ミュージカル『るろうに剣心 京都編』
舞台に住まう〈生物〉と対峙する
2人の剣士のSP対談
よく「舞台は生物(ナマモノ)」という言葉を耳にする。しかし、今回のインタビューを通して感じたのは「舞台は生物(いきもの)」でもあるということ。私たちの歩む道が毎秒違うように、同一の景色を見ることは二度と出来ないように、舞台に住む生物も寸分違わぬ息を吐くことは決してない。だからこそ、演じ手と創り手は揺るぎない基盤を一生懸命に築いてゆく。これは“表現”という〈剣〉を握るお2人が、いかにして「舞台に住む繊細な生物と対峙しているのか」を垣間見たお話――
演出家・小池修一郎
1955年3月17日生まれ、東京都出身。1991 年『華麗なるギャッツビー』で菊田一夫演劇賞を受賞し注目を浴び、96 年『エリザベート』が大ヒット。その後もヒット作を次々と世に送り出し、その多くが再演を重ねている。近作に、20 年『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』、21 年『Newsies』等を次々と発表し、劣らぬ創作意欲を見せる。06 年に作曲家フランク・ワイルドホーンとのコラボレーションで文部科学大臣賞を受賞した『NEVER SAY GOODBYE』を、本年2 月より再演予定。
ミュージカル『るろうに剣心京都編』
幕末の世に最強の刺客“人斬り抜刀斎”としておそれられた緋村剣心(小池徹平)。明治維新後は不殺(ころさず)の誓いを立て、流浪人となり刀の峰を刃とした「逆刃刀」を手に静かな暮らしを送っていた。そんな剣心の元に、志々雄真実(ししおまこと:黒羽麻璃央)が国家転覆を計っているという報せが届く。剣心の跡を継ぎ人斬りとなった志々雄は明治政府の裏切りにあい全身を焼かれ暗殺されかけたことを恨みに、京都の暗黒街で復讐を企てていた。剣心は神谷薫(井頭愛海)や相楽左之助(岐洲匠)ら止める仲間を後に京都へ向かった——。かつての仇敵・斎藤一(山口馬木也)、四乃森蒼紫(しのもりあおし:松下優也)もそれぞれの想いを胸に剣心を追う。剣心は途中で出会ったくノ一・巻町操(鈴木梨央)と共に志々雄一派・瀬田宗次郎(加藤清史郎)、本条鎌足(奥野壮)、駒形由美(伶美うらら)と対峙するも、逆刃刀を折られてしまう。志々雄を倒すべく、より強くなる為に剣心は師匠・比古清十郎(加藤和樹)の元を訪れる……
-緋村剣心-
幕末、“人斬り抜刀斎”としておそれられた最強の刺客。明治維新後、不殺(ころさず)の誓いを立て、流浪人として生きている。
小池徹平さんに緋村剣心役をオファーした理由を
教えてください。
小池修一郎先生(以下、小池・修):彼をテレビで観ていた時から「こんなに少年漫画のような顔立ちの方って滅多にいないよな」と思っていたのですが、実際、生でお会いしてもビジュアルが変わらなくて、まんま“生きているフィギュア”みたいだな、と思って(笑)。
小池徹平(以下、小池・徹):生きているフィギュア…(笑)。
小池・修:実際、漫画原作のキャラクターをやったことって何度かあるの?
小池・徹:何回かありますね。ミュージカルで言うと『DEATH NOTE』(L役)だったり。
小池・修:そうかそうか、『DEATH NOTE』か。今回「剣心を男性でやるとしたら」と考えた時に、本当に一発目に彼の顔が思い浮かんだんです。あと、以前ミュージカル(『1789 -バスティーユの恋人たち-』)でご一緒した時に主演を演じていただいたので、実力においても全く問題がないことを知っていて。とにかく剣心の機敏さと敏捷さ、そしてバランス感覚のすべてを理由に彼にお願いしました。これだけいろいろな条件にマッチする方はそうそういないと思いますね。まさに生きているフィギュアです。
LANDOER:生きているフィギュア、パワーワードですね(笑)。
小池・修:本当に、彼がこのまま(剣心の衣裳で)コミケで立っているだけで、みんなきっと写真を撮りに来ると思うんですよ。例え彼が俳優でなかったとしても、みんな大騒ぎだと思います。
小池・徹:嬉しいですね(笑)。
小池さんは剣心役のお話をお聞きした時、
どう感じられましたか?
