映画『笑いのカイブツ』
カイブツの生きるがまま
〝ガムシャラ〟だったあの頃と
経験を経て見つけた今の自分
その狭間で生まれた〈変化〉は、夢の勲章
「あの場所へいけば、自分のやりたいことができる」、そんな憧れの“あの場所”が遠くにあればあるほど、中のことは分からない。無邪気に憧れを抱いていた私は、その場所へ辿り着く挑戦よりも、辿り着いた場所で続けていく挑戦のほうがずっとずっと苦しいことを知らなかった。ひたすらに前だけを見て進むことが「正解」だと信じていたあの頃のように、ガムシャラにはなりきれないし、だからといってヘンに落ち着くのだってゴメンだ。心に巣食う〈志〉という名のカイブツを、眠らせるも、飼いならすも、解き放つも、自分次第。さあ、あなたはカイブツとどんな人生を送りたい――?
映画『笑いのカイブツ』
「伝説のハガキ職人」として知られるツチヤタカユキの同名私小説を原作に、笑いにとり憑かれた男の純粋で激烈な半生を描いた人間ドラマ。不器用で人間関係も不得意なツチヤタカユキは、テレビの大喜利番組にネタを投稿することを生きがいにしていた。毎日気が狂うほどにネタを考え続けて6年が経った頃、ついに実力を認められてお笑い劇場の作家見習いになるが、笑いを追求するあまり非常識な行動をとるツチヤは周囲に理解されず淘汰されてしまう。失望する彼を救ったのは、ある芸人のラジオ番組だった。番組にネタを投稿する「ハガキ職人」として注目を集めるようになったツチヤは、憧れの芸人から声を掛けられ上京することになるが……。
ミカコ
ツチヤが想いを寄せる女性。
夢を追いかけるツチヤを心から尊敬している。
ミカコ × 松本穂香
私の演じたミカコは、一見フワフワしていて掴みどころのない女性なのですが、実はいろいろと考えていることがあったり、抱えている家庭環境があったり、人一倍もがきながら生きている女性でした。同時に、行動力も人一倍ある女性なんです。
ツチヤとの対峙シーンが多いミカコですが、
岡山天音さん演じるツチヤはいかがでしたか?
岡山さんの“役への向き合い方”を見て圧倒されたのはもちろんなのですが、それ以上に「目の前でツチヤが生きている」という感覚をとても強く感じたのを覚えています。お芝居がすごい、を通り越して“生きている苦しみ”を、自分のすべてを使って表現されていたといいますか。特にミカコと再会する居酒屋のシーンでは、もがいているツチヤを前にして言葉にならないほど圧倒されました。
松本さん個人の目には、
ツチヤはどんな人にうつっていましたか?
この作品に出てくる人たちは、ツチヤに対して意地悪を言ったり、バカにしてみたり、いろいろな感情のぶつけ方をしているのですが、一貫して全員が「ツチヤのようにはなれない羨ましさ」をもっているんです。それは登場人物たち同様、私も感じた部分でした。
自分に対しても、人に対しても鋭いけれど、
結果的に人から必要とされるツチヤ。
それこそが彼のもつ魅力であり、
才能のように感じました。
ツチヤは他の人とはまったく違う次元で生きている、“理解しきれない人”だからこそ「コイツ、面白いな」と、人が集まってくるのだと思います。最初は興味本位で声をかけてみただけだったのに、関わっていくうちにだんだんと惹かれ、漠然とした憧れが生まれ、「何で惹かれるのだろう?」と気になってしょうがなくなる。そして、その疑問の答えが明確になったときに「自分はツチヤのようには生きられなかった」と、ツチヤのもつ〈才能〉が羨ましくなるんです。最後、ツチヤがミカコに言う一言があるのですが、そこでミカコも「やっぱり自分とは全然違う人間だった」と、認識させられてしまうんですよね。
ツチヤを見ていると、
「目標の場所に辿り着くこと」よりも
「目標の場所で続けること」のほうが
難しいように感じます。
松本さんご自身はツチヤのような
葛藤を経験されたことはありますか?
気合いだけ入りすぎて空回った経験はたくさんありますし、その時期のほうが「何か良いものを残せていたのかな?」と、考えることもあります。でもきっと、ガムシャラに頑張っていた時期を経て多くのものが見えてくるようになった今、あの頃と同じように頑張ることは難しいとも感じていて。結果、人は少しずつ頑張り方を変えて継続していくしかないのかな、と思います。ツチヤのように形を変えずに頑張り続けられることはすごいこと。けれどそれを続けていたら、いつか壊れてしまうかもしれない。変化していくことが良いことかどうかは分からないけれど、それでも頑張り続けるうえでは変化が必要なのだと思っています。
「志や情熱だけで進み続ける」、
言葉としては正しい気がするけれど
実際に志を叶えるためには、
柔軟性や協調性が大切だったりしますよね。
そうですね。志や情熱だけで進んでいくと、その途中で誰かを傷つけてしまうこともあるかもしれないですし。でもきっと、ツチヤのように「周囲になじめない」だとか「分かってもらえない」といった生きづらさを感じている方って、たくさんいらっしゃると思うんです。この作品はそういった苦しみが「いいんだ、不器用で」と、軽くなる作品でもあると思います。
Dear LANDOER読者
『笑いのカイブツ』
From 松本穂香
岡山さんをはじめとして、菅田将暉さんや仲野太賀さんなど、キャストの方の名前を見るだけでも「面白そう!」と思っていただける映画だと思うのですが、その期待を超えるほどの体験ができる映画になっています。本当にジェットコースターのような作品なので、是非、劇場でエンドロールまで楽しんでください。
映画『笑いのカイブツ』
2024年1月5日(金)全国ロードショー
出演:岡山天音
片山礼子 松本穂香
前原滉 板橋駿谷 淡梨 前田旺志郎 管勇毅
松角洋平 菅田将暉 仲野太賀
監督:滝本憲吾
原作:ツチヤタカユキ『笑いのカイブツ』(文春文庫)
Staff Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:尾曲いずみ
スタイリスト:道端亜未
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:古里さおり