【古田新太】劇団☆新感線『天號星』演劇は「そんなヤツいないだろ!」の大会でいいどんな〈嘘〉も、舞台上では〈現実〉になる

古田新太

劇団☆新感線『天號星』
演劇は「そんなヤツいないだろ!」の大会でいい
どんな〈嘘〉も、舞台上では〈現実〉になる

タイムスリップだって、入れ替わりだって、瞬間移動だって、すべてが〈現実〉になる場所、劇場。それはこの世に存在する最もフリーダムな空間。そんな演劇の世界で40年以上舞台に立ち、幾つものファンキーな〈現実〉を作りあげてきた役者・古田新太。自ら知らない人に関わりに行き、知らない世界を聞きに行き、未知の世界を開拓し続ける古田さんの瞳には、現代(いま)の演劇界はどのように映っているのか――。記念すべき劇団☆新感線43周年の歴史と新作『天號星』のお話とともに、古田さんの考える、現代演劇界の“現状”と“望み”をたっぷりとお伺いしてまいりました。

2023年劇団☆新感線 43周年興行・秋公演
いのうえ歌舞伎『天號星』

2023年劇団☆新感線 43周年興行・秋公演 いのうえ歌舞伎『天號星』

Introduction

劇団☆新感線がやらずして誰がやる!?
歌舞伎町で蘇る“いのうえ歌舞伎”!
“いのうえ歌舞伎”で魅せる
池波正太郎テイスト

1991年、新宿・歌舞伎町のど真ん中、新宿コマ劇場の地下にあったシアターアプルで、“いのうえ歌舞伎”『髑髏城の七人』を上演しました。そこから17年後の2008年、遂に天下の商業演劇の殿堂・新宿コマ劇場で『五右衛門ロック』を上演!劇団にとって夢のような約1ヶ月の公演を敢行するも、残念ながらその年の終わりに劇場は歴史に幕を閉じました。しかし2023年、再び歌舞伎町のど真ん中に劇場が誕生!その名も「THEATER MILANO-Za」。ならば新宿に根付いてきた新感線がこれを見過ごすわけにはいかない!ということで、2023年劇団☆新感線の最新作は、王道“いのうえ歌舞伎”を歌舞伎町のど真ん中で上演することに決定しました!今回、中島かずきが繰り出したのは、 “あっ”と驚く<入れ替わり>の物語。江戸の町で裏稼業に生きる人々の人情劇と奇想天外な“かずき節”が唸ります。そして、主宰・いのうえひでのりによる、ケレン味のある立ち回りたっぷりの王道“いのうえ歌舞伎”に、江戸情緒あふれる“池波正太郎風エッセンス”が加わり、これまでの“いのうえ歌舞伎”とは一味違う、新感線流時代活劇が誕生します!

-Story-

元禄、大江戸八百八町――。

口入れ屋の藤壺屋主人・半兵衛(古田新太)は、裏で世のため人のため、悪党を始末する〝引導屋〟の元締めとして知られている。だが、実のところは顔の怖さを買われただけの、気弱で温厚、虫も殺せぬ置きもの。表も裏も、真の元締めは女房のお伊勢なのだった。あるとき、金さえ積めば誰彼かまわず斬り殺す〝狂犬〟こと、はぐれ殺し屋の宵闇銀次(早乙女太一)が現れる。引導屋を潰し、裏稼業の独占を目論む黒刃組に依頼され、半兵衛を待ち伏せして斬ろうとする銀次。だがその瞬間、天號星の災いか、二人を雷が直撃! 半兵衛と銀次の身体が入れ替わってしまう。そこへ銀次を追って上州から人斬り朝吉(早乙女友貴)がやってくる。朝吉は「銀次の首は自分がもらう」と言い始め、銀次の身体に入った半兵衛は、命からがら逃げ出すはめに。一方、半兵衛の身体に入ったものの、引導屋の主人とは名ばかりと知って失望する銀次。だが自らの野望を叶えるため、この身体を利用することを思いつく……。天號星に翻弄されながら、己を生きようとする二人。その運命が交差する先にあるのは果たして――!

-藤壺屋半兵衛-

藤壺屋の主人。渡りの大工だったが訳あって藤壺屋に婿入り。
気弱で表も裏も稼業には関わらず、
〝神降ろし堂〟に出入りしている。

古田新太

今回は“闘う”舞台ですね。
師匠・古田さんと 早乙女兄弟の共演、注目です。

早乙女兄弟は小さい頃から『劇団☆新感線』のDVDを観て、自分たちの劇団でオイラたちの真似をしていたらしいですからね。太一も友貴も新感線デビューは17歳。オイラが劇団に入って40年、その間に新感線デビューした子たちが20代後半、30代になってきて「お手本です」や「師匠です」と、言われることも増えてきましたね。

ずっと成長を見てこられたんですね。
お2人に初めてお会いしたときのことを
覚えていらっしゃいますか?

