木曜ドラマ23『天狗の台所』
染み渡る〈和〉の暮らし
日本の食文化に息づく魅力を、丁寧に伝えたい
生産技術が高度に発達し、何もかもが便利になった現代(いま)。デリバリー、コンビニ、外食…自炊せずにお腹を満たすことっていたって簡単。でも、満腹になってふと気づく。「あれ?“心”は満たされている?」と。知らず知らずのうちに、私たちの一部となる〈食〉の大切さを忘れてしまってはいないだろうか、と。人里離れた自然豊かな地で暮らす、少々風変わりなひとりの青年。実は天狗だという彼の生活には、日本古来の趣が今もなお静謐に漂い続ける。飾り気のないスローライフで紡がれる穏やかな時間と、“ひと手間”が煌めく〈和〉の料理たちは、現代人の心をきっとやさしく癒してくれることでしょう――。
BS-TBS 木曜ドラマ23
『天狗の台所』
NY育ちの少年・オン(越山敬達)は、ある日自分が天狗の末裔だと知らされる。天狗のしきたりにより、14歳の1年間、日本で暮らす兄・飯綱基/いづな・もとい(駒木根葵汰)と隠遁生活を送ることに。天狗といっても特別な力はなく、兄の関心は、もっぱら日々の食と素朴な暮らしに向けられるのだった。しかしある時、オンは天狗の秘密を目の当たりにする…。天狗の兄弟とその仲間たちの、ファンタジックで美味しいスローライフがはじまる。
飯綱 基(いづな・もとい)役
オンの兄。
自然をこよなく愛し、静かで丁寧な暮らしを送る天狗の末裔。
『天狗の台所』
×
駒木根葵汰
漫画原作のキャラクターを演じるのがほぼ初めての経験だったので、オファーをいただいたときはこれまでの作品とは違う緊張感を覚えました。生み手である原作者さんがいらっしゃる上に、とても人気の作品。たくさんの原作ファンの方の存在が想像できたんです。原作を愛している皆さんにネガティブな印象を抱かせないようにしなければならないと思いましたし、作品に敬意をもって忠実さを意識しようと思いました。
基(もとい)を演じることが決まったのち、
どんな思いで原作を読みましたか?
まず、原作者の田中(田中相)先生が基をどういった人間に作り上げていこうとしているのか、基に込められている先生の意図を一生懸命汲み取ろうと思いました。しっかりと落とし込むため、基の立ち姿や所作には特に注目しながら。普段の僕に比べると基はめちゃくちゃ姿勢がいいので、撮影中は常に肩こりと闘っていましたね(笑)。あとは、調理器具の持ち方。僕も普段から料理をするほうではあるのですが、基のように丁寧ではなく…。改めて、包丁やフライパンの持ち方などを見直すようにしました。
劇中で数多く登場する、台所での調理シーン。
料理をしながらの撮影はいかがでしたか?
これもほぼ初めての経験だったので、とにかく大変でした。料理をしつつ傍にいるオン(越山敬達)との距離感も意識しつつ…といった感じで、常に“ケツ合わせ”を考えながら、逆算して動きを決めていかなければならず。例えば、洗い物ひとつにしても「大きいお皿を洗っているとシーンの尺的に間に合わないから、小さなスプーンにしたほうがいいかもしれない」となるんです。結果、「見栄え的に大きいお皿のほうが“洗っている感”が出るよね」という話になり、シーンのスタート時点ですでに洗い物の半分が済んでいることにして、全体の流れがうまく収まるように調整しました。とにかく一つひとつの細かい動きを現場で擦り合わせていくことがとても多かったです。
事前に作り込んでいくというよりも、
現場で動きながら
芝居を固めていく形だったんですね。
そうですね。自分のなかでどれだけイメージを膨らませていても、実際に現場に立つと、ロケーションや相手の立ち居振る舞いなどによって芝居が変わってくることが多くて。もちろん原作は前もって読み込んでから臨みましたが、準備をガチガチに固めていく感じではなかったです。「自分が一番基のことを考えている」という自信はもっていたので、基に関しての自分の意見は積極的に伝えるようにしていました。
飯綱 基
×
駒木根 葵汰
基はとにかく“完璧主義者”。特に〈食〉に関しては一切の妥協を許しません。ただ、人とのコミュニケーションにおいては、どこかたどたどしかったり、自分の気持ちをうまく伝えられなかったりと不器用な部分もあって。そういった、“完璧なのにどこか不器用”という人間味のあるギャップ”が基の良い所だと思います。そんな彼が、オンという自分とは正反対の人物の登場によって良い意味で調子を狂わされ…。戸惑いながらもオンの人間性を受け入れて、これまで縁のなかったデジタルの世界にも触れてゆく、基はオンと過ごすことで確実に新しい一歩を踏み出しているんです。オンが基に影響を受けているように見えて、実は基もオンに影響を受けているんですよね。
緑溢れるのどかなロケーションも本作の魅力。
大自然のなかでの撮影はいかがでしたか?
