

作曲家
菅野祐悟
東京音楽大学作曲科卒業。「ラストクリスマス」(04/フジテレビ)で作曲家デビュー。連続テレビ小説「半分、青い。」(18/NHK)、「ガリレオ」シリーズ、「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズ(2nd以降)、『名探偵コナン』シリーズ(22~25)など、多数のドラマ、映画、アニメーションの音楽を手掛ける。現在公開中の映画「クスノキの番人」も担当。

作曲家の制服
服装に決まりはありません。
作曲家の仕事
僕の仕事は作曲家で、主にテレビドラマ、アニメ、映画の劇伴(オリジナルサウンドトラック)を作っています。それ以外に、クラシックのオーケストラ作品を書くこともしばしば。最近は映画も撮っているので、映画監督をやったり、脚本を書いたりもしています。あとは、絵を描くことも好き。一言でいうと、“芸術全般をやる作曲家”といったところでしょうか。
菅野さんが
劇伴を手掛けるようになるまで
僕が最初に劇伴を手掛けたのは、大学生のときでした。大学の映画研究部の仲間たちと映画を作っていて、その作品の音楽を担当したんです。当時住んでいた6畳の和室に、ヴァイオリンやチェロの演奏ができる友人たちに集まってもらい、マイクを一本だけ設置して、指揮をしながら映画音楽を録音しました。
その後は、自分の作った楽曲をCD-Rに焼いて、手書きの手紙を添え、ミュージックマンで探した会社に送るという方法で営業をしていき、少しずつ仕事として作るように。当時はお金もなかったので、1セット作るだけでも本当に大変で…。3時間かけてポートフォリオの梱包を行い、50社送って1社から返事をいただければラッキー、という時代だったんです。

新人作曲家から、
数多くの作品を手掛ける
プロの作曲家になるまで
この仕事は〈縁〉で成り立つものだと、僕は思っています。お仕事をいただけるのも、監督やプロデューサーに自分の楽曲を気に入っていただけるのも、すべては縁ですから。
僕も最初から、スケールやバジェットの大きな作品を手掛けていたわけではありません。劇伴の仕事を始めた当初は、自分の実績や実力に見合った規模のお仕事を一つひとついただいていました。そうして目の前の作品に一生懸命向き合ううちに、少しずつ大きな作品を任せていただけるようになったんです。
ご一緒した監督に「次もこの人にお願いしよう」と思ってもらえるような仕事をすること、そして、少し踏み込んだことを言うと、いまの自分よりレベルの高い業界の方たちと仲良くなることが、チャンスを広げる道だと思います。
作曲家の喜びと闘い
この仕事には、曲が降ってきたとき、その曲が形になったとき、クライアントの方からOKをいただいたとき、曲が映像に重なったとき、世の中に届いたとき、そして反響があったときなど、本当にたくさんの喜びポイントがあります。中でも特に嬉しいのは、劇伴が一人歩きを始めたときです。
一方で闘いは、いま言ったような数々の喜びポイントに到達するまでの時間。一つの喜びを超えても、またすぐ次へ到達するまでの長い道のりが現れる。
そうして「自分の頑張り次第で、喜びポイントに到達できる」という体験を積み重ねていくうちに、いつの間にか走る大変さを乗り越えることができている。それは、「この先に喜びポイントがあるから頑張ろう」と確信できるから。そういう意味では、本当にやりがいのある仕事なんだろうなと思います。

菅野さん劇伴最新作
アニメーション映画
『クスノキの番人』との縁
今回は、まだ声優さんなどが決まっていない段階でお話をいただきました。伊藤(智彦)監督とは過去にもご一緒させていただいたことがあり、素敵な監督だと知っていたこと、原作の東野圭吾先生とも『新参者』シリーズや『ガリレオ』シリーズでご縁があったこと、さらには、音楽プロデューサーの山内さんとも過去に何度もお仕事をさせていただいていたこともあり、ぜひ皆さんとご一緒したいと思い、お引き受けしました。
曲がキーとなる作品ならではの
作曲進行
作中でキャラクターが楽器を演奏するシーンが描かれる場合、先に曲があったほうが絵コンテを切りやすかったり、演出面を練りやすかったりするんです。たとえばピアノを弾くシーンで、アニメーションが完成したあとに僕がものすごくテンポの速い曲を書いてしまったら、映像の指の動きと音が合わなくなってしまいますよね。もちろん、その逆も然りで。
本作においては『Melody of Memories』というピアノ楽曲が極めて重要な役割を果たしていたため、まずはその曲の作曲から相談をいただきました。その後の劇伴に関しては、通常の映画と同様、ある程度出来上がった映像に音楽をつけていくという作曲進行でした。

『Melody of Memories』の
作曲にあたって
この曲は物語のキーとなる楽曲。ゆえに、いろいろな人の思い出や想いを乗せられる曲にできたらいいな、と思いながら作曲しました。また、この曲が流れるのは映画としてもかなり重要なシーンだったので、歌でいう“サビ”のようなキャッチーさも必要だよな、と考えながら。
音楽とは、人の思いや思い出が多く乗っかっていくもの。たとえば、中学生のときに好きだった人と一緒に聴いていた曲だったり、好きな人のことを想いながらずっと聴いていた曲だったりを耳にすると、一瞬で甘酸っぱい気持ちになるじゃないですか。その頃の青春の香りが、ふっとよみがえるといいますか。
音楽にはそういった“思いと並走していく力”があると思っているので、『Melody of Memories』も「登場人物たちと並走できるような音楽にしたい」と思い、制作させていただきました。
作曲家視点で語る、
『クスノキの番人』の楽しみ方
基本的に『劇伴』というのは、単体で目立つためのものではなく、あくまで物語を盛り上げるために存在する音楽なので、観客の方々に「音楽が気になりすぎる」と思わせてしまうと、肝心な物語が伝わりづらくなってしまうことがあるんです。僕ら作曲家は常にそのバランスを考え、主張しすぎないように意識して制作することが多いんですよ。
しかし、先ほどお話しした『Melody of Memories』に関しては、そういったバランスをあえて考えず、“音楽を聴くためのシーン”に向けて制作しました。ぜひ「一体どんな曲なんだろう?」と、その音を確かめに、映画館に足を運んでいただければ嬉しいです。

