人と自分を比べて劣等感を抱いた
“あの日”がある貴方へ

-Introduction-
全⽇制と夜間部。ひとつの机を共有する私たち。制服は同じでも胸の刺繍の⾊は違う。そんな“机友”の彼⼥と同じ男⼦を好きになってしまった、あの⽇。
昨年の第29回釜⼭国際映画祭でのワールドプレミアで評判を呼び、特別上映された第61回台北⾦⾺映画祭では、⽇本でもリメイクされたヒット作『あの頃、君を追いかけた』(2011)などで知られるギデンズ・コーが⼤絶賛したことで、さらに⼤きな話題となった台湾映画『ひとつの机、ふたつの制服』。⼤⼈には懐かしく、現在進⾏形の若者にはちょっぴり痛い。90 年代の台北を舞台にした⻘春コンプレックス・エンタテインメントの誕⽣です!
-Story-
1997年台北。受験に失敗し、強引な母の勧めにより名門女子校「第一女子高校」の”夜間部”に進学した小愛(シャオアイ)。同じ教室で同じ机を使うことになった全日制の成績優秀な生徒、敏敏(ミンミン)と、小愛は机に手紙を入れるやりとりから“机友(きゆう)”=デスクメイトになる。夜間と全日制。制服は同じでも、胸の刺繍の色が違う。ある日、小愛は敏敏から学校をサボるために制服を交換することを提案され、次第に、小愛が敏敏からもらった全日制の制服を来てふたりで遊びに行くようになるなど行動がエスカレート。やがてふたりは同じ男子校生を想っていることに気づき……。
伊藤さとり’s voice

「超高学歴社会」と言われる台湾。名門大学に入ることで一流企業への道が開けるという考えが長く根付いていた。ただし近年は学歴以外の能力を見る企業もあり、少しずつ変化が見えているという。とはいえ隣国の話だけに限らず、日本も同様にまだまだ大学名が就職時に役立つ社会である。このように社会生活の為に、10代の頃から受験勉強に勤しむよう親からレールを敷かれた子ども達は、果たしてどんな感情で学校生活を送っているのだろうか。
本作『ひとつの机、ふたつの制服』は、90年代の台湾の名門女子校に通う夜間部の生徒・小愛(シャオアイ)が、同じ机を使うことになった全日制の生徒・敏敏(ミンミン)との交流から絆と恋を知る青春映画だ。二人の出会いのシーンでは、当時、台湾でも人気だった日本のアニメ「SLAM DUNK」のキャラクターの名前が登場し、好みの相違を確認する様子が映し出される。今とは違いSNSが無かった90年代までは、劇中の台湾の女学生同様、日本でも中高生の間で文通や交換日記が流行っていた。やがて二人は時間を共にすることで異性への恋心も打ち明けるようになるほど仲睦まじくなるのだが、それをきっかけに成績だけではなく、家柄も違うことに気づいてしまうのだ。
親友と言えども、家庭環境が違い、交友関係が違うとなれば、なんらかの壁を感じることはないだろうか。そんな時、自分とは違う世界の人だと感じることは少なからずあるはずだ。主人公の小愛は母子家庭で育ち、母親の夢だった女子校夜間部に入学する。母親は公立大学へ進学しやすい女子校の学費を支払う為に、食費も節約しながら働いている。かたや敏敏や親しくなった男子生徒はエリートで裕福。二人で会っている時は平気だったのに、他者が介入することで自信を削がれてしまうのだ。
いったい誰が名門校に入っていることが素晴らしいと決めたのだろう。いったい誰が裕福な暮らしをする人の方が上位であると決めたのだろう。これはフィクションだが、脚本家のシュー・フイファンが夜間部だった経験から生まれた話なので、その時に味わった感情も散りばめられているのだろう。ただし私は小愛親子の関係が好きだ。母と娘が交互にカッサをし合いながら話しをする近しい関係がとても愛おしかった。愛情を沢山受けて育ったから、小愛が自分では気づかずに人を惹きつける魅力的な少女なのだとスクリーンを見つめながら考えていた。
映画『ひとつの机、ふたつの制服』
2025年10月31日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開
監督:ジュアン・ジンシェン(荘景燊)
脚本:シュー・フイファン(徐慧芳)、
ワン・リーウェン(王莉雯)
出演:チェン・イェンフェイ(陳妍霏)、
シャン・ジエルー(項婕如)、
チウ・イータイ(邱以太)



