

A-1 Pictures/ Psyde Kick Studio
アニメーションプロデューサー
藤井翔太
1987 年生まれ。兵庫県神戸市出身。大学院卒業後、株式会社 A-1 Pictures に就職。制作進行、制作デスクを経てアニメーションプロデューサーを務める。主な担当作品に、「86 ーエイティシックスー」、「NieR:Automata Ver1.1a」、現在公開中の映画「クスノキの 番人」がある。

アニメーションプロデューサーの制服
服装に決まりはありません。業界的にも服装自由です。
アニメーションプロデューサーの仕事
“アニメーションプロデューサー”と聞くと「絵を描く仕事なのかな?」と思われがちですが、実はそうではないんです。アニメーション映像を制作する現場の責任者として、絵を描く人を集めたり、描かれた素材を映像にするために次の工程へつないだりしていくことが、アニメーションプロデューサー、そして“制作”と呼ばれる仕事。僕らが絵を描くことはありません。
監督やいわゆる“衣つきのプロデューサー”と呼ばれる“製作プロデューサー”と企画を立ち上げる“始まりの段階”から、原画、背景美術、動画、仕上げ…といった、本編の絵の素材を作成する〈すべて〉のセクションへの橋渡しをしつつ、途中行われる音声や音楽と合わせる音響の工程も立ち会いながら、全ての素材を映像に落とし込む撮影や編集といった映像の “最後の段階”まで、あいだをつなぐ役割を担っています。
藤井さんがアニメ業界に
入ったきっかけ
僕は、もともとアナウンサーになりたくて、大学生の頃はアナウンススクールへ通い、テレビ局を中心に就職活動をしていました。しかし、新卒のときにはその夢を叶えることができなくて。諦めきれず、大学院で和歌の研究をしながら再びチャンスを伺っていたものの、リーマンショックと東日本大震災が重なり、アナウンサーだけでなく、100社ほど受けた企業すべてに落ちてしまったんです。
「とにかくどこかに就職しなければ」という焦燥感に駆られ、視界に入った企業へ手当たり次第に応募していた折に、たまたま出逢ったのがA-1 Picturesでした。そのとき観ていた作品は『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』だったかな。「アニメってどうやって作るんだろう?」と思って調べてみたところ、「どうやらアニメに詳しくなくても、絵が描けなくてもできる仕事があるらしい」とわかり、とりあえず応募してみたんです。偶然にもA-1 Picturesが採用人数を増やしていた時期だったことも幸いし、唯一の内定をいただいてアニメの世界へと足を踏み入れました。
入社から
アニメーションプロデューサーに
なるまで
アニメーション制作会社に制作として入社すると、まずは作品のパートごとの管理をする「制作進行」からキャリアをスタートさせます。その後、すべてのパートの制作を管理する中間役の「制作デスク」、そして、作品の立ち上げから完成までの全体を管理する「アニメーションプロデューサー」というステップアップをしていくことになります。
最初に任される「制作進行」では、作品全体を数話ごとに分けて担当を任され、自分が担当するパートのアニメーターを集めたり、スタッフやスケジュールを管理したりします。そこで、ある程度の話数をしっかり管理できるようになると、作品全体の話数を管理する「制作デスク」へ。人や環境によっても異なりますが、入社からおよそ5年でデスク、10年ほどでプロデューサーを目指す、というのが一つの指標になるかと思います。

