ドラマ『恋と友情のあいだで』
〝伝えられなかった想い〟の交差点を描く
プロデューサー×役者SP対談
友達でもない、恋人でもない、2つの間に流れる関係が今日も静かに誰かの中に存在している。「あ、これ、あの人が好きだったな」「この話、一緒にしたな」何気なく残酷に舞い戻ってくる記憶の断片に心を揺さぶられている、たくさんの誰かたち。どれだけ時が経とうとも、住む場所が変わろうとも、実っていない想いほど心の隅に張り付いて剥がれない。いま、目の前にいる貴方を大事にしたいと望みながら、あの日愛したあの人に想いを馳せてしまう。ジレンマの中を泳ぐ誰かの“素直”が、どうか物語の中で昇華されますように——
対談相手:田淵麻子プロデューサー(フジテレビ)
2010年入社、編成制作局ドラマ制作センターを経て、コンテンツ事業部にてCS放送・FOD・海外共同制作等地上波放送外のドラマを制作。主な作品に『記憶』、『シンデレラはオンライン中!』『私の正しいお兄ちゃん』ほか
フジテレビTWO×ひかりTV共同制作ドラマ
『恋と友情のあいだで』
<里奈Ver.>
―あの頃の二人を、君はまだ覚えてる…?誰もが羨む生活、裕福な恋人。不満なんて何もない。でも―。幸せに生きてるはずなのに、私の心の奥には、青春時代を共に過ごした同級生・廉が常に眠っていた。人ごみに流され、都会に染まりながらも、力強く、そして少し不器用に人生を歩む美貌の女・里奈。これは、悪戯に交差する二人の男女の人生を、リアルに描いた“女サイド”のストーリー。
<廉Ver.>
―なぜ今、思い出すのだろう?若く、それゆえ傲慢だった同級生・相沢里奈の、目を声を、ぬくもりを。あの頃の僕らは未完成で、足りない何かを探しては傷つき、欲することに夢中だった。だから気づかずにいたんだ。ずっとそばにあった、かけがえのないものに。持ち前の器用さと明るい性格で、比較的イージーに人生の駒を進めていく一条廉。しかし東京は、平穏な幸せを簡単に許してくれない。運命の悪戯が、二人の男女の人生を交差させる。これは、“男サイド”を描いたストーリー。
今回、『恋と友情のあいだで』を映像化作品として
選ばれた理由は?
田淵麻子P(以下、田淵P):もともとこの作品が東京カレンダーに連載されていたのは知っていたんです。テーマとして「良い」と断言できる話ではないけれど、身近に存在しうる感情の話だと思っていて。大袈裟すぎず、少し憧れてしまうような要素を持つこの作品を映像化したら面白そうだと思ったんですよね。そう思っていたタイミングで、まだ原作の映像化のチャンスがあることをお聞きして「是非、やりたい」と思い企画を出し、今回の映像化に繋がりました。
一条廉役を泉澤さんに
オファーをした理由を教えてください。
田淵P:泉澤さんにお願いした理由は2つあって、一つめは、以前『記憶』(2018)という作品でご一緒した時に彼のお芝居の素晴らしさに惹きつけられて「またご一緒したいな」と思っていたから。当時は確か24歳ぐらいでフレッシュなイメージが強かったんですよ。私の中の泉澤さんのイメージがフレッシュだからこそ、廉のようなイメージの違う役でご一緒してみたかったんです。あともう一つは、今作は“不倫”の話なので原作をドラマにする段階でいくら内容をマイルドしたとしても、廉と里奈の2人がワガママな人間に見えてしまいやすい物語になると思っていて。その中でも、どちらかというと廉のほうがワガママで嫌な男に見えてしまいそうだと思った時に、泉澤さんのようにご本人の人柄自体が愛されるような方にお願いしたかったんですよね。
泉澤祐希(以下、泉澤):すごく嬉しいです(笑)。「イメージと違う」とおっしゃっていたように、僕にとってもいままで演じたことのないような役柄だったので、お話を頂いた時は「本当に僕でいいのかな」と思ったのを覚えています。でもプロデューサーが田淵さんだと伺ったので「じゃあ、ちょっと踏み出してやってみます」と(笑)。初めて脚本を読んだ時、すごく面白かったです。
田淵P:ありがとうございます。
泉澤:それも相まってそそられた、と言いますか。脚本を読んで「こんな作品をやってみたい」と思ったので…ありがとうございました(笑)。
田淵P:いえいえ、こちらこそありがとうございました(笑)。
今回のドラマは5話・5話で
廉と里奈で視点が変わるという斬新な作りですが
それは企画の段階から決められていたんですか?
