自分とは違うタイプ、でもそばにいたい、
そんな〈友情〉を知っている貴方へ
-Story-
大好きだった親友は、“秘密”を残して姿を消した――
公募展で大賞に選ばれた「作者・ハウン」という記載だけで応募された絵画。そこに描かれていたのは、高校生のミソだ。ギャラリーの担当者から、ハウンとコンタクトを取りたいと連絡を受けたミソだが、ハウンとは幼い頃に遊んだだけの仲だと語る。ハウンのブログにはミソとの深い関係が綴られているにも関わらず…。ミソとハウンは小学生からの大親友。性格も価値観も育ってきた環境も正反対だが、唯一の共通点は絵を描くのが好きなことだった。ずっと一緒に生きていくと約束する2人だったが、17歳の夏、ハウンに恋人ジヌができたことで少しずつ気持ちがすれ違っていく。そんな中、ミソは済州島を離れてソウルで暮らすことを決意。しかし、ソウルでの暮らしは精神的にも肉体的にも過酷だった。生きていくだけで必死な日々を過ごしていたミソだが、ハウンには絵の勉強をしながら旅をしていると嘘の手紙を送っていた。それから5年が経ち、再会を果たした2人は、釜山旅行に出掛ける。久しぶりに2人で過ごす時間に気持ちが昂るも、価値観の違いによって大喧嘩に。それを機に、疎遠になっていた16年目のある日、ハウンは忽然と姿を消した。2人だけの“秘密”を残して…。
伊藤さとり’s voice
どこかでなんとなく見たことがあるストーリー。だけど登場人物が独創的で見惚れてしまう。見終わった後に、この映画が第93回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた中国・香港合作映画『少年の君』(2019)のデレク・ツァン監督作『ソウルメイト/七月と安生』(2016)の韓国リメイクだと知る。オリジナルは見ているものの全く意識させないキャラクター構築は、どちらの国でもキャスティングが見事だったというのが一番大きい。
それもそのはずで、破天荒なミソにはドラマ「梨泰院クラス」、映画『The Witch 魔女』のキム・ダミが扮し、家庭環境に恵まれないからこそ、とことん自由で生存戦略にたけた少女の成長を体現し、ミソを家族にも紹介するハウンをドラマ「ボーイフレンド」のチョン・ソニが、絵が上手く波風を立てるのが苦手な少女を魅力的に演じきっているのだ。
この二人がどうして離れ離れになったのかを回想するように時系列を逆転させ描く本作は、二人が親しくなった理由を丁寧に互いの性格と行動で見せていく。だってミソは、人目を気にしないし、誰にでも話しかけられる女の子。逆にハウンは、相手の気持ちに気付きやすいから人に優しくできる女の子。お互いに生まれた環境も性格も違うから、二人で補い合って地に足を着けて、互いに憧れ、一緒に人生を楽しんで生きているのかもしれない。
時代は小学生から高校生へやがて大学生となり、社会人へと変化していく。となれば二人の日常にも様々な人が介入してきて、初恋も経験し、二人がとことん仲良しだからこそ、恋人同伴で遊びに行くことだって訪れるのだ。二人の関係に異性が入ってきたら何が起こるのだろう。そんな感情の変化を表情で細やかに表現し、年月の変化を風貌だけでなく演技で見せる俳優陣の芸達者ぶりに感服する本作。
大好きだから相手を傷つけたくない。全く違うタイプだから理解できないこともあるけれど、その生き方や感性に憧れている関係。真の友情とは、寂しい時に遊んでくれる関係ではなく、ずっと互いの成長を見届けたいから、状況により距離感を考えながら相手を思いやる関係、映画『ソウルメイト』が伝えようとしているのは、“尊重”の美しさだった。