「幸せのコップがなかなか満ちない」と思っている貴方へ

映画『ANORA アノーラ』

「幸せのコップがなかなか満ちない」
と思っている貴方へ

映画『ANORA アノーラ』
©2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

-Introduction-

シンデレラストーリーのその先を描いた、
セクシーでゴージャスでユーモラスな人生賛歌の傑作、誕生!

全篇iPhoneで撮影し、サンダンス映画祭他多くの国際映画祭で喝采を浴びた『タンジェリン』(15)、アカデミー賞®助演男優賞にノミネートされた『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(17)、カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作『レッド・ロケット』(21)など、アメリカ社会の「声なき声」をすくいあげ、丁寧にかつユーモラスに描いてきたショーン・ベイカー監督。長編8作目で監督が描くのは、自らの幸せを勝ち取ろうと全力で奮闘する、ロシア系アメリカ人の若きストリップダンサー、アノーラの等身大の生きざまだ。身分違いの恋という古典的なストーリーでありながら、監督作品史上最もエンターテイメント性が高く、清濁合わせ呑む人間らしさに溢れた本作は、第77回カンヌ国際映画祭最高賞 パルムドールを受賞。審査員長のグレタ・ガーウィグは、「私たちの心を捉える、素晴らしく、人間味あふれた温かみのある映画」と絶賛。レビューサイトRotten Tomatoesでは、批評家たちから現在99%の高評価を獲得している。アメリカでは10月18日からの先行公開で1館あたりの興行収入が9万ドルを超え今年No.1となり、素晴らしいスタートを切った。
主役アノーラ、通称アニーに抜擢されたのは、新星マイキー・マディソン。監督は、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19)と『スクリーム』(22)でのマイキーの演技の中に、意欲に満ち、強気でセクシーなアニーを見出したという。シナリオ執筆やリサーチなど制作段階から本作に関わり、監督と絶大な信頼関係を築いたマイキー。批評家から大絶賛を浴びている彼女は今年の賞レースの注目の的になること間違いない。彼女に夢中になるお調子者のロシア新興財閥の息子イヴァンには、「ロシアのティモシー・シャラメ」の愛称で親しまれ、本作が英語劇初挑戦となるマーク・エイデルシュテイン。2人の結婚を阻止しようと、イヴァンの両親から派遣された男たちの1人、イゴール役を『コンパートメントNo.6』(21)で強烈な印象を残し、数々の賞を受賞したユーリー・ボリソフが演じる。撮影監督は『レッド・ロケット』に続き、再びベイカーとタッグを組んだドリュー・ダニエルズが担当し、現代のニューヨークとラスベガスに70年代の映画美学をスクリーンに蘇らせる。セックス、美、富というパワーゲームの中で利用されながらも、自らの幸せを求め続ける人間たちへの賛歌をユーモラスに、そして真摯な眼差しで描く。階級意識や偏見に抗うアノーラの圧倒的パワーとエネルギーは、凝り固まった今の世の中を鮮やかに蹴り飛ばす!

-Story-

ニューヨーク、ブルックリンでストリップダンサーをしながら暮らす“アニー”ことアノーラ(マイキー・マディソン)は、職場のクラブでロシア人青年イヴァン(マーク・エイデルシュテイン)と出会う。祖母の影響でロシア語を少しばかり理解できる唯一の存在として、アニーが接客することになったのだ。アニーの情熱的な魅力にたちまち夢中になったイヴァンは、クラブの外でも働くことができるかを訊ねる。ブライトン・ビーチにある巨大な邸宅を訪ねたアニーはイヴァンが富豪の御曹司であることを知り、若々しく奔放なエネルギーと財力に魅了されていく。1万5千ドルで彼がロシアに帰るまでの7日間、“契約彼女”になるという提案にのったアニー。パーティーにショッピング、贅沢三昧の日々を過ごした二人は休暇の締めくくりにプライベートジェットでラスベガスへ訪れる。奔放なイヴァンに次第に惹かれていくアニーは、「アメリカで結婚すればロシアに帰らなくて済むのに」と話すイヴァンに結婚してみる?と提案する。するとイヴァンは「何カラット(の指輪)がいい?」と衝動的にプロポーズ!戸惑いながらもその申し出を受け入れたアニーはイヴァンと24時間営業の教会へ駆けつけ、結婚式を挙げる。二人が幸福なシンデレラストーリーの渦中にいるなか、息子が娼婦と結婚したと噂を聞いたロシアの両親は結婚に猛反対。アメリカでのイヴァンの見張り役として雇っていた、アルメニア人の司祭トロス(カレン・カラグリアン)を筆頭に、イゴール(ユーリー・ボリソフ)、ガルニク(ヴァチェ・トヴマシアン)を息子の邸宅へと送り込む。両親がロシアからやってくると聞いてそそくさと逃げ出すイヴァンに置いて行かれ、体格のいい男たちを前に彼らに負けまいと全力で闘うアニー。最終的には彼らと共に逃げ出したイヴァンを探すアニーだったが、ほどなくしてイヴァンの両親がロシアから到着。空から舞い降りてきた厳しい現実を前に、アニーの物語の第二章が幕を開ける——

