与えられるべき、真の〈自由〉を考える貴方へ

映画『TATAMI』

与えられるべき、
真の〈自由〉を考える貴方へ

映画『TATAMI』
© 2023 JUDO PRODUCTION LLC. ALL RIGHTS RESERVED

-Introduction-

あなたならどうする?
実話に基づいた、
金メダル候補の女子柔道選手の不屈の戦い
観る者を興奮の渦に巻き込んだ
注目作がついに公開!

ジョージアの首都トビリシで開催中の女子世界柔道選手権。イラン代表のレイラ・ホセイニと監督のマルヤム・ガンバリは、順調に勝ち進んでいくが、金メダルを目前に、政府から敵対国であるイスラエルとの対戦を避けるため、棄権を命じられる。自分自身と人質に取られた家族にも危険が及ぶ中、怪我を装って政府に服従するか、自由と尊厳のために戦い続けるか、レイラは人生最大の決断を迫られる……。2019年、日本武道館での世界柔道選手権で実際に起こった事件をベースに映画化。オープニングからラストまでスリリングな展開に目が離せない。

映画史上初!
イスラエル出身監督×イラン出身監督による合作
「スポーツと政治」の問題を鋭く深く問う、
ポリティカルスポーツエンターテインメント

監督は、『SKIN 短編』(18)で第91回アカデミー賞短編実写映画賞を受賞したイスラエル出身のガイ・ナッティヴと、『聖地には蜘蛛が巣を張る』(22/アリ・アッバシ監督)で第75回カンヌ国際映画祭女優賞を受賞し、本作で監督役を演じたザーラ・アミール。映画史上初めて、イスラエルとイランをルーツに持つ2人が映画で協働し、大きな話題を集めた。撮影は全て秘匿状態で行われ、映画に参加したイラン出身者は全員亡命。当然ながらイランでは、上映不可のままとなっている。個人と権力の関係を問いかけ、悲惨な争いが続く世界の中で平和への祈りが込められた注目作が、第36回東京国際映画祭での大絶賛を受け、満を持して公開!

-Story-

ジョージアの首都トビリシで開催中の女子世界柔道選手権。イラン代表のレイラ・ホセイニと監督のマルヤム・ガンバリは、順調に勝ち進んでいくが、金メダルを目前に、政府から敵対国であるイスラエルとの対戦を避けるため、棄権を命じられる。自分自身と人質に取られた家族にも危険が及ぶ中、怪我を装って政府に服従するか、自由と尊厳のために戦い続けるか、レイラは人生最大の決断を迫られる……。

伊藤さとり’s voice
伊藤さとり’s voice

イランで2022年に起こった事件を知っている人は、日本にどれほど居るのだろうか。 この事件では、22歳のマフサ・アミニさんがヒジャブ(頭や体を布で隠す)を適切に着用していなかったことで当局から拘束され、その後、暴行を受けて亡くなったのだ。これにより女性の権利と命の尊さ、自由を求める抗議デモが各地で起こったのだが、この事件をモチーフにした作品が現在日本で公開中だ。それはイラン人モハマド・ラスロフ監督による『聖なるイチジクの種』なのだが、合わせて観て欲しいのが、今回、紹介するイラン人とイスラエル人、2人の監督による共同制作となる映画『TATAMI』だ。

そもそもイランとイスラエルは敵対している。これはイスラム教の聖地エルサレム問題なども含め根深いものなのだが、スポーツにおいても「国の問題」が選手の対戦にも大きな影を落としてしまう。本作では、敵対するイスラエルの選手と対戦することを避ける為に、イラン代表の女子柔道選手レイラと監督のマルヤムに国から圧力がかかる様子が描かれていく。一体何故、イスラエルの代表選手との対戦を拒むのか。その理由は実に単純だ。もし負けてしまったら国のメンツが丸潰れだからだ。

実はこの物語にはモデルが存在する。それはイラン人男子柔道選手であったり、ヒジャブを着用せずに競技に参加し、政府の圧力から亡命を選んだイラン人女子選手などだ。そうやって本作を見るとあえて主人公を女子柔道選手にしたことで、レイラだけが他国の選手と違い髪を覆うスタイルで柔道着を着用していることが気になる。しかも冒頭、イスラエルの女子柔道選手と英語で親しげにレイラは挨拶を交わすのだが、それを遠くから見つめる監督のマルヤムの表情が曇っているのが分かる。

このように、金メダルを獲得するという同じ目標を持つ者同士なのに、国同士が対立していても個人は関係ないという考えのレイラと、その行為だけで警戒してしまう監督のマルヤムを対比させることで、次第に対立していき、レイラの孤独な戦いへと物語は変化していくのだ。そんな本作は、試合シーンをメインに映しつつ、彼女達が試合中もさまざまな手段で自国から脅されている状況を観客に見せていく。その様子はさながらクライムサスペンスだ。やがてレイラがあるタイミングで髪を露わにするのだが、それはヒジャブという国の法律に反する行為そのものでもある。

ここまででもう理解できているだろうが、イラン国民は国家の監視下にある。特に女性が弾圧されており、ヒジャブを着用しないだけで警察に捕まり、命の危険にさらされることもある。それはスポーツ競技においても同じで、個人の意思は尊重されず、国の圧力で試合の行方も変えられてしまう。映画や芸術に関しても国をマイナスに描いていると判断されれば、アーティストは犯罪者になる。だからこの映画も秘密裏に撮影され、もちろん、イランでは上映されていない。しかも敵対する国の者同士が手を結び映画を作っているのだからリスクは想像しきれない。この関係が冒頭の敵国同士の選手が笑顔で会話をするシーンとしてメタファーになっているのだ。

自由な服を着て、自由に発言し、気の合う人と国籍を気にせず友人になれる社会こそ、健全ではないか。当たり前のはずなのにイランではリスクを伴う。では自分達に置き換えてみると果たしてどうなのだろうか。日本は男女平等なのだろうか。選択的夫婦別姓制度も「選べる」制度なのにも関わらず、まだ導入できていない。結果、多くの夫婦は、結婚を機に妻ではなく夫の姓を名乗る選択をする。この環境は健全と言えるのか。そう考えるとこの映画『TATAMI』は、他国の問題とは言い切れないのだ。自由とはなんなのか、平等とはなんなのか。今一度、考えるきっかけとなる作品に出会って欲しい。

映画『TATAMI』
2月28日(金)より公開中

監督:ガイ・ナッティヴ、ザーラ・アミール
脚本:ガイ・ナッティヴ、エルハム・エルファニ
出演:アリエンヌ・マンディ、ザーラ・アミール、
   ジェイミー・レイ・ニューマン、
   ナディーン・マーシャル
原題:TATAMI 配給:ミモザフィルムズ

映画『TATAMI』
© 2023 JUDO PRODUCTION LLC. ALL RIGHTS RESERVED