映画『窓辺にて』
「どうして私のことが分かるの?」
たくさんの〈共感〉が散りばめられた
私たちの〝ありふれた物語〟
好きな人に「好きです」と言いたい。愛している人に「愛しています」を届けたい。心では分かっているはずの言葉たちが、どんどんと無言で放たれていってしまう日々。立ち止まり、見つめ合った時に「あ、やっぱり好きなんだ」と想いが溢れることもあれば、「あれ、何故だろう、愛ってなんだろう」と疑問が生じることもある。運命とタイミングが交わったハッピーエンドのその先には、どんなエンドロールが待っているのか。これは、結ばれた2人の“ありふれた”その後のお話。はじまりは、窓辺から――
映画『窓辺にて』
-Introduction-
話題作を次々と連発する稀代の映画監督・今泉力哉。今泉監督と言えば、一筋縄ではいかない繊細な恋人たちの心の機微を描き、その恋愛観が熱烈に支持されてきた。今泉監督が描くオリジナルラブストーリーには定評があり、あらゆる映画ファンが心待ちにしている。そんな今泉監督の17作目となる完全オリジナル作品『窓辺にて』は、今泉組に初参加となる唯一無二の存在感を放ち観客を魅了し続ける稲垣吾郎を迎え、稲垣は妻について「ある悩み」を持つフリーライター市川茂巳を演じる。今泉監督が書き上げた巧みな会話劇と、稲垣により繊細に構築された演技とスクリーンで際立つ華やかな存在感。さらに今泉ワールドの特徴でもある〈等身大の恋愛模様〉に加え、これまで以上に〈好きという感情そのもの〉について深く掘り下げた、美くてちょっぴり可笑しい大人のラブストーリーとなった。
-Story-
フリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)は、編集者である妻・紗衣(中村ゆり)が担当している売れっ子小説家と浮気しているのを知っている。しかし、それを妻には言えずにいた。また、浮気を知った時に自分の中に芽生えたある感情についても悩んでいた。ある日、とある文学賞の授賞式で出会った高校生作家・久保留亜(玉城ティナ)の受賞作「ラ・フランス」の内容に惹かれた市川は、久保にその小説にはモデルがいるのかと尋ねる。いるのであれば会わせてほしい、と…。
-市川紗衣-
フリーライターの市川茂巳の妻。
売れっ子小説家・荒川円(佐々木詩音)の編集者で、
彼と浮気をしている。
『窓辺にて』×中村ゆり
以前から今泉さん(今泉力哉監督)の作品は拝見していたのですが、個人的に若者のお話が多いイメージがあったんです。今回、自分が年齢を重ねたタイミングで、今泉さんの描かれる“大人の物語”に参加できることにご縁を感じて嬉しくなりました。
オリジナル作品である『窓辺にて』。
初めて脚本を読まれた時、どう感じられましたか?
率直にすごく秀逸で良い本だと思いました。自分に響く言葉がいくつもありましたし、自分の役だけでなく、いろいろな登場人物の立場に立ってみても響く部分が多かったです。小説などを読んでいる時に「どうして私の気持ちを知っているの?」と思うような表現がされていることがあると思うのですが、今泉さんの作品にはそういった響きがたくさん描かれているんです。
分かります。
今泉監督の作品には、人の現実的な姿が
至るところに含まれていますよね。
私、きっと日常生活には“ちぐはぐ”がありふれている気がするんです。みんな、表で語っていることと思っていることがちぐはぐなことのほうが多いんじゃないかな、と。そういった姿が作中に丁寧に描かれているので、 作品の世界に“身近さ”を感じることができるんですよね。
市川紗衣 × 中村ゆり
旦那さんのことを愛して始まった夫婦生活だったはずなのに、浮気をするようになってしまった紗衣。けれど私は、彼女は決して快楽だけで浮気をしているわけではないと思っていて。紗衣って奔放なわけではないけれど自立して生きていて、ある種、現代っぽい思想で生きている女性だと思うんです。もちろん苦悩も感じていると思いますしね。ただあの夫婦は、お互い自立している割にどちらも自分の気持ちを言えない人たちなので、どちらかがもっとグイグイ突っ込んでいけるような人だったら、違う道ができていたのかな、と思います。
作中で茂巳が放った
「期待とか理解っていうのは時には残酷だ」
というセリフ。
たくさんの期待を寄せられる場所にいる中村さんは
普段、〈期待〉とどのように付き合っていますか?
