人と距離を紡ぎながら、この世界を生きているすべての私たちへ

映画『サンセット・サンライズ』

人と距離を紡ぎながら、
この世界を生きているすべての私たちへ

映画『サンセット・サンライズ』
©楡周平/講談社 ©2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

-Introduction-

自分の“好き”を諦めない——
その先で見つけた新しい幸せのカタチ

楡周平原作の「サンセット・サンライズ」(講談社)を菅田将暉主演で映画化。書いたドラマは必ず注目を集めるといえるほど、期待と信頼を一身に浴びる宮藤官九郎が脚本を手がけ、『正欲』(23)の岸善幸監督との異色のコラボレーションから生まれた本作。都会から移住したサラリーマンと宮城県・南三陸で生きる住民との交流や、人々の力強さや温かさをユーモアたっぷりに描き、その背景にあるコロナ禍の日本、過疎化に悩む地方、震災などの社会問題と向き合いながら豊かなエンターテインメントに転化させたヒューマン・コメディ。

-Story-

新型コロナウイルスのパンデミックで世界中がロックダウンに追い込まれた2020年。リモートワークを機に東京の大企業に勤める釣り好きの晋作(菅田将暉)は、4LDK・家賃6万円の神物件に一目惚れ。何より海が近くて大好きな釣りが楽しめる三陸の町で気楽な“お試し移住”をスタート。仕事の合間には海へ通って釣り三昧の日々を過ごすが、東京から来た〈よそ者〉の晋作に、町の人たちは気が気でない。一癖も二癖もある地元民の距離感ゼロの交流にとまどいながらも、持ち前のポジティブな性格と行動力でいつしか溶け込んでいく晋作だったが、その先にはまさかの人生が待っていた—?!

伊藤さとり’s voice
伊藤さとり’s voice

都会に住んでいると一度は夢見る田舎暮らし。家賃は安いし、食べ物は美味しい、景色は最高、まさに言うことなし。ただし気になるのは人間関係。近所付き合いをしなくて済む都会に慣れた私達が果たして暮らしていけるのか…。

そんな憧れの生活を菅田将暉主演で映画化した『サンセット・サンライズ』。原作は楡周平による同名小説で、釣り好きのサラリーマンがコロナ禍でテレワークとなり、三陸のある町にお試し移住するお話だ。それを『二重生活』(2016)、『あゝ、荒野』(2017)で菅田と映画を撮った岸善幸が監督し、脚本に宮藤官九郎を招いて映画化したのだ。

冒頭から面白い。これぞクドカン節と言いたくなる海釣りのシーンから始まる。宮城弁を話す中村雅俊の一見呑気そうな漁師と、その娘・百香演じる井上真央が地元のマドンナという納得のキャスティングにホッコリする中、海を見渡せる一軒家に興奮しテンションが上がる菅田将暉演じる晋作が登場する。釣り好きの主人公の物語だから釣り映画か?と思いきや、物語は早い段階で人と人との交流について舵を切る。

コロナ禍だったあの頃、人との距離感も探り探りで、マスクに手洗いは必須という状況だった。この時期を題材にしたらシリアスになりかねないところを宮藤官九郎は面白く味付けしていく。思えば菅田将暉の主演作というとシリアスなものが最近は多かったので、久々に心底楽しげなキャラクターをスクリーンで見た気がする。

漁船から見える三陸の海はのどかでどこまでも美しい光景が広がっている。しかし百香が何故、一軒家を貸家にしたのか、何故、過去のことに触れないのか、晋作が疑問に思い始めた時から、少しずつ岸監督の色合いが映し出されていく。それは人間の内面をじっくりと見つめる監督らしく、静かにゆっくりとちょうど良いタイミングで彼らを対峙させて行くという手法だ。

個人的には「モモちゃんの幸せを祈る会」の四人衆の登場に心躍った。竹原ピストル演じる小さな小料理屋の料理は目にも美味しそうで、三宅健と山本浩司、好井まさおがその店に入り浸って、4人で地元愛とモモちゃん愛を精一杯語るのだ。だから晋作は彼らにとってはまさしく警戒すべきよそ者。もし、晋作が彼らと飲みたくてもそう簡単に心を開かない、はずなのだが…。人は褒められれば良い気持ちになるし、本心で語っていると分かれば心を開き始めるもの。だから相手をラベリングしてはいけないし、話してみないと相手のことは分からないよねと、笑ったり泣いたりしながら隅々まで映画を味わった。

映画『サンセット・サンライズ』
1月17日(金)全国ロードショー

出演:菅田将暉、井上真央、中村雅俊ほか
脚本:宮藤官九郎 監督:岸善幸『あゝ、荒野』
原作:楡周平「サンセット・サンライズ」(講談社)
*文庫版は 10 月 16 日刊行予定
配給:ワーナー・ブラザース映画

映画『サンセット・サンライズ』
©楡周平/講談社 ©2024「サンセット・サンライズ」製作委員会