【大竹しのぶ】舞台『リア王』老い、孤独、裏切り||いつの時代も変わらない「人間たちの物語」この世のドラマは〈人〉にこそあり

大竹しのぶ

舞台『リア王』
老い、孤独、裏切り⸺
いつの時代も変わらない「人間たちの物語」
この世のドラマは〈人〉にこそあり

世界で最も有名な劇作家と称される、ウィリアム・シェイクスピア(1564―1616)。彼は、恋人が入れ替わる夏の夜や、嫉妬に狂った将軍の悲劇、愛にすべてを懸ける若者たちの生き様など、ドラマチックな筆致でこの世界の〈真〉を描き出しました。いつも、儚いさだめに翻弄される登場人物たちの心に〈愛〉を潜ませて――。この世は舞台、人はみな役者。いま文字を追うあなたも、悲劇と喜劇が交錯する〝この世〟を演じる役者の一人。そして、来たる2025年秋。狂気の淵を彷徨う老王・リアとの出会いが、あなたの物語に新たな一章を刻み込むことでしょう。

Bunkamura Production 2025
DISCOVER WORLD THEATRE vol.15
「リア王」
NINAGAWA MEMORIAL

Bunkamura Production 2025 DISCOVER WORLD THEATRE vol.15 「リア王」 NINAGAWA MEMORIAL

気鋭のイギリス人演出家
フィリップ・ブリーンの手によって戯曲を一新。
大竹しのぶが初の男性役リア王に挑む!

Bunkamuraが日本と海外のクリエイターの共同作業のもと、優れた海外戯曲を今日的な視点で上演する企画に取り組んできたDISCOVER WORLD THEATREシリーズ。本シリーズの第15弾として、シアターコクーン前芸術監督・蜷川幸雄の生誕90年を迎えることを記念し、“NINAGAWA MEMORIAL”と題し、『ハムレット』『マクベス』『オセロー』と並ぶシェイクスピア四大悲劇のひとつである『リア王』を上演いたします。上演台本・演出は、人間を深く見つめ物語を繊細に紡ぎ出す斬新な演出手法が高く評価されているフィリップ・ブリーンが務め、これまで日本で上演されてきた戯曲を一新させ、現代的で新鮮な再翻訳版として上演します。タイトルロールのリア王を演じるのは、大竹しのぶ。ブリーンが満を持して挑むことができる最高の作品であると、絶大な信頼を寄せる大竹にこの役を託し、男性の王・リアという難役を務めます。共演には、大竹と同じくブリーン演出経験のある宮沢りえ、さらに成田 凌、生田絵梨花、鈴鹿央士、横田栄司、安藤玉恵、勝村政信、山崎 一と、これ以上ない大胆かつ豪華なキャストが結集しました。家族は断絶、信頼も崩壊、権威や誇りも音を立てて崩れていく……。老いた王がすべてを失い、狂気の淵を彷徨いながら人間の「光」と「闇」を見出す究極の人間ドラマにどうぞご期待ください。(大竹は1979年、2017年上演の『にんじん』で少年役を演じている。成人男性役を演じるのは初となる。)

-あらすじ-

ブリテンの王であるリアは、高齢のため退位するにあたり、国を3人の娘に分割し与えることにした。長女ゴネリルと次女リーガンは巧みに甘言を弄し父王を喜ばせるが、末娘コーディリアは実直な物言いしかできず、立腹したリアに勘当され、それをかばったケント伯も追放される。コーディリアは勘当された身でフランス王妃となり、ケントは風貌を変えて素性を隠し、リアに再び仕える。リアは先の約束通り、2人の娘ゴネリルとリーガンを頼るが、裏切られて荒野をさまようことになり、次第に狂気に取りつかれていく。リアを助けるため、コーディリアはフランス軍とともにドーバーに上陸、父との再会を果たす。だがフランス軍はブリテン軍に敗れ、リアとコーディリアは捕虜となる。ケントらの尽力でリアは助け出されるが、コーディリアは獄中で殺されており、娘の遺体を抱いて現れたリアは悲しみに絶叫し……。

リア王
×
大竹しのぶ

もし、リアの“男性”という部分にこだわるのであれば、男性の役者さんが演じられたほうが絶対にいいはず。それでも私が演じるからには、「男にならなくちゃ」といった意識はあまりもたず、引退を決意した一人の老人であるリアの〈心〉を演じたいと思っています。

中学生の頃、
文化祭で『リア王』の舞台を上演された大竹さん。
キッカケはなんだったのでしょうか?

