【北村匠海】映画『明け方の若者たち』〈僕〉とが共鳴した明け方の霞に青春を描いて

北村匠海

映画『明け方の若者たち』
〈僕〉とが共鳴した
明け方の霞に青春を描いて

はじまりの光で世界が満ちる時、そっと隠れる若者たちの影がある。時にクスクスと微笑を秘めながら、時に大きな夢を語りながら。そうして“現実”からふと隠れる道草の時間が、大人への階段を上る私たちにくれるもの――それは無情なほどの突然の〈別れ〉、“現実”という夜明けとの〈出逢い〉。夜の中を遊ぶこれからの若者、光から隠れる明け方の若者、夜明けとともに歩み始める若者だった者、すべての青春が詰まった一本にほんの少しの道草をして。

映画『明け方の若者たち』

映画『明け方の若者たち』
(C)カツセマサヒコ・幻冬舎/
「明け方の若者たち」製作委員会

-あらすじ-

東京・明大前で開かれた学生最後の退屈な飲み会。そこで出会った〈彼女〉に、一瞬で恋をした。
下北沢のスズナリで観た舞台、高円寺で一人暮らしを始めた日、フジロックに対抗するために旅をした7月の終わり…。世界が〈彼女〉で満たされる一方で、社会人になった〈僕〉は、“こんなハズじゃなかった人生”に打ちのめされていく。息の詰まる会社、夢見た未来とは異なる現実。夜明けまで飲み明かした時間と親友と彼女だけが、救いだったあの頃。でも僕は最初からわかっていた。いつか、この時間に終わりがくることを…。

-僕-

就職先を決め、“勝ち組”の中にいる大学4年生。

北村匠海

僕 × 北村匠海

〈僕〉という人間は、周りの人と距離を取ってどこか一歩世の中を引いて見ているようで、実は世の中の渦に飲み込まれている青年。映画の最初の“勝ち組飲み会”に参加している時も「自分はここには馴染めないし、属さない人間なんだ」と本人は思っていて。けれど実はそこにいる人たちと並列して生きている、ある種ものすごく人間臭い人なんです。

飲み会のシーンで、
一見〈彼女〉が自分と似ているように思って

〈僕〉は目を惹かれたのかと感じたのですが、
実は〈僕〉とは違ったからこそ、だったんですね。

そうですね。あの飲み会の時の〈僕〉は、並列から抜け出したいけど抜け出せていない状態だったと思うんです。そこに人間的にも少し違うところにいる〈彼女〉との出逢いがあって。〈僕〉と〈彼女〉って同じ匂いで惹かれ合ったようで、実はすごく〈彼女〉に引っ張られているんですよね。そんな〈彼女〉の引力によって〈僕〉が並列の枠を飛び出していくことができた、といいますか。そういった不思議な魅力があるのが〈彼女〉だと思いますし、今回、黒島(黒島結菜)ちゃんが〈彼女〉を演じることで、より〈彼女〉の“語り過ぎない想い”が表現されていると感じました。「あ~これはついていくよな」と(笑)。あの年齢の時って、周りと違うことに優越感を感じて惹かれるじゃないですか。

北村匠海

確かに。
みんなが知らないバンドを知っていたりすると

「自分は他と違うぜ」と思うんですよね(笑)。

そうなんですよね。実際に僕もそうでした(笑)。当時、僕の通っていた高校ではK-POPが流行っていたんですけど、僕は劇中にも出てくる『キリンジ』などのバンドが好きで「僕はみんなと違うぞ」と思っていました。なので、〈僕〉の気持ちがすごく分かるんです。作中に出てくる下北沢、明大前、高円寺にもずっといましたし。きっといま行くと違う感覚になるんだろうな、と思うんですけど、あの当時は周りとは少し違う人たちが“許される場所”だと思っていたんですよね。

北村さん自身と〈僕〉が共鳴したんですね。

きっと、この感覚が分かる人って多いんじゃないかな。僕も20歳くらいまでは社会に対して悶々と考えることが多かったですし。もちろんいまも考えることはあるんですけど、あの頃は上手くいかないことを役者の仲間で集まって、お酒を飲みながら傷のなめ合いをすることで乗り越えようとしていたこともありました。いま思えばその時期こそが自分にとっての“マジックアワー”であり、“青春”だったと思いますね。虚しさですら楽しかったな、と。

北村匠海

北村さん自身が“マジックアワー”の終わりを
感じたのはいつでしたか?

いちばん分かりやすかったのは自粛期間に入って外に出られなくなった時、人生観や考え方が変わっていって。その瞬間が「“マジックアワー”を終えたんだ」と自覚したタイミングだった気がします。最近、“マジックアワー”時代によく飲んでいたお店にお昼ご飯を食べに行ったんですよ。その時に「あぁ、もう僕の場所じゃないのかも」と感じて。あの頃の僕たちは道草を食っていて、それこそが青春だったんだと思いましたね。

あの頃の価値観や夢、人間関係って
ある日突然“別れ”が来るものだと思うのですが、
北村さんはそういった“別れ”を
どう受け止めてこられましたか?

