「〈好き〉を堪能する上映会」〈推し〉を大スクリーンに映しだせる映画館東京都荒川区・東日暮里

元映画館・館長 小林さんの
4つのQuestions.


いま日常生活、または仕事の中で
争っているもの

『元映画館』では“ルール”を設定しておらず、公序良俗に反していなければ、基本的に「何をしてもいいよ」というスタンスで場所を貸出しています。「自分たちで考えて、ここで出来ることをしてください」と、使用方法を利用者の方に委ねているがゆえ、具体化されていないアイデアで「使ってみたい!」と来られる方が結構いらっしゃるんです。『元映画館』は、場所自体が“廃映画館”という特殊な場所なので、利用者の方の希望に沿って「どのような使い方をするのがベストなのか?」を考える作業と日々闘っています。情報量の多い場所だからこそ、この場所を上手く乗りこなす必要があるんですよね。

場所を乗りこなす、その通りですね(笑)。
小林さんが一緒に使い方を考えてくださることもあるんですね。

そうですね。僕らは本業が建築設計なので、空間把握能力に関しては職能的に高いものがありますし、『元映画館』をずっと見ているということもあって、この場所を生かす方法はある程度は把握しているつもりなんです。それを踏まえて、来てくださった方々と一緒に使い方を考えて多少の助言をすることはあります。

『元映画館』を始めた起源

『元映画館』をプロデュースしているDELICIOUS COMPANYという会社は、芸大の卒業生たちが集まって「学生時代と同じテンションで建設ができる環境を維持していこう」という想いのもとに出来た会社で、「荒川区で何かアクションを起こしたい」と立ち上がり、生まれたのがこの場所なんです。もともと大学が近かったこともあり、自ずとDELICIOUS COMPANYのメンバーが荒川区周辺に住んでいたんですよ。で、ビジネスコンテストに応募してみたことが大きなきっかけでした。

荒川区を活性化させたい、といった想いだったんですか?

活性化というよりも、街の中でスクラップ&ビルドのサイクルを作りたかったんです。荒川区って芸大や繊維街があるだけでなく、墨田川が近いこともあり、昔から多くの工場でものづくりがされてきた区なんですよ。ただ、作る環境は整っているのに、アウトプットできる場所は少なくて。「蓄えてきたものを放出する場所が必要だな」と思って、ビジネスコンテストで「クリエイティブを発表する場所を作りたいです」と応募したら、最優秀賞をいただくことができて、そこからで場所探しを始めたんです。

ということは、
最初から“廃映画館”を使うつもりはなかったんですね。

そうなんです。場所探しをしていたら、たまたまここの廃映画館を見つけてしまい…(笑)。30年も経っているのに、設備も内装も営業当時の状態で時が止まったように残っていて「これは生かすしかない」と思ったんです。ただそれでは、大元の「この場所でクリエイティブを発表する」というアイデアとは合致しない気がして、みんなでどんな風にこの場所を使っていけばいいのかを会議した結果、「“廃映画館”であることが重要なのだから、それだけを言えばいいんじゃないか」という話になって。「“廃映画館”ということが何かクリエイティブのキッカケになるはずだから、何も決めずに始めたら、きっと誰かが何かの用途で使い出す!」と思って今のような形になりました。

それが結果的に今の『元映画館』に繋がったんですね。

そうです。僕らは場所運営のプロではないので、もとから「こうして欲しい」という希望は特になかったんですよ。いきなり“受け身で始める”という珍しいビジネスモデルですよね(笑)。でも、それが好走して、結果的に守備範囲広くいろいろな方を受け入れることができているのだと思います。そんな施設としての姿勢を崩さないよう、なるべく寛大で器の大きい館長であろうと心がけています。

幸福感を感じる時

『元映画館』は、積極的に特定のターゲットに向けた発信をしていないので、割と飛び込みで人が来ることが多い場所なのですが、そうしていらっしゃった方たちが実はいろいろなところで繋がっていたことを知った時に、すごく幸せを感じます。例えば「以前ここに演劇を観に来たことがあって、私も演劇をしているので帰ってきました」と仰ってくださったり、自身の展示会に使ってくださったり。出会いの場として作ったわけではないのに、勝手に素敵な連鎖が起こってゆく、それが嬉しいんです。この映画館が営業していた1970~80年代の映画館っぽいな、とも思いますし。

1950年代の映画館、今とは違ったんですか?

当時はまだ各家庭にテレビがそこまで普及していなかった時代なので、映画館で空いている時間にニュースなどを流していたらしいんですよ。「映画館に行けば、何か情報を得られるんじゃないか」と、近所の方々が気軽に訪れる場所になっていたんだそうで。『元映画館』で人と人の新たな関わりあいが築かれる場面を見た時に、“偶然の出会い”が生まれていた当時の映画館の〈偶然性〉を現代に引き継げている気がして、幸せを感じるんです。

現実化したいと思っていること
(夢・目標)

僕らの会社、DELICIOUS COMPANYは、コンセプトとして「ただ美しい」だけではなく、僕らなりの視点で“な仕掛けユーモラス”や“面白さ”を加えることを意識しているんです。そういった考え方から言うと、僕らが考えもつかなかったような方法で『元映画館』を使ってくれる人と出逢うことが叶えたい夢です。「混ぜるな、キケン!」といった使い方ではなく、あくまで“廃映画館”と親和性のとれるような使い方でありながら、超意外な使い方をしてくださる方が現れるのを期待しています(笑)。

東京都荒川区『元映画館』

📍元映画館:東京都荒川区東日暮里3丁目31-18旭ビル2F 
 JR常盤線「三河島駅」より徒歩5分/JR山手線「日暮里駅」より徒歩15分

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『元映画館』館長・小林誠

東京藝術大学建築科トム・ヘネガン研究室終了後、内藤廣建築設計事務所、ウィングデザインオフィスを経て、DELICIOUS COMPANYに参画。建築設計やアートディレクションを行う。
2019年10月より「元映画館」の初代館長を務める。

Staff Credit
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:吉田彩華