フリーランスの
クリエイターにとって
いまは、自分の魅力が届きやすい
“おもしろい時代”
僕が作曲を始めた頃に比べると、いまは“自分のことを知ってもらえる機会”が格段に増えていると感じます。インターネットで自ら楽曲を公開したり、返事が来るかは別としても、憧れの人にSNSを通じて直接作品を届けたりすることもできる。
ある日突然、夢が叶う可能性がそこかしこに散らばっているんです。
だからこそ、チャンスを掴むためにも「まずはいろいろな人に自分の曲を聴いてもらうこと」が何より大事だと思います。とにかく動いて、自分から〈縁〉を見つけて欲しいですね。
フリーランスが仕事を選ぶうえで、
気をつけてほしいこと
仕事として引き受ける以上、どんなジャンルであっても対価はいただきたいもの。ですが僕個人としては、「まずはお互いのお試しとして、ご縁を結んでおく」という意味合いであれば、最初の一回だけは無償でお引き受けしてもいいと思っています。たとえるなら、エステや脱毛の初回キャンペーンのような。
ただ、そこで気をつけてほしいのが「あなたを起用するから、お金を払ってください」という案件。こうした話が来た場合は、一旦立ち止まって怪しんだほうがいいんじゃないかと思います。もちろん、それが本当のチャンスにつながる可能性もゼロではないかもしれませんが…。それでも、心から「この人と仕事がしたい」と思う相手に対して、「お金を払ったら起用してあげる」なんて話はしないと思うんですよね。
きっと皆さんは「自分が騙されるわけがない」と思っておられると思うのですが、必死に夢を追いかけているときって、人は藁にも縋るような気持ちになるじゃないですか。ビッグネームを出されて「これが君のチャンスになるんだよ」と甘くささやかれると、信じてしまう人も意外といるはず。どうか、大切な夢を搾取されないように気をつけてほしいと思います。

菅野さんから作曲家を目指す読者へ
この仕事に向いているのは、
“きちんと飽きて、
次の面白さを探せる人”
音楽が大好きであることは大前提として、強いてこの仕事に向いている人を言葉にするのであれば、“きちんと飽きることができる人”でしょうか。
ふと「これ、飽きたな」と思ったら、次に面白そうなものが待っている場所へと出かけてみる。そんなふうに、新しいことを見つけたり、挑戦したりし続けられる人が作曲家に向いているような気がします。そうでなければ、いつか自分が作る音楽も飽きられてしまうかもしれないので。誰よりも最初に飽きて、すぐに面白いことを探しにいく――そんなフットワークの軽さがあるといいんじゃないかな、と。
一昔前までは「他のことに目を向けるのはよくない」と、職人気質の時代もあったのですが、やっぱりいろいろな人と出会って、いろいろなものに触れて、人生を楽しめば楽しむほど、その彩りが音楽にも表れるような気がするんです。結局、この仕事は“自分が感じたものを〈音〉にする仕事”ですから。
自分の心をたくさん感動させた分だけ、人の心を動かす音楽が作れるはず。好奇心をもって世界を楽しんでいってほしいなと思います。

作曲家の一日
10:00
起床
午前
コーヒーを飲んで身支度をすませ、
ピラティスや英会話などの習い事へ。
日によっては、取材対応をすることも。
午後
喫茶店で脚本を書いたり、家事をしたり。
日々のルーティンをこなした後は、映画館か美術館へ。
20:00
夕飯を終え、だいたい20時頃から作曲開始。
02:00
作曲終了。
締め切り前は朝まで作業することも。
作業後は、お酒を嗜みながらYouTubeやNetflix鑑賞。
お気に入りは恋愛リアリティーショー。
04:00~06:00
就寝

映画『クスノキの番人』公開中
出演:高橋文哉 / 天海祐希
齋藤飛鳥 宮世琉弥 / 大沢たかお
原作:東野圭吾「クスノキの番人」(実業之日本社刊)
監督:伊藤智彦
脚本:岸本卓
キャラクターデザイン:山口つばさ 板垣彰子
音楽:菅野祐悟
美術監督:滝口比呂志
美術設定:末武康光
色彩設計:橋本 賢
衣装デザイン:高橋 毅
CGディレクター:塚本倫基
撮影監督:佐藤哲平
編集:西山 茂
スーパーヴァイジングサウンドエディター:勝俣まさとし
リレコーディングミキサー:藤島敬弘
制作:A-1 Pictures / Psyde Kick studio
配給:アニプレックス
【主題歌】
Uru「傍らに月夜」
作詞・作曲:清水依与吏
編曲:back number
【主題歌リリース情報】
2026年1月19日 digitalリリース
2026年1月28日 CDリリース
(c)東野圭吾/アニメ「クスノキの番人」製作委員会
Staff Credit
編集:Asaka.T
インタビュー・記事:満斗りょう
ページ運用:GOKO Saori