伊藤さとり’s voice
伊藤さとり’s voice

波乱続きの本年度米アカデミー賞。最有力と言われた13ノミネートの『エミリア・ペレス』は、主演女優賞にトランスジェンダー女優初ノミネートとなったカルラ・ソフィア・ガスコンが、過去にSNSに投稿した人種差別的な発言により、オスカーのキャンペーンからも外されることに。更に10ノミネートとなった『ブルータリスト』は、ハンガリー語を話すエイドリアン・ブロディとフェリシティ・ジョーンズのセリフをよりリアルにする為に、AI技術を使用したと編集者が発言。今、映像業界ではAIの利用は俳優や脚本家の仕事を脅かすものとしてハリウッドのストライキでも問題視されているテーマだ。
と考えるとこれらの問題は、米アカデミー賞の受賞結果にも少なからず影響を及ぼすだろう。であれば一体何が、現時点で作品賞の最有力になるのだろうか。

実は今月、批評家協会賞、製作者組合賞、監督組合賞の最高賞を獲得した映画がある。まさにオスカーに王手がかかったとも言える映画、それがアカデミー賞6部門ノミネートの『アノーラ』だ。本作の監督は『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017)が、カンヌ国際映画祭監督週間で上映され、その名を世界に轟かせたショーン・ベイカーだ。

なぜそこまでこの映画が多くの人を魅了するのだろうか。
まず、本作はR18指定になっている。理由は若きロシア系アメリカ人のストリップダンサーが主人公で、彼女のダンスシーンが冒頭多く映し出されるからだ。毒親持ちで貧困の中、自分の自由を得る為にはお金が必要だと考え、若さと美貌を売りに男達の快楽相手として生計を立てている。そんな彼女が大富豪のロシア人青年と出会い、期間限定の契約彼女になって本物の妻の座を掴むのだから、よくあるシンデレラストーリーだと思うかもしれない。しかし実際はそれだけでは終わらない。果たして彼女になることが愛されている証なのか、結婚することが真実の愛なのか、それらを問う作品であり、自分の存在価値を証明しようとひたむきなアノーラの姿に胸打たれるのだ。

きっと見ればアノーラを好きになるだろう。アノーラは自分を持った強い女性のように見える。そして自分で自分の幸せを切り開いているようにも見える。だからアノーラは自分に自信を持った女性にも見える。何故なら自分の価値を下げないように男性と駆け引きを繰り返し、自分を傷つける者は容赦しないという反骨精神もあるからだ。しかし本当に彼女は今の自分を愛しているのだろうか。やがて彼女をじっと見つめる用心棒のイゴールが現れる。彼は用心棒で無口なのだが、きっとイゴールはアノーラに自分とのある共通点を見出したのではないだろうか。それがまた切ないのだ。私はクライマックスのアノーラの行動がとても悲しかった。その時、彼女が自分のすべてを愛しているわけではないのだと確信したからだ。その姿が、愚かで愛おしくて小さくて涙が流れた。

彼女になったからといって幸せになれるわけではない。結婚したからといって幸せになれるわけでもない。ましてやお金があれば幸せを手にできるわけでもない。幸せとは自分から望まなくては手に出来ないし、誰かに愛されたところで得られるものでもないのだ。きっとこの映画を見た時に、アノーラの幸せについて考えることになるだろう。彼女はどんな幸せを望んでいるのか。それに気づいた時、自分自身の幸せについても分かるだろう。

映画『ANORA アノーラ』
2025年2月28日(金)全国ロードショー

監督・脚本・編集:ショーン・ベイカー
製作:ショーン・ベイカー、
   アレックス・ココ、サマンサ・クァン
出演:マイキー・マディソン、
   マーク・エイデルシュテイン、
   ユーリー・ボリソフ、カレン・カラグリアン、
   ヴァチェ・トヴマシアン
配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画

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