〈恋〉を知って、〈愛〉を探す貴方へ

映画『アリスとテレスのまぼろし工場』

〈恋〉を知って、
〈愛〉を探す貴方へ

映画『アリスとテレスのまぼろし工場』
©新見伏製鐵保存会

-Story-

変化を禁じられた世界で、
止められない“恋する衝動”を武器に、
未来へともがく者たちの物語

製鉄所の爆発事故により出口を失い、時まで止まってしまった町で暮らす14歳の正宗。いつか元に戻れるようにと、何も変えてはいけないルールができ、鬱屈とした日々を過ごしていた。ある日、気になる存在の謎めいた同級生・睦実に導かれ、製鉄所の第五高炉へと足を踏み入れる。そこにいたのは、言葉を話せない、野生の狼のような少女・五実ー。二人の少女とのこの出会いは、世界の均衡が崩れる始まりだった。止められない恋の衝動が行き着く未来とは?

伊藤さとり’s voice
伊藤さとり’s voice

日本のアニメーションは、心の内を探る肯定を描くのが際立って上手い。それはアニメの主人公は友達や恋人との関係から自分自身の内側を覗き、愛する人に本音をぶつけようと泣いたり叫んだりするからだと思う。そんな感情を言葉にする名手が岡田麿里だ。代表作には『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』(2013)、『心が叫びたがってるんだ。』(2015)などの脚本がある。後に、監督デビューとなる『さよならの朝に約束の花をかざろう』(2018)で上海国際映画祭アニメーション最優秀作品賞を受賞するなど、その繊細なまでの表現力に世界から注目が集まっている。

そんな岡田監督のオリジナルストーリーによる映画『アリスとテレスのまぼろし工場』は、山に囲まれた小さな町が舞台だ。しかも時折、空に亀裂が入る世界を狼のような煙が修復し、時には人まで飲み込んでしまう状況下で、信仰を散りばめながら心の成長を描く物語。まさに日本的なSFは、新海誠監督の『君の名は。』(2016)、『天気の子』(2019)、『すずめの戸締まり』(2022)などのテイストに似ていてそうで実はそうではない。ここは岡田節が炸裂し、登場人物それぞれの葛藤を描く群像劇とも言える「主人公はあなた次第」という作風で全く違う主題へと変化していくのだ。

しかも劇中の柔らかでドラマティックなアニメーションを手掛けるのは『劇場版 呪術廻戦0』などのMAPPA。14歳という思春期の少年少女の好奇心や「好きってなんだ?」という心に浮かんだ疑問を探求する行為がとことん愛おしく、登場人物のほとんどに共鳴してしまう秀逸なキャラクター構築。そんな中で「好き」って男の子と女の子とでは感じ方が違うのかも、と観客に考えさせる思春期あるあるを詰め込んだエピソードが微笑ましいのだ。

それだけでなく、大人達の複雑になってしまった思考や不器用な愛し方も綴られ、彼らの感情からの行動が説得力を持って物語を大きく動かしていくのだ。もしかすると閉鎖的な考えは実は保身であり、コミュニティを守ることは自分達の弱さを認めている証では?と気付かされてしまう本作。だけど本当に相手のことを思うなら、場合によっては「手放すこと」が相手の幸せなのかもしれない。そもそも愛って、愛すると決めたその人のエゴなんだから。

映画『アリスとテレスのまぼろし工場』
2023年9月15日(金)より大ヒット上映中!

脚本・監督:岡田麿里
副監督:平松禎史 キャラクターデザイン:石井百合子
演出チーフ:城所聖明 美術監督:東地和生
音楽:横山 克 制作:MAPPA
主題歌:中島みゆき「心音(しんおん)」
出演:榎木淳弥 上田麗奈 久野美咲
   /林遣都 瀬戸康史 ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画 MAPPA
©新見伏製鐵保存会

映画『アリスとテレスのまぼろし工場』
©新見伏製鐵保存会