「好き」の想いが縁を繋いだ
〈恋〉を表現し続ける
不死身のDOERのスペシャル対談
「好き!」どんな言葉よりも直球で、素直で、とんでもない説得力を宿しているのに、謎だらけで理解不能な2文字。その想いに翻弄され、ズタズタにされることもあれば、涙が出るほどの幸せに包まれることもある。ただひとつ言えることは、自分が出逢ったものとしか〈恋〉はできないということ。だからこそ「好き」って偉大。もし今、頭に浮かぶ人や物があるのなら、どうか恐れずに「好き」の気配に飛び込んで。例え傷ついたって大丈夫。あなたが生み出す「好き」も、この先出逢う「好き」も無限。私たちは不死身ラヴァーズなんだから。
監督・松居大悟
1985年11月2日生まれ、福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰。12年、『アフロ田中』で長編映画初監督。枠に捉われない作風は国内外から評価が高く、活動は多岐に渡る。「バイプレイヤーズ」(TX)シリーズを手掛けるほか、J-WAVE「RICOH JUMP OVER」ではナビゲーターを務める。映画『ちょっと思い出しただけ』(22)は、男女のほろ苦い恋愛模様が多くの観客の共感と反響を呼び、大ヒットを記録。ファンタジア国際映画祭2022で部門最高賞となる批評家協会賞、第34回東京国際映画際にて観客賞とスペシャルメンションを受賞した。
映画『不死身ラヴァーズ』
“好き”を全肯定する、無防備なラブストーリー
2022年に公開された『ちょっと思い出しただけ』では、男女のほろ苦い恋愛模様が多くの観客の共感と反響を呼び、大ヒットを記録した松居大悟監督。これまでにも『くれなずめ』や『アイスと雨音』、『私たちのハァハァ』等、 独自の視点で数々の青春を描き、若者の圧倒的な支持を得てきた。最新作『不死身ラヴァーズ』は、10年以上に渡り温め続けてきた渾身のラブストーリー。原作は、「進撃の巨人」諫山創のアシスタントを経て漫画家デビューした高木ユーナの同名コミックで、初めて原作と出逢った時からずっと主人公の二人に強く惹かれていたという松居監督は、「完成した作品を観て、あぁやっと2人に出逢えたと思いました。今回、演じてくれた見上愛さん、佐藤寛太さんとの出逢いも含めて、これまでの時間は必要だったのかもしれません」と述懐し、ようやく制作できた喜びと共に「好きは無敵。諦めることなんてできなくて、この10年で積み上げてきたものをすべて捨てて挑みました」と作品への覚悟を語っている。主人公・りのを演じるのは本作が初の映画単独主演となる見上愛。唯一無二の透明感とパワフルさを兼ね備えた存在感で観客を惹きつける。りのの運命の相手・じゅんを佐藤寛太、さらに青木柚、前田敦子、神野三鈴らが脇を固める。カッコ悪くても「好き」を真っすぐに伝える大切さと無防備さから生まれる純粋なエネルギーが胸を打つ、新世代の恋愛映画が誕生した。
-あらすじ-
運命のように何度も出逢い、
想いを伝える――
「あなたのことが大好きですっ!!」
長谷部りのは、幼い頃に“運命の相手”甲野じゅんに出逢い、忘れられないでいた。中学生になったりのは、遂にじゅんと再会する。後輩で陸上選手の彼に「好き」と想いをぶつけ続け、やっと両思いになった。でも、その瞬間、彼は消えてしまった。まるでこの世の中に存在しなかったように、誰もじゅんのことを覚えていないという。だけど、高校の軽音学部の先輩として、車椅子に乗った男性として、バイト先の店主として、甲野じゅんは別人になって何度も彼女の前に現れた。その度に、りのは恋に落ち、全力で想いを伝えていく。どこまでもまっすぐなりの「好き」が起こす奇跡の結末とは――。
10年間、映画化を切望し続けた『不死身ラヴァーズ』
原作設定を動かした
役者・見上愛の生命力あふれる魅力
松居大悟監督(以下、松居監督):原作の『不死身ラヴァーズ』は、甲野じゅんの想いが長谷部りのへ届くとじゅんの前からりのが消えてしまう…といった設定の物語で、10年前に映画化を考えたときは、りのとじゅん、2人のキャスティングが思い浮かばず企画ごと眠ってしまったんです。今回、メ~テレさんが「面白いですね!」と言ってくださり、再び企画が立ち上がったのが本作のスタート。とはいえ、また2人のキャスティングの壁にぶつかり…。特にじゅん役が思い当たらなかったので、まずはりの役のオーディションからはじめました。
LANDOER:そこで、見上愛さんとの出逢いが?
