「理解」を促される現代に、
違和感を感じる瞬間がある貴方へ
-Introduction-
1982年、2人の美しい少年が死んだ――。
心震える物語が世界を動かした、
最高純度の実話ラブストーリー
1982年、初夏の日差しが降りそそぐイタリア・シチリア島。運命的に出会った16歳と17歳の少年たちの眩しすぎる恋は、ある日突然終わりを迎える…。揺れる初夏の光、溢れだす想い、一瞬たりとも忘れない、そして忘れたくない初恋の記憶。あの日あの時の初恋の喜びと痛みを、観る者の胸に鮮やかに蘇らせる、最高純度の実話ラブストーリー。イタリアで公開されるや、アカデミー賞®︎4部門にノミネートされた『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督が大絶賛し、名匠ナンニ・モレッティ監督も映画館へ駆けつけたという話題作。本国で劇場公開されると瞬く間に高評価の口コミが広がり上映館数が拡大、1ヵ月で国内興収は100万ユーロを突破するという爆発的大ヒットを記録した。何よりも驚くのは、この物語が実際に起きたある事件に基づいていること。愛し合う2人の若者の命が奪われたその事件は当時のイタリアを震撼させ、今日までイタリア最大規模の団体として活動を続けるLGBTIに関する非営利団体“ARCIGAY(アルチゲイ)”が設立されるきっかけとなった。この事件で有罪判決を受けたものは未だにいない。2人の若者の純粋な恋がイタリアを、そして世界を変え、今もなお、愛を信じる人々に勇気を贈り続けている。その真実の物語が、40年の時を経て遂に映画化された。
-Story-
1982年、初夏の日差しが降りそそぐイタリア・シチリア島。バイク同士でぶつかり、気絶して息もできなくなった17歳のジャンニに駆け寄ったのは、16歳のニーノ。育ちも性格もまるで異なる2人は一瞬で惹かれあい、友情は瞬く間に激しい恋へと変化していく。2人で打ち上げた花火、飛び込んだ冷たい泉、秘密の約束。だが、そんなかけがえのない時間は、ある日突然終わることに──。
伊藤さとり’s voice
あまりに美しい画でラストまでうっとりと見つめてしまったものの、これが実話だと思うとずっと見ていたいと思ったことに罪悪感さえ覚えてしまう映画だった。それだけ映画的なクオリティが高い作品だった『シチリア・サマー』。本作は、アカデミー賞4部門ノミネートとなった『君の名前で僕を呼んで』を彷彿させるテーマと美的感覚を持ち、同作品の監督であるルカ・グァダニーノに絶賛され、『息子の部屋』などのイタリアの名匠、ナンニ・モレッティも映画館に足を運んでイタリアで大ヒットを記録したそうだ。
この事件はシチリアの田舎町で1980年に起こり、犯人は親族と判ったもののいまだに誰も有罪判決が下されていない。殺人事件を映画にするならば、きっと息苦しい画と重々しいメロディを想像するだろうが、その正反対と言える広大な自然の中で美しい青年二人の幸せそうな表情がスクリーンに映し出される。しかも流れる曲はイタリアの有名なシンガーソングライターのフランコ・バッティアートのラブソングだ。このアーティストの曲は映画の原題にもなっていて、「Stranizza D’Amuri 」は、エンディングテーマとしてラストを飾る。これは「愛とは不思議なもの」という訳になるのだが、ニーノとジャンニという二人の青年の純粋な愛が何故、けがれのように扱われ、彼らの家族が子を愛するが故に関係を許さないという不思議にも繋がっているように感じる。
さらに劇中には、シチリアの真っ青な空に際立つ80年代のカラフルなファッションや、レトロなバイク、車、建物が登場し、まるで旅行ハガキを見ているかのような光景が広がっているのだ。一見、のどかな町で暮らすのだから人々も大らかそうかと思いきや、男たちは「男らしさ」を誇るように、男の子には狩りを教え、力比べのように喧嘩をし、力試しに掛け金まで出してはしゃぐショットが何度もある。それだけでなく、この地は信仰も厚く、同性愛嫌悪の人々が多く居ることが物語で見えてくるのだ。その環境が徐々に、主人公の二人を追いやっていく。それでも幸せを掴もうとする主人公には何百人ものオーディションで選ばれたガブリエーレ・ピッツーロとサムエーレ・セグレートという独特な魅力を放つ二人に決定。彼らの惹かれ合っていく様子はどこにでもある初恋の光景のようで、見ているだけで胸が高鳴る。
さらに彼らが一緒に打ち上げる花火は、人を幸せにする為のものであり、島の人々に喜ばれる行為なのに、何故、二人の個人的な想いを尊重できなかったのか。劇中、親族の一人がニーノに言う“皆、分かったフリをして誰も自分のしていることを全ては分かっていない、秘め事にしていれば100年だって続けられる”というセリフは、胸に迫るものがある。無理に理解してもらう必要もないし、自分の幸せの為には、時には真実を口にする必要もないということ。
もしかしたら事件を知って映画化に進むまで、ジュゼッペ・フィオレッロ監督なりの、今、以上に閉鎖的だった時代に、命を落とした二人の青年を救う方法としてのひとつの考えがこの言葉だったのかもしれない。
映画『シチリア・サマー』
2023年11月23日(木・祝)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか公開
監督・脚本:ジュゼッペ・フィオレット
挿入歌:フランコ・バッティアート
出演:ガブリエーレ・ピッツーロ、
サムエーレ・セグレート
配給:松竹