小池・徹:『るろうに剣心』は僕も子供の頃から読んでいた大好きな作品だったので、先生に「剣心役をやって欲しい」というお言葉をいただいた時は非常に嬉しかったです。様々なジャンルで作品化されてきた『るろうに剣心』が、小池先生の手によってミュージカルになるとなればすごく面白いものができると感じましたし、「ぴったりだから」と仰ってくださったことが非常に嬉しくて「やらせていただけるのであれば」という気持ちでした。とは言え人気コミックであり、いろいろと作品化されている作品だからこそのプレッシャーも感じています。ただ、小池先生への信頼も含めて、不安よりも「どんな面白いものができるのだろう」といった楽しみのほうが勝っていますね。
LANDOER:しかも今回は会場もIHIステージアラウンド東京で、客席がまわるという。そんな場所とのかけ合わせもとても楽しみです。
小池・修:私もとても楽しみです。目まぐるしくなりそうですね。
小池・徹:僕、小池先生がどうやって演出プランを立てるのかが想像つかなくて。
小池・修:今回は脚本も書かせていただいたのですが、『るろうに剣心』のお話って細かいところがすごく多いんですよ。いろいろな登場人物の絡みが複雑で、お話の要素のどこかを抜くと誰かと誰かが会っていなかったりして…
小池・徹:確かにそうですね。
小池・修:上手い具合に脚色できればパッと詰めることもできると思うのですが、なかなかそうもできなくて。非常に早い矢継ぎ早な展開でいかないと追いきれない物語なんですよね。1つ1つのところで踏みとどまって丁寧にゆっくり盛り上げてゆく、というよりは、とにかくバンバンいくしかないと思って作りました。お客様もぐるぐる回りながら観ていて、ステージ上の展開も早い。今回の劇場ならではの展開やスピード感を作りたいと模索している最中です。
先ほども小池さんへのオファーに対して
おっしゃっていた
“剣心の機敏さ”も必要になってきますね。
小池・修:そうなんです。映像の場合は、演技中に誰かが動線を指示することも可能だろうけど、舞台だと誰かが横について「はい、あっち」とは言ってくれないので、間違えたら大変だろうなと思いつつ、彼は頭がいいので安心しています。
小池・徹:いや、どうなるか分からないですよ(笑)。
小池・修:今回はノンストップで動き続ける上に客席が回るので、客席と一緒に移動する時と、反対方向にいかないといけない時などの違いを身体に染み込ませるのが大変だろうと思います。「いまどこにいるんだろう」「次はどこへ行けばいいのか」と常に考えておかないといけない。でも、私が彼と仕事した限りでは、そういったところも大変冷静で分析力と習得力がすごく早いんですよ。演技力はもちろん、演出家としては大変楽をさせていただける役者さんだと思っています。
小池・徹:はは(笑)。プレッシャーだな。間違えられないじゃないですか(笑)。
小池・修:ははは(笑)。彼のことはとても信頼しているんです。
お2人は『1789 -バスティーユの恋人たち-』で
ご一緒されていますが、
その時はお互いに
どういった印象を受けられましたか?
小池・修:テレビが主戦場である方は、全てスルーでやらないといけない舞台の形式に戸惑う方も多いんです。台本一冊を「これ、全部覚えるんですか」と驚く方も実際にいらっしゃいますしね(笑)。もちろん彼は初舞台ではないこともありますけど、そういった舞台の形式もちゃんと汲み取って計算されていてプロだと感じましたね。あの作品に出ていただいて本当に良かったと思いました。
小池・徹:すごく褒めていただいて恐縮です。小池先生の演出は非常に細やかで繊細、その中にすごく難しい部分があったりもするのですが、本当に分かりやすく僕たち役者を導いてくださるので何をすればいいのかが分かりやすいんです。
小池・修:ありがとうございます。
小池・徹:イメージもちゃんと伝えてくださるんですよ。「こうやればいいんだよ」と、ご自身でもやってしまわれますし、いろいろな知識が豊富なのでどこのポジションも出来てしまうんです。芝居だけでなく、音楽に関してもご自分の意見をハッキリと仰いますし。今回も「ここはこういう歌い方にしましょう」「こっちの方が気持ちよく声が出る」と、音符を変えられていて。想像で見えていた部分と実際にやってみた時に差があった場合の機転の利かせ方の感覚、センスがすごく優れていらっしゃるんですよ。やる側としても「あぁ、分かるな」と共感する部分が多いので、やっていてテンポも良いですし無駄がないと感じています。
小池・修:無駄だらけなんですけど、彼は賢いから私の言葉をスキャンして必要な部分を読み取ってくれるんですよ。
小池・徹:ははは(笑)。
小池・修:本当に。だからありがたいんです。私自身は「この人に届いていないな」と思ったら、言い方や例の挙げ方を変えていくタイプなので、私の口数の多さにより分からなくなってしまう人もいると思うんです(笑)。でも彼はピンと来てない時でも、別の例をひとつ挙げると「あぁ」と、次やる時には答えを出してくれるんですよ。賢く読み取ってくれるから、こちらからすると楽なんですよね。
小池・徹:ははは(笑)。ありがとうございます。
LANDOER:信頼関係があってこそ、ですね。
小池・修:そうですね。でもこれって私だけではなく他の演出家の方も思っていることだと思います。たまに別の演出家さんとお話させていただくのですが、演出家としてのタイプは違っても1人の役者さんに対して感じていることは不思議と同じなんですよ。
小池・徹:へぇー!