僕自身は劇中の〈僕〉とは違って、“別れ”を追わないタイプなんです。日々、出逢いも別れもある中で、人って過去の青春を「あの頃はああだったよな、あの頃に戻りたいな」と、どこか追ってしまいがちじゃないですか。でもきっと「“今”がいちばん幸せで楽しい!」と感じて生きるべきだと思うんです。実際、僕は“今”が楽しいですし。「あの時代があったからこそ、今があるんだな」と思うタイプなので、あまり“別れ”は振り返らないですね。

“別れ”もひとつの運命ですもんね。
作詞を多くされている北村さんですが、
そのタイミングでは過去の自分と対話することも?

ありますね。僕が書く歌詞はポジティブさもあるけれど、その根底には割とナイーブな部分を描くこともあって。それは過去の自分も含めて、ポジティブな言葉だけでは頑張ることができない人がいると思っているから。「頑張れ」と言われても素直に「頑張ろう!」と思えない時もありますし、「いやいや頑張ってるわ!」と思ってしまう時もありますし。そういった、自分自身が過去に抱いてきた感情と向き合うことは作詞をするうえでかなりありますね。過去の自分を描くことで、同じ状況にいる人の背中を押すことができるんじゃないか、と信じているんだと思います。いま、自分がそういった過去の状況から一個抜けることができたからこそ書ける歌詞があるんです。そう思うと「過去が良かったな」と思い出すことはないけれど、作詞をする時はものすごく後ろを振り返っている気がします。

過去の自分が欲しかった〈声〉を思い返す作業?

そうですね。後ろを振り返って前を向く、といった作業がすごく多いかもしれないです。日常、生きている時にその作業をすることはないんですけど、“伝える側”に立つ時には過去の自分を意識していることが多い気がします。もちろん“前を向いている姿勢”も届けたい姿ではあるけれど、映画に出てくる〈僕〉のような人からすると、きっと眩しく感じてしまうこともあると思うんですよね。

北村匠海

北村さんの紡ぐ歌詞が
寄り添ってくださる理由が分かりました。

では、作品のお話に戻って
ドラマや映画などで
「大人のほうが面白くない」という

描き方がされている作品が多いと感じるのですが、
北村さんの思う「大人ってここがいいよ」と
思う部分はありますか?

『明け方の若者たち』では〈僕〉という人間の大学生から27歳くらいまでを演じているんですけど、大人になるにつれて“人としての弱さ”とか「大人だからこうでなければいけない」といった先入観や固定概念みたいなものがなくなったように感じました。それは僕自身も感じた変化。10代や20歳の時に思っていた「大人だからこうだ」という考えは薄くなっていって、「考え方が変わったとしても人の根本的な部分は変わらないし、その変わらない部分を許してあげるのも大人だからこそできる選択なんだ」と、思うようになりましたね。

確かに。いい意味で
「理想通りでなきゃいけない」という考えが

大人になるにつれてなくなっていきますよね。
では最後に
この作品に北村さんが込めた〈声〉を
お願いします

『明け方の若者たち』は、若者の時代を生きている人と過去にその時代を生きた人、そしてこれからその時代を生きる人に複合的に届く青春映画だと僕は思っていて。決してキラキラしている作品ではないし、むしろ生々しくて人間臭い作品だけれど「これが人の青春だよね」と思いますし、それこそが人生の“マジックアワー”と真に呼べる瞬間なんじゃないかな、と思うんです。その瞬間が傍から見て、良いものでも悪いものでも、その青春をどう感じるかはその瞬間の中を生きている本人たち次第。やっぱり人生ってすべてが自分自身に委ねられているもので、人生の主人公は間違いなく自分自身なんですよ。もちろん、この映画に出てくる3人もそれぞれの人生の主人公だと思いますし。社会の渦に飲まれながらも必死に“今”を生きようとする彼らを観て、自分を見つめることのできる作品が完成したと思います。この作品が「今年の自分はどうだっただろう」と考えるキッカケになれたら嬉しいです。

北村匠海

北村匠海(24)

きたむら たくみ

1997年11月3日生まれ。
心に住む繊細な声に優しく頷き、
抱けるどんな想いにも柔かな〈愛〉を行き渡らせる海のようなDOER

映画『明け方の若者たち』
12月31日(金)より全国ロードショー

出演:北村匠海 黒島結菜 井上祐貴
   楽駆 菅原健 高橋春織
   三島ゆたか 岩本淳  境浩一朗 永島聖羅 
   わちみなみ 新田さちか 木崎絹子
   田原イサヲ 寺田ムロラン 宮島はるか 
   佐津川愛美 山中崇 高橋ひとみ / 濱田マリ
監督:松本花奈
脚本:小寺和久
原作:カツセマサヒコ「明け方の若者たち」(幻冬舎文庫)
主題歌:マカロニえんぴつ「ハッピーエンドへの期待は」(TOY’S FACTORY)
制作プロダクション:ホリプロ
製作:「明け方の若者たち」製作委員会
配給:パルコ
(C)カツセマサヒコ・幻冬舎/「明け方の若者たち」製作委員会

映画『明け方の若者たち』
(C)カツセマサヒコ・幻冬舎/
「明け方の若者たち」製作委員会

Staff Credit
カメラマン:飯岡拓也 
ヘアメイク:佐鳥麻子 
スタイリスト:鴇田晋哉
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:吉田彩華