【佐藤寛太】 映画『軍艦少年』 新たな視界が広がった心に生き続けるキャラクター・海星との出逢い

佐藤寛太

映画『軍艦少年』
新たな視界が広がった
心に生き続けるキャラクター・海星との出逢い

瞳に映る世界を、ほんの少し自分で色づけて見てしまうのは「自分の世界しか知らない」からではなく、「いろんな世界を知り過ぎてしまった」から。大人になるにつれて物事の色彩を変えるフィルターの重なりは増えてゆく。視界をぼかし、見たくない本質から目を逸らすために。クリアに世界が見えていた頃のまま、真っ直ぐで不器用な少年であれたらいいのに。ありのままの姿で傷つき、もがき、転び、それでも何度だって立ち上がる軍艦少年のように。「海星と出逢った」そう、今回の役を表現した佐藤さん。一人の青年とひとりの少年の出逢いについて、たっぷりとお話をお聞きしました。

映画『軍艦少年』

映画『軍艦少年』
©2021『軍艦少年』制作委員会

-あらすじ-

長崎・軍艦島の見える街で暮らす、地元の高校に通う海星と小さなラーメン屋を営む玄海(加藤雅也)。最愛の母を亡くして喧嘩に明け暮れる息子と幼馴染の妻を亡くして酒に溺れる父は互いに反目し、いがみ合っていた。そんなある日、海星は父と母が生まれた軍艦島に二人の大切な物がある事を知る。一方、玄海は妻が祀られた仏壇に一通の知らない手紙がある事に気付くが…。

-坂本 海星-

佐藤寛太

『軍艦少年』× 佐藤寛太

原作が柳内大樹先生の漫画だとお聞きして検索をしたら、僕の知っていた『ギャングキング』と『セブン☆スター』が出てきたんです。すでにその2作品を読んでいたので、ある程度どういった物語を書かれる方なのか分かった状態で『軍艦少年』を読ませていただきました。読んでいる間、そして読み終えた後「この作品を自分が実写化できるんだ!」と嬉しく感じましたし、「この映画を公開まで守り抜きたい、走りぬきたい」と強く思ったのを覚えています。原作を読んで「海星に出逢えた!」と、海星との縁を強く感じましたね。

撮影は2年前だとお伺いしました。
公開前に自粛期間が来てしまった時は
どんな気持ちでしたか?

もともと決まっていた一年前の公開日から2回ほど公開日が変わったんです。公開延期中も諦めてはいなかったんですけど、どこか宙ぶらりんな気持ちはずっとあって…。本当に全身全霊を込めて一生懸命やらせていただいた作品なので、今回ちゃんと公開することができてすごく嬉しいです。

佐藤寛太

全身全霊、その通りの海星になっていました。
あそこまで殴り合いのシーンも
いままではなかったですよね。

そう。いままでで一番です(笑)。スタイリッシュでオシャレなアクションは『HiGH & LOW』などでやらせてもらっているんですけど、今回のような「かっこよく描いていないアクション」は初めてでした。実は『軍艦少年』のアクションチームが『HiGH & LOW』の時にもお世話になった方々で、全員顔見知りだったんです。おかげで、コミュニケーションを取りやすい環境で撮影をさせていただくことができました。個人的に母親を亡くした後の荒れてしまった海星は、喧嘩で人を殴れば殴るほどスッキリしない何かが泥のようにまとわりついて、その重さで沼に沈んでいってしまう少年だと思っていたので、気心知れたアクションチームと監督と一緒に「泥臭いアクションを作ろう」と、丁寧に話し合って喧嘩のシーンを作り上げていきました。実際に撮影で拳を当てたり当てられたりしながら、制作陣全員で作り上げた海星の体当たりのアクションは、この作品の見どころのひとつだと思います。

2年前の23歳の佐藤さんと、
いまの佐藤さんで変化はありますか?