小学校高学年のときにシェイクスピアと出会い、中学生になって文化祭の出し物を決めることになり、クラスのみんなに「『リア王』であれば、いろんな人物が出てくるから全員参加できるよ!これをやろう!」と、半分決め打ちで提案したんです(笑)。とはいえ、中学生が『リア王』の話を知っているはずもなく。「面白い話だから!」とあらすじを伝えて、台本を作り、クラス全員にセリフを割り当てて、20分間の物語にして上演しました。ちなみにそのとき私は、リアの末娘・コーディリアを演じました。一応、投票で決めましたが(笑)。

大竹しのぶ

中学生でシェイクスピアの作品を
台本に起こすなんてすごいです…!
お稽古や上演時の
印象的だったエピソードはありますか?

とにかく「みんながちゃんとセリフを言えますように…」と心配ばかりしていました(笑)。あとは本番中、リーガン役の子がカーテンの前で死んでしまう動作をしたので、カーテンが閉まるときに「こっち!こっち!」と呼びかけたのを覚えています(笑)。衣装に関しては、私の家の布団カバーがちょうどリアのマントにぴったりで、リア役の子にそれを羽織って演じてもらいました。他の登場人物たちの衣装も、シーツやカバーを持ち寄ってみんなで手作りしたんですよ。おかげで、大きな拍手が響く歴史に残る公演になりました。

可愛らしい思い出ですね(笑)。
そのときが、初めて「芝居をやろう」と思われた
タイミングだったのでしょうか?

芝居自体は小さい頃から好きでした。学芸会なども大好きで、たとえば『アリとキリギリス』をやるとなったら「キリギリスの役をやりたい!」と手を挙げるような子どもで。アリの役はみんなと芝居を揃えないといけないけれど、キリギリスだったら一人で面白いことができるじゃないですか。幼い頃から、そういった目立ちたがり屋なところがあったんだと思います。くわえてクラスのリーダー的な立ち位置でもあったので、文化祭で『リア王』をやったときも、練習をサボる子がいたら「練習しなさい!」と追いかけていました(笑)。思えば当時から「稽古、稽古!」というタイプでしたね。

大竹しのぶ

芝居への愛をひしひしと感じます。
ちなみにシェイクスピアとの出会いは
何だったのでしょうか?

小学生のとき、友達と「世界名作文学をどちらがはやく読み終わるか」という競争をしていたんです。その文学作品のなかにシェイクスピアの『じゃじゃ馬ならし』という作品があって、それを読んで「面白いなぁ」と思ったのが最初でした。『リア王』もそうですが、シェイクスピア作品はどれも“ドラマチック”で、そこに心惹かれたのだと思います。

いまでは、何作もシェイクスピア作品に
ご出演されていますよね。
お聞きしていて素敵な〈縁〉を感じます。

そうですね。フィリップ(演出家:フィリップ・ブリーン)との3作目を経て、次は何の作品にしようかと話していたときに、彼が挙げてくれた候補のなかに『リア王』を見つけて。思ってもいなかったので「え、リア王⁉」と驚き、思わず「面白そう、やってみようかな」と乗っかってしまいました(笑)。

中学生の頃に触れた『リア王』と、
いまの大竹さんが見る『リア王』。
作品の感じ方や見え方に、
どんな変化がありましたか?