年齢を重ねて自分の経験値が上がれば上がるほど、プレッシャーを感じるようになったな、と思います。でも、それはもう仕方がないこと。きっと大人になるにつれて、仕事の重みを感じるようになったのだと考えるようにしています。とは言え、仕事をするからには「これでいいや」ではなく、「ここまでは絶対に持っていかなければいけない」というラインには到達しなければならない。そのために感じるプレッシャーに関しては「受けなければならないプレッシャーだ」と割り切って受け止めて、とにかくしっかり準備をします。本当は怠けたい時もあるけれど、自分のために準備をする。それが、唯一自分が出来るプレッシャーの軽減方法だと思っています。
それは年齢と経験を重ねるうちに
自然と見出したものですか?
そうですね。若い頃よりも準備をするようになったと思います。仕事って、私たちの仕事だけでなくどんな職業の方でも必ずプレッシャーがあると思うんです。だからこそ、“自分のための準備”ともうひとつ、自分にご褒美を作ることをおすすめしたい。最近私も自分へのご褒美を作ることを意識して「これを頑張ったら、自分の気持ちいいこと・楽しいことをするんだ!」と、定期的にご褒美をあげるようにしています。仕事から離れて、ただただ楽しいと感じられる時間を作って自分にメリハリを持たせてあげる。それによって、より仕事を「頑張ろう!」と思えるんです。厳しくするところと、激甘になるところ、そのバランスを自分でちゃんと考えるようになりましたね。
自分軸で評価するって
大切なことですよね。
周りの人の評価を軸にしていても、思っている通りの評価が得られないことのほうが多いじゃないですか。「ここでこんなに褒められるんだ!」「あれ、私これすごく頑張ったんだけど、これぐらいか…」みたいな(笑)。だからこそ、どんな仕事も一生懸命やるけれど、過度に期待をしないようにしています。「なるようにしかならないよね」と、心を軽くして。一つの評価が大きく何かを変えるとは思っていないので、一つひとつの仕事を一生懸命して「褒められたら嬉しいな」ぐらいの気楽さを大切にしています。
入念に準備をされるとおっしゃっていましたが、
『窓辺にて』に関しては、
どういった準備をされましたか?
今泉さんの作品って、どこか芝居をしたらダメなところがあるんです。役を作りこむことよりも、今泉さんの伝えたいことが描かれている脚本を理解することが一番大切だと思ったので、『窓辺にて』の世界に自分がどれほどナチュラルな状態で居られるか、を考えていました。テレビドラマなどをやっていると、“見せる芝居”を求められることがあるのですが、今回はそういった芝居がなるべく出てこないように抑えることを意識して。あとは、撮影スタイルとして長回しをされるとお伺いしていたので、どこの場面から回されても大丈夫なように徹底的にセリフを覚えて準備しました。
「芝居をしない」今泉さんの作品だからこそ、
台本を読んでいる時と、撮影をしている時とで
気持ちの変化が生まれそうだと思いました。
旦那さんとの長回しのシーンで、紗衣が初めて浮気について言及される場面があるのですが、実はその時、泣くと思っていなかったんです。紗衣として旦那さんと対峙した時に「あぁ、一番好きな人に本当のことを言えなかったんだな」という想いが溢れてきて、「私、この人が好きだったんだな」と思わず泣いてしまいました。稲垣さんのお芝居の受け答えも、私のことをすごく揺らしてくださって。意図していないお芝居が出てきたのも、今泉さんがあのシーンを長回しにした意味なのだと感じました。
監督・今泉力哉 × 役者・中村ゆり
今泉さんはすごく穏やかで繊細な方だけれど、自分のこだわりを貫き通す方だという印象があります。やっぱりご自身で本を書かれているので、役者としても監督の言葉に説得力を感じるんです。物語の作り手である監督がそこにいて答えがここにあるので、すごくやりやすい環境でお芝居をさせていただきました。ただ、きっちり演出をされるタイプではないので、役者を泳がせる監督だとも思います(笑)。
Dear LANDOER読者
From 中村ゆり
映画『窓辺にて』
この映画は本当に何気ないお話の積み重ねで、ありふれている世界のなかにある“その人にしか分からない感情”などのスパイスが描かれている作品だと思います。それでいて、今泉さんの作品には「それぞれでいいんだよ」と寄り添ってくださる優しさがあるので、どんな方にもきっとひとつ染みるようなエピソードがあるんじゃないかな、と。いろいろな世代の話が詰まった作品、多くの方に観ていただけたら嬉しいです。
映画『窓辺にて』
2022年11月4日(金)公開
出演:稲垣吾郎 中村ゆり 玉城ティナ
若葉竜也 志田未来 倉 悠貴 穂志もえか 佐々木詩音
/齊藤陽一郎 松金よね子
監督・脚本:今泉力哉
Staff Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:藤田響子
スタイリスト:道券芳恵
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:吉田彩華