23歳の時のほうが尖っていた気はします(笑)。いまは、あの時に比べるとまるくなった…という言い方があっているのかは分からないけれど(笑)。僕、以前読んだ二階堂ふみさんのインタビューで印象に残っている言葉があって。そのインタビューでは、「棘が出る」ことや「生意気」ということについてお話されていたんですけど、そこで仰っていた「棘って一本だけ出っ張っていると鋭く見えてしまうものだけれど、歳を重ねるにつれて、棘に覆われるにつれてどんどん人はまるくなる」という表現が僕にすごく響いたんです。「僕もそんな風に歳をとりたいな」と。いまの僕は23歳の時よりも、自分自身の考え方が変わったこともあって生きやすくなっている気がします。

佐藤寛太

佐藤寛太

棘が〈まるみ〉を作る、素敵な考え方ですね。
公開が決まって、
また改めて『軍艦少年』を拝見されましたか?

映画が完成した1年半前に観たのが最後です。いま改めて観ると恥ずかしいと思う…(笑)。前回観た時ですら、現場が終わって半年ほど経っていたので自分の演じた海星を観るのは何だか恥ずかしくて…(笑)。キャスト・スタッフ、来れる人みんなで集まって試写をしたんですけど、当たり前に僕がずっと出ているじゃないですか。自分のシーンを観て「ここ、もっとこうできたな」とも思うところもありましたし。ただ、撮影時の自分は本当に一生懸命で、そのことは自分自身が一番分かっているので一切後悔はしていないです。俳優の仕事を始めて5年、6年経った自分にこの役をいただけて、キャストやスタッフの皆さんとの出逢いがあったことは僕のひとつの財産になりましたし、形に残すことができて良かったと思っています。

柳内先生が佐藤さんの演じる海星を
「イメージ通りだった」と
コメントされていましたね。

嬉しいですよね。初めてお会いした時から「海星だね~」と仰ってくれていて。先生の描かれた原作の熱さに感動し、涙していた僕ら映画チームは「映画を観た人が僕らと同じ、もしくはそれ以上の感動を感じる作品」にできないのなら、実写化をする意味がないと思っていたんです。原作をリスペクトしているからこそ、先生がうなってくれるような作品を作りたくて。なので、先生に対して「映画、必ずいいものにするので!」と、挑む気持ちでお話をさせていただいていました。

佐藤寛太

演じた佐藤さんだからこそ話せる
『海星の紹介』をお願いします。

すごく俳優ぶったことを言うと、僕、自分の中に特に残っている作品って役を演じる期間が終わってもたまに思い出すことがあるんです。例えば、音楽劇『銀河鉄道の夜2020』(2020)のカムパネルラの役とか。舞台が終わってもカムパネルラ役が終わったとは思えなくて、いまでも「あ~、あのセリフの意味って本当はこんな意味なのかな」と、考えることがあるんですけど、今回の海星にはカムパネルラと似ている感覚があって。クランクアップして時間も経っているのに「海星だったら、もっと筋を通して生きるよな」と、ふと海星のことを思い出すことがあります。海星は身体も心も自分では大人だと思っている。でも社会はそれを認めてくれない。そんな矛盾を抱えながらも、正直な目を持っている自分の気持ちに素直な子なんです。その姿や生き方が気持ちよくてカッコいいと思いましたし、自分もそんな風に生きたいと思わせられました。

息子でありながら、
時に父親よりも大人びている海星。

父親役の加藤さんとの撮影はいかがでしたか?

雅也さんはすごくお話好きで、僕が聞いたことに関しては何でも答えてくれますし、聞いてないことでも話してくださる気さくな方。おかげですごくコミュニケーションがとりやすかったです。雅也さんが僕のことを息子・海星として扱ってくださったので、僕も自分のやりたいことを遠慮せずに伝えることができました。(撮影で)胸ぐらも自然と掴んでいましたし、良い意味で気を遣うことなく、思いっきり海星としていることができたのは雅也さんのおかげだと思います。そういった面では胸を借りさせていただいた、という感覚が強いですね。きっと僕のことを「生意気だな」と思うこともあったと思うんです(笑)。でも本当に可愛がってくださって、作品を一緒に作ってくださって、僕にとっては間違いなく“親父”でした。

佐藤寛太

加藤さんのお芝居のふり幅もすごかったです。

そうなんです。傍でお芝居を見せていただいて「すごく計算されているな」と思いました。最初と中盤と最後のお芝居をきちっと組み立てる方法をご自身の経験から身につけていかれたんだろうな、と。そのお芝居のやり方こそが、雅也さんのこれまでのキャリアや過去を物語っているように感じましたね。そして、僕も役者人生をかけて自分の芝居のやり方を見つけていくんだろうな、とも。いまの僕は作品に入る度に「これダメだ、こうしてみよう、これもダメだ」とトライ&エラーを繰り返しているんですけど、これからもそのやり方で芝居をしていくのかもしれないし、もしかしたらどこかで出逢った演出家さんなどの一言でガラッと芝居に対する価値観が変わるかもしれない。それがキャリアを重ねていくうえでの楽しみの一つになりました。

