【伊藤健太郎】
舞台『赤坂檜町テキサスハウス』
ここは、〈子ども心〉を忘れない
無邪気な業界人のあそび場
人と人のつながりが、新たな時代を作ってゆく
指の長さや耳の形が違うように、「センス」も「価値観」も一人として同じ持ち主はいない。似通う部分はあったとしても、100%の合致はありえない。だからこそ、この世界は反発的でおもしろい。互いのセンスを試し合う創作闘争も、それぞれの価値観を溶け合わせる相乗効果も、人と人が面と向かって〈正直〉を晒し合うから生まれるもの。『赤坂檜町テキサスハウス』⸺ 物語の舞台となるこの場所の異名は「メディア界のトキワ荘」。数々の業界功績者たちがひしめき合っていたあの時代、どんなクリエイターバトルが繰り広げられていたのか。少し、覗いてみたくはありませんか?
舞台『赤坂檜町テキサスハウス』

-イントロダクション-
映画監督崔洋一(さい・よういち)が、最後の作品にと望んだのは「舞台」だった。2022年晩秋、崔洋一は鄭義信(てい・よしのぶ)に1 本の電話をいれた。「『赤坂檜町テキサスハウス』を舞台化したいので脚本を書いてくれ」。映画「月はどっちにでている」(1993)から始まり、映画「平成無責任一家 東京 デラックス」(1995)・映画「血と骨」(2004)と、互いをリスペクトしながら共に作品作りを続けてきた二人。 電話をかけた約1か月後、2022年暮れ、崔洋一は逝去した。崔洋一の意思を受け継ぎ、鄭義信が上演台本・演出を手掛け舞台化する。 時代は戦後間もない頃。まだ焼け跡が残る赤坂・乃木坂にあった木造二階建てのアメリカ風アパート、正式名称「花岡アパート」通称「テキサスハウス」で起きる様々な出来事と、人間模様を描く。「トキワ荘」が漫画家たちの住んでいたアパートなら、「テキサスハウス」はメディア界の人たちが住んでいたアパート。創成期のテレビ界の人たち、出版・映画・舞台関係の人々、女優、モデル、歌手、作家、プロ野球選手…ありとあらゆる業種の人たちが入居しては退居、入れ替わり立ち替わり、昼だか夜だかわからない暮らしをしていた。1階に3部屋、2階に3部屋、6軒とも顔見知りだったり友達だったり。 写真家で一世を風靡した大竹省二も住人だった。GHQ にも顔がきく若手カメラマンとして憧れの的であった大竹を中心に、そこでは色んなおかしな話、おもしろい話、血なまぐさい話、あやしい話がたくさん起きてきた。 後年、永六輔(えい・ろくすけ)が当時の記録を残そうと、「テキサスハウス」の中心人物だった大竹省二に聞き 書きをした原作『赤坂檜町テキサスハウス』。その時代とメディアに生きる人たちの熱い日々を伊藤健太郎が演じる永六輔の目を通して舞台化する。
舞台『赤坂檜町テキサスハウス』
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伊藤健太郎
本作のオファーをいただいた際、「映画監督の崔洋一さんと、盟友である鄭義信さんの約束から生まれた舞台」というお話を伺って、そんな大切な想いが込められた作品の座長を任せていただけることに、大きな喜びを感じました。今回、永六輔さんを演じさせていただくにあたって、皆さんが抱かれている永さんの印象を大切にしつつ、どこかオリジナリティある部分も出していけたらいいな、と思っているところです。

永さんと言えば『上を向いて歩こう』の作詞など、
エンタテイメントの世界に多大な功績を残された方。
そんな永さんの若き日を演じる、
いまのお気持ちを教えてください。
普段、原作のある役を演じる場合は、あえてキャラクターを「入れすぎない」よう意識して現場に入るタイプなのですが、今回に関しては、なるべく永さんご本人に近づけていきたいと思っています。声のトーンや所作の一つひとつを可能な限り投影できるよう、試行錯誤を重ねながら準備を進めていくつもりです(※取材は2月下旬)。とはいえ、自分が演じさせていただくからには“らしさ”も取り入れていきたいな、と。これから永さんの映像を拝見して、役づくりの参考にしていこうと考えています。
本作の舞台であり、
かつて永さんが創作の拠点とされていた
『テキサスハウス』の存在はご存知でしたか?
まったく存じ上げておらず、最初は「テキサスハウスってなんだ?アメリカにあるの?」と思っていました(笑)。あらすじを読ませていただき、資料を拝見していくうちに、戦後間もない頃、業界人が集まるおもしろい場所があったことを知って。舞台では、あの時代ならではの空気感が描かれることになると思うので、どんな物語をお届けできるのか僕自身楽しみです。