松居監督:そうです。見上さんのお芝居を拝見したとき、彼女の生き生きとした佇まいに人間的な興味が湧いてきて。瞬間的に「りのが消えるのではなくて、見上さん演じるりのがじゅんを追いかけるほうが面白そう!」と、感じたんです。何かを一生懸命追いかける主人公を応援したくなる方もいるんじゃないかって。
LANDOER:それで、あの愛すべき映画版・長谷部りのが誕生したんですね。
松居監督:「オーディションでは消える側でしたが、追いかける側でお願いできますか?」と、ご相談して見上さんのキャスティングが決まりました。
運と縁で繋がった
甲野じゅんと役者・佐藤寛太
松居監督:「さて、りの役は決まったものの、じゅん役はどうしようか…」と思っていたときに、寛太から、僕の監督作品である『手』(2022)の感想と「いつかご一緒したいです」と書かれたDMが届いていたことを思い出したんです。
LANDOER:ふと目に留まるようなDMだったんですね。
松居監督:DMで作品の感想をいただくことはあるのですが、寛太のDMは「気持ちで書いています!」という〈熱さ〉が伝わってくる独特な文章だったんです。僕が普段出会わないタイプの香りを感じた、といいますか(笑)。しかも青いチェックの公式マークがついたアカウントからのDMで…
佐藤寛太(以下、佐藤):そんなところを見ていたんですか(笑)。
松居監督:そう(笑)。で、よくよく読んでみると『手』だけでなく、それ以前の作品も結構観てくれていて、「ちょっと珍しいな」と思って。まぁ、僕はテキトーに返事したんですけど。
佐藤:しっかりお返事くださったじゃないですか(笑)!僕、DMが既読なった後「返事来るかな…」と、ソワソワしながら待っていたんですよ。送った次の日の夜にお返事をいただいて「返事来た~!!」と。そこから少しやりとりをさせていただきました。
松居監督:当時僕は、役者・佐藤寛太のお芝居を観たことがなかったので「いつか観てみたいです」と返事をして、そこでやりとりが終わると思ったんです。そうしたら「僕の作品だったら、これとこれとこれがサブスクで観られます」と、出演作とその作品が配信されているサブスクサービスが丁寧に送られてきて(笑)。4本ほど送られてきたなかで『軍艦少年』(2021)が主演作だと聞いて、観てみたら作品も寛太も良くて「良かったです」と感想を送りました。
佐藤:僕がDMを送った2日後くらいに観てくださって、本当に嬉しかったです。
松居監督:正直、Instagramの投稿だけを見ていると「カッコいいヤツ」といった印象で、「カッコいいヤツがミニシアターに手を伸ばしてきた」くらいに思っていたんです(笑)。でも、『軍艦少年』のお芝居を観て、「消える側のじゅん役にいいかも」と思って。ちょうどそのタイミングでプロデューサーさんからも寛太の名前が挙がったので、「僕も考えていました」と、お話して。
LANDOER:佐藤さんは、そのお話を伺っていかがでしたか?