佐藤さんのお芝居には〈媚〉がないので
観ていて気持ちよく感じます。

出来るだけそういった芝居はやりたくないのが本心なんですけど、やっぱりどうしても現場でそれが求められる時もあって。シーン的には泣いて欲しい、でも僕としては「それは絶対にやらない方がいい」と思っていたり、セリフでも「それ説明しすぎじゃない?」みたいなモヤモヤがあったり…。そういった腑に落ちていない気持ちが自分の中にあると、演技になった時もすごく中途半端な感じになっちゃうんです。最近は、そういった自分の中での消化不良をきちんと消化して魅せていくことが「俳優の腕の見せ所なんだろうな」と思うようになり始めました。少ない材料でどれだけ美味しいご飯が作れるのか、そこに俳優の真価が問われるのかなと。

佐藤寛太

これからも
佐藤さんのいろんなお芝居が見るのが楽しみです。

独自の視点で景色を捉える佐藤さんですが
初めての軍艦島は、
佐藤さんの瞳にどう映りましたか?

軍艦島には本島から小舟で行くんですけど、島に近づくにつれてどんどんと大きくなる島を見て、海賊みたいに「うわぁ!でかい!上陸するぞ!」とテンションが上がったのを覚えています(笑)。でも、いざ島に降り立って進んでいくと、静かな感動がわき上がってくるんです。人のいた痕跡は目の前に確かにあるのに、空気が凪いでいる感じというか。動物の声もなく、押し寄せる波の音と瓦礫と廃墟のコンクリート、その上に青空が広がっていてトンビが飛んでいる…みたいな。世紀末じゃないですけど、誰も話さなかったらこの地球上に人間が僕らしかいないんじゃないか、と思うくらい不思議な場所でした。言葉だけでは説明できないものが確実にあるので、是非行ってみて欲しいと思います。

Dear
LANDOER読者 about『軍艦少年』

「目は口程に物を言う」、この言葉って本当にそうだと思っていて。海星は動きもセリフも多い役だったんですけど、彼の一番の真実は〈目〉に表れると意識して演じていました。海星が何を見据えているのかを常に第一に、何を起点に彼は怒り、どんな気持ちを持て余しているのかが〈目〉から全面的に伝わるよう意識したので、そこは注目していただきたいポイントのひとつです。そして、作品を観ながら海星に親近感を感じて欲しい。『軍艦少年』は少年漫画原作ならではのエンタメ性もあるけれど、それ以上に作中に生きている人物の一人ひとりが身近にいるようなタイプの人たちなんです。それは海星も含めて。誰に対しても本気で生き合い、時に傷つきながらも人の力を借りてまた立ち上がる、そんな風に仲間や大人たちに支えられて成長してゆく海星に近さを感じてもらえると思います。是非、海星の友達になったような気持ちで『軍艦少年』の世界にのめり込んでいただきたいです。強かった人間も弱くなる、そういった人間模様がものすごくリアルに描かれていて、どんどんと映画の展開に飲み込まれていくと思うので、是非映画館に足を運んでいただければと思います。

佐藤寛太

佐藤寛太(25)

さとう かんた

1996年6月16日生まれ。
一つひとつの〈好き〉の新芽に水を注ぎ、
自分自身に子供心と可能性を植樹し続けるDOER。

映画『軍艦少年』

22021年12月10日(金)より
ヒューマントラストシネマ渋谷他にて
全国ロードショー

出演:佐藤寛太 加藤雅也
   山口まゆ 濱田達臣/赤井英和 
   清水美沙/大塚寧々/
監督:Yuki Saito 脚本:眞武泰徳
原作:柳内大樹『軍艦少年』
   (講談社「ヤンマガKC」刊)

映画『軍艦少年』
©2021『軍艦少年』制作委員会

Staff Credit
カメラマン:田中丸善治 
ヘアメイク:Emiy
スタイリスト:平松正啓(Y’s C)
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:吉田彩華