役者のみならず、制作サイドの方々まで集っている
まぜこぜ感がおもしろいですよね。
伊藤さんが思う
“メディア業界人”の特徴はありますか?
変わっている人が多い印象です(笑)。自分の意志でこの業界に身を置いている方々は、「人を喜ばせることが好き」という純粋な想いをもっていたり、「あの作品観たよ」と言ってもらえることにやりがいを感じたりする人たちが多いように思います。あとは、明るい方が多いのも特徴の一つですね。僕が仕事場で見かける皆さんのイメージは、とても明るく無邪気。もしかすると、少年・少女のような心をもち続けているからこそ、やっていける世界なのかもしれません。フィジカル的にもメンタル的にも、世の中とはかけ離れたルールの下に置かれることになりますから。エンタテイメントが好きで、自分の仕事が好き。そんな〈あそび心〉のある方が残っていく世界なのかな。現に僕自身も、良い意味でこの世界のルールに染まっている気がします(笑)。
今回の舞台となるのは“創成期のメディア業界”。
いまとは違う時代設定に
期待していることはありますか?
当時は、古き良き時代のあたたかさや人と人がつながっている温度感が、いまより色濃くあったように思うんです。戦後の大変な状況下でも、互いがちゃんと〈言葉〉を交わし、面と向かってつながっていた時代。そんな『あの頃』を令和に描き出すからには、ファンタジーになりつつある当時の良さをしっかりと表現できたらいいな、と思っています。

最近は、シール交換などの
“直接話す遊び”が再び花開いていますよね。
SNSをメインとしていた昨今から、
少し変化を感じる部分もあります。
そうですね。僕も先日、公園で近所の子どもたちと遊んでいた際、別のグループの子たちがシール交換をしているところに遭遇したんですよ。「シール帳流行っているの?」と聞いたら、「流行っているよ!」と。そこから、珍しいシールや人気で買えないシールがあることを教えてもらいました(笑)。最近は子どもだけでなく、大人のコミュニケーションツールにもなっているところを見ると、みんな対面でつながる“人のあたたかさ”を求めているような気がしますよね。「良いものが流行っているな~」と思いながら、シール交換を眺めていました。
とてもあたたかいリバイバルですよね。
伊藤さんは、劇中の彼らのように
夢を目指す仲間たちと語り合うことはありますか?
20代前半の頃は、同業の友人たちと仕事について熱く語り合っていたのですが、最近は地元の友人と語り合うことのほうが増えました。10代で出逢った仲間たちが頑張っている近況を聞いて、みんなで「こうなりたい」「こんなことがしたい」という言葉を交わす時間がものすごく刺激的で。同じ目線で育ち、横並びで歩んできて、互いに大変だった時期を一番近くで見てきた感覚があるからこそ、それぞれが頑張っている姿を見ると「僕も頑張らなきゃ」と、パワーをもらえるんです。

そこまで心を通わせられる
ご友人と出逢えたことも素敵な宝物ですね。
異業種の人々が集っていた
『テキサスハウス』を舞台とした本作にも、
どこか重なる部分もありそうです。
あると思います。僕自身、異業種の方とお話しするのがとても好きなんです。そうした交流のなかでこそ生まれるものや相乗効果があると思っているので。劇中では、さまざまな立場の人たちの結びつきがどのように描かれ、物語にどう影響してくるのか、いまから楽しみです。
演劇の聖地として愛される
『ザ・スズナリ』での公演。
エンタテイメントの歴史が刻まれた劇場で
本作を上演するというのも、また一興ですね。
かなり味がある劇場ですし、少しアメリカンな雰囲気も相まって本作にぴったりですよね。演劇の世界の良さが、劇場からあふれ出しているといいますか。お客様とステージとの距離が近いので、皆様の反応をダイレクトに受け取れるのもとても楽しみです。ただ、もともとのハウスダストアレルギーが発症しないかだけが心配です…(笑)。

Dear LANDOER読者
舞台『赤坂檜町テキサスハウス』
From 伊藤健太郎
いつも応援してくださる皆様から「舞台を観たい」というお声を多くいただいていたので、まずは「お待たせしました!」という気持ちです。今回は、実在した人物を演じさせていただくにあたって、これまでの芝居スタイルとはまた違ったアプローチに挑戦しようと考えています。劇場に足を運んでくださる方々には、新たな伊藤健太郎を見ていただけるはず。下北沢の『ザ・スズナリ』を皮切りに、大坂にも伺わせていただきます。ぜひ、楽しみにしていてください。


Staff Credit
カメラマン:YURIE PEPE
ヘアメイク:西岡達也(Leinwand)
スタイリスト:前田勇弥
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:Mo.et



