”その喜びを改めて知った今だからこそ。愛の原点を描いたラブストーリー。

インスパイアソング「With」
幾田りら
×
劇伴・楽曲プロデュース
内澤崇仁

幾田りら × 内澤崇仁

映画『アナログ』を観た直後に
“心に残ったもの”

内澤崇仁(以下、内澤):「人を愛すること」ですね。改めて人を愛することの素晴らしさや、人と人との繋がりの大切さを感じ、心に残ったのを覚えています。

幾田りら(以下、幾田):私も内澤さんと同じく、個々が紡ぎ合う絆を感じて、「愛ってなんだろう」と、すごく考えさせられました。思いやりや想い、どういったことが〈愛〉になっていくのだろう、と。〈愛〉の過程を考えたくなるような2人の物語でした。

あたたかな描写、胸を打たれるシーン…
そのなかにある

「クスッ」と笑える瞬間も、本作の魅力

内澤:割とアドリブのシーンが多かったと伺っていたのですが、なかでも、悟(二宮和也)と高木(桐谷健太)、山下(浜野謙太)の3人がワイワイやっているシーンは、何度見ても笑ってしまいました(笑)。長い時間カメラをまわしていたそうで、作中で実際に使われているほんの少しのシーンにも3人のリアルな人間性が現れていて、すごく面白かったです。

幾田:私も3人のやりとり、すごく好きでした。私が印象的だったのは、みゆき(波瑠)も3人と一緒になってふざけている焼き鳥屋さんのシーン。「どこまでがアドリブなんだろう?」と思うほどに自然で、クスッと笑ってしまうシーンなんです。他のシーンでも焼き鳥屋さんが登場するのですが、そこでの悟とみゆきの絶妙な間合いや、お互い仲良くなりたいのに探り探りになってしまっている雰囲気もすごく好きでした。

内澤:完成披露試写会でも、悟とみゆきの絶妙な間合いのシーンで笑いが起きていました(笑)。

インスパイアソング「With」で繋がれた
リスペクトの〈絆〉

LANDOER:映画を観て号泣し、その勢いのまま「With」を制作された幾田さん、特にグッときた部分はどこでしたか?

幾田:この作品、グッとくるポイントがいくつかあるのですが、私はそのすべてにグッと涙ぐんでいました。ラストのほうでいろいろなつじつまが合っていって、悟とみゆき、それぞれが投げかけていたことに対する互いの“アンサー”が分かったときに、自分のなかで心が結ばれていく感覚になって。人を思いやること、ただひとりをずっと想い続けること、その尊さを感じた瞬間に涙が止まらなくなっていました。夜中の3時くらいに観ていたのですが、昇る朝日を横目に、早速曲の構想を練り始めたのを覚えています。

LANDOER:そんな時間に(笑)!「With」の制作において大切にされたことは何でしたか?

幾田:この映画の何かを切り取る、というよりは、お互いのことを想い合う気持ちをそのまま描くようにしていました。悟目線の歌詞だと思われる方もいらっしゃると思うのですが、実はみゆき目線のアンサーも含まれているんです。まるで2人の会話のような、お互いがお互いを想い合う〈愛〉を描くことを大切に、制作させていただきました。

LANDOER:内澤さんは「With」をアレンジするうえで、どんなことを考えられていましたか?

内澤:最初にいただいたデモの段階で「すごく素敵な曲だな」と思ったので、ここから自分に何ができるのか、という難しさもあったのですが、今回は劇伴も担当していたからこそ、劇伴の音楽と一貫性をもたせることを意識してアレンジをさせていただきました。それこそが、「With」という素敵な曲に対して、僕ができることだと思ったんです。

LANDOER:作品を拝見して、まさに劇伴に溶け込んでいる印象を受けました。

内澤:監督からの要望もすごく強かったので、そこは意識的にやりましたね。

LANDOER:幾田さんは、内澤さんのアレンジをお聴きになってみていかがでしたか?

幾田:とても美しいハーモニーと壮大なストリングスのアレンジをしてくださり、自分の書いた言葉に色がついてゆくような感覚を受けて、本当に感動しました。実は、レコーディングをする日まで歌詞をずっと練り直し続けていたのですが、アレンジいただいたデモの2番の2コーラス目あたりのものすごくダイナミックなアレンジを聴いて、「普段だったら照れくさくて書けないような強い歌詞でも、このアレンジがあれば大丈夫だ」と思い、歌詞を書いていったんです。2番のサビ前の「世界中の誰より一番近くで君を信じ続けていく」という歌詞、口ではなかなか言えないストレートな言葉なのですが、内澤さんのアレンジのおかげで言葉だけでも立っていられる〈言葉〉になったと思います。歌詞の感情に寄り添ってくださり、本当に嬉しかったです。

内澤:いやぁ、ありがたい…!でも、僕が思うのは、どんなにまっすぐで難しい言葉であろうが、幾田さんが歌うと説得力をもって耳に届くということ。他の方の曲をデモから知っていることってあまりないので、デモの段階で素晴らしかった曲の言葉たちが〈彩〉を加えられて、さらに際立っていくさまをそばで拝見して「素晴らしい方だな」と思っていました。

幾田:すごく嬉しいです…!ありがとうございます!

こだわりのこもった〈音〉たち
1,映画『アナログ』劇伴 × 内澤崇仁

内澤:今回劇伴制作でこだわったことは、『アナログ』という映画の素朴でピュアな物語にあった音楽をつくること。映画を「脚色しよう」とか「ドラマチックにしよう」としてしまうと、作品の世界観を壊してしまうと思ったんです。なのでとにかく、“感情に寄り添う”ことに注力しました。

LANDOER:作品のなかにも、ピアノやバイオリンが登場しますが、そこから関連付けて考えられたりも?

