“結婚”を考える戦友たちへ
-Story-
あなたに会った日から、私は愛を求めた
あなたと別れた日から、私は愛を知った
1920年のマルタ共和国。船長のヤコブ(ハイス・ナバー)は、カフェに最初に入ってきた女性と結婚するという賭けを友人とする。そこにリジー(レア・セドゥ)という美しい女性が入ってくる。ヤコブは初対面のリジーに結婚を申し込む。その週末、二人だけの結婚の儀式を行う。幸せなひと時を過ごしていたが、リジーの友人デダン(ルイ・ガレル)の登場によりヤコブは二人の仲を怪しみ嫉妬を覚えるようになる…。
伊藤さとり’s voice
マルタ共和国で撮影された映画は意外と多い。ラッセル・クロウ主演『グラディエーター』もブラッド・ピット主演『トロイ』もそうであり、最近公開されたばかりの『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』に至っては主人公がバイクに乗って恐竜から逃げるシーンを撮影している。理由は美しい景観と映像制作への奨励金制度もあるからだが、本作では、1920年代のマルタ共和国が舞台となっている。船乗りのヤコブが最初にカフェに入ってきた女性と結婚すると友人に豪語し、たまたま店に入ってきた美しい女性リジーとその日のうちに結婚を決めるところから物語はスタートする。ロマンチックな街並みに溶け込む魅惑的な女性リジーを演じるのは、ルイ・ヴィトンのアンバサダーに選ばれ、『007』シリーズ2作でボンドガールを務めたフランス人女優レア・セドゥ。そんな彼女が映画では男性のミューズにはならず、むしろ夫を翻弄する妻を演じているのが今時であり興味深い。
果たしてヤコブはどんな女性であろうとも結婚しただろうか?そこにはたまたまリジーが若く美しい女性だったということも少なからず影響しているだろう。ただし彼は、妻にする相手に対して、条件付けをしなかったからよく知らない相手とすぐに結婚できたに違いない。そう、結婚相手に対し「料理が上手いか」とか「優しいか」とか条件付けをする男性は、妻=家政婦と考えていて、ひとりの人間として見ていない。そんな男性と結婚したら個の自由なんて奪われてしまう。きっとヤコブは人生の荒波を共に漕ぐ戦友を探していただけなのだろう。しかも相手は美しい女性だから恋にも落ちやすい。けれど“恋に落ち”結婚をしたところでロマンスは時間と共に消え去っていく。ではリジーは何の為に結婚したのか?彼女が求めているものに気づかないヤコブに待ち受けている運命があまりに切ない。
一見すると良い結婚観を持っている男性でさえもパドルを落とすことがあると伝える本作。
実のところ、結婚をロマンチックにするもドラマチックにするも単調にするも本人達次第。それは同じ船に乗る相手との共同作業であり、手漕ぎボートだと思えば、折にふれ、掛け声が必要だと気づくはずなのだから。
映画『ストーリー・オブ・マイ・ワイフ』
2022年8月12日(金)より
新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、ユーロスぺ―スほか、全国公開
出演:レア・セドゥ ハイス・ナバー ルイ・ガレル
セルジオ・ルビーニ ニナ・ウェドラー
監督・脚本:イルディコー・エニェディ
原作:ミラン・フスト
原題:『A felesegem tortenete』
(2021年 ハンガリー・ドイツ・フランス・イタリア/169分)