映画『恋のいばら』
ただひたむきに〈美〉を求める
ヴィランの無邪気さを演じて
人の好きなモノを、同じ感覚で好きになることは難しい。心の数だけ〈美しい〉の形があって、〈ときめき〉の音があるのだから。時にその形が誰かを傷つけてしまったとしても、切り取りたい瞬間に手を伸ばしてしまうのが「好き」の持つ力。ひたむきな欲はとめられない。作中で彼が見つけたのは、そんな欲をかき乱される眠り姫。いばらの道が続く先で2人の姫と、1人のヴィラン…(それとも王子?)が見つけたエンディングとは――
映画『恋のいばら』
-Story-
私が恋したカレには「今カノ」がいる。
どうしてもカレを取り戻したいから、今カノをSNSで特定。
ただ、”知りたい”だけだった……。
24歳の桃(松本穂香)は、最近、健太朗(渡邊圭祐)にフラれ、関係が終わったばかり。健太朗のインスタを見ていると、どうやら新しい恋人ができたらしい。桃は、そこから今カノ・莉子(玉城ティナ)のインスタを発見。インスタを頼りに莉子を特定し、直接会いに行ってしまう。そして莉子と対峙した桃は、ある“秘密の共犯”を持ちかける。「リベンジポルノって知っていますか?」「健太朗のパソコンに保存されている自分の写真を消して欲しい」と。最初は相手にしない莉子だったが、徐々に自分も被害に合うかもしれないと、不安を覚え始める。そして…。図書館で勤務していて、地味な桃。ダンサーで、桃と同い年ながら、桃とは対照的にイマドキの洗練された莉子。カメラマンで、無邪気にすぐ女性に手を出す健太朗。ふたりの女とひとりの男の甘くて危険な三角関係が始まる――。
-健太朗-
無邪気に女性に手を出すカメラマンで、莉子の今カレ。
映画『恋のいばら』× 渡邊圭祐
「明日は我が身」と思わされる、リアルで具体的な物語だと感じました。作品を観ていただければ分かると思うのですが、関わることがなければ知らない世界の話だと思いますし、実際にお付き合いしている方がいらっしゃったとして、その相手が登場人物のような人であれば身近に起こりうるお話だな、と。SNSの仕掛けがたくさんあるところにもリアルさを感じました。
健太朗 × 渡邊圭祐
作品のストーリー上、唯一の“悪”になってしまう健太朗ですが、僕はおばあちゃんのことが大好きな“純粋な青年”だと思って演じていました。写真を撮ること、そして女性に対する彼の原動力はすべて〈興味〉からきているものなんです。並べて見ると、健太朗のしていることは“悪”に見えるけれど、注いでいるすべての愛はおばあちゃんへの愛情の注ぎ方と変わらなのかな、と。女性が被害者になってしまい、必然的に健太朗は加害者になってしまった。でも悪いことをしている感覚が彼にはない。それこそが彼の愛すべきところでピュアな部分、という印象を受けました。
彼の中にあるものは
子供のような無邪気さなんですね。
健太朗を演じるうえで
準備されたことはありますか?
今まで演じた役の中で、一番何ものせなかった役だった気がします。僕自身、もともとテンションが高いほうではないので、健太朗のテンション感とは合っていたんです。その中で準備したことと言えば、「荒廃した空気感を出したいな」と思って少し地元に帰りました。僕がまんま健太朗みたいな人、というわけではないのですが、地元に帰って仕事のギアを抜いて臨もうと考えた作品だったように思います。
あえて、自分を残されたんですね。
監督が「オリジナル作品より
憎めないキャラにしたい」と
仰っていましたが、
作品に入る前にそういったお話はされましたか?
そこまで話し合った記憶はないのですが、僕の印象としては衣装合わせの時に監督の思い描いたイメージから外れたんだろうな、と思っていて。というのも、最初に試していた衣装と雰囲気がガラッと変わったんです。僕自身、台本を読んでいる段階では、健太朗は無造作にヒゲが生えているような、オラオラしているワイルドな男性のイメージだったんです。ただ、衣装合わせの時に監督とお話して「柔らかい雰囲気のほうがいいんだろうな」と思い、今回の健太朗が出来上がりました。
では逆に、難しかった部分は?
莉子(玉城ティナ)に、女性の写真を撮っているところを咎められるシーン。僕が思い描いていた動きと監督が思い描いていた動きが割と違っていて、そのシーンは難しかったことを覚えてます。完全に動きを固めて現場に行ったわけではないのですが、僕の描いていたことを引き算しながら、監督の思い描く感情にフィットさせるまで時間がかかりました。僕の中では健太朗の一番ピュアな部分が表れる言葉が入っている気がしているシーンだったので、意見をさせていただけたのはありがたかったです。
健太朗のポルノに対する美的感覚については
ピュアなものだと考えられていましたか?