内澤:そうですね。ストーリーに影響してくるのですが、僕のなかで悟はギター、みゆきはバイオリン、と、登場人物のモチーフになる楽器が決まっていて。悟のシーンではギターの音色がメインの曲、みゆきのシーンではバイオリンがメインの曲、2人のシーンではギターとバイオリンが混ざっている曲がついているんです。それを知って観ていただくと、最後の曲の意味も読み取っていただけるかな…と、思います。ネタバレにならないようにお話するの、難しいですね(笑)。

2,インスパイアソング「With」× 幾田りら

幾田:私は映画を観終わったあと、感情の高ぶるままにピアノの前に座って作曲をはじめました。ラストシーンを思い浮かべて「どんな音が欲しいかな」と考えたときに、何か柔らかいものが降ってくるような、すっと胸に落ちてくるような〈音〉が欲しいと思ったんです。そしてそこに、言葉はいらないな、と。それで曲の最初をハミングにしたんです。

内澤:なるほど!そういうことだったんですね!ずっとどうしてあのフレーズが思い浮かんだのか、お聞きしたかったんです。

幾田:そうなんです。物語を観終わって最初に入ってくるものを「神聖なものにしたい」という思いがあって、“讃美歌”のようなイメージを大切にしました。

内澤:聴いていて、祝福をしているような印象を受けました。

幾田:そう思っていただけたら嬉しいです!アカペラで歌ったあとに、「奇跡のような」という言葉ではじまるのも、「最初に来て欲しい〈音〉はこれだな」と思って書いた歌詞なんです。いつもはメロディーを先に作って歌詞を書くのですが、今回はメロディーと歌詞が同時に降りてきて「あ、これでしかない」と思って

内澤:確かに、デモの段階からそこは変わっていないですもんね。

幾田:そこだけは変わらなかったですね。

幾田りら × 内澤崇仁

音楽で“装飾”はしない。
タカハタ秀太監督がこだわった〈音〉

内澤:監督には最初「自由にやってください」と言っていただいていたのですが、それでも監督のなかにイメージしている〈音〉がしっかりとあったようで。そのイメージを聞き漏らさないよう、監督とお話する際には全身を耳のようにしていました(笑)。「ここのセリフを聞かせたいんだよね」と、チラッとおっしゃったセリフにメロディーをかぶせないようにしたり、「ここから音が始まってほしい」という場所をメモして曲のはじまりを調整したりしながら、劇伴を制作していきました。

LANDOER:まさに共同作業ですね。幾田さんは、劇伴が入った作品をご覧になっていかがでしたか?

幾田:いま内澤さんのおっしゃっていたことが、しっかりと再現されていると感じました。感情や言葉に寄り添ったダイナミクスさがありつつ、物語に寄り添って作られているからこそ、登場人物たちの感情の高ぶりを自分自身が体験できたのだな、と。監督としっかりお話ししながら、一つひとつの楽曲をとても丁寧に作られたことが伝わってくる劇伴でした。

内澤:「音楽をつける」という行為に意味をもたせてしまうと、説明をしすぎる音楽になってしまうので、そこは制作の際にかなり気をつけていましたね。

Dear LANDOER読者
映画『アナログ』

From 幾田りら

映画を観終わって日々の生活に戻った後に、「With」というインスパイアソングがこの映画を思い出すキッカケになってくれたらいいな、と思います。作中の愛し合う2人の姿を観たときに劇場で感じた感覚が、ふと呼び起こされるような存在になれたら嬉しいです。

From 内澤崇仁

僕自身、映画を観て“人を愛すること”の大切さ素晴らしさ、そして、“自分だけの幸せを信じて突き進む生き方”について改めて考えることができました。観てくださる皆さんにとっても、そういったことを考えるキッカケの一本になってくれたらいいな、と思います。

幾田りら

幾田りら

いくた りら

9月25日生まれ。
〈凛〉と寄り添う陽だまりのような言葉たちで
どんな想いもぎゅっと抱きしめ、謳い認めてくれるDOER

内澤崇仁

内澤崇仁

うちさわ たかひと

12月6日生まれ。
どうしようもなく難しい世界を
「それでも美しい」と、力強く謳い、優しく届けてくれるDOER

映画『アナログ』
10月6日(金)全国ロードショー

出演:二宮和也 波留
   桐谷健太 浜野謙太 / 藤原丈一郎(なにわ男子)
   坂井真紀 筒井真理子 宮川大輔 佐津川愛美
   鈴木浩介 板谷由夏 高橋惠子
   / リリー・フランキー
監督:タカハタ秀太
原作:ビートたけし『アナログ』(集英社文庫刊)
脚本:港 岳彦
音楽:内澤崇仁
インスパイアソング:幾田りら「With」
(ソニー・ミュージックエンタテインメント)

映画『アナログ』
©︎ 2023 「 アナログ 」 製作委員会
©︎ T.N GON Co., Ltd.

Staff Credit
カメラマン:友野 雄
ヘアメイク:YOUCA(幾田)/ 小川夏輝(vicca)(内澤)
スタイリスト:藤本大輔(tas)(幾田)
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:古里さおり

Item Credit
(幾田)
ブラウス ¥48,400 パンツ ¥41,800
/ 共にKAMISHIMA CHINAMI YELLOW(株式会社ティスリー/011-871-9211)
リング ¥4,950 ピアス ¥6,050
/ 共にloni(loni_info@auntierosa.com)