「人と心通わせたい」と望む貴方へ

-Introduction-
国内の主要文学賞を数多く受賞し、イギリスで最も権威ある文学賞ブッカー賞の翻訳部門最終候補に著作が選出されるなど、世界的に高く評価される小説家・川上未映子。長らく望まれてきた長編小説の初映像化作品が『すべて真夜中の恋人たち』である。発行部数累計40万部を突破し、2023年に全米批評家協会賞・小説部門の最終候補に選出された不朽の恋愛小説を原作に、前作『あのこは貴族』(21)が国内外で高く評価された岨手由貴子が監督・脚本を手掛けた。フリーの校閲者で、他者との関わりを避けながら生きてきた冬子。数少ない友人で仕事相手でもある・聖(ひじり)。ふとしたきっかけで冬子と知り合う高校物理教師・三束(みつつか)。孤独を抱えて生きてきた冬子が、三束と出会ったことで、初めての感情に向き合っていく。冬子を演じるのは『ケイコ 目を澄ませて』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞したほか、数々の女優賞を獲得している岸井ゆきの。三束には「SHOGUN 将軍」で第82 回ゴールデングローブ賞助演男優賞に輝き、さらにワールドワイドに活躍する浅野忠信。冬子の数少ない友人・聖を演じるのは、来年度前期のNHK朝ドラ「巡るスワン」の主演を務める森田望智。さらに、深川麻衣と塩野瑛久が脇を固め、冬子の独白である語りを松坂桃李が担当、物語を支えている。恋愛の喜びと絶望。誰かと共有したい、けれど自分だけのものにしていたい密やかな感情。描き出されるのは、主人公・冬子のみならず、三束や聖、誰もが抱える孤独。現代的でいて、普遍的なテーマを、静かに繊細に差し出す。小さな心のさざ波を、息を止めて見つめるような、究極の恋愛映画が誕生した。
-Story-
フリーの校閲者である入江冬子は、同業者たちが集まる飲み会に参加していた。普段から酒を飲まず、人と関わることを避けている冬子は、周りの会話のペースに乗ることができない。数少ない友人で仕事相手でもある石川聖に「冬子っていつも何してるの?」と聞かれるが、親しい人や趣味のない日常を語るだけ。そして、誕生日である12月24日ですら何をするでもなく、ただ真夜中に散歩をするのが毎年の過ごし方だと話す。一方、聖は自分も似たようなものだとしながらも、食事やセックスをともにするだけの相手は複数人いると打ち明ける。何もない日々をひとりで過ごす冬子と、誰にでも物おじせずに自分の意見を言う聖。ある日、冬子はふとしたきっかけで三束(みつつか)という年上の物理教師と知り合う。そこから、冬子の日常が少しずつ変化していく……。
伊藤さとり’s voice

人との関わりが苦手。
それはどういうことなのか。映画『すべて真夜中の恋人たち』は、そんな社会において必ずと言っていい“人付き合い”をテーマに、心を通わせる恋愛から紐解いていく川上未映子原作の同名小説を映画化したものだ。監督を務めるのは『あの子は貴族』の岨手由貴子。今年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に選出されたのも記憶に新しい。
岸井ゆきの演じる冬子はフリーの校閲者だが、人との関わりを苦手とし夜の散歩を好む生活を送っている。そんな彼女がひょんなことで出会った浅野忠信扮する高校物理教師・三束(みつつか)と会話を重ねることで少しずつ距離を縮め、“触れたい”という感情を持つようになるのだが…。
映画では、岸井ゆきのが表には出さない感情の機微を声の震えや大きさ、目の動きで細やかに表現するので、冬子自身の本心が不思議と見えてくるのだ。なかなか本心を人に言えない理由とはなんなのか。それが人との付き合いに影響を及ぼしていることが、三束の下の名前まで聞けないエピソードとして映し出される。
二人が夜道を語らいながら歩くシーンはロマンチックでまるでプラネタリウムの中にいるような感覚を持つ。それがある時期から相手の感情を探るようになっていく様子が手に取るように見えてくる。これが本を映像表現で楽しむというものなのだろう。
ちなみに心理学では、見つめ合って話すよりも暗い世界で天井を見つめながら並んで寝転がるような体勢で会話をすると、自然と心を開ける状態になるそうだ。確かに冬子の立場になって映画を鑑賞していると、夜空を見つめながら浅野忠信の穏やかな声を聞いているうちに三束に導かれなんでも話したくなる気分を観客も味わう。こう考えるとキャスティングの意図が見えてくる。確かに心を許すとは、包容力と安心感から来るもので、恋愛へと続く道なのかもしれない。なんと深い人間心理なのか。
映画『すべて真夜中の恋人たち』
11月13日(金)全国ロードショー
出演:岸井ゆきの 浅野忠信
森田望智 深川麻衣 塩野瑛久
中村優子 長井短 祷キララ
中井友望 林裕太
語り:松坂桃李
監督・脚本:岨手由貴子
原作:川上未映子「すべて真夜中の恋人たち」(講談社文庫)
製作幹事・配給:ビターズ・エンド



