映画『リライト』
忘れられないひと夏は、あなたにも。
〈時〉と〈選択〉が交錯する、
史上最悪のタイムパラドックス
あの夏の日々、それはたしかに私だけの物語だった。君と歩いた帰り道も、図書室に吹き抜けた風も、花火大会の人混みも。何度も何度も読み返しては、大切にしてきた私だけの物語。でも───あの日は晴れていたんだっけ?夕立があったような気もするし、夕日が射していたような気もする。自分だけの宝箱にしまった大切な記憶にさえ、〝気づかなかった点〟と〝気づけなかった点〟が存在するもの。10年前の「あの人の本当の気持ち」と「あのときの選択」が、時間とともに明るみに出てきたとき、あなたはすさまじいタイムパラドックスを目撃することになる。忘れられないひと夏のリライトを、どうか映画館で見届けて。
映画『リライト』

-あらすじ-
―監督:松居大悟、脚本:上田 誠のタッグが贈る!
史上最悪のパラドックス <タイムリープ×青春ミステリ>―
高校3年の夏、転校生の保彦がやってきた。彼はある小説に憧れて、300年後からタイムリープしてきた未来人だった。保彦と秘密を共有する美雪。やがて二人は恋に落ちた。
そして7月21日、美雪は保彦からもらった薬を使い、10年後の自分に会うためにタイムリープする。未来の美雪は1冊の本を見せ、「あなたが書く小説。……絶対書ける。」と告げる。それは保彦が未来で出会う小説だった。タイムリープから戻ってきた美雪は、保彦と「この夏の保彦と美雪の物語を書き、必ず時間のループを完成させる」という約束を交わし、未来へ帰っていく彼を見送った。10年後、小説家になった美雪は、ようやく出版にこぎつけた保彦との“自分だけの物語”を手に帰省する。しかし過去からタイムリープしてくる自分と会う約束をした運命の日、いくら待っても10年前の美雪は来なかった。なぜ来ない!?謎を探るなかで同窓会に参加した彼女は、同級生から驚きの真実を知らされる。
あの夏のタイムリープの謎と秘められた感情が、10年の時を翔けて明らかになる―
現在、過去、そして未来、時を翔けめぐり「リライト」される運命の行方は?
-石田美雪-

小説家。10年前、高3の夏に
未来人の保彦と出会い恋に落ち、
タイムリープを経験する。
現在、保彦に書くと約束した小説を完成させ、
タイムリープしてくる自分を待っている。
映画『リライト』
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池田エライザ
初めて脚本を読んだときは「え⁉」と、驚きの連続でした。たとえ脚本に「これは何年何月何日何時何分のシーン」と丁寧に書かれていたとしても、混乱してしまうほど複雑に入り組んでいるお話なんです。きっと映画をご覧になる方も、タイムパラドックスと物語の展開に驚かれると思います。私自身は、演じる美雪の視点で読み進めていたので、次々と明かされてゆく真相に「もうやめてよ、そんなことしないでよ…!」という気持ちになってしまって(笑)。まるで第一目撃者のような感覚で、ドキドキしながら読ませていただきました。そうして一度脚本を読み終えたとき、正直「すべてを知ってしまった私は、初号を純粋な気持ちで楽しめないかもしれない」と思ったんです。でも実際はそんなことはなくて。美雪がいないシーンでの保彦やクラスメイトたちの姿に、「こんな顔もするんだ」「こんなこともあったんだ」と新鮮な驚きがありましたし、美雪ちゃんの恋心を思い出してちょっと甘酸っぱい気持ちにもなれました
高校生の役を演じられてみていかがでしたか?
年を上に見せるときには、見た目や芝居を“足して”いくことで表現が適う場合が多いのですが、今回は高校生らしい瑞々しさを出すために、“引き算”をしていく必要があったんです。なので、見た目はほとんどスッピン、そこに色つきの日焼け止めを塗った程度のメイクで撮影に臨みました。出演者全員が20代だったこともあり、「みんなで堂々と高校生になるしかない!」と、覚悟を決めて(笑)。ちゃんと高校生に見えているかどうか心配ですが、映画を観てくださった方々からは「高校生にしか見えなかった」という言葉をいただけてホッとしています。皆さんのあたたかい目線に助けられているところです。

