【津田健次郎】 映画『北極百貨店のコンシェルジュさん』 薄れゆく時代にも〈希望〉は生まれ、繋がってゆく 〝想いのバトン〟は決して消えない

津田健次郎

映画『北極百貨店のコンシェルジュさん』
薄れゆく時代にも
〈希望〉は生まれ、繋がってゆく
〝想いのバトン〟は決して消えない

世界が生まれて今日に至るまで、たくさんの命の糸が紡がれ、絡まり、強くなり、歴史を織りなしてきた。そのなかには滅びてしまった糸も、複雑に絡まり合い、ほどけなくなった糸もあったはず。〈生きる〉の裏には必ず、薄れ、消えゆくものが存在する――けれど、どんな場所にも〈希望〉はある。抗うことを諦めないで、物分かりなんてよくなくていい。あの日、胸に灯した〈夢〉や〈想い〉が、あなたの道を優しく照らしてくれるから。でももし、道に迷い、先が見えなくなってしまったら・・・?ご安心ください。北極百貨店のコンシェルジュたちが、すぐにお手伝いに駆けつけます。

映画『北極百貨店のコンシェルジュさん』

映画『北極百貨店のコンシェルジュさん』

-Story-

仕事を頑張るすべての人におくる、
不思議でかわいい“動物×百貨店”エンターテインメント!

新人コンシェルジュとして秋乃が働き始めた「北極百貨店」は、来店されるお客様が全て動物という不思議な百貨店。一人前のコンシェルジュとなるべく、フロアマネージャーや先輩コンシェルジュに見守られながら日々奮闘する秋乃の前には、あらゆるお悩みを抱えたお客様が現れます。中でも<絶滅種>である“V.I.A”(ベリー・インポータント・アニマル)のお客様は一癖も二癖もある個性派ぞろい。長年連れ添う妻を喜ばせたいワライフクロウ、父親に贈るプレゼントを探すウミベミンク、恋人へのプロポーズに思い悩むニホンオオカミ・・・自分のため、誰かのため、様々な理由で「北極百貨店」を訪れるお客様の想いに寄り添うために、秋乃は今日も元気に店内を駆け回ります。

-ウーリー(CV:津田健次郎)-

造形作家のケナガマンモス。

津田健次郎

『北極百貨店のコンシェルジュさん』
作品のお話を聞いて――

画のタッチ、キャラクター、物語、すべてにオリジナリティーが溢れていて「すごく素敵な作品だな」と、思ったことを覚えています。僕の演じさせていただいた『ウーリー』も非常に魅力的なキャラクターで、彼の役をやらせていただけるとお聞きしてとても嬉しかったです。

原作を読まれたとき、
『ウーリー』に感じた第一印象は
どういったものでしたか?

とても“孤独な人”だと思いました。彼にとって最も大切だったのは“妻”。その妻を亡くし「妻がいなくなった後も(自分は)生きてきてしまった」という絶望を抱えながら、芸術家として作品を作ることで、何とか〈孤独〉に耐えて生きてきた人なのではないだろうか、と。だからといって自身の〈孤独〉を声高らかに歌い上げるわけではなく、ただただそういった思いをもって生きている人。それが僕の感じたウーリーでした。

津田健次郎

津田健次郎

強い感情を出すキャラクターではないゆえの
難しさもありそうですね。

そうですね。これは映画全体に通ずることだと思っているのですが、この作品は何か劇的なドラマが起こるわけでも、対立した敵同士が闘うわけでも、大恋愛が繰り広げられるわけでもなく、僕らが生きていて忘れがちな“大事なもの”を、丁寧に柔らかく、そっと提示してくれる作品なんです。そしてそれは、ウーリーというキャラクターにも言えることで。独りを嘆くでもなく、絶望を前面に出すわけでもない、そんな彼のもつ〈孤独〉と〈哀しみ〉を、どうすればにじませることができるだろう、と考えていました。

“にじませる”、
確かに一筋縄ではいかない表現のように思います。

ウーリーが、接するキャラクターたちとどういったコミュニケーションを通して心を通わせていくのか、彼の内側にある繊細なバランスを“にじませたい”と思ったんです。そして、観てくださる皆様の心にじんわり染み込んでいくといいな、と。そんな僕の理想をどう表現すればいいのかを考えながら演じていました。

津田健次郎

お話をお伺いして、
作品が優しく染み込んでくる理由が
分かった気がします。
その一方で
かなり社会的なメッセージ性もある作品だな、と。

それぞれのドラマがささやかに明るく描かれているけれど、作中で“”V.I.A”と呼ばれているのはすべて絶滅した動物たちで、ウーリーが作っている作品は“氷”でできている、いつかは壊れてしまう彫刻。タイトルにある“北極”の氷はいまも溶け続けていますし、舞台である“百貨店”も時代の波に押されてしまっている。実はこの作品の根底に流れているのは、「滅びた者たちの物語」であり、「失われてゆく物語」なんですよね。

