【高野洸】舞台『WAR BRIDE|アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン|』偏見を乗り越え、貫き通した「真実の愛」戦後80年の日本に彼女の勇気を繋いでゆく

高野洸

舞台『WAR BRIDE
|アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン|』
偏見を乗り越え、貫き通した「真実の愛」
戦後80年の日本に
彼女の勇気を繋いでゆく

偏見、差別、いつの時代も私たちが生きる世界には、人々が生み出す混沌が渦巻いている。そんな霧がかった視界のなかで、唯一光を放つ無意識で偉大な想い――【愛】。正直、愛でごはんは食べられないし、愛でお金は稼げない。けれど、人を強くする揺るぎない源は、紛れもなく【愛】だと思う。日本が戦後80年を迎える2025年。今日も世界では、あの頃と変わらず心苦しいことが起こっている。現代を生きる彼は「平和でありたい」という願いを胸に、1951年と向き合う覚悟を決めた。この作品が紡ぎ出す〈真実の愛〉と、壇上にほとばしる彼らの覚悟がそれぞれの心に届くとき、平和への祈りが劇場を包みこむはず。

舞台『WAR BRIDE
-アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』

舞台『WAR BRIDE -アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』

-Introduction-

戦後80年となる今年の夏 ―― 終戦直後の激動の時代に「真実の愛」で困難に立ち向かった実在の日本人女性の半生を舞台化。原案はドキュメンタリー映画『War Bride 91歳の戦争花嫁』。War Bride(戦争花嫁)とは、第二次世界大戦後、連合国軍占領下の日本に駐留していた兵士と結婚し海を渡った日本人女性のことを指し、アメリカに渡った戦争花嫁の数は約4万5千人といわれています。桂子・ハーンもその1人です。この舞台で桂子・ハーンを演じるのは奈緒。今年1月に渡米して桂子本人と対面し、これまでの人生の歩みを直にうかがいました。現在94歳である桂子の想いを胸に本作に挑みます。そして、桂子と出会い結婚する米兵・フランクを演じるのは約1年半のイギリス留学で演技力を磨いたウエンツ瑛士。帰国後は精力的に舞台出演を重ねるウエンツ瑛士が、戦争を乗り越えた愛の証を現代に伝えます。演出・脚本は第30回読売演劇大賞・大賞を受賞し、今最も旬な「劇団チョコレートケーキ」主宰の日澤雄介と古川健。史実をもとにした物語作りで高く評価され、国内にとどまらず海外からも大きな注目を集める2人が戦争の中にあった「真実の愛」の物語を描きます。

-あらすじ-

彼女の名前は桂子・ハーン。94歳。桂子は1951年、20歳の時に米軍の兵士と結婚し海を渡った。そして「戦争花嫁」と呼ばれた──。アメリカ兵と歩いているだけで娼婦と言われた時代に、何故、桂子は敵国だった軍人と結婚をしたのか? ひどい人種差別にあった時にどう乗り越えたのか? そこにあった幸せとは──。ひとりのジャーナリストが桂子の人生を辿る。「私は日本を誇りにできる、そしてアメリカが誇ってくれるような女性になりたかった」。激動の時代を生きた桂子の人生・生き様・家族・苦悩などを当時の世相と共に描いた真実の愛の物語。

-ジャーナリスト-

舞台『WAR BRIDE -アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』

紛争地域を取材してきたフリージャーナリスト。
悲惨な現実を目の当たりにし活力を失っていたところ、
ある編集者から
「違った視点から戦争を取材してみないか」と勧められる。

舞台『WAR BRIDE
-アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』
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高野洸

まず、ドキュメンタリーが原案になっていると伺って、「どんなふうに物語が展開されていくんだろう」「どのように(原案を)変化させて、舞台作品として形にしていくのかな」と、すごく興味をもちました。実際に台本を読むまではあまり想像がつかなかったのですが、読ませていただくと「あ、こういうふうに舞台として魅せていくんだ!」と、具体的なイメージが湧いてきて。僕が演じる“ジャーナリスト”は、本作のストーリーテラーのような立ち位置でもあるので、“伝える役目”を胸に、一つひとつ大切に届けられるよう、精一杯取り組みたいと思います。

原案となるドキュメンタリー
『War Bride 91歳の戦争花嫁』をご覧になったときの
率直な感想をお聞かせください

ドキュメンタリーを観て、自分のなかにも無意識のうちに“偏見のフィルター”があったことに気づかされました。桂子・ハーンさんは、誤解や差別の目を向けられながらも〈真実の愛〉を見つけ、勇敢に困難を乗り越えた方。戦時中や戦後の、「アメリカは敵国」という意識が根強かった社会にあっても、「人と人との関係であって、敵だと思ったことは一度もない」と本心からおっしゃっていたんです。もちろん僕も「偏見をもたずに生きていきたい」とは思っているものの、いざ僕が彼女と同じように心ない罵倒や皮肉を投げつけられる境遇にいたら、絶対に同じ考えにはいたっていなかっただろうな、と。だからこそ彼女の言葉が深く沁みましたし、作品に描かれている「自分の芯を貫き通す力」が、〈未来〉を明るく照らしてくれるのではないかと感じました。

高野洸

本作のタイトルともなる
「戦争花嫁」という言葉はもともとご存知でしたか?