初めて会ったのは、2人が新感線を観に来たとき。そのあと太一(2009年『蛮幽鬼』)、友貴(2014年『蒼の乱』)と出演が決まったのだけれど、当時の2人にとって“外の劇団に出る”というのは珍しいことでしたから、最初はものすごくおとなしくて。あとで聞いたら「めちゃくちゃ緊張していました」って(笑)。太一が20歳を超えた頃に「ご飯でも行けるかな」と思って、「おじさん、この劇場の上の居酒屋で飲んでいるからね」とだけ伝えたんです。そうしたら、居酒屋まで来たんですよ。完全に人見知りな子だと思っていたから、オイラも驚いちゃって。でも、それもあとで聞いたら「本当はお話ししたかったけれど、緊張していてずっと話しかけられませんでした…」と(笑)。

古田新太

幼い頃からの憧れの方ですものね。
お2人にとっては念願の
兄弟での『劇団☆新感線』出演ですが
今回の舞台について、どんなお話をされましたか?

去年、友貴と一緒に舞台をしているときに「来年は僕ら兄弟と一緒ですね!」と言われて「あぁ、そうか…」と(笑)。だって、早乙女兄弟は日本一立ち回りの速い兄弟ですから。加えて、ちーちゃん(山本千尋)は中国武術のチャンピオン。オイラとちーちゃんは役的に親子関係なので闘うことはないけれど、恐ろしい人たちが集まっていると思います。

しかも今回は早乙女太一さん演じる『宵闇銀次』
と入れ替わるという…

そう、これまた大変なんですよ。分かりやすい入れ替わりだったら、なんとでもなるのだけれど。(LANDOER「池波正太郎風『君の名は。』と書かれていましたね」)だったら『前前前世』だよ(笑)。それくらいやってくれたら分かりやすいのに…

古田新太

古田新太

(笑)。入れ替わる前と入れ替わった後で、
役の性質がまったく違うのも見どころですね。

太一は「銀次をどんなキャラクターにするんだろう」と思って本読みを見ていたけれど、本格的に稽古が始まって、役の行き先が見えてきて、演出家がどんなキャラクターを想像しているのかが掴めてから、彼の役のひな型が完成すると思いました。そしてそれができれば、オイラも太一の作った銀次に寄せていく作り方ができるな、と。(取材は7月下旬)もしかしたら演出家がふざけだすかもしれないし、オイラがふざけてそっちが採用になるかもしれないし。まだ、どうなるか分からないキャラクターですね。

『劇団☆新感線』はもちろんのこと、
当事者として、
昨今の演劇界を見てこられた古田さん。
演劇界において〈変化〉を感じる部分はありますか?

感じますよ、やっぱり。若い人たちの演劇を観に行くと〈破天荒〉なものがなくなって、みんなまとめるのが上手くなっているな、と。ある種「世界観が狭い」というか。昔のアングラって、もっと大風呂敷を広げて「そんなヤツはいないよ!」と、ツッコミたくなるような世界観の演劇をしていたのだけれど、最近は「いるいる」とか「あるある」と思うようなまとめ方をする人が増えている気がしますね。

確かに「共感できる」という言葉を
よく耳にするようになった気がします。

実は演劇っていうのはアニメよりも嘘がつきやすいものなんですよ。言葉もビジュアルもどうでもよくて、「寒い寒い!ここはエベレストか!」と言っちゃえば、もうそこはエベレストなわけで。でもアニメだと、ちゃんとエベレストを描かないと成立しない。演劇は劇空間では嘘がつき放題なわけだから、そういう〈破天荒〉な演劇を観たいな、と思いますね。最近の演劇はまとめ方は上手いのだけれど、人間関係の幅が狭くなっているのを感じるんです。「もっとお話飛んじゃっていいのに」と思うし、「“そんなヤツいないだろ!”と思うような人ばっかり出せばいいのに」と思います。

あらゆるエンタテインメント作品で、
“リアリティ”が増えている傾向を感じますね。

それはそれで時代の流れとして求められているものなのかもしれないけど、はっきり言って『劇団四季』も『宝塚』も、オイラたちの『劇団☆新感線』も「そんなヤツはいないだろ」の大会なわけですよ。そういった演劇を続けている劇団がいまでも残っていて、お客さんが入っていることを考えたら、小劇場のインディーズの劇団たちは「もっと乱暴なことをしてもいいのに」と、思っちゃいますね。

