俳優・小関裕太が出逢った、PLASTICITYの傘の魔法

小関裕太×PLASTICITY

Actor:小関裕太
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Designer:齊藤明希
対談インタビュー

俳優・小関裕太、彼が生み出す表現は“芝居”にとどまらない。文章、画、音楽、写真、自分の瞳に映写された世界を現実のキャンバスへ描き出す、生粋の〈表現者〉。デザイナー・齊藤明希、廃棄されたビニール傘に新たな命を吹き込む〈傘の魔法使い〉。小関さんが齊藤さんによって作られた小さなオブジェを手に取り、2人のDOERの対談がスタートした――

小関裕太(以下、小関):なんだかこうやって見るとクラゲみたいですね(笑)。

齊藤明希(以下、齊藤):そう、生物っぽい物を作りたいと思ったんですよ。PLASTICITYのアイテムを作る時に出る端材を溶かして、さらに加工を加えているものなので原型はほとんどないのですが(笑)。

小関:へぇ~!こんな風になるんですね。本当に海の中の生き物みたい。

齊藤:そうなんですよ。熱を当てて引っ張ると自然に破れるので、それぞれに表情が生まれるんです。

小関:こんな風に瓶に入れると、見え方も変わりますね。このお花の黄色味は何ですか?

齊藤:これは元々傘にあったサビです。PLASTICITYの製品の原料として使っている傘はすべて使われていたものなので、物によっては黄ばんでいたり、サビがついていたりと使用感の強いものもあって。もともとは透明の素材なので、ビニール傘は加工がしやすい素材でもあるんです。

ビニール傘 × 齊藤明希

小関裕太×PLASTICITY
小関裕太×PLASTICITY

小関:具体的に傘でモノづくりを始めたのは、いつ頃からだったんですか?

齊藤:傘を素材にしてバッグを作ろうと思ったのは2、3年前でした。「環境に良い素材や、動物に優しい素材でバッグを作りたい」と思って専門学校に通い始めたのですが、そういった素材を探すのって結構難しくて。いろいろ考えている時に「捨てられるものを回収して再利用できたら一番環境にいいんじゃないか」と思ったんです。そこから日頃捨てられがちな物を探しているうちに、雨の日になると次の日傘が街に溢れていることに気づいて。捨てられた傘を見て「もしかしたら使えるかも…」と。

小関:実際、捨てられた傘をどこで集めているんですか?

齊藤:まだPLASTICITYがブランドになる前は、自分でコンビニなどに行って店長さんに交渉したり、駅中でゴミを回収している人に聞いたりして置き傘を回収していました。街中に捨ててある傘って明らかにゴミに見えても所有権が分からないので、勝手に取っちゃいけないんですよ。

小関:え、そうなんですか!じゃあ、自分で集めながら回収のルートを見つけていかれたんですね。

齊藤:そうです。今はブランドになったので、鉄道会社や商業施設から買い取って回収しています。

傘の“サイズ”と“厚み”の話 feat.食パン

小関裕太×PLASTICITY

小関:ビニール傘って色だけでなくサイズの大小もあると思うのですが、バッグの制作にあたってサイズも振り分けているんですか?

齊藤:そうです。集まった傘を仕分けすると、小型傘と大型傘で大まかに分けられるので、あるべく素材をフルで使っています。PLASTICITYとして最初に作ったバッグは、大型傘から平均的に取れる素材のサイズをそのまま使えるようなデザインにしたんです。

小関:へぇ~!やっぱり専門でやられていると、傘を見るだけでサイズの仕分けってできるものなんですか?僕なんかは食パンが好きなので、分厚さを見ると大体5枚切り、7枚切り、8枚切りって分かるのですが…(笑)。

齊藤:あはは(笑)。確かにサイズは分かります。あとは厚みも…

小関:そっか、厚みも違うのか!

