映画『ブルーイマジン』
「私は1人じゃない」
屈することなく立ち上がる、
これは〈再起〉の93分
視えなくても、確かに残り続ける〈傷〉。どうやって癒せばいい?どうしたら忘れられる?どれだけの時間を経ようと「無かったこと」になどできず、苦しみが胸の内へゆっくりと浸透してゆく。声を挙げることは、怖い。けれどもし、疼く声があるのなら少しだけ顔を上げてみて。あなたを想い、あなたを支えようとする〈人〉の存在を、力を、どうか信じてみてほしい。小さな手でも、繋ぎ合えば大きな〈輪〉になる。この手に、この声に宿る力は、決して弱くなんかない。闘い続けるその背中は、誰に何を言われようと絶対に強いはずだ。
映画『ブルーイマジン』
-Story-
「なんであのとき、ちゃんと言えなかったんだろう……」
俳優志望の斉藤乃愛(山口まゆ)は、かつてある映画監督からの性暴力被害に遭っていたが、弁護士の兄・俊太(細田善彦)からの助言もあり、自分の過去のトラウマを誰にも打ち明けられずにいた。しかし、親友のミュージシャン志望・東佳代(川床明日香)から、佳代が音楽ユニットを組む西友梨奈(北村優衣)の性被害の相談を受けたことをきっかけに、乃愛は友梨奈とともに「ブルーイマジン」に移り住むことを決める。巣鴨三千代(松林うらら)が相談役を務める「ブルーイマジン」は、さまざまな性被害やDV、ハラスメントなどに悩む女性たちの駆け込み寺として機能するシェアハウスだった。フィリピンからやってきたジェシカ(イアナ・ベルナルデス)やアイリーン(ステファニー・アリアン)をはじめ、「ブルーイマジン」に集まる個性あふれる人々と助け合いながら、乃愛と友梨奈は自らの過去の心の傷を癒し、佳代は性被害者への寄り添い方を学ぼうとするのだった。ある日、乃愛は「ブルーイマジン」へ相談に来た俳優志望の真木凛(新谷ゆづみ)を通じて、かつて乃愛に性暴力を振るった映画監督・田川実(品田誠)が、何人もの俳優志望者たちにも同様の行為を行ってきた事実を知る。
乃愛は、「ブルーイマジン」の人々と連帯し、力を合わせて声をあげる決意をする。新聞社への取材申し込み、ブログ記事での拡散……乃愛たちの声は、世間からも少しずつ注目されはじめる。しかし、旧態依然とした映画業界は簡単には変わらない。田川の新作映画も、何事もなく公開されようとしていた……業を煮やす乃愛。いっぽうそのころ、佳代と新曲作っていた友梨奈はある晩、自らの心の葛藤を込めたこんな自作の歌詞を、ひとり口ずさむのだった。彼女たちにかすかな希望の灯りがともる未来は、やってくるのだろうか――?
-斉藤乃愛-
トラウマを抱えながら、俳優を目指している。
映画『ブルーイマジン』
台本を読んで――
私自身が乃愛と同じ業界にいることもあり、率直に「怖い」と感じました。同時に、だからこそ嘘がないように、丁寧に演じなければいけない題材だな、とも。身が引き締まる感覚になったことを覚えています。ほかにも印象的だったのが、女性キャラクターたちの姿。女性が持っているたくましさを強く感じる本でした。
撮影に入る前、松林麗監督とは
どのようなお話をされましたか?
作品のテーマがテーマだったこともあり、はじめに監督が「大変じゃないですか?」「大丈夫ですか?」と、気を遣ってくださって。そういった監督のお声がけが本当にありがたかったです。その後、私が台本を読んで感じた乃愛と監督が思い描く乃愛をすり合わせながら、『斉藤乃愛』の人物像を作り上げていきました。全体で93分しかない作品なので、乃愛が声をあげる決意を固めていく流れについては特に話し合いを重ねましたね。
乃愛の目を通して、
現代社会の実情が色濃く投影されている本作。
山口さんの目には、実情に立ち向かう彼女たちの姿は
どのように映りましたか?
登場人物が抱えている問題はそれぞれ違うのですが、一人ひとりに丁寧に向き合ってみると境遇が似ていることに気づいたんです。だからこそ、独りで悩み続けるのではなく、仲間意識をもって立ち向かうことが大事なんだな、と。国籍やジェンダーを問わず、登場人物たちが頑張って闘っている姿にとても勇気をもらえましたし、実際に『ブルーイマジン』のような拠りどころがあればいいのにな、と思いました。
とてもあたたかく心強い場所ですよね。
今の時代に本作を届けることに
どのような意義を感じられますか?
男女問わず、どんなことであれ「嫌なことは嫌!」と伝えるための、言葉の後押しができる作品になってくれたら嬉しいです。誰にも打ち明けられずに抱え込んでしまっている人に、今作を通して勇気を届けられたら、それがこの映画の〈意義〉にも繋がるんじゃないかな、と。少しずつ声をあげられるようになった現代、映画『ブルーイマジン』には、さらに強く背中を押してくれる力がこもっていると思います。
国境を超えたコミュニケーションが
描かれていた今作。
海外の方との共演はいかがでしたか?