佐藤:マネージャーさんから話を聞いて「本当に!?」と、めちゃくちゃ興奮しました。
松居監督:ちょうど舞台の地方公演中だったのですが、どうにかスケジュールを調整してもらって出演いただけることになりました。年始に、キャスト名を伏せた状態で後ろ姿だけ写した作品の一報出しがあったのですが、寛太の出演はほとんど予想されていなかったよね。
佐藤:そうですね。母親に見せても「分かんない」と、言われました(笑)。
松居監督:『不死身ラヴァーズ』という作品が動き出していたこと、SNSでのやりとりがあったこと、このタイミングが揃わなかったら、多分出会っていなかったと思います。
佐藤:良かった~!SNSが普及している時代に生まれて本当に良かったです(笑)。
松居監督の「もう一回」に込められた意味
佐藤:松居監督の作品が好きなのはもちろん、監督の作品に出演されている役者さんも、僕の大好きな方ばかりなんです。自分の好きな役者の方々を撮影されている監督と仕事ができるなんて、めちゃくちゃ嬉しくてたまらなかったです。
LANDOER:どんな風に撮影が進んでいくのかも楽しみですよね。
佐藤:ずっとワクワクしていました。ただひとつだけ、現場で監督に「もう一回」と言われる意味がいつも分からなくて。集中して涙を流すようなシーンでも、理由を言わずに「もう一回」とおっしゃるので、これまで松居監督の「もう一回」に応えられてきた役者の方たちの凄さを感じることができて楽しかった半面、あの「もう一回」は何だったんだろうな、と…
松居監督:寛太への「もう一回」は、寛太が『甲野じゅん』に対して準備してきたものを剥がすための「もう一回」でした。今回の役に関しては、台本をしっかりと読み込んで、彼なりに考えた「このシーンはこう演じるべきだ」というプランがちょっと余計だな、と思って(笑)。
佐藤:余計だなって(笑)!もっとほら、真面目だな、とか、関心するとか(笑)。
松居監督:はは(笑)。『甲野じゅん』に関しては、寛太が作ってきたものが少し剥がれているくらいのほうが良かったんです。普段僕がご一緒している役者さんたちは、わりと寡黙で静かな方が多いのですが、寛太はずっと話していて、明るくて、落ち着きがないんですよ(笑)。僕は、それこそが『佐藤寛太』の魅力だと思っていて。その魅力を役で出してほしいと思ったんですよね。でもきっと「剥がしたいからもう一回」と、僕が伝えたら、本人は意識して剥がそうとしてしまう。その必要はなかったので、ただ「もう一回」とだけ伝えて、一層一層剥がしていたんです。
佐藤:確かに!「剥がしたいから」と言われたら、考えてしまいます。それを聞いて納得したのですが、現場で松居監督は見上さんと僕、それぞれ別に演出をされていたんです。先日、見上さんにそのときのお話を聞いたら「いま、どういう風に感じてどう演じていた?」と監督に聞かれて、答えたら「じゃあ、次はこうしてみてくれる?」と、僕よりも具体的な演出があったことを知って「全然ちがう!」と思ったんですよ。僕たちは松居監督の手のひらの上で転がされていたんですね(笑)。
松居監督:役者さんによって演出の方法を変えるようにしているんです。みんな違うので。
すべてをそぎ落として
「好き」の輪郭が描かれた本作。
2人が思う“恋の醍醐味”
佐藤:この仕事を「やりたい!」と思ってはじめたものの、続けていれば当然、悔しいことや思い通りにいかないことが出てくる。それでもこの仕事を辞められないのは、きっと芝居や映画に〈恋〉をしているからだと思っています。〈恋〉をしているから続けられるし、裏を返せば離れられない。そう考えると、「好き」って軽い依存なんじゃないかと思うんです。その「好き」のパワーが強ければ強いほど、納得いかないことがあっても投げ出さずに想い続けられるんだろうな、と。きっとそれは、仕事に関わらず友情も恋愛も同じ。僕にとって「好き」は、最強のエネルギーなんですよね。「好きなものがある」それだけで、生活レベルのみならず、人間の質も大きく向上するような気がします。
松居監督:僕は “「好き」には理由がない”ところに、とても興味が惹かれます。いままでも何作かラブストーリーを作ってきたけれど、作っても作ってもずっと興味が尽きないんです。お金持ちになりたい、とか、有名になりたいといった欲望には、生活を豊かにしたいとか、親に喜んで欲しいという理由がつくじゃないですか。でも「好き」に関しては理由が見つからない。もちろん、顔が可愛い、一緒にいて楽しい、みたいなものはあるのかもしれないけれど、結局はそれも「好き」だから。そんな、理由のないところへ突き進むこと自体が、人間的な感情を肯定している感じがするんです。どんな作品でも、ラブストーリーであれば「好きだから突き進む」が許されるし、なぜ好きなのかは一旦置いておくことができる。その奥深さの原因が不明だから面白いんですよね。
LANDOER:確かに、ラブストーリーって説明がなくても納得できますよね。
松居監督:そうなんです。世界を守る話とか会社で偉くなる話とか、いろんな種類の話があるなかで、ラブストーリーだけは「好きなんだもん」で、みんなが共鳴できる。不思議だな、と思います。
「消えてしまった」相手への対し方
LANDOER:作中でじゅんが消えてしまう度、りのが「消えてしまった…」と、虚無感に襲われるシーンを観て、現実世界でもお互いが同じ感情の温度でサヨナラをしない限り、相手に対して「消えてしまった…」と感じることがあるよな、と、りのに共感していました。お2人はそんな“消えてしまった相手”への感情を、どこへもっていくタイプですか?
