【菊池日菜子×小野花梨×川床明日香】映画『長崎|閃光の影で|』〝たしかな真実〟と向き合った日々命の声が記された手記を指針に、等身大を演じ貫いた3人の特別鼎談

菊池日菜子×小野花梨×川床明日香

【菊池日菜子×小野花梨×川床明日香】
等身大を演じ貫いた3人の特別鼎談
映画『長崎|閃光の影で|』
〝たしかな真実〟と向き合った日々
命の声が記された手記を指針に、
等身大を演じ貫いた3人の特別鼎談

文明の利器に質問を投げかければ、一秒立たずしてたくさんの答えが並ぶ現代。まるで「真実を網羅している」かのような顔をして目の前に並んだ答えたちに触れ、すべてを知った気になってしまいそうになる。しかし、人の気持ちや重ねられてきた歴史のなかに、要約できるものも抽出できるものも存在しないのではないだろうか。本当の答えは、当事者が遺した〝彼らの分身〟にのみ宿っているはずだ。分身――仮にそれを〈言葉〉とするならば、そこには魂がある。簡単にまとめきれないほど混沌と記録された、本物の情景がある。これは、1945年8月9日、急変した空の下で生まれた真の〈言葉〉と向き合った、3人の役者の挑戦の記録。

映画『長崎―閃光の影で―』

映画『長崎-閃光の影で-』
©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

-Introduction-

1945年、原爆投下直後の長崎で、若き看護学生たちが命を救おうと奔走していた――日本赤十字社の看護師たちによる手記「閃光の影で―原爆被爆者救護 赤十字看護婦の手記―」を原案に、当時看護学生だった少女たちの視点から原爆投下という悲劇を描いた感動作が誕生した。手記に記された体験をもとに脚色を加えながら生み出された3人の少女たちを演じるのは、菊池日菜子、小野花梨、川床明日香といったフレッシュな新鋭。医療態勢もままならない状況下で命と向き合い続けた一カ月に及ぶ救護活動の日々が、スクリーンに克明に刻まれる。また、長崎原爆投下の前日を描いた名作『TOMORROW 明日』の南果歩が、30年以上の時を経て再び長崎の物語に重要な役どころで出演。さらに、本作の原案にも体験を寄せた元看護学生のひとりである山下フジヱさんが特別出演し、その山下さんの思いを長崎出身の被爆者・美輪明宏が語りとして声で体現する。主題歌は、長崎出身の福山雅治が被爆クスノキを題材にした「クスノキ  ―閃光の影で―」のプロデュース・ディレクションを担当。2025年を生きる私たちと同じように、家族、友人、恋人、ささやかな喜び、そして夢があった。しかし、その“青春”は一瞬で奪われた――。それでも未来を諦めなかった彼女たちの姿は、戦後の現代に生きる私たちに深い問いを投げかけるだろう。

-Story-

一変した日常の中で看護学生として、
人として、使命を全うしようとした
少女たちの戦いが始まった——

1945年、長崎。看護学生の田中スミ、大野アツ子、岩永ミサヲの3人は、空襲による休校を機に帰郷し、家族や友人との平穏な時間を過ごしていた。しかし、8月9日午前11時2分、長崎市上空で原子爆弾がさく裂し、その日常は一瞬にして崩れ去る。街は廃墟と化し、彼女たちは未熟ながらも看護学生として負傷者の救護に奔走する。救える命よりも多くの命を葬らなければならないという非情な現実の中で、彼女たちは命の尊さ、そして生きる意味を問い続ける――

田中スミ役 菊池日菜子
×
大野アツ子役 小野花梨
×
岩永ミサヲ役 川床明日香

覚悟と責任、そこに加わる不安―…
それでも役を追い続けようと
〈決意〉を胸に挑んだ作品

LANDOER:本作のお話が届いたときの率直な感想を教えてください。

菊池日菜子(以下、菊池):もともと戦争をテーマとした映画をよく観ていて、そういった作品が“観た人に残すもの”について考えていた分、今回「原爆にまつわるお話です」と伺ったとき、私にその役が演じられるかと不安に感じたことを覚えています。正直、プラスの感情で前に前に進むことはできなかった、というのが最初の印象です。役を掴んでいく過程でも、その不安はやっぱり消えなくて。どれだけ追い求めても、どれだけ想像しても足りない感覚といいますか。むしろ、その“たどり着けない感覚”意識的に保っていたような気がします。「たどり着けないままでいい」そんな思いを抱えながら、ただひたすらに今できることを精一杯やろうと思っていました。