齊藤:見た目は全部一緒でも、メーカーが本当にたくさんあるので厚みが全然違うんですよ。700円の傘は300円の傘に比べて厚みが厚いんです。触った時に「これはしっかりした素材になりそうだな」という感覚は身についてきましたね。

ブルドッグとうさぎの柄がコラボした
奇跡のオンリーワンバッグ

小関裕太×PLASTICITY

小関:基本的には透明のビニール傘のみで作られているんですか?

齊藤:透明以外にも子供用などのカラー傘でも作っています。グラフィックがついていたり、色がついていたりする傘を透明傘と同じ工程で加工すると、その色のバッグが出来るので。

小関:あえて色を活かすんですね。

齊藤:カラーや柄物の傘をどう組み合わせるのかは、基本的に職人さんにお願いしているのですが、一度、ブルドッグとうさぎの柄の傘の組み合わせのバッグが出来上がった時があって…(笑)。

小関:あははは(笑)。

齊藤:「ブランド的にどうだろう?」とみんなで話し合ったんですけど、やっぱりそういうふうに偶発的に出来るデザインも大切だよね、と。好みも人それぞれなので、判断に迷った時は「ブランドのイメージを強く貫く!」と言うよりは「捨てられた傘を、また使ってもらう」というブランドのコンセプトに戻って判断しています。面白いものが出来た時は完全に一点ものですからね(笑)。

小関:確かにブルドッグとうさぎ、発想もできないですもんね(笑)。

「10年後になくなるべきブランド」

小関裕太×PLASTICITY

小関裕太×PLASTICITY

小関:今、コンセプトはどこに向けられているんですか?

齊藤:コンセプトは「10年後になくなるべきブランド」ですね。

小関:せっかくやっているけど、なんですね。

齊藤:モノ作りが出来ているのは嬉しいけれど、素材が簡単に手に入ってしまうことに違和感を覚えているので。処分されるビニール傘って埋立地に送られることが多いそうなんです。それも海外の埋立地とか…。

小関:え、そうなんですか。処分しても行き場がないから、無意識のうちに埋立地送りにしてしまっているってことですか?

齊藤:そうなんです。処理ができない物を作り続けて、無意識に捨てている。その現状を知った時、私、結構ショックを受けて。決してビニール傘を悪いと言っているわけではなく、PLASTICITYが傘の使い方、消費の仕方を考えるキッカケになってくれたらいいな、と思っているんです。

ユニークな放置傘と傘の持つ〈あたたかみ〉

小関:傘を回収されるようになって、街中で傘を見掛けた時に思うようになったことってありますか?

齊藤:単純に捨てられている数が多いな、と思うのと、ユニークな捨て方が多いな…と(笑)。

小関:ユニーク(笑)。例えばどんなふうにですか?

齊藤:すごく高いところに引っ掛かっている傘とか。イタズラで捨ててあるのか、上から落とされたのか分からないのですが。

小関:へぇ~(笑)。どういう状況でそうなったのか分からないけれど、もしかしたら“捨てる”という行為に後ろめたさがあるのかもしれないですね。

齊藤:確かに。

小関:僕、傘ってハンカチなどと一緒で人にあげたり、貸したりしやすいツールだと思っているんです。「返さなくてもいいよ」と言いやすいような。そう考えるとあったかい面もあるな、と。

齊藤:うんうん、それは本当にそう思います。だからこそ、本当に使い方が大切だな、と思うんです。

“生地・GLASS RAIN”のチャームポイント

小関裕太×PLASTICITY

小関:PLASTICITYのアイテムは撥水が良いですよね。

齊藤:そうですね(笑)。生地自体が防水ですし、今の時期は特にアルコールなどで直接拭いても大丈夫なので、安心して使っていただけると思います。あとは、機能的なことではないのですが、私たちが「Glass Rain」と呼んでいる生地の無二の色味を味わっていただけるのもポイントです。

小関:この縦線みたいな?

