【有村架純】舞台『キュー』思考の路が短縮されるこの時代に「考えること」を諦めない物語を。いま一度、プロセスを見つめなおして⸺

有村架純

【有村架純】
舞台『キュー』
思考の路が短縮されるこの時代に
「考えること」を諦めない物語を。
いま一度、プロセスを見つめなおして⸺
この物語の主役は貴方

1945年の夏。たったひとつのボタンによって、広島と長崎に原子爆弾が投下された。それから81年後。大半の人間は一日に数えきれないほどのボタンを押し、人工知能とともに暮らしている。手中にある情報の海を眺めては、AIや他人が投げた情報の泡を、まるで自分で見聞きしたかのように飲み込むわたしたち。光を受け取っていたはずの眼、音を感じていたはずの耳、身体のすべてが一枚の分厚いベールに包まれてしまったかのような、そんな感覚で。刻一刻と流れる時間は、以前より速く時を進めてはいないだろうか? 纏わりつく重たいベールが、人の歩みを遅くしてはいないだろうか? 〈わたし〉が自分で手にしたものたちは、どこへいったのだろうか⸺? ふいに視界の起点が〈わたし〉に帰るとき、そこに浮かび上がるのは数々のクエスチョン。これは、これまでの人間、そしてこれからのわたしたちに『キュー』を投げかける壮大な物語。

舞台『キュー』

舞台『キュー』

-イントロダクション-

物語は第二次世界大戦から現代、
そして700年以上先の未来へ。
時代を超えてつながる人々の記憶が、
「わたし」という存在を揺るがしていく。

本作は、原爆投下の記憶を内包する少女との出会いを通して、戦後の日本を生きる私たち人間が「どこから来て、これからどこへ向かうのか」という問い(=Question)を、今を生きる我々に投げかけます。2019 年に『ニムロッド』で芥川賞を受賞した作家・上田岳弘による長編小説『キュー』(新潮社刊)は、テクノロジーが発達し続ける人間社会の中で、「人間とは何か」「“わたし”とは誰なのか」を問いかける作品です。  2017 年から 2018 年にかけて文芸誌「新潮」にて連載され、単行本化された本作では、第二次世界大戦期、現代、そして 700 年以上先の未来という 3 つの時間軸が交錯します。物語では、AI やネットワークといったテクノロジーによって現実と情報の境界が曖昧になっていく世界の中で、人間の記憶や存在の意味が描かれていきます。

-あらすじ-

平凡な心療内科医として暮らしていた立花徹(演・瀬戸康史)は、ある日突然、秘密組織「等国(レヴェラーズ)」の構成員・武藤勇作(演・加治将樹)に連れ去られる。そこで知らされたのは、半世紀以上寝たきりだった祖父・立花茂樹(演・田中哲司)が突如目を覚まし、姿を消したという事実だった。その行方を追う鍵を握るのは、高校時代の同級生で、「私の中には第二次世界大戦の記憶がある」と語る渡辺恭子(演・有村架純)だった。さらに、徹の知人で製薬会社に勤める東藤恭子(演・石田ニコル)も、この不可解な出来事に巻き込まれていく。一方、700年以上先の未来では、Lost Language No.9(演・井内悠陽)とともに、人類の未来を左右する計画が始動しようとしていた。戦時下の日本、現代、そして遠い未来⸺。3つの時代に散らばった記憶が交差するとき、「わたし」という存在の輪郭が揺らぎはじめる。“残される記憶”と“個の行方”をめぐる、時空を超えた物語。

初舞台『ジャンヌ・ダルク』から
12年ぶりの再タッグ
有村架純×白井晃(演出)

12年前もいまも、「まずは心を動かす」というお芝居のベースは変わっていません。ただ、初舞台の『ジャンヌ・ダルク』のときは、技術云々より感情一筋で表現していた部分があって。そこから月日が経ち、少しは技術的な表現もできるようになったんじゃないかな、と思っています。とはいえ舞台は3度目ですし、私自身まだまだ至っていないところはたくさんあるので、共演者の方々の良い部分を盗んで、自分のお芝居を試しながらお稽古に臨むつもりです。

白井さんの演出には、どんな印象をお持ちですか?

厳しい一面はありつつも、とても優しく寄り添いながら助言をくださっていた印象があります。私自身、当時に比べて役への理解度や物語の解像度が上がっていると思いますし、自分なりに作品の噛み砕き方も育んできたつもりなので、12年前にはたどり着けなかったフェーズのお話まで、今回はできたらいいなと思います。

有村架純

白井さんは
「渡辺恭子役は有村さんと決めていた」と
おっしゃっていましたが、
今回の役を演じるにあたって、
まず、どのようなお話から動き出したのでしょうか?