約1ヶ月にわたって静岡県・御殿場の山間部で撮影をしました。ただただ最高でした…(笑)!今年の夏は猛暑だったと聞いたのですが、僕が過ごした撮影場所は8月の真夏とは思えないほど涼しい場所で。家の外に一歩出ると周りは一面田んぼで、すぐ近くには富士山も見えましたし、風もとても涼しくて気持ちが良かったです。撮影自体は大変なことも多かったけれど、自然の力にとても救われました。ただあまりにも涼しいので、もはや朝は寒くて…。朝6時から僕と越山くんのふたりで川に入るシーンがあったのですが、水が冷たすぎてずっと震えていました(笑)。越山くんも唇が紫色になっていて「可哀想に…」と思いながらも、過酷なシーンを一緒に乗り越えられたことで絆をより深めることができた気がします。
大自然ならではですね(笑)。
漫画の世界観が忠実に再現されている今作。
なかでも飯綱家の雰囲気は
格別な心地良さが感じられました。
基の家は監督がロケハンを通して見つけた古民家で、最初室内は何もない空っぽの状態だったとか。そこから美術部さんが『天狗の台所』の世界を緻密に作り上げてくださったとお聞きしました。実は、番組のInstagramに載っている棚に並んでいる瓶の数々は九州の名産物なんです。細かい部分までこだわられている飯綱家なので、是非、そういったこだわりも楽しんでいただきたいと思います。僕自身、基がどんな場所で日々生活しているのかが目に見えて分かったので、より没入して演じることができてとてもありがたかったです。囲炉裏や土間、薪をくべる窯など、ここまで日本らしい趣が感じられる家をじっくりと見るのは初めてで、内心はかなりテンションが上がっていました。ただ、あくまで基にとっては“14年間暮らしてきた、慣れ親しんだ場所”。思わずはしゃいでしまいそうな気持ちを頑張っておさえたのを覚えています(笑)。
天狗である基の背中には羽が。
羽がついた状態での演技も
初めての経験だったのでは…?
劇中で羽をつけているシーンはあまり多くはないのですが、温泉に入るシーンはすごく気を遣いました。基は普段からそこまで動きの大きい人ではないけれど、さらに肩甲骨を動かさないよう注意して。羽をつけるだけでも1時間かかるので、一度剥がれてしまうとつけ直すのが大変なんです…(笑)。
12年間空手をやってきた駒木根さん。
正座や畳など、
日本特有の文化は本作にも通ずるもの。
長年馴染んできたものとの再会はいかがでしたか?
高校を卒業したときに空手は辞めてしまったのですが、今回『天狗の台所』で久しぶりに長時間正座をして「昔の感覚を思い出そう!」と思う瞬間が多々ありました。昔は正座が当たり前だったはずなのに、現場で正座すると足が終始痺れてしまって…(笑)。正座に限らず、本作でたくさんの日本文化に触れて「まだまだ知らないことがあるんじゃないか」と感じることができたので、受け継がれてきた伝統に少し意識を向けて日常のなかに取り入れていきたいと思うようになりました。ちょうど先日、友人が自分の家の家紋を調べてキーホルダーを作っているのを見て「めちゃくちゃ良いな~」と思って。せっかく日本に住んでいるんだったら、日本の文化を知っておきたいな、と。本作のテーマである〈食〉に関してだと、お正月のおせち料理とか。おせちもしっかりと触れてきてはなかったので、今年は自分で作ってみようかな…?なんて思っています。
改めて、本作を通じて
日本の魅力はどんな所に宿っていると感じましたか?
やっぱり〈食〉だと感じましたね。現代では炊飯器を使うのが当たり前ですが、本作では昔ながらのかまどに薪をくべて火加減の調節をしながら米を炊き上げていますし、汁物もしっかりと出汁をとって調理しています。古くから伝わるやり方で時間をかけて丁寧に作った食事のおいしさを改めて実感することができました。劇中で出てくる食事は、撮影に向けてすべて1から作っているもの。作品を通してたくさんの料理が登場するので、気になったものがあれば是非、視聴者の皆さんにも試していただけたら嬉しいです。
Dear LANDOER読者
BS-TBS 木曜ドラマ23『天狗の台所』
From 駒木根葵汰
一番の見どころは、何と言っても豊かな自然に囲まれたスローライフ。皆さんが食べたことのある料理でも、「ひと手間を加えるだけでこんなに魅力的に見えるんだ」と驚いてもらえるはず。忙しい毎日を送っているとなかなか難しいかもしれませんが、やっぱり〈食〉は人の身体をつくっているものなので、いま一度〈食〉を見つめ直す機会にしていただけたら嬉しいな、と思います。その一方で、本作では天狗の末裔たちが楽しいストーリーを織り成していきます。是非、そちらも併せて楽しんでください。
BS-TBS『天狗の台所』
毎週木曜よる11時
出演:駒木根葵汰 塩野瑛久 越山敬達
/ 原田泰造 ほか
原作:田中 相『天狗の台所』
(講談社「月刊アフタヌーン」連載)
監督:長島 翔 下田彦太 林田浩川 川井隼人
脚本:岨手由貴子 山田能龍 天野千尋 熊本浩武 ナラミハル
主題歌:「人人」折坂悠太 (ORISAKAYUTA)
音楽:VaVa(SUMMIT, Inc)
Item Credit
フーディー¥41,800(refomed)
トップス¥17,600
パンツ¥33,000(ともにName./すべてName. store 03-6416-4860)
Staff Credit
カメラマン:興梠麻穂
ヘアメイク:吉村健
スタイリスト:千葉 良(AVGVST)
インタビュー・記事:満斗りょう、小嶋麻理恵
ページデザイン:古里さおり