齊藤:そうです。部分的に入っている線も傘の骨が残すサビもデザインとして取り入れているので、完全な一点ものですし、ある種チャームポイントでもあります。

小関:確かに、味を感じます。

齊藤:ホクロみたいに考えてもらえたらいいな、と(笑)。そういったものもアップサイクルならではで、作り出そうとしても作れないものですし、傘だからこそのポイントを製品に残しておきたいと思って作っているんです。

“空間づくり”って難しいですよね…

小関裕太×PLASTICITY
小関裕太×PLASTICITY

小関:素材探しって大変そうだけど、すごく面白そうですよね。僕もモノづくりがすごく好きで。

齊藤:何を作られているんですか?

小関:画を描いたり写真を撮ったりしてきたんですけど、最近は空間づくりを勉強中です。

齊藤:インテリア的な?

小関:そうです。自分の展示会を自分で組み立てたいという目標があって。ひとつの作品を「どのように見るのが一番見やすいのか?」や「どうしたら自分の意図が伝わるのか?」を学ぶために展示会などに足を運ぶようにしています。

齊藤:それを意識して、いろんな空間を見に行っているんですね。

小関:そうです。職業柄ありがたいことに、自分の役の部屋が他の人の手によって作られていることがあるので、そういったものを見て「あ、こういう風に棚を使うんだな」などと勉強したりもしていて。自宅の空間づくりにも活かせるし、いつか展示をする時にも参考になるかもしれないので。作中の部屋を作られるスタッフの方たちに加わって、役として「これも素敵だけど、こういう形もあるかもしれない」と、意見を言うこともできるかもしれないですし。

齊藤:すごく素敵ですね。私、今年初めて個展をしたんですけど、空間の把握が全然できなくて(笑)。空間の使い方って本当に難しいな、と実感しました。

小関:えー!個展行ってみたいです。僕はまだ引き算ができないんですよ(笑)。足していくのではなく「これだけを見せる!」という引く勇気までまだ至っていなくて。探求中です。

“めちゃくちゃドライなフラワー”が彩る
ポジティブ発想への転換論

小関:このオブジェのお花、花束みたいに部屋に飾れるものがあったら素敵だなと思ったんですけど…

齊藤:まだ見せられていないのですが、バラなどをかたどって「めちゃくちゃドライなフラワー」を作りました(笑)。

小関:あははは(笑)。もはや水をはじく「乾ききったフラワー」ですね(笑)。すごく素敵だと思います。さっきも言ったように、傘って人にあげるあたたかさがあると思うので、生まれ変わった先で花として新たなあたたかみを持つのっていいなって思って。

齊藤:そうですね。確かに「捨てられる」というネガティブがポジティブに生まれ変わりますもんね。

小関:物事の捉え方ひとつでポジティブになれるよ、ってメッセージも込めて。

齊藤:うんうん、ブランド自体がそういう風に考えてもらえるようなものになったらいいな、と思います。サビなどをそのまま入れているのも、それを“汚れ”としてではなく〈キャラクター〉として見てもらうためなんです。傘が辿ってきたストーリーが分かる〈個性〉のひとつなんですよね。使用した傘をゴミとして捉えるのではなく、「傘としての役割が終わったとしても、違う使い方を探していく」私はこれからもそんな風にやっていきたいと思っています。バッグだけではない他のフィールドにも挑戦して、幅を広げていきたいです。

小関:楽しみにしています。

小関裕太×PLASTICITY

小関裕太 PROFILE

こせき ゆうた

1995年6月8日生まれ。26歳。
マテリアルの甘雨を浴びて、
表情裕か(ゆたか)な〈モノづくり〉を世界に発信し続けるDOER

Item Credit
シャツ¥24,200(アイ/ワンエルディーケー アオヤマ)
パンツ¥33,000(ブルーナボイン/ブルーナボイン代官山店) 
その他スタイリスト私物

【問い合わせ先】
ワンエルディーケー アオヤマ(03-5778-3552)
東京都渋谷区神宮前5-47-11 青山学院アスタジオ 1F

ブルーナボイン代官山店(03-5728-3766)
東京都渋谷区恵比寿西1-31-15

Staff Credit
カメラマン:YURIE PEPE
ムービー:日向亜紗樹
スタイリスト:吉本知嗣
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:吉田彩華

雨の音を聴きながら記事をお楽しみください。