切なくも、考えさせられる部分が
たくさん散りばめられた物語だと感じました。

そうですね。滅びゆく存在たちを飛べない鳥である『エルル』というキャラクターが一心に背負っているのですが、そんなエルルが最後に起こしたある行動が、僕には、絶滅してゆくことだったり、絶望だったり、そういったものに対する〈抗い〉に見えたんです。少しずつでも抗って〈希望〉を繋げてゆく、そんな思いがこもっているような。彼の姿が表すメッセージに大きなカタルシスを感じました。

映画『北極百貨店のコンシェルジュさん』

現代社会に必要なメッセージが
静かに、けれど鋭く描かれているように思います。

現代って、〈希望〉がもちにくい世界になってしまったと感じているんです。経済的には不安定だし、戦争はやまないし、大人もみんな「さぁ、どうしたもんかね」と、ほとほと困っていますし。きっとこれから世に出ていく皆さんは、そういった大人たちの姿を見て「どうやって、明るく楽しく生きていけばいいのだろう…」と思っているんじゃないかな。ただ、そんな世界でもウーリーは、若いアーティストに「同じアーティスト同士、ちょっと頑張っていきませんか」と、〈希望〉を託しているんです。暗くて先が見えづらい世界でも、もがけば、抗えば、〈未来〉や〈希望〉が拓けるかもしれない。この作品を観てくださる皆さんにも、ここからやれることがたくさんあると思いますし、世界は変わっていく可能性に満ちていると思います。もちろん僕もまだまだ頑張って戦っていくので、一緒に頑張って生きていっていただけるとすごく嬉しいです。

秋乃やV.I.Aの動物たちの姿を観て、
「やろう」という〈意志〉さえあれば、
できることってたくさんあるのだと感じました。

そうですね。この作品からは「運命に逆らっていこうじゃないか!」という力強さを感じますし、僕自身もそう思っています。秋乃にしても、ネコにしても、夢を抱えた2人の純度がめちゃくちゃ高いんですよ。僕は、彼らの“純度の高さ”が、ウーリーの氷のような心を溶かしていったのだと思っていて。ウーリーはいままできっと、自分の思いを吐露したことなんてなかったと思うんです。でも2人と接することで、思わず自分が出ちゃったんだろうな、と。彼にとっても〈未来〉を感じる秋乃たちの存在はとても大きかったと思います。

津田健次郎

Dear LANDOER読者
From 津田健次郎
映画『北極百貨店のコンシェルジュさん』

たくさんの想いがこもった作品であり、その一つひとつがとても丁寧に紡がれている物語だと思っています。決して押しつけがましくなく、それでいて優しく寄り添ってくれる作品で、年齢問わず楽しんでいただける物語になっているんじゃないかな、と。子どもはもちろん、働く大人には刺さる部分がたくさんあると思いますし、ご年配の方々にも楽しんでいただける要素が詰まっていると思います。出てくるキャラクターたちもすごく魅力的で、きっと誰かに感情移入してしまうはず。キャスト、スタッフ、全員の想いがこもった作品ですので、是非劇場に百貨店の空気を味わいに来ていただけると嬉しいです。個人的にウェス・アンダーソン監督の作品が好きなのですが、北極百貨店の外観がウェス・アンダーソンっぽくて、そこもお気に入りポイントです(笑)。

津田健次郎

津田健次郎

つだ けんじろう

6月11日生まれ。
胸の奥にしまい込んだ心の〈声〉を、
優しく掬い、そっと表現に流し込む慈愛のDOER

映画『北極百貨店のコンシェルジュさん』

映画『北極百貨店のコンシェルジュさん』
2023年10月20日(金)ロードショー

出演: 川井田夏海  大塚剛央
   飛田展男 潘めぐみ 藤原夏海
   吉富英治 福山 潤 中村悠一
   立川談春 島本須美 寿美菜子
   家中 宏 七海ひろき 花乃まりあ
   入野自由 花澤香菜 村瀬 歩
   陶山恵実里 氷上恭子 清水理沙 諸星すみれ
   津田健次郎
原作:西村ツチカ『北極百貨店のコンシェルジュさん』
(小学館「ビッグコミックススペシャル」刊)
監督:板津匡覧 脚本:大島里美
主題歌:「Gift」Myuk(Sony Music Labels Inc.)
アニメーション制作:Production I.G

Staff Credit
カメラマン:田中丸善治
ヘアメイク:塩田勝樹
スタイリスト: 小野知晃(YKP)
インタビュー・記事:満斗りょう
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