混沌とした森の中で
〈自分〉を探している貴方へ
-Introduction-
2人のケミストリーが
日本映画に新しい風を吹き込む!
わずか19歳という若さで撮影、初監督した『あみこ』(2017)は PFF アワードで観客賞を受賞、その後第68回ベルリン国際映画祭のフォーラム部門に史上最年少で招待されるなど、各国の映画祭で評判となり、坂本龍一もその才能に惚れ込むなど、その名を世に知らしめた山中瑶子。あれから7年、山中監督の本格的な長編第一作となるこの『ナミビアの砂漠』の主役に抜擢されたのは、テレビドラマ「不適切にもほどがある!」でお茶の間でも話題沸騰、今年も『あんのこと』、『ルックバック』と出演作が続々公開されるなど飛ぶ鳥を落とす勢いの新時代のアイコン、河合優実。公開当時まだ学生だった彼女は『あみこ』を観て衝撃を受け、山中監督に「いつか出演したいです」と直接伝え、「女優になります」と書いた手紙を渡したという。『ナミビアの砂漠』は、運命的に出会っていた山中瑶子と河合優実、ふたつの才能が、ついに念願のタッグを組み、“ 今” の彼女たちでしか作り出せない熱量とセンスを注ぎ込んで生み出された。河合が扮するカナの二人の恋人を演じるのは金子大地と寛一郎という、山中監督と同世代で今の日本映画界をけん引する若き俳優たち。カンヌ国際映画祭でも「若き才能が爆発した傑作」と絶賛され、女性監督として史上最年少となる国際映画批評家連盟賞を受賞する快挙を成し遂げた。2020年代の〈今〉を生きる彼女たちと彼らにとっての「本当に描きたいこと」を圧倒的なパワーとエネルギーで描き切った『ナミビアの砂漠』が、先の見えない世の中に新しい風を吹き込む!
-Story-
いじわるで、嘘つきで、暴力的。
そんな彼女に誰もが夢中になる。
世の中も、人生も全部つまらない。やり場のない感情を抱いたまま毎日を生きている、21歳のカナ。優しいけど退屈なホンダから自信家で刺激的なハヤシに乗り換えて、新しい生活を始めてみたが、次第にカナは自分自身に追い詰められていく。もがき、ぶつかり、彼女は自分の居場所を見つけることができるのだろうか・・・?
伊藤さとり’s voice
都会の人混みを自由に走っているようにも見えるカナ。お茶をしながら友達の相談を親身に聞いているようで、実は周囲の声が気になっているのが分かる音のバランス。街で会う男性とも気さくに話す様子から彼女が人気者であることが分かる。そんな冒頭からのシーンには説明セリフなんか存在せず、当たり前の一日がショットして連なっている。カメラはカナを演じる河合優実の表情の些細な変化を捉えるかと思うと、都会的なファッションに身を包んだ全身を映し出す。まさに都会に暮らす女の子の日常。だけどそこには嘘が紛れている。カナは彼氏らしい男性と一緒に夜を過ごした後、家に帰ると別の男性が待っているのだから。その男性はカナの為に料理も作るし、小さな女の子を扱うかのように甘やかしてくれる。なのに、何故、カナは他の男性にも愛を求めるのか。
本作『ナミビアの砂漠』は、世界三大映画祭のひとつカンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を山中瑶子監督が受賞した。その理由がよく分かる。主人公のカナはどうしようもなく愛に飢えていて、自分にしか興味がなく夢中になることもないのに、たまらなく魅力的だからだ。それはもちろん河合優実という逸材の力もあるが、間違いなく山中監督の独創的でエモーショナルな脚本と、それを的確に映像化する為に尽力したスタッフの力と言える。たとえば恋人同士がギュッと手を絡め合うショットや、道端で側転したり、全速力で走る姿が色彩と共に、瞼に焼き付いているからだ。
映画は後半からカナの心の中を覗いているかのような演出へと変わる。なかでも私が最も面白みを感じたのは「箱庭療法」のシーンだ。砂が敷き詰められた箱の真ん中にドスンと突き刺された木。心理学では中央は「現在」であり「核」の部分を示すので、カナは自分自身にしか興味がなく、その木が森のシーンに切り替わることで彼女の自己探求を示している。この箱庭療法のシーンでは、河合優実は監督から「真ん中に木を刺してみましょう」とだけ言われたそうで、自分でもその理由は分からないままだと言っていた。それがとても興味深かったし、カナ自身も無意識での自己探求をしている物語だから、彼女の解答も間違ってないと確信した。
時に人は自分が分からなくなる。恋人が以前より構ってくれなければ愛が足りないと苛立ち、自分を強く求めてくれなければ愛されていないと決めつけてしまう。カナは何故、そこまで愛されたいのか。そう言えば彼女の「可愛い?」という問いに愛おしさを感じた。きっとあまりにズルくて感情的な人間臭さからかもしれない。
映画『ナミビアの砂漠』
2024年9月6日(金)公開
出演:河合優実
金子大地 寛一郎
新谷ゆづみ 中島 歩 唐田えりか
渋谷采郁 澁谷麻美 倉田萌衣 伊島 空
堀部圭亮 渡辺真起子
企画製作・配給:ハピネットファントム・スタジオ