「そんなヤツいないだろ!」と思う作品のほうが、
観終わったあとに〈演劇〉として
記憶に残っている気がします。
ネットが発達したからこそ、
繋がる人の選択もできる。
それが世界観の幅にも
影響しているのかもしれないですね。

オイラ、よく「ひとり呑みをする」と言っているのですが、居酒屋で知り合った知らないおじさんとか、知らないお姉ちゃんとかとしゃべるのが面白いんですよ。芝居の話にならないし、自分の知らない世界の話も聞けるし。若い衆にはそうやって、いろんな人や世界にどんどん興味をもって欲しいな、と思います。

未知であり、新しい世界の開拓ですね。
常に新しい世界を切り拓いてきた『劇団☆新感線』。
40年の劇団活動のなかで、
あっと驚いたエピソードはありますか?

本多劇場に出だした頃、その頃はまだ先輩たちしかいなくて、先輩と演出家とご飯に行ったんです。そのとき、「うちの劇団、いままでみんな大目に見てくれていたけれど、ついに怒られるぞ」と思いあたることがあって。いまの衣装の竹田団吾と2人で「ついに…」と、怒られる覚悟で行ったら、まさかのめちゃくちゃ褒められたという(笑)。いのうえさん(いのうえひでのり)のホンだったのですが、当時、東京でオイラたちと仲良くしてくれていたいろんな劇団員たちに「ここまで話が繋がってなきゃ、さすがに怒られるよ」とあきれられるくらい、整合性のまったくない作品を上演していたんですよ。でも、その作品がめちゃくちゃウケて「すげえ!お前らすげえよ!」と話題になって。それがいままでで一番びっくりしたかな。演劇って、こっち(作り手)が思っていることとは違う反応がくるものなんだな、と実感した出来事でした。当時、そんな演劇をしている人がいなかったっていうのもあるとは思うんですけどね。その後、いまの『ナイロン100℃』とか『大人計画』とか、またむちゃくちゃな劇団たちが出てきて。そこからだんだんと静かな演劇になっていって、現代、って感じかな。

古田新太

まさに、当事者だからこそ分かる
演劇界の流れですね。

普通に生きていたら、大見得切ったり、飛んだり跳ねたりしないじゃない。演劇界のなかでそういった表現を排除していくムーブメントが起きた時代があって。そこを排除されてしまったらうちの劇団は手も足も出ないから、そのムーブメントが起こっているときも、ずっと飛んだり跳ねたり、歌ったり闘ったりしていました。それは「やっぱこっちのほうが面白いな」と思ってくれる人がまだいると思っていたから。だからこそ、いまの演劇界のなかにも「〈破天荒〉なことをしている後発はいないかな」と思うんですけどね。早乙女兄弟とか斗真(生田斗真)みたいに、一度うちの劇団に出演して「面白い!」と思って、「また出たいな」「こんなのやりたいな」と思ってくれる人が増えたらいいな、と思います。

Dear LANDOER読者
From 古田新太
2023年劇団☆新感線 43周年興行・秋公演
いのうえ歌舞伎『天號星』

今回のお芝居はすごく距離が近くて、場所も空間も飛ばないんです。その分、人格の入れ替わりっていう技はあるのだけれど、舞台は江戸のある町だけ。ただ、演劇である以上は「どうにかしてスペクタクルにもっていかなきゃな」と思っているので、この作品でどう新感線らしさを出していくのか、みんなで作っていこうと思います。

古田新太

古田新太

ふるた あらた

この世に潜む〈破天荒〉を、
演劇を通して現実世界に具現させる無類のDOER

2023年劇団☆新感線 43周年興行・秋公演 いのうえ歌舞伎『天號星』

2023年劇団☆新感線 43周年興行・秋公演
いのうえ歌舞伎『天號星』

THEATER MILANO-Za(東京):2023年9月14日(木)―10月21日(土)
COOL JAPAN OSAKA WWホール(大阪):2023年11月1日(水)—20日(月)

作:中島かずき 演出:いのうえひでのり
出演:古田新太 早乙女太一 早乙女友貴 /
   久保史緒里 高田聖子 粟根まこと 山本千尋 / 池田成志 他

Item Credit
シャツ¥25,300/パゴン
(問パゴン本店 TEL:075-322-2391)
キャップ¥5,170/VANSON LEATHERS
(問ネバーマインド TEL:03-3829-2130)

Staff Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:田中菜月
スタイリスト:渡邉圭祐
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:古里さおり