小池・修:もちろん合う合わないもあると思う。ただ「その役だったから」とか「その作品だったからお互い上手くいかなかった」といった理由を差し引いて考えた時に、私たちは割と共通した判断をするんです。彼の他の作品の演出家の方とお話したことはないのですが、お話したら絶対に同じことをおっしゃると思いますね。
今作ではどんな“表現”が
お2人のタッグから生まれるのか楽しみです。
小池・修:実は今朝の午前2時~4時ぐらいに2人の作曲家から曲が届いたんですよ。
小池・徹:おー!
小池・修:やっぱり創作物なので、送られてきたものを聴いてみて「本当にいけるのかな」と迷う時もあります。私だけの判断ではなく、実際に曲を歌う本人が歌っているのを聴いてみたら「これはいける!」や「これは単純に盛り上がらないんじゃないか」と思う時もありますし。今回はそれが本当に手探りの状態なんです。以前も『るろうに剣心』は宝塚などで手掛けたので心づもりはあるのですが、原作は同じだとしても今回は新しい音楽ですし、2年前にレッスンした時とは立ち回りのキャストも変わっているので。ただ、彼が淡々とこなしていってくれるので助かります。やっぱり覚えるのが遅い人と出来上がるのが遅い人だと、「本番までに出来るかな」と判断に迷うんです。でも彼みたいにその判断がしやすい役者さんだと本番までの調整がしやすいんですよ。「ここはちょっと余計だな」や「ここが足りないんだな」というのが早めに分かるので、こちら側が対応していけるんです。
小池・徹:ありがたいです。
LANDOER:皆さんでブラッシュアップをしながら本番に向かっていけるんですね。
小池・修:そうですそうです。彼が主役としてしっかりと走ってくれていることで、周りも「あ、自分もちゃんとしないと」と姿勢が正されるんですよ。こういった感じでクールですから、暑苦しく「おい、お前、俺を見ているか」みたいなことは言わない。
小池・徹:絶対に言わないですね。
小池・修:彼を見た人が、ちゃんと自身に活かすことができる。そういったカリスマ性を持っている人なんです。そこは自信を持ってください。
小池・徹:はい。
実際にお稽古が始まってみて、
小池さんご自身はいかがですか?
小池・徹:そうですね。割とギリギリの本読みだったので「みんなはどんな準備をしてくるのだろう」と見えない部分はありました。ただ、みんなの気合いの入り方は僕にも伝わってきていて。この短い期間で他のキャストがどんな想いやキャラを作ってくるのか、座長としては結構楽しみなんです。すぐに立ち稽古が始まる、という役者にとっては過酷な現場だったからこそ「主演として先導していかないといけないな」と思っていましたし、「座長が頑張っていれば周りも頑張ってくれるかな」という想いもあったのですが、皆さん、誰が何を言わなくても頑張る方たちばかりで。そこはやっぱり小池先生に呼ばれている方たちなので、僕としてはすごく安心しました。いまは自分がやるべき剣心で精一杯なので、それが少しずつ落ち着いてきて周りを見ることが出来るようになったら、僕が皆さんにどんなサポートができるのかを可能な範囲で考えることができればいいな、と思っています。
小池・修:そんなこと考えなくても、一生懸命やっているところに人がついて行くから大丈夫。もちろん誰もが一生懸命なんですけど、周りを巻き込んでいけるタイプの一生懸命さと、周りが遠心力で飛んでいってしまうタイプの一生懸命さがあるんですよ。彼の場合はちゃんと山を築くことのできる一生懸命さだから大丈夫です。
小池・徹:ありがとうございます。
新たな劇場で、
どんな剣心に会えるのかとても楽しみです。
では最後に楽しみに待っていらっしゃる皆さんに
メッセージをお願いします。
Dear LANDOER読者
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From 脚本/演出・小池修一郎
『るろうに剣心』という作品は漫画のファンの方、アニメや映画のファンの方、様々なファンの方がいらっしゃる作品だと思います。今回は原作のセリフを多く引用しているので、そのセリフを生身の人間である役者たちが放った時に生まれる〈説得力〉を感じていただきたいです。リアルタイムで演じられる、剣心のドラマに宿った感動を是非観に来てください。
Dear LANDOER読者
aboutミュージカル『るろうに剣心京都編』
From 緋村剣心役・小池徹平
殺陣なども含めて、劇場でこの作品を上演したらものすごく迫力のあるものになるんじゃないかと、僕ら自身とてもワクワクしています。脚本上では歌のやり取りなども割と描かれているので、激しい殺陣での闘いだけでなく言葉を使った闘いなど様々な種類の闘いや表現方法、演出を観ていただけるんじゃないかな、と。原作ファンの方はもちろん、ミュージカルファンの方たちにも新感覚のミュージカルを味わっていただけるはずです。小池先生がものすごく丁寧に『るろうに剣心』の物語を描いてくださっていますし、引用されているワードひとつにしても「これは伝わるかな?」といった細やかな気配りを稽古場で常にされているので、原作を知らない方にも楽しんでいただけると思います。是非、楽しみにしていてください。
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Staff Credit
カメラマン:YURIE PEPE
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:吉田彩華