正直これまでに聞いたことがなく、ドキュメンタリー映画を拝見して初めて「戦争花嫁」という言葉の意味を知りました。それと同時に、当時の深刻な状況や人々の心情、葛藤にも触れることができて。実をいうと僕自身、いままで“戦争”という言葉自体と距離を置いてきたところがあるんです。「平和でありたい」と願うが故に、触れるとつらく悲しい気持ちになってしまう“戦争”をあまり直視できないでいたといいますか。だからこそ、今回作品を通して、このテーマと真正面から向き合う機会をいただけたことを、とてもありがたく感じています。これから「語り継ぐ立場」になる者として、当時の出来事を深く学び、自分のなかにしっかりと落とし込んだうえで、観てくださる皆さんに届けることができるように演じていきたいと思います。

作中でも、語り継ぐべく動く役柄だと思いますが、
“ジャーナリスト”という役を
どのように築こうと思われていますか?

今回、“ジャーナリスト”役を演じるにあたっては、「なぜ彼は戦場へ足を運び、取材をするのか」「戦場を目の当たりにして何を感じたのか」という背景や心情を、丁寧に構築して挑みたいと考えています。そしてそれを基盤に、僕自身がドキュメンタリーや台本から受け取った〈愛〉と〈力強さ〉を、舞台を観てくださる方々にしっかりと伝えていきたいなと。作中で物語を繋ぎながら、客席まで温度を届ける“潤滑油”のような存在になれたらと思っています。

高野洸

高野洸

取材対象である桂子・ハーンさんとの距離感は、
どのように表現していかれるおつもりでしょうか?

まさにそこは、僕自身も楽しみにしている部分です。“ジャーナリスト”は、実際に取材を行いながら、回想シーンと現代を繋ぐ人物としての側面ももっているので、時間軸の移り変わりをいかに自然な流れで表現するのか、という演出面に大きく関わってくる役なんです。観ている方に「あ、時間が変わったんだ!」と分かりやすく伝えつつ、違和感のないリアルな表現を追求していきたいと思っています。

俳優・アーティストとして活躍する高野さんですが、
“ジャーナリスト”という職業や
この役に共感するところはありますか?

「何かの役に立ちたい」「何かを伝えたい」という想いを抱いて、自分を信じて道を切り拓いてゆく…そういった表現に対する姿勢は、役者として共感できる気がします。アーティストとしては「何を表現したいのか」を自分で探し、カタチにしてゆくクリエイティブな部分が重なるのかな、と。ただ一つだけ、明らかに違うと思うのは〈勇気〉の部分。戦場ジャーナリストの方々は、強い勇気と行動力をもって危険が伴う戦場に向かわれていると思うんです。これが自分だったら―…と考えると、そこまでの一歩は踏み出せないかもしれない。だからこそ、稽古がはじまるまでに“ジャーナリスト”というお仕事についてしっかりと学んで、実際に現場で活動されている方々への敬意を忘れずに、誠実に役と向き合っていけたらと思います。

高野洸

高野さんご自身が、
役者やアーティストとして
大切にしていることはありますか?

僕が大切にしているのは“自分であることの意味”ですかね。役者は、たとえ役を演じていたとしても自然と個性が滲み出てくる職業ですし、アーティストも個性を追求してなんぼだと思っているので。僕の場合は、4歳からダンスを習わせてくれた親への感謝が表現にも活きているように感じます。そういった、自分だけの経験や感覚を大切にしながら、アイデンティティを探し続けること。それが、僕が役者やアーティストをするうえで一番大切にしていることかもしれません。

今までにやってきた舞台作品と、
ドキュメンタリーを原案とした今回の舞台とでは、
心持ちに違いはありますか?

『劇団チョコレートケーキ』さんとご一緒するのも、ドキュメンタリーを原案とした舞台に挑むのも、ストレートプレイへの出演もこれまでにない経験なので、変なプライドをもたずに、初心に帰るような気持ちで向き合っていきたいと思っています。その先で、高野洸としても新しい何かを見つけられたらな、と。ドキュメンタリーの舞台化という斬新な作品になっているので、観てくださる皆さんにも物語の進め方に新鮮さを感じていただけるはずです。ぜひ、たくさんの方に観ていただきたいと思います。

高野洸

これまでとは違う環境での
高野さんの挑戦、楽しみです。
劇団チョコレートケーキさんには、
どのような印象をお持ちですか?