小野花梨(以下、小野):これまで戦争ものの作品にメインキャストとして参加させていただく機会がなかったのですが、「いずれはきっとそういう機会があるだろう」と思いながら俳優業を続けてきました。今回お話をいただいて「あ、いよいよそのときが来たか」と。脚本を拝読し、事実から目をそらさずにあの日々を描こうとされている松本(松本准平)監督の思いや、アツ子ちゃんの責任感のある強さにとても惹かれ、覚悟をもってこの作品に挑まなければならないと思ったことを覚えています。

川床明日香(以下、川床):脚本を読んで、目をそらさずにまっすぐ向き合わなければならない作品だと感じました。同時に「これを自分がやるのか」という責任と覚悟も感じて。当時彼女たちが生きていた環境や人との距離、気温などすべてが現代と異なっている分、どこかずっとミサヲちゃんを遠くに感じていました。撮影中も、本当に見えないところに彼女がいるような気がして何度も不安になって。「少し分かったかも」と思っても、またすぐに距離が空いてしまうような…。ずっと彼女の存在を追いかけている感覚でしたね。

映画『長崎-閃光の影で-』
©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

それぞれの心持で臨んだ、
これまでにないワークショップ

LANDOER:今回は役作りのために、一ヶ月ほどワークショップを行われたとお聞きしました。それぞれ印象的だった出来事はありますか?

菊池:ワークショップがかなり変わった方法で、「ゼロポイント」と監督が呼ぶまっさらな状態から、すっと役に入るためのアプローチ方法を教えていただきました。ワークショップ中は、とにかく監督に食らいついていった印象です。

LANDOER:ちなみにどのようなことをされたのでしょうか?

小野:役者同士、無言で4分間見つめ合うんです。ワークショップ中だけでなく、心を通わせなければならない大事なシーンの撮影の前にも何度かやったりしたのですが、私もそれがすごく印象的で覚えています。あの長い4分間に2人が何を感じていたのかを、今日の取材日で初めて聞くことができてとても面白かったです。私の場合は「今ここに存在している」ということだけを思う、瞑想に近いことをしていたのですが、ひなちゃんたちはまた違う感想をもっていて。

菊池:私は4分間見つめ合っていると、不思議と2人だけの関係性が2人だけの共通認識で生まれるような感覚があって。それがすっとお芝居に入るうえで有効的だったなと思います。

川床:私にとっては役について話をする以上に、「この人のことを信じても大丈夫だ」と思える感覚を育む時間でした。

LANDOER:それぞれ、本当に違う感想をもたれていたんですね。

小野:そうなんです。そういった意味でもとても印象的なワークショップでした。

映画『長崎-閃光の影で-』
©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

迷い、悩み、探しながら追いかけた
「あの日の彼女たちの姿」
安心感を遠ざけて芝居に挑んだ濃く深い日々

菊池:こんなに迷いながらお芝居をすることは初めての経験だったので、どの時間も常に濃い時間でした。最後の最後にやり切れた感覚がふっと出てきたものの、そのときまでは「やり切った」と思ってはダメだ、安心できる瞬間を一秒でも作っては危険だと、自分に言い聞かせていたんです。とにかく駆け抜けた一ヶ月でした。

川床:毎日大変なシーンの撮影が続いていたのですが、今回の撮影場所である滋賀県が私の生まれ育った場所と少し似ていたおかげで、少し息抜きができていました。私は二人のクランクアップ後にも大事なシーンの撮影がひとつ残っていたため、ミサヲ一人でのシーンが最後の撮影になったのですが、その撮影が終わった瞬間、初めて「やり切った」という感覚に包まれた記憶があります。

映画『長崎-閃光の影で-』
©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

小野:いくつか「薄暮」(日が暮れて薄く暗くなる頃)という時間を使った撮影があったのですが、そのシーンの撮影が印象的でした。映像で映すと夜に見えるけれど、実際は夜でも昼間でもない本当に数十分限りの時間を狙った撮影で。ただでさえ松本組はリハーサルやテスト、本番を重ねない緊張感が続く組にもかかわらず、そこに時間制限も加わってくるという…(笑)。あの時間はみんなが一体化していて、緊張感はありつつもどこか一線を超えてワクワクしているような雰囲気を感じていました。「もうやるしかない!」と、全員で撮影に立ち向かう時間には特別な濃さがあったと思います。

LANDOER:撮影を終えて、やり切った感覚はありましたか?