松居監督:僕の場合は作品を作ることができる立場にあるので、「消えてしまったな…」という気持ちや、積もり積もった感情を〈物語〉にする行為によって昇華させている気がします。とはいえ、結構引きずるタイプではあるのですが…
佐藤:僕も絶対に引きずっちゃうな。僕の場合は友達への連絡の頻度が増える気がします(笑)。そう考えると、別のところにすがるのかな。正直、当人にはすがらないです。
松居監督:そうだね、そこはもうしょうがないからね。
佐藤:絶対に僕からは連絡しないです!多分…(笑)。
LANDOER:そう考えると、何度じゅんが消えても、諦めずに追いかけ続けるりのはやっぱりすごいですよね。
佐藤:本当にすごいと思います。しかも、ちゃんと自己肯定をしながら進んでいくので。
松居監督:たくましいよね。
生涯未恋率30%の現代を生きる
Dear LANDOER読者
映画『不死身ラヴァーズ』
From 甲野じゅん役・佐藤寛太
きっと誰しも「この人いいな」と、〈恋〉の気配を感じることはあると思うんです。でもそこで、過去の恋愛のマイナスだった部分を思い出したり、惨めな気持ちを感じたくなかったり、そういった要素が勝って、いつの間にか〈恋〉に落ちないよう、自分をコントロールしてしまうんだろうな、と。この映画は〈恋〉をしていた時間や、そのときの自分ごとまるっと抱きしめて、生きることを肯定してくれる作品になっていると思います。りのの姿を通して、誰かを、何かを「好きだ!」と想うエネルギーが自分を走らせてくれることを実感できるはず。大きなパワーを感じられる作品になっているので、是非観ていただきたいです。
From 監督/脚本・松居大悟
人を好きになることって怖いし、無防備な状態で傷つく可能性のほうが高いし、もし上手くいかなかったらモヤモヤが残るかもしれないし…、「〈恋〉って、良いことのほうが少ないんじゃない?」と思って一歩を踏み出せない気持ち、すごく分かります。僕自身も恋をしたら仕事が手につかなくなったり、眠れなくなったりするタイプなので。でも、そんな人間がつくった映画だからこそ、〈恋〉に臆病になっている方に絶対に寄り添える一本になったと思うので、是非、たくさんの方に観ていただけたら嬉しいです。
映画『不死身ラヴァーズ』
2024年5月10日(金)より、
テアトル新宿ほか全国ロードショー
出演:見上愛 佐藤寛太
落合モトキ 大関れいか
平井珠生 米良まさひろ
本折最強さとし 岩本晟夢 アダム
/青木柚 前田敦子 神野三鈴
監督:松居大悟
原作:高木ユーナ『不死身ラヴァーズ』(講談社「別冊少年マガジン」所載)
脚本:大野敏哉 松居大悟
音楽:澤部 渡(スカート)
主題歌:「君はきっとずっと知らない」スカート(PONYCANYON / IRORI Records)
製作幹事:メ~テレ ポニーキャニオン
配給:ポニーキャニオン 製作プロダクション:ダブ
Staff Credit
カメラマン:作永裕範
ヘアメイク:KOHEY
スタイリスト:平松正啓
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:Mo.et