中学生の頃は「ここでこんなことが起こるのか」という、シェイクスピア作品ならではのドラマチックなストーリー展開に面白さを感じていたのですが、いまはいろいろな経験を経て、“老いることの寂しさ”や“親子の確執”など、作品に描かれていることが理解しやすくなったので、中学生のときとはまったく違う視点からこの作品を見ることができていると思います(当然ですが)。“親子の確執”や“家族の関係性”といったテーマは、シェイクスピアの時代から変わらないもの。だからこそ、いま読んでもドキッとさせられるようなセリフにたくさん出会うんです。家族に裏切られた孤独や寂しさがゆえに狂人になっていくリアの姿は、いまの時代でも起こりうる話だと思うので、とても面白いなと思います。

大竹しのぶ

“老い”は、命ある限り
避けることのできないテーマですよね。
一方で、歳を重ねるからこそ
見えてくる幸せもある気がします。

もちろん、物事への理解が深まるだとか、大きな心で人と対峙できるようになるだとか、歳を重ねることで得られる良い変化もあると思います。ただ私は、そういったものとはまた別のところに“老い”がある気がしていて。先日出演させていただいた、舞台『華岡青洲の妻』のキャストに79歳の方が3名いらしたのですが、お3方が「セリフをいつも忘れちゃう」「私たち3人組はダメね」とお話しされているのを見て、その光景をすごく可愛らしく感じたんです。それと同時に、舞台に立ち続けられていることへの深い敬意も感じて。きっと、肉体の衰えなどは悔しくて寂しいものだと思うのですが、きちんと生きてこられた先輩方の紡がれる言葉は、それだけ深いものとして後輩たちに届くのだと身をもって実感しました。皆さんといろいろなお話ができて、とても楽しかったです。

これまで生きてきた自分の時間、
そして、老いてなお
どう生きるかが問われてきますね。

本当に難しいテーマだけれど、もうそこは自分自身の問題でしょうね。でも、やっぱり最後は〈愛〉なんだろうと思います。子どもへの〈愛〉も含め、自分に宿るさまざまな〈愛〉に救われていくんだろうな、と。

大竹しのぶ

今回は、初舞台の方からベテランの方々まで、
幅広いキャストの皆さんが集まっておられますが、
新たなチームが動き出すことへの期待や、
楽しみにされていることを教えてください。

フィリップの稽古場はものすごく面白いですし、彼の本の読み方などは尊敬に値するものなので、キャストの方それぞれが稽古を通して触発され、楽しい稽古場になると期待しています。

フィリップさんの現場の魅力を教えてください。

作品にもよるのですが、役者をきちんと尊重してくれるところ、役者から出てくるものを待ちながら、なおかつ自分の知識を教えてくれるところ、そして、原作者と交信しながら細部にあたる細やかな演出を教えてくれるところですかね。たとえば、テネシー・ウィリアムズ原作の作品であれば「ちょっと待って!テネシー・ウィリアムズと交信するから!」と言って、台本に書かれている言葉の真意を教えてくれるんです。だから今回は、きっとシェイクスピアと交信をしながら、いろいろなことを教えてくれると思います。先日、台本の打ち合わせをした際に、最初のリアのセリフが他の翻訳と違うニュアンスで書かれていたので、不思議に思って彼に質問したんです。彼は「このシーンのリアは、直訳とは違う意味を含んで言葉を放っているんじゃないか」と思ったそうで。その解釈がとても面白かったんですよね。フィリップと翻訳の木内(木内宏昌)さんが多くの話し合いを経て本を作り、今度は、木内さんと私が話し合いを重ねて本の言葉を確認し合う。ものすごく時間のかかる、とても大変な作業だけれど、だからこそ面白いんです。

大竹しのぶ

たくさんの話し合いの先で、
〈言葉〉に命や真実が宿るんですね。
これまでフィリップさんとご一緒されてきたなかで、
特に印象的だった
細やかな解釈の一つをお伺いできますか?