まず、本作をお受けする前に物語全体のプロットを拝見しました。ただ、それだけでは分からない部分もあったので、一度直接お話を伺う機会をいただいて。そのときに白井さん自ら、この作品を作る理由と『渡辺恭子』という役のオファーについて、とても熱心にお話ししてくださったんです。私は、白井さんの演出から恩恵を受けてさまざまなことを学ばせていただいた一人ですし、白井さんが物語を作ることに対して、決して妥協しない真面目で熱量の高い方であることは分かっていたのですが、お話を伺ってよりその熱意が伝わってきて。『キュー』という原作の舞台化は絶対に難しい。きっと悩みもたくさん増えるだろう。そんな気持ちと同時に、白井さんの熱量に強く惹きつけられている自分がいました。「ここまで熱い想いを抱えている方を裏切れない」と思い、今回出演を決めました。

本作は『渡辺恭子』を起点に、
『椚節子』『女型のRejected People』の
3役を担われます。
どのように役を築いていこうと考えられていますか?

まずは3役の使い分けをどうしようかと考えています。扮装を変えることはもちろん、声色に変化をつけるのか、ウィッグを用いるのか―…。ビジュアル面に関しては、私からも案を出しながら工夫させていただくつもりです。表現の仕方はまだ着地していませんが、そこは作品全体を通して挑戦していく部分になるはず。実は私、前世の記憶がある役どころを演じるのが今回で3度目なんです。最初は「どうしてこういう役の話が多いのだろう?」と思っていたのですが、ここまで来ると「もしかしたら何か意味があるのかもしれない」と、宿命的なものを感じるようになりました(笑)。3人とも物語の中でとても重要な役割をもつ人物なので、観てくださる方が飽きてしまわないよう演じられたらいいな、と考えているところです。

有村架純

現時点で有村さんが感じられている、
本作の〈核〉について教えてください。

プロットと台本を読ませていただいて、一貫して感じたのは「自分たちはどうあるべきか」というテーマです。現在(いま)がどういう状態で、これからどうあるべきなのか——この作品は、そういった“自分自身の存在”を確かめるような物語だと思っています。原作者の上田岳弘さんもおっしゃっていましたが、本作が刊行された2019年から比べるとAIというものがどんどん身近になってきて、たった7年の月日の中でもかなりの進歩を感じるようになりました。もしかしたらこの先、AIが戦争を起こすことがあるかもしれない。それは武器を持った戦争かもしれないし、武器を持たないネット上の争いかもしれない。そんな計り知れないところまで来てしまった「現在」について考えるたび、時間は進んでいるのに人間だけがついていけていない感覚になるんです。時間軸と逆を生きていると言いますか。個人的に、その流れにすごく矛盾を感じていて。とはいえ私が知らないだけで、地球ができたときからずっと矛盾は繰り返されているのかもしれないけれど。壮大に考えれば考えるほど、「一体この世界は何なんだろう」と途方に暮れてしまうので(笑)、流されすぎず、日常的に新しいものとどう付き合っていくのかを大切にするようにしています。きっとこの作品も、物語に描かれるさまざまな出来事や登場人物たちを通じて、“自分たちのあるべき姿”を考えさせられる舞台になるはずです。

原作を読むと、
まるで未来を予見されていたのではないか
と思う描写が多く驚きます。
2026年のいま、「演劇」という形で届けられることに
どんな魅力を感じていらっしゃいますか?

本作は抽象的な表現が多く、演劇にとても合っていると思います。映画やドラマの場合は、ある程度分かりやすく説明したほうが親切だと思う一方で、舞台の場合は多少抽象的でも認められるように思うんです。私自身、何度も「この物語は一体何が言いたかったのだろう」と考えさせられる舞台に出会ってきましたが、大切なのは「あの表現はこれを表している」と一つの方程式に当てはめることではなく、「こういう物語だったのかな」と想像力を働かせて自分なりの言葉で着地させることだと感じていて。それこそ最近はAIの発達によってレスポンスがスピーディーに返ってくるからか、〈プロセス〉の重要性が薄くなってきましたよね。でも本来は“答えを出す過程”こそが、自分を構築してくれる絶対的なもののはずなんです。舞台の魅力は、その大切な〈プロセス〉を得られる時間にあると思います。

Dear LANDOER読者
舞台『キュー』
From 有村架純

本作で自分にどんなことができるのか、いまからとても楽しみにしています。カンパニーの方とたくさんお話をしながら、皆さんの良いところをどんどん盗んでいくつもりです。是非、劇場に足を運んでください。

有村架純

有村架純

ありむら・かすみ

2月13日生まれ。
閑かな焔を止水に映し、
芝居とともに虚実を架けるDOER

舞台『キュー』

舞台『キュー』
【東京公演】2026年11月15日(日)~29日(日)
  会場:東京芸術劇場プレイハウス
【大阪公演】2026年12月4日(金)~6日(日)
  会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
原作:上田岳弘『キュー』(新潮社刊)
演出:白井晃
上演台本:上田岳弘 白井晃
出演:瀬戸康史 有村架純 石田ニコル
   井内悠陽 加治将樹 田中哲司
   有川マコト  川合ロン 西山友貴
   黒田勇 須﨑汐理
企画協力:新潮社
主催・企画・製作:ワタナベエンターテインメント

Staff Credit
カメラマン:YURIE PEPE
ヘアメイク:新山いずみ
スタイリスト:瀬川結美子
インタビュー・記事:満斗りょう
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