藤井プロデューサー最新作
アニメーション映画
『クスノキの番人』での動き
先ほどもお伝えしたように、アニメーションプロデューサーは、監督や製作プロデューサーとともに「どういったスタッフで制作していくのか」「どんなシナリオにするのか」などを決めていく、いわば“立ち上げ”の段階から関わっていきます。シナリオ制作においては、映像制作現場の視点をもちつつも、一人の人間として「ここは良いと思います」「ここは伝わりづらいと思います」と、率直に意見を出しながら作り上げていくことが多いです。
シナリオの決定後は、映像の設計図となる「絵コンテ」の工程へ移ります。通常は監督が話数ごと、映画であればパートごとにコンテマン(シナリオをカットごとの絵と演出指示に変換する「絵コンテ」を描く役割。演出の仕事をされている方に依頼することが多い)に依頼することも多いのですが、今回の映画『クスノキの番人』では、伊藤(智彦)監督がすべてご自身で描き上げられました。これは、筆も判断も圧倒的に早い伊藤監督だからこそ成せる業。現在の制作現場では、なかなか珍しいことです。
監督が描かれない場合は、僕らも相談に乗りながら、作風に合ったコンテマンさんを選定したり、監督からの提案を受けてお声がけをしたりします。こうして上がってきた絵コンテを元に修正を重ねて、アニメーションの土台を作り上げていきます。

劇場作品としての、
映画『クスノキの番人』の作画
映画『クスノキの番人』には、戦闘シーンのような派手なアクションはほとんどありません。その代わりに、登場人物の「お芝居」を非常に細かく描き込んでいます。監督が「劇場で観る作品を」という思いをもって制作されていることもあり、テレビやスマートフォンなどの小さな画面ではなく、大きなスクリーンで楽しむことを前提に、あえて“引きのカット”を多く使用しているんです。通常、顔のアップであれば表情だけを描けば済むところを、本作では、全身の動きや背景含めすべてを描いていて。当然、作画の量は膨大になりますが、そうしたことで画面の隅々にまで情報がいきわたり、映像としての密度を高めることができました。劇場で満足していただけるアニメーションが完成したと思います。
クオリティを支える背景美術
今回は引きのカットが多いだけではなく、「シネマスコープ」と呼ばれる横長の画角を採用しているため、より広い範囲の背景を描き出す必要がありました。そこで本作の世界観を支えてくださったのが、美術監督の滝口比呂志さんによる背景美術です。
画面に占める背景の割合が極めて大きい本作では、そのクオリティが作品全体の印象を左右します。滝口さんが描いてくださった基準となる絵(美術ボード。シーンや舞台ごとの基準となる画角や色を示す背景絵)の完成度が非常に高く、全編を通してそのクオリティに向き合い続けることは、制作現場としては正直大変な作業でもありました。
ですが、結果として映画を観てくださった方から「背景がとても美しいね」という声を多くいただくことができて。どうしてもキャラクターに目がいきがちな昨今のアニメーション映画において、背景にも注目していただけるのはとても幸せなこと。監督が目指した「劇場でこそ楽しんでいただける作品」を作れたことが、制作として非常に嬉しかったです。

制作の一番大変な仕事は“人集め”
制作の仕事で最も大変だと思うのは、“人を集めること”です。アニメーターと呼ばれる原画マンや作画監督はもちろん、背景美術を描く美術さんなど、作品を完成させるためには膨大な工程があり、それぞれ別の方に依頼する必要があります。一人がこなせる作業量には限界があるので、たとえとても絵の上手な方がいたとしても、その人一人では作品は成立しません。アニメーション制作の現場では、一定のクオリティを保ちながら、十分な人数を集めることが不可欠になってきます。
近年、アニメーターの数自体は増えてきているものの、それ以上に制作されるアニメーション作品の本数が増えており、必要な仕事量に対して人手が追いついていないというのが業界の現状です。アニメーターの育成環境も十分とは言えないなかで、クオリティの高い絵を描ける方を数多く集めることは、やはり一番難しいところですね。
仕事をしていてやりがいを感じる瞬間
アニメーションプロデューサーとしてのやりがいとは少し違うかもしれませんが、自分が制作進行を担当したパートで、「思ったとおりに仕上がった!」と納得のできる良い映像が完成したときに、とてもやりがいを感じます。一方で、本来目指していたクオリティに達することができなかったときには、悔しい思いをすることも。同じ絵コンテを元にした作品でも、どの仕事を誰にどのくらい振るのか――制作進行の采配一つで、クオリティが大きく左右されるんです。
制作進行は、人と力の采配がカギ
100の戦力を注いで、すべてが100点満点の作品を作ることができたら理想ですが、一人ひとりのリソースや時間が限られているアニメーション制作においては、それはどうしても不可能なこと。すべてをこだわり続けていたら一生終わらないので、ある意味、どこかで区切りをつけて、バランスを取らなければなりません。
スケジュールやスタッフの得意・不得意を見極めながら、限られた条件のなかでできる限り良いものを作っていく。それが、アニメーション制作において非常に大切なところですね。