『欲望という名の電車』(2017年-2018年)でご一緒したとき、主人公のブランチが精神病院に連れて行かれるシーンで、「薄黄緑色のスーツを着させて」というセリフが出てきたんです。私が「どうして薄黄緑色のスーツなの?」と質問したら、フィリップが「原作ではそのワードの部分だけがフランス語になっていて、それを英訳した結果、“薄黄緑色のスーツ”という言葉になっているんだよ」と教えてくれて。さらに、そのフランス語の言葉には“拘束”という意味が含まれていたそうで、「ブランチは“私を拘束して”という意をもってそう言ったのかもしれないね」と。お客様には伝わらないかもしれないけれど、そうした細やかなことを教えてくれる方なんです。

言語が違うゆえの解釈の面白さですね!
大竹さんは数多くの舞台経験をされていますが、
日本の演出家と海外の演出家の
違いを感じることはありますか?

海外の演出家の場合は、たくさん話し合いができるところが面白いなと思います。特にフィリップの現場は、話し合いに惜しみなく時間をかけてくれるので、すごく楽しいです。これは演劇文化の違いだと思うのですが、海外の役者、特にイギリスの方は、セリフの背景や動作の理由が理解できるまでは動かない方が多いらしいんです。一方で日本の役者は、演出家の指示に従う傾向が強い気がします。どちらが良い悪いではないけれど、海外のほうが役者と演出家がより対等な印象といいますか。私自身は、話し合いを重ねて芝居を築いていくやり方が結構好きなので、フィリップとの稽古をとても楽しみにしています。

大竹しのぶ

多種多様な表現、プロセスが浸透しているからこそ
演劇はとても奥が深くて楽しいと感じます。
歌や演劇、映像作品など、
さまざまな表現をこなされている大竹さんですが、
演劇の魅力は何だと思われますか?

演劇の面白さは、やっぱり“違う世界に行けるところ”ではないでしょうか。映像作品と違い、長い時間をかけて作っていくからこそ、人物一人ひとりを掘り下げることができるんです。私は、その過程がとても面白くて大好きです。

Dear LANDOER読者
Bunkamura Production 2025
DISCOVER WORLD THEATRE vol.15
「リア王」
NINAGAWA MEMORIAL
From 大竹しのぶ

『リア王』は難しい話というより、誰にでも起こりうる要素が入っている物語だと思います。これまで戯曲に触れてこなかった方にも、この作品を通してシェイクスピアの世界を身近に感じていただけたら嬉しいです。本だけだと少し難しく感じるところもあるかもしれませんが、私たちの身体を介して言葉になることで、ぐっと分かりやすくなると思うので、ぜひ楽しみにしていてください。

大竹しのぶ

大竹しのぶ

おおたけ しのぶ

7月17日生まれ。
しなるが如く 幾千の機微に〈命〉を込めて、
芝居との邂逅を心から楽しむDOER

Bunkamura Production 2025 DISCOVER WORLD THEATRE vol.15 「リア王」 NINAGAWA MEMORIAL

Bunkamura Production 2025
DISCOVER WORLD THEATRE vol.15
「リア王」
NINAGAWA MEMORIAL
【作】ウィリアム・シェイクスピア
【上演台本・演出】フィリップ・ブリーン
【出演】大竹しのぶ、宮沢りえ、成田 凌、
    生田絵梨花、鈴鹿央士、
    西尾まり、大場泰正、松田慎也、
    和田琢磨、井上 尚、吉田久美、
    比嘉崇貴、青山達三、
    横田栄司、安藤玉恵、勝村政信、
    山崎 一 ほか
【東京公演】10月9日(木)~11月3日(月・祝)
THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)
【大阪公演】11月8日(土)~11月16日(日)
SkyシアターMBS

Item Credit
イヤリング¥18,700/VENDOME BOUTIQUE
(ヴァンドームブティック 大丸東京店 03-6206-3688)
リング¥27,500/NATURALI JEWELRY
(NATURALI JEWELRY 新宿高島屋店 03-3351-5107)
全て税込み。

Staff Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:新井克英(e.a.t…)
スタイリスト:申谷弘美(Bipost)
インタビュー・記事:満斗りょう
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