生きづらさを感じている女性たちへ

映画『セイント・フランシス』

生きづらさを感じている女性たちへ

-映画『セイント・フランシス』-

映画『セイント・フランシス』
(C) 2019 SAINT FRANCES LLC ALL RIGHTS RESERVED

-Introduction-

足りないものばかりに目を向けて落ち込むのはもう終わり
不安だらけの人生を過ごす人たちに贈る優しいエール

親友は結婚をして今では子どもの話に夢中。それに対して34歳で独身、大学も1年で中退し、レストランの給仕として働くブリジットは夏のナニー(子守り)の短期仕事を得るのに必死だ。自分では一生懸命生きているつもりだが、ことあるごとに周囲からは歳相応の生活ができていない自分に向けられる同情的な視線が刺さる。そんなうだつのあがらない日々を過ごすブリジットの人生に、ナニー先の6歳の少女フランシスや彼女の両親であるレズビアンカップルとの出会いにより、少しずつ変化の光が差してくる――。SNS(ソーシャルメディア)でシェアされる、人々の充実したように見える人生。それに比べて「自分なんて」と落ちこみ、満たされない気持ちや不安にさいなまれる人は大勢いるはず。『セイント・フランシス』はそんな不安だらけの毎日を生きるすべての人を、笑顔でそっと抱きしめてくれる。

伊藤さとり’s voice
伊藤さとり’s voice
映画『セイント・フランシス』

「未来のジョーン・ジェット」
これは、ギター教師が6歳の女の子フランシスを例えたセリフだ。それは彼女のギターのパフォーマンスが激しいという意味だが、実は映画のテーマも指している。ジョーン・ジェットというアーティストは、家父長制への怒りや、不誠実なことへの批判、そして同性愛者の結婚を支持する政治家ハワード・ディーンを応援していたのだから。

本作『セイント・フランシス』の主人公ブリジットは34歳。安定した仕事に就いておらず、夏限定のナニー(子守り)をすることになるが、6歳の女の子フランシスの両親は、黒人とヒスパニック系のレズビアンカップルで、間も無く2人目を出産すると言う。そんな中、ブリジット自身も26歳のボーイフレンドとの間に子供が出来てしまい、すぐに中絶を決断するのだが……。

ブリジットを演じるケリー・オサリヴァンが自身のナニー経験と社会への不満と願いを込め書き上げた脚本を、彼女のパートナーであるアレックス・トンプソンが長編初監督として紡ぎあげた女性賛歌である本作。

「なぜ、生理は恥ずべきことなのか?」「同性愛はいけないのか?」「良い大学、良い仕事に就くことが幸せなのか?」「肌の色でなぜ差別をするのか?」そして「中絶はいけないことなのか?」という問いが映画には詰まっている。今、アメリカでは州によって中絶を重罪としており、レイプや近親相姦での妊娠でさえも中絶禁止法に値すると考える州もある。まさに女性の人権を無視した法律。本作の主演で脚本を書き上げたケリー・オサリヴァンは「中絶が話してはいけないタブーであることにうんざりしていた」と語っており、男女のセックスにより妊娠するのに、女性の人生を変えてしまう出産の選択も他者が口出しする社会への違和感を映画から伝えていた。

更に主人公の年齢が34歳ということにも意味がある。女の30代中盤は否が応でも自分と向き合う羽目になる。子宮と向き合い、「子どもを産みたいか産みたくないか」自問自答する。そんな面倒な身体でも自分が愛せる自分であればそれだけでいい。子どもが居ようと居まいとあなたが心から笑えるのならそれだけで十分。自分を愛せたら他者を愛せる。そうすれば人の幸せを願えるのだから。

映画『セイント・フランシス』
2022年8月19日(金)より
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネクイントほか、全国順次公開

出演:ケリー・オサリヴァン ラモーナ・エディス・ウィリアムズ
チャリン・アルヴァレス マックス・リプシッツ リリー・モジェク ほか
監督:アレックス・トンプソン 脚本:ケリー・オサリヴァン
原題:『Saint Francess』(2019年 アメリカ/英語/101分)

映画『セイント・フランシス』
(C) 2019 SAINT FRANCES LLC
ALL RIGHTS RESERVED