そうですね。健太朗にとってポルノ写真は“アート”でしかないんです。莉子に断られたシーンで彼が言っているセリフも、僕は本心だと思っていて。本当に美しいと感じたものの、美しい瞬間を切り取りたい、そんな想いでカメラを構えているのが健太朗なんです。彼にとってはあくまでアートを残した日記のようなもの。そう考えると、ものすごくピュアな気持ちで自分の感じる“美しい”に向き合っている人なのかな、と思います。
実際に完成された作品を観てみて、
どう感じられましたか?
いろいろと変えたり考えたりした健太朗ですが、観てくださった方の感想に委ねたいと思います。監督と一緒に作り上げたという意味で、覚えているシーンがもう一つあって。喫茶店での桃(松本穂香)とのシーンなのですが、最初に僕がやった芝居を観て監督が「なるほどね、そういう感じね、めちゃくちゃ冷たい目で言うんだね」と仰ったんです。その時「このイメージじゃなかったのかな」と思って「もう少し違うほうがいいですか?」とお聞きしたら「いや、今のでいこう」と自分の描いていたイメージを変えてくださった空気があって。絶対に譲れない軸と役者に寄り添ってくださる部分、その両方を兼ね備えた監督だと感じて、信頼を置きながら撮影に臨むことができました。
監督と渡邊さんの両方の声で
ピュアな健太朗が生まれたんですね。
共演者の松本さん、玉城さんの
印象はいかがでしたか?
お2人とも、本当にサバサバされているんです。松本さんに関しては、最初「静かな方なのかな?」と思っていたら、お茶目な女の子の一面もあって。その中でもしっかり割り切る部分は割り切られているようなサバサバ感のある方でした。玉城さんもお人形さんのようなビジュアルなので「あまりお話されない方なのかな?」と思っていたら、たくさんお話ししてくださる方で。ただ、作中と同様2人ともタイプが違うイメージがあったので、3人で同じ現場にいる時は、僕が頑張らないといけないと思っていたのですが、2人ともめちゃくちゃ意気投合して、逆に僕が出遅れる形になってしまいました(笑)。
桃と莉子、作中で2人と接する時に
何か変化はつけられましたか?
特に何かを変えようという意識はしていなかったです。健太朗ってそんなに器用じゃないので、誰に対しても平等な態度の人だと思っていて。その平等さが女の子に対しても出てしまうからこそ、あの距離感になってしまうといいますか。桃と莉子、接し方の違いを健太朗の意図にしてしまうと、途端にいやらしさが出てしまう気がしたので、あまり考えないように演じていました。
個性的な登場人物だらけの今作。
渡邊さんご自身が、この作品を通して
受け取ったメッセージは何かありますか?
先ほども言いましたが、「明日は我が身」です(笑)。僕が10代の頃にこれだけSNSが発達していたら、と考えてしまいますし、作中の出来事って自分にも起こりうることだと思うんです。そう考えると怖いな、と。きっと恋人や好きな人と一緒にこの作品を観てしまうと、全てを疑ってしまうようになる気がするので、作品のキャッチコピー「恋人同士では観ないでください」という言葉はピッタリだと思います。例えば一緒に寝て、朝起きてどちらかが先に仕事をしていたら、きっとそれだけで不安になってしまうんじゃないかな、と(笑)。桃、莉子目線でいくと「人を簡単に信用しすぎないように」というメッセージも込められていると思います。
今回の作品も含め、
たくさんの作品に出演されている渡邊さん。
2022年、役者として
成長を感じる瞬間はありましたか?
今まで以上に“仕事”というものが分かってきて、自分の中に芝居をするペースがようやくできてきたように思います。余裕ができて、見えるものが増えて、手の届く範囲が広がってきました。だからこそ多くのことを吸収できるようになった気がしますし、自分の動きだけでなく他の人の動きも見て「こうやったらやりやすいかな」などを計算できるようになってきているのかな、と。「2年前だったら“これすごいな”と思う感性もなかったかも」と、今の自分が2年前を思い返せることにも成長を感じます。
Dear LANDOER読者
From 渡邊圭祐
映画『恋のいばら』
サスペンスやアクションとはまた違うハラハラ感をお届けできる作品だと思います。恋人同士で観ても大丈夫という方たちは、恋人同士で観るもいいですし、そうじゃない場合はそれぞれ同性の友達と観ていただくといいんじゃないかな、と。健太朗目線でいうと「好きなものに純粋であればあるほど、誰かにとって悪になりうることもあるんだよ」ということに気づくことができる映画だと思うので、そこに注目して観ていただきたいです。
渡邊圭祐(29)
わたなべ けいすけ
1993年11月21日生まれ。
瞬間(とき)の流れに身をゆだね、
“柔軟さ”と“頑なさ”を結い合わせながら〈私〉を紡ぐDOER
映画『恋のいばら』
2023年1月6日(土)全国ロードショー
出演:松本穂香 玉城ティナ
渡邊圭祐
中島 歩 北向珠夕 吉田ウーロン太 吉岡睦雄
不破万作 阪田マサノブ 片岡礼子 白川和子
監督:城定秀夫
脚本:澤井香織 城定秀夫
Staff Credit
カメラマン:田中丸善治
ヘアメイク:小林正憲(SHIMA)
スタイリスト:荒木大輔
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:古里さおり