今回はフィリピンの方と共演させていただいたのですが、彼女たちの躊躇いのない大きな愛情や、ほっとするあたたかさを感じることができる現場でした。日本人の場合、恋人や家族でもない限り、ハグなどで直接的に触れ合う機会があまりないからか、お芝居でハグをする際にも指先を通して緊張感が伝わってくることがあるんです。けれど、彼女たちの指先には緊張感や躊躇いがゼロで、こんなにも違うのかと感動しました。実際にご一緒した時間はそこまで長くなかったのですが、劇中でハグするシーンでは何の躊躇いもなく抱きしめてくれて。乃愛だけでなく、私自身もぎゅっと抱きしめられたような気がして、嬉しかったです。
まさに、外国の方特有の文化ですね。
さらに国だけでなく、
男女の壁を超えていく描写も印象的でした。
男性キャストの皆さんも本当に繊細に考えて取り組まれていました。「これはアウトなのか」「これはOKなのか」と、境界線を見極めながらかなり熟考されていて。個人的には、女性側の問題だけでなく、男性側が被ったパワハラやセクハラについてもしっかり描かれているのが、この作品の真摯さだと感じます。
同年代の佳代(川床明日香)や
友梨奈(北村優衣)との
3人のシーンが多かったと思います。
“女友だち”の雰囲気はいかがでしたか?
撮影に入る前にみんなで何度か読み合わせをして、3人の関係性を掴んでいきました。特に佳代は、じっくり相談に乗るというよりも、さりげなく相手を支えるタイプのキャラクターだったので、互いの距離感についてはかなり話し合いました。踏み込みすぎない、けれど、気にかけていたり大切に想っていたりするのは確かな距離感、を探すようにして。佳代も友梨奈もとても心強い友人でしたね。
3人の絆を見て、
人を癒すのは〈人〉なのだと感じました。
そんな“人の力”や、“再起の力”について
作品を通して感じられたことはありましたか?
再認識したのは「一人で立つのってなかなか難しい」ということ。私自身も乃愛と同様、割と自分の殻に閉じこもって落ち込んでしまうタイプで、どんどん自分を追い詰めていっては、最初に感じた小さなほころびよりさらに深いところまで落ち込んでしまう傾向があって。あるときから、「落ち込むのは最初だけにしよう、余計なことまで連想するのはやめよう」と、意識するようにはなったのですが、落ち込もうとする心をぐっと留めてそこから気持ちを上げていくのって、自分の力だけだと結構難しいんですよね。この作品を通して、改めて“人を頼ることの大切さ”を学んだ気がします。最初の落ち込みをあやふやにしてしまうと、時間が経ったときにまた同じことで落ち込んで、どんどんと連想してさらに落ち込んで…を繰り返してしまうもの。だからこそ、人に頼りながら一つひとつの問題と向き合って、最初の落ち込みをハッキリとさせることがきっと自分をラクにしてくれる。乃愛ももともとは人に頼るのが苦手な子でしたが、シェアハウスでのふれあいを通して徐々に心を開いていって、立ち上がる力をつけていったんじゃないかな。自分を労わるためには「一人じゃ難しいこともある」と、早々に自覚することも必要なのかもしれません。
Dear LANDOER読者
映画『ブルーイマジン』
From 山口まゆ
相手が100%悪くても自分を責める気持ちを抱いてしまう人が決して少なくない性被害。「私に隙があったんじゃないか」と思うこともあれば、他人に「隙があったんじゃないか」と言われることもあるかもしれません。まず、ひとつ言えるとしたら「あなたは悪くない」ということ。そのうえで、そんな風に後付けされるくらいなら「嫌なものは嫌」と言える、強さをもってほしいと思います。とはいえ、私自身、なかなか気持ちを言葉にできず、つい周囲に合わせてしまうこともあるのですが、今作を通して“〈自分〉という軸をもつことの大切さ”と、「一人だけで頑張ろうとしなくていい」というメッセージを改めて受けとることができました。そういった、この映画の“想い”が、観てくださる人にも届いてくれたら嬉しいです。
映画『ブルーイマジン』
2024年3月16日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開
出演: 山口まゆ 川床明日香 北村優衣
新谷ゆづみ 松林うらら
イアナ・ペルナンデス
日高七海 林裕太 松浦祐也 カトウシンスケ
品田誠 沖野佳奈 武内おと
飯島珠奈 宮永梨愛
渡辺紘文 ステファニー・アリアン
細田善彦
監督:松林麗 脚本:後藤美波
配給:コバルトピクチャーズ
製作:「ブルーイマジン」製作委員会
Staff Credit
カメラマン:小川 遼
ヘアメイク:美樹(Three PEACE)
スタイリスト:梅田一秀
インタビュー・記事:満斗りょう、小嶋麻莉恵
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