先日、劇団チョコレートケーキさんの舞台を観劇させていただいたのですが、そのテンポ感やリアリティに圧倒されました。作品の世界に客席をグッと没入させる役者の皆さんの力を感じて、これから自分がその空間の一員になるのだと思うと、身が引き締まる思いです。一方で、演出家の方や劇団員の皆さんのお話を伺いながら、そして、奈緒さんやウエンツ瑛士さんといった共演者の皆さんから多くの刺激をいただきながらお稽古に参加できるのが、今からとても楽しみで。演出家の日澤さんとは、まだあまり深い話ができていないので、これから稽古場でじっくりとコミュニケーションをとっていけたらと思っています。(※取材は5月初旬)

桂子・ハーンを演じる奈緒さん、
米兵・フランクを演じるウエンツ瑛士さんとの
ご共演について期待していることはありますか?

奈緒さんはお芝居がとてつもなくお上手で尊敬している方なので、今回一緒にお芝居できることが本当に嬉しいです。稽古期間に、どのようなアプローチで芝居をつくっていかれるのかを間近で見て、学ばせていただけるのも特別な経験になると思っています。ウエンツ瑛士さんは、僕が芸能界デビューした番組である『天才てれびくん(NHK)』シリーズの先輩。ご挨拶させていただいたときに、てれび戦士の後輩であることをお伝えしたら、「君も芸能生活が長いんだね!」と優しくお話ししてくださって。お会いできて嬉しかったですし、とても心強く感じました。今はまだお二人ともご挨拶した程度ですが、これから稽古を通して距離を縮めていけたら嬉しいなと思っています。

高野洸

今回は久しぶりの舞台出演ですね。
高野さんが思う「舞台の魅力」はなんですか?

舞台の魅力は、やはり〈生の熱量〉を届けられる素晴らしさだと思います。長い期間をかけて一つの役に向き合うことで、自然と役への思い入れも深まっていきますし、舞台上で役者さん同士の想像を超えた化学反応が繰り広げられるのも好きで。そんな、“舞台ならではの爆発力”を再び体感できることがとても楽しみです。また、カンパニーの皆さんと濃密な時間を過ごすことができるのも舞台の魅力。稽古を重ねながら、一緒に一歩ずつ作品をつくりあげて、自然と仲良くなっていけたら嬉しいです。あとは、地方公演に行けるのも楽しみですね。

この作品では、〈真実の愛〉を貫くことで
差別や偏見を乗り越えた女性の生き方が描かれます。
舞台を通じてどんな想いを届けたいですか?

ドキュメンタリーを観て、僕がもっとも強く心を動かされたのは、桂子さんの〈芯の強さ〉でした。自分の今の環境と重ねたときに「生ぬるいことは言っていられない」「もっと力強く生きていこう」と、さらに強く背中を押された気がして。桂子さんは〈真実の愛〉を貫いたからこそ、誤解や偏見の目にさらされてしまった方。でも、そんな状況のなかでも自分の愛を疑わず、まっすぐに信じ続ける姿が本当にかっこいいんです。この作品は「愛」という言葉の重みを真正面から描いている作品なので、きっと観てくださる方にも、それがしっかりと伝わるはず。そして何より僕自身、桂子さんの明るさと前向きさに大きな勇気をもらいました。舞台を通して、そんな彼女の生き方や信念が繋がっていけばいいなと思います。

高野洸

Dear LANDOER読者
舞台『WAR BRIDE
-アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』
From 高野洸

まずは、ドキュメンタリーが舞台となる斬新さを、リアルな会話劇とともに体感していただきたいです。そして、物語を通して「戦争花嫁」という言葉を深く知っていただけたらな、と。まるで、桂子さんの人生が目の前に実在しているような感覚を味わいながら、彼女の力強さや勇気を通して、何か“自分にとって良いもの”を持ち帰っていただけたら嬉しいです。

高野洸

高野 洸

たかの あきら

7月22日生まれ。
〈洸洋〉たる芸事を自身に沁み込ませ、
ゆらめきごとに表情を変える自在なるDOER

舞台『WAR BRIDE -アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』

舞台『WAR BRIDE
-アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』

東京:よみうり大手町ホール
2025年8月5日(火)〜27日(水)
兵庫:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
2025年9月6日(土)・7日(日)
福岡:久留米シティプラザ ザ・グランドホール
2025年9月13日(土)・14日(日)
原案「War Bride 91歳の戦争花嫁」(TBSテレビ)
脚本:古川健(劇団チョコレートケーキ)
演出:日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)
出演:奈緒 ウエンツ瑛士
   高野洸 川島鈴遥 渡邉蒼 福山絢水
   牧田哲也 岡本篤 占部房子
   山口馬木也

Staff Credit
カメラマン:YURIE PEPE
ヘアメイク:m.o.
スタイリスト:村井素良
インタビュー・記事:満斗りょう、Suzu
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