小野:今はまだその感覚がなくて。この映画が無事に公開されて、お褒めの言葉だったり激励の言葉だったり、お叱りの言葉だったり、いろいろな感想が届くなかで初めて「やり切った」という感情に出会えるのかなと思っています。

映画『長崎-閃光の影で-』
©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

本当の思いを聞き逃さないように、
記された“生の声”に耳を傾ける

菊池:今回この作品に参加するうえで、資料を読んだり、過去に学んだことを改めて多角的に見てみたりして、様々な価値観があることを知りました。ただ、そうしていろんな価値観に触れているうちに、自分の意見や信じたいものが分からなくなってしまって…。最終的に現場で頼りにしていたのは、この映画の原案となっている手記『閃光の影で―原爆被爆者救護 赤十字看護婦の手記―』でした。ずっと手放さずに持ち歩き、彼女たちが記した“生の声”を見逃さないよう、その声を大切にスミを演じることを意識していました。それが私なりの彼女たちに対する敬意だ、と思いながら。

川床:私がどれだけ調べたり、資料を見たりしても、完璧に分かりきることなんて絶対にできないのが戦争。だからこそミサヲになるためにできることはすべてやる気持ちで、常に考え続けていた気がします。撮影がはじまった後も、当時のことを調べたり映像を観たり、ということは欠かさずにやっていました。

小野:事前にやったことといえば、原爆ドームに行くですとか、みんなでワークショップをやるですとか―…。この作品に参加するより前から戦争がいかなるものかどれだけ悲惨なものだったかということは分かっていたので、改めて3人で資料を見る時間をつくったりしながら撮影に臨みました。

映画『長崎-閃光の影で-』
©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

長崎に生きる〈被爆樹〉をモチーフとした楽曲
『クスノキ -閃光の影で-』
福山雅治さんとのレコーディングの思い出

LANDOER:本作の主題歌である『クスノキ ―閃光の影で―』は、2014年に福山雅治さんがリリースされた『クスノキ』を、本作用に福山さんご自身がプロデュースとディレクションされた楽曲になっています。福山さんとのレコーディングについて教えてください。

川床:私とひーちゃんは同日で、レコーディングは一人ずつ行ったのですが、スタジオ内でお互いを見守るような形で過ごしていました。

小野:えぇ!2人一緒にスタジオにいたの!?私、福山さんと1:1ですごく緊張したんだけど…(笑)!

LANDOER:新事実発覚ですね(笑)。それぞれ違うエピソードがお聞きできそうで楽しみです。菊池さんはいかがでしたか?

菊池:私にとっては、もうテレビの中の人…まさにミュージックスターであり、ムービースターという存在だったので、まず同じ地面に立っていることに驚いてしまい、歌いはじめても全然声が出なくて。福山さんにディレクションのお言葉をいただいては「落ち着け、落ち着け」と言い聞かせてまた歌うものの、とにかく声が震えてしまうんです。そんな私に、福山さんは同じ目線に立って気さくに接してくださって。そのやさしさと度量の大きさに救われながら、最後には「大胆だね」と言っていただけるくらい伸び伸びと歌うことができました。

川床:私もすごく緊張していて、正直詳しいことは覚えていないんです(笑)。ただ、音程が少し違っていたら、福山さんが「こうだよ」と直接ギターを弾きながら歌ってくださって…!思わず「お母さんに報告したい!」と思いました(笑)。監督が福山さんの『クスノキ』が大好きで、撮影期間中から「主題歌できたら嬉しい」とおっしゃっていたのを聞いていたので、今回この曲が主題歌に決まったと聞いてすごく嬉しかったですし、改めてとても光栄に感じています。

菊池日菜子×小野花梨×川床明日香

小野:私は一人でレコーディングだったのですが、ブースに入ったらギターを持った黒いTシャツ姿の福山さんがいらっしゃって、その時点で「え~!」と感動しました。明日香ちゃんも言っていたように、音程が違ったりするとギターをポロンッと弾いて「ここの音で」と教えてくださるんです。レコーディングという行為そのものが初めてなうえに、福山さんが作詞作曲されて普段歌われている楽曲を、ご本人の目の前で直接ご指導をいただきながら歌う、というのが本当に信じられない気持ちで。そんな緊張の一方で、福山さんのやさしさとあたたかさが、スタジオを安心感で満たしていた記憶があります。完成したスミ、アツ子、ミサヲ3人の歌唱を聴いて「あ、こんな歌になるんだ」と、魔法のようなものを感じましたし、私にとって宝物といえる時間になりました。