田淵P:そうですね。原作自体も里奈と廉の両サイドからストーリーを描いている作品なので、そこはドラマにした時も残しておきたくて。とは言え、実際にドラマでこういった作りを実現するのってすごく難しいんですよ。今回のように同じ時系列で進む場合は特に。下手すると同じシーンばかりになってしまうので、一つのドラマ内で同じ場面を重ねていくことってあまりしないんです。ただ、この作品に関しては「両サイドを描く形の方が絶対に面白い」と最初から思っていたこともあり、企画の段階からその構成は変わりませんでした。
制作していくうえでも難しい形式だったんですね。
泉澤さんは両サイドを描いている作品がゆえの
撮影の難しさはありましたか?
泉澤:台本を常にみんなが3冊持っている状態ですかね。難しいというより、非常に珍しいと思います(笑)。
田淵P:そうそう。台本が里奈・廉の両サイド分とプラスで被っているシーンをまとめた本が1冊あるんですよ。同じシーンでもそれぞれが抱いている心情が違うので、それを全部まとめた撮影台本みたいなものなんですけど。現場では常に3冊を使い回して撮影するんです。
泉澤:すごく手間のかかる台本ですよね(笑)。重たいんですよ。
田淵P:あははは(笑)。重たい(笑)。それぞれの解釈は里奈と廉の各台本で読みつつ、撮影はその中間である撮影台本で進めていく、という…やりにくい形…(笑)。
泉澤さんご自身は廉の台本を軸として
撮影に臨んでいましたか?
泉澤:それはもちろん。ただ、基本的には廉の台本しか見ていなかったんですけど、所々どうしても里奈の部分も気になって見ちゃうんですよね(笑)。この時、廉はこう思っているけど里奈はどう思っていたんだろう…みたいな(笑)。演じている僕ですら相手の気持ちが気になってしまうので、視聴者の方はもっと両者のことを気になりながら観ていただけると思います。それこそ里奈サイドで描かれていたストーリーが廉サイドに回ってきたりもするので、両サイドを続けて観てもらうことで、よりストーリーの深みを感じていただけるんじゃないかな、と。
田淵P:一応、一方の物語だけでも内容は把握できる形にしつつも、片方だけでは完成しない台本にはしてあるので、片方だけを観ると「あれ、なんでだろう?」と思う箇所が所々出てくると思います。それは両サイド観ていただきたくて、わざとそういった作りにしているんです(笑)。是非、両サイドの物語を観ていただきたいですね。
台本を拝読して
男女の答え合わせをしているような
作品だと思いました。
互いが見えない里奈と廉のうち、
お二人は廉にどんな想いを抱きましたか?
泉澤:いや、もう客観的に見たらクズ男ですね。
田淵P:間違いない(笑)。
泉澤:やること全部が突拍子もないことばかりなので、僕自身は廉の言動に違和感を抱えっぱなしなんです。でもその違和感を抱えながら演じるのも案外面白いかも、と思って撮影に臨んでいます(取材は1月下旬)(笑)。今回はモノローグがすごく多いので、モノローグが入る分の間をとったり表現をしたりする場面が結構あるんですけど、そのモノローグを聞く度に「廉、そんなことをいま思ってるの?」や「廉、やばいな」と思うんですよね(笑)。
あはは(笑)。
田淵さんから見た廉はどんな男の子でしたか?
田淵P:本当におっしゃる通りクズ野郎で(笑)。ただ、台本を読んでいると本当にしょうもない人だと思う反面、なぜか憎めない部分もあるんですよね。もし自分が里奈だったとしたら「ここまで想ってくれる人がいたら嬉しいだろうな」と思ってしまうんです。そんな風に思いながら観ていただけるように作ったつもりです。
そんな廉を演じる泉澤さんに
田淵さんがお願いしたことは何かありますか?
田淵P:ないよ、ないない。大丈夫だもん。
泉澤:えぇ(笑)!結構必死で頑張っていますよ(笑)?
田淵P:あはは(笑)。さっきもおっしゃっていたように台本をお渡しした時に「台本面白かったです」と言ってくれましたし、廉の気持ちも「分かるわけではないけど、そういう気持ちってあるよね」と理解してくれていたので大丈夫だな、と(笑)。
泉澤:あはは (笑)。でも確かに、不思議と廉に共感できるんですよ。いや、大前提としてめちゃくちゃクズなんですけど、でもその気持ちって少なからず人の中にあるものだと思っていて。ただそれを行動に移すか移さないかの違いなんだろうな、と。男なら「一度は廉と同じ気持ちになったことがあるだろう」と思ってしまうような場面がいろんなところにまぶされていて、廉はそれを受けて自分の気持ちに素直に行動に移してくれるから気持ちいい、みたいな(笑)。
田淵P:自分の代わりにやってくれる感じみたいな、ね。
泉澤:そうなんです(笑)。
田淵P、「疑似恋愛として楽しんでください」と
コメントを出されていましたよね。
田淵P:そうそう。これをみんなに「やろう」とはとても言えないけど、きっとみんな一度は友達にも恋人にも言えない廉と里奈のような関係や想いを持ったことがあると思うんです。「ここでこう言っていたら違っていたのにな」みたいな後悔もきっとどこかしらにあるはずで。それを里奈と廉が代わりにやってくれるので、疑似恋愛として楽しんでいただきたいと思います。
疑似だからこそ楽しめる恋愛ですもんね。
とは言え、里奈と廉が
許されないことしているのは事実。
台本を作るうえで2人が“悪”に見えないように
意識したところはどこですか?