“好き”の気持ちが支えになる
少なくともこの仕事は、アニメが好きでない方には向かない仕事だと思います。ほとんどの時間をアニメと向き合い、何百人もの人と関わりながら、膨大な量の工程と素材を把握しなければならない仕事ですから。
正直しんどいこともありますが、完成したときに心から「作ってよかった」と思えることが、自分の大きな支えになってくれるんです。とはいえ、「特別アニメが大好きでなければならない」ということでもありません。実際、僕は就職するまでまったく絵やアニメーションの勉強をしたことはありませんでしたし。

この仕事に向いているのは
「文化祭の準備が好きな人」
アニメの好き嫌いのほかには、「文化祭の準備が好きな人」が向いている仕事だと思います。僕らの仕事って、“文化祭の前日”をひたすら続けているような感覚なんです。「こんなイベントしようよ!」と企画して、友達と集まって徹夜で準備をする、あの感覚。自分が表舞台に立つわけではないけれど、裏方の作業を積み重ねて作品を世の中に出し、その作品でお客さんに喜んでもらう。そこにやりがいを感じる方は、この仕事に向いていると思います。
藤井さんから、
働くことに向き合う読者へ
先ほど、就活活動のときに100社以上落ちたとお話ししましたが、振り返ってみると、当時の僕は数多く受けることばかりで、一社一社の企業研究が浅かったんですよね。採用活動をする立場になったいまでは、「そりゃ落ちるよな」とよくわかります。自分がその職業に就いて「何をしたいのか」を、もっと具体的にイメージして仕事を探さなければならなかったんです。
たとえば、僕も若林さん(アニプレックスプロデューサー・若林豪さん)も肩書きに「プロデューサー」とついていますが、実際に担っているのはまったく違う役割。そうした実態を知らず、肩書きのイメージだけで仕事を選んでしまうと、どうしてもミスマッチが起きてしまいます
調べればいくらでも情報が出てくる時代だからこそ、「数打ちゃ当たる」ではなく、「自分はこの会社で、こんな仕事がしたいんだ」というビジョンをもち、しっかりと自分の言葉で伝えていくこと。それができれば、採用担当にもその想いが届くのではないかな、と思います。

アニメーションプロデューサーの一日
勤務時間
時間や動きにこれといった決まりはありません。
仕事内容が多岐にわたるため、
日によってまったく違う働き方をしています。
取材協力:株式会社A-1 Pictures / Psyde Kick Studio

映画『クスノキの番人』公開中
出演:高橋文哉 / 天海祐希
齋藤飛鳥 宮世琉弥 / 大沢たかお
原作:東野圭吾「クスノキの番人」(実業之日本社刊)
監督:伊藤智彦
脚本:岸本卓
キャラクターデザイン:山口つばさ 板垣彰子
音楽:菅野祐悟
美術監督:滝口比呂志
美術設定:末武康光
色彩設計:橋本 賢
衣装デザイン:高橋 毅
CGディレクター:塚本倫基
撮影監督:佐藤哲平
編集:西山 茂
スーパーヴァイジングサウンドエディター:勝俣まさとし
リレコーディングミキサー:藤島敬弘
制作:A-1 Pictures / Psyde Kick studio
配給:アニプレックス
【主題歌】
Uru「傍らに月夜」
作詞・作曲:清水依与吏
編曲:back number
(c)東野圭吾/アニメ「クスノキの番人」製作委員会
Staff Credit
編集:Asaka.T
インタビュー・記事:満斗りょう
ページ運用:GOKO Saori