LANDOER:一音のポロンッだけでも、「あの福山さんが…」と思うと信じられないですよね。

小野:そうなんです。今目の前で起きていることが信じられないんですよ(笑)。ご指導とはいえ、自分のためだけに一音を奏でてくださっている。その姿を思わずボーッと見てしまって、正直、本当の音がどれかなんて覚えられなかったです(笑)。撮影中は大変な毎日だったのですが、最後にとっておきのご褒美をいただけたような感覚でした。

LANDOER:本編が終わって、エンディングでみなさんの歌声が聴こえてきたとき「また会えた」と嬉しくなりました。

菊池:歌い出しの順番も物語と合わさることで意味をもつようになるので、是非聴いていただきたいと思います。

菊池日菜子×小野花梨×川床明日香

Dear,今、そして未来を生きる自分たちへ

LANDOER:戦後80年である今年、ここで今一度「平和」というものを見つめてみたいと思う一作でした。世界がつくりあげてきた歴史のうえで、皆さんはこれからどう生きていきたいと思いますか?

「遺されたものに耳を傾けて、
ありのままの真実を伝えていきたい」
From 菊池日菜子

時代が変わっていくにつれて、人が一番身近に感じる辛さや悩みの種みたいなものが変わっていくのは仕方がないことですが、戦争を取り巻く時代を生きた方々がもたれていた苦しみが、当時とは違う形となって受け継がれていくのはよくないことだと思うんです。美化したり、価値観の違いで当時の方々の思いを変えしまうことだけは避けたい。撮影中もそれをとても意識していました。今この時代に語られている言葉だけでなく、実際に知るべき時代の方々によって書かれた手記や、遺されたものたちにこそ耳を傾けていただきたいです。

「今、自分が生きていることへの
感謝と平和を願っていたい」
From 小野花梨

善と悪に関してはすごく難しい問題だと思いますので、私から何か申し上げることは非常に難しいことだと感じています。ただ、今自分が生きていることへの感謝と平和を願っていたいと思います。

「役者だからこそできる
“事実の届け方”がきっとある」
From 川床明日香

原爆や戦争の事実を知る人が少なくなってきている今だからこそ、本作のような戦争を題材とした作品の意味がよりいっそう深まっていると感じます。これから自分が生きていく世界がどうなっていくのか分からないなかで、この作品に出逢ったことで、「役者である私にできること」をより深く考えるようになりました。

菊池日菜子

菊池日菜子

きくち ひなこ

2月3日生まれ。
夏の日射しのように周囲を照らす明るさ、
屈託のない在り方が 触れる心を魅了するDOER

小野花梨

小野花梨

おの かりん

7月6日生まれ。
しんしんと降る理や人の情を閑に見守り、
芝居という〈花〉に それらを凛と描き出すDOER

川床明日香

川床明日香

かわとこ あすか

7月10日生まれ。
心地よく流れる独自のせせらぎ、
その川床に光る大胆さが 役の淵源となるDOER

映画『長崎-閃光の影で-』
7月25日(金)長崎先行公開 / 8月1日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか

出演:菊池日菜子
   小野花梨 川床明日香
   水崎綾女 渡辺大 田中偉登
   呉城久美 坂ノ上茜 田畑志真
   松尾百華 KAKAZU
   南果歩 美輪明宏(語り)
原案:「閃光の影で―原爆被爆者救護 赤十字看護婦の手記―」(日本赤十字社長崎県支部)
監督:松本准平
脚本:松本准平 保木本佳子
主題歌:「クスノキ ―閃光の影で―」(アミューズ/Polydor Records)
 作詞・作曲:福山雅治 編曲:福山雅治/井上鑑
 歌唱:スミ(菊池日菜子)/
    アツ子(小野花梨)/ミサヲ(川床明日香)
制作プロダクション:SKY CASTLE FILM ふればり
配給:アークエンタテインメント
後援:長崎県 長崎市 公益財団法人 長崎平和推進協会

映画『長崎-閃光の影で-』
©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

Staff Credit
カメラマン:小川遼
ヘアメイク:猪股真衣子 (TRON)(菊池)、
      森下奈央子(小野)、吉田美幸(川床)
スタイリスト:石川淳(菊池)、
       伊藤彩香(小野)、中井彩乃(川床)
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:Mo.et