田淵P:全体的な部分でいうと、原作よりもモノローグを柔らかくしています。あとは美月の描き方かな。美月って明らかになにも悪いことをしていないんですよ。でも、人の言葉が正しすぎて隙間がないと息苦しい時ってあるじゃないですか。
LANDOER:分かります。
田淵P:その人が言っていることは全部正しいし、全部合っているんだけど「でも人間ってそれだけじゃないじゃん!」と思ってしまうようなこと。あえて美月にはそういった人間になってもらって、廉が「正しいことばかり言われちゃったら精神的にきついよ…」と、違う場所に癒しを求めるキッカケとして彼女を作ろうと意識しましたね。
なるほど。逃げる先の余白を里奈にしたんですね。
役として里奈と美月と対峙された泉澤さんですが、
泉澤さんから2人はどのように見えていましたか?
泉澤:まず100%悪いのは廉(笑)。美月は本当に何も悪くないし、可哀想でしかないんですよ。でもそんな美月を差し置いて、最終的に“純愛”という言葉で里奈を選ぶ廉。その物語を人が観たら「これは間違いだ」と言えるんですけど、やっている本人はそれを正義だと思ってやっているんですよね。だからこそ、廉として演じるうえでは2人への感情に違和感を持たないようにやろうとは意識しています。「里奈のことは大好き、でも美月のことも好き。だけどやっぱり里奈がいたら里奈にいっちゃうよね」みたいな(笑)。その塩梅をMAXに意識しつつ演じていますね。
LANDOER:「どちらも好き」という気持ちは本人にしか正義として語れない部分がありますもんね。
田淵P:やっぱり人は臆病だから、里奈が来てくれるなら行くけど、俺から行くのは怖い…みたいな気持ちもあるだろうし。
泉澤:そうなんですよね。
Dear LANDOER読者
about『恋と友情のあいだで』
From 田淵麻子プロデューサー
里奈と廉、そして2人以外のそれぞれの登場人物の苦しさを丁寧に描いたので、作中に出てくる誰かに共感してもらえる作品になっているんじゃないかと思います。この作品を観て「素直になってください」とは言えないけれど、「代わりに素直になります」という気持ちで作りました。観る時は是非、ありのままの素直な気持ちで観ていただけたら嬉しいです。
Dear LANDOER読者
about『恋と友情のあいだで』
From 泉澤祐希
まず一番は里奈サイド、廉サイド、どちらも観ていただきたいということ。どちらの視点から観ても共感できる部分があると思います。是非「分かるよ、分かる。でもそれをやっちゃったらバカじゃん」とテレビを観ながらツッコんで欲しいですね(笑)。ストレス発散にもなると思いますし、その中にも切なさとか面白さとかいろんな要素が詰まっているので、いろんな感情を抱きながら楽しんで観てください。
泉澤祐希(28)
いずみさわ ゆうき
1993年6月11日生まれ。
役の隣を歩きながら〈共感〉を探る探求心、
そうして見つけた大切なピースを丁寧に芝居へとはめてゆくDOER
フジテレビTWO×ひかりTV共同制作ドラマ
『恋と友情のあいだで』
3月放送/配信:
<里奈Ver.>フジテレビTWOドラマ・アニメ/フジテレビTWOsmart
<廉Ver.>ひかりTVテレビサービス「ひかりTVチャンネル」/ビデオサービス※
出演:堀田茜 泉澤祐希
漫画:『恋と友情のあいだで』(集英社刊)/
作画 ふるかわしおり
原作掲載:東京カレンダー『恋と友情のあいだで』
<里奈Ver.>山本理沙 / <廉Ver.>安本由佳
脚本:遠山絵梨香 監督:石井祐介(フジテレビ)
プロデュース:田淵麻子(フジテレビ)、
葉山浩樹(フジテレビ)
プロデューサー:小林和紘(FCC)
Item Credit
ブーツ:アール
問い合わせ先
アール(070-5371-9336)
〒103-0025
東京都中央区日本橋茅場町2-6-8
大湯ビル404
※他スタイリスト私物
Staff Credit
カメラマン:YURIE PEPE
ヘアメイク:最知明日香
スタイリスト:吉田あかね
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:吉田彩華