決して独りではない、けれどどこか寂しい貴方へ

映画『コット、はじまりの夏』

決して独りではない、
けれどどこか寂しい貴方へ

映画『コット、はじまりの夏』
© Inscéal 2022

-Story-

コット、9歳。
家族がいても孤独な日々におとずれた、“特別な”夏休み。
少女のささやかな願いに心洗われる、
愛おしさに満ちた希望の物語。

1981年、アイルランドの田舎町。大家族の中でひとり静かに暮らす9歳の少女コットは、夏休みを親戚夫婦のキンセラ家のもとで過ごすことに。寡黙なコットを優しく迎え入れるアイリンに髪を梳かしてもらったり、口下手で不器用ながら妻・アイリンを気遣うショーンと一緒に子牛の世話をしたり、2人の温かな愛情をたっぷりと受け、一つひとつの生活を丁寧に過ごすうち、はじめは戸惑っていたコットの心境にも変化が訪れる。緑豊かな農場で、本当の家族のようにかけがえのない時間を重ねていく中で、コットはこれまで経験したことのなかった生きる喜びを実感し、やがて自分の居場所を見つけていく―。

伊藤さとり’s voice
伊藤さとり’s voice

ヨーロッパでは子どもが主演の映画が増えている。 これは日本ではあまりない傾向で、特に日本のメジャー映画は国内での興行収入を意識した結果、人気漫画やスターありきの映画製作が多くなりがちだ。一方、ヨーロッパは国などが文化産業を支援し、映画製作にも助成する仕組みがある国もあれば、作家性の強いアート映画などは視野を広げ、世界の映画祭を狙って海外での配給を意識した映画作りが行われている。そんな中で、大人の犠牲になる子どもたちの視点は社会を純粋な目で映すことが出来、ジェンダー問題や貧困を描くのにも適しているのだ。

今回紹介するアイルランド映画『コット、はじまりの夏』の主人公コットも9歳の女の子。本作は第72回ベルリン国際映画祭でグランプリを受賞、第95回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされ、世界の映画賞で42の受賞を果たした結果、日本公開を迎えた作品だ。では何故、この映画がそこまで評価されたのか。それは誰しもが時に抱える「孤独」と「愛」を家族や大人たちとの関わりで描いた作品だったからだ。

1981年のアイルランドの田舎町、コットは大家族の中で育ち、言葉数も少ない。ある日、家族にまた新しい命が誕生したことで、子の居ない親戚夫婦の農場で夏休みを過ごすことになる。叔父は寡黙、叔母も何処か寂しさを抱えているようで、コットは彼らとの暮らしの中で、髪をとかしてもらって手の温かさに気づき、一緒に散歩する時間に特別な感覚を覚え、一日一日を大切に感じ始める。
そう映画は、言葉ではなく、少女と大人の関わりだけで、彼女がどれだけ孤独を抱えていて、愛を感じづらくなっていたのかを眩い自然の中で私たちに見せてゆくのだ。

今の時代、SNSでの交流が当たり前になり、つい言葉を信用してしまいがちだ。
優しい言葉をかけてくれる人を信じたり、強い言葉を発信できる人を尊敬してしまう現代社会。けれど彼らの真の姿を私たちはどれだけ知っているだろうか。9歳の子供の目はどこまでも純粋で、私たちに「何気ない行動」から相手の優しさや愛情は伝わってくる、と心に問いかけてくる。大事なのは、温もりであり、行動であり、寂しさに気づいてくれる対面での関係性。そして何より自分を大事に思ってくれる対応だろう。あなたは最近、誰かと手を繋いだだろうか。誰の背中を摩ったりしただろうか。そっと抱きしめたことはあるだろうか。それで救われる人も居る、あなたもわたしも。

映画『コット、はじまりの夏』
2024年1月26日(金)ロードショー

監督・脚本:コルム・バレード
プロデューサー:クリオナ・ニ・クルーリー
撮影:ケイト・マッカラ
音楽:スティーブン・レニックス
出演:キャリー・クロウリー、
   アンドリュー・ベネット、
   キャサリン・クリンチ、
   マイケル・パトリック
原題:「An Cailín Ciúin」/英題:「The Quiet Girl」
原作:クレア・キーガン「Foster」
配給・宣伝:フラッグ

映画『コット、はじまりの夏』
© Inscéal 2022