2019年の現在と、10年前の高校生時代。
年齢の違う美雪を演じ分けるにあたって、
大切にされたことはありますか?
松居(大悟)監督が特に大切にされていたのが、“身体を大きく使う”ということでした。たしかに10代の頃を思い返すと、子猿みたいに手を叩いて笑っていたし、何をするにもアクションが大きかったと思うんです。今よりも“人からどう見られているか”も意識していなかったですし。そんな当時の感覚を思い出しながら、自然な範囲での大きな動きを意識して高校生の美雪を演じるようにしていました。
美雪役を築いていくうえで、
監督からのアドバイスはありましたか?
細かな「こうしてください」というご指示は、あまりなかったと記憶しています。演じていて不安になったときに「私はこういうふうに捉えているのですが、これで大丈夫ですか?」と、方向性の確認をさせていただくことはありましたが、そのときにも監督は「うん!大丈夫、大丈夫!」と言ってくださって。もともと方向性が合っていたのか、私の解釈に委ねてくださっていたのかはわかりませんが、役と向き合うにあたって大きなズレを感じることはなく、終始穏やかに撮影が進んでいきました。


池田さんご自身は
美雪をどのような人物だと捉えていましたか?
「クラスにいる本が好きな女の子」と聞くと、どうしても内向的なイメージをもってしまいがちですが、美雪はある程度自分のペースでみんなとコミュニケーションを取ることができる子。なので、“本好きな子”というイメージにとらわれすぎず、誰もが身近に想像できる女子高校生として捉えていました。きっと、美雪にとって本を読むことは特別なことではなく、一番の暇つぶしで一番のエンタメ。教室に座ってみんながしゃべっているのをボーッと眺め、ふと読みたくなったら本を開く…。自分が高校生だった頃の感覚を思い出しながら、美雪として“ただそこにいる”、そんな意識で演じていました。
ちなみに、池田さんはどんな高校生でしたか?
私の高校生時代はカリスマJKでしたね(笑)。女子クラスだったので、女の子たちと一緒にギャーギャー騒いでいる毎日でした。ただ、カリスマJKに見えるように振る舞っていただけで、「あまり華やかなことが好きではない」という根っこの部分は、今と変わっていない気がします。

変わったところと変わらないところ、
どちらもあるから、
あの時代が懐かしく輝くようにも思います。
たくさんの登場人物に
それぞれの展開が待ち受ける本作。
他の登場人物たちや、物語の全体像を把握するのは
かなり大変だったのではないでしょうか?
たしかに、登場人物たちのすべてを把握しようと思うと大変ですが、本作ではあえて把握しきることにこだわらないようにしていました。私たちの日常生活のなかにも、うろ覚えなままのことって割とあるじゃないですか。たとえば、同窓会に行ったときに「たしかあの人はキャラ濃かったよね」「たしかあの子はしっかり者だったよね」と、あいまいに話すレベルでしか把握できていない、みたいなことが。美雪も“自分だけの物語”に対して、意外とそのくらいのスタンスでいたんじゃないかと思っていて。私はそんな美雪のバランス感覚が好きでしたし、「まぁ、旦那もいるし」と、どこか余裕のあるような雰囲気も新鮮に感じていました。周りが余裕なく翻弄されているなかで、実は少しゆとりをもって動いている美雪。彼女と同じくらい軽やかなスタンスで本作を読むことができたおかげで、とても楽しく演じることができました。
緻密なタイムパラドックスの使い手・上田誠さんが
脚本を手掛けた本作。
さまざまに入り混じる時間軸のなかで
演じる難しさはありましたか?
以前、上田さんが脚本を書かれた作品(フジテレビ『ストリートワイズ・イン・ワンダーランド―事件の方が放っておかない探偵―』)で、未来から現代にやってきたタイムトラベラーの役を演じたことがあるんです。そのときは自分が時空を移動する側だったので、「今、何年から何年に移動したから、戻ったら何歳になっていて…」と大混乱だったのですが(笑)、今回はタイムリープを目撃する側だったので、前回に比べて整理がしやすかったです。シンプルに、ただ目の前で起きたことにびっくりすればいいし、たとえ何も起きなかったとしても、起きなかったという事実にびっくりすればいい。上田さんの作品が2度目という点でも、物語上受け身でいられるという点でも、いい意味で非常に気が楽でした。


そんな時間の使い手である上田さんと、
リアルな息遣いで現代劇を描く松居監督、
お2人の化学反応をどのように感じられましたか?
“タイムリープ”という、大きく表現しないと何が起きているのかが伝わりにくい、しかし一歩間違えると大袈裟になりすぎてしまう事柄を、松居監督はまるでホームビデオのように、〈日常〉を切り取りながら撮られていて、そこに、何か不思議なことが起きても説得力を感じてしまうような『尾道』というロケーションの力が加わり、まさしくいろいろな化学反応が起きていました。尾道の新旧が入り混じった街並み、海と森に包まれた閉鎖感、そのすべてが「世界のどこかに、本当にこんな夏があったんじゃないか?」といった錯覚を起こさせてくれるんです。誰もが体験するわけではないけれど、何人かにひとりが「あれ、あの夏ってなんだったんだろう?」と、ふと思い返すような——そんな忘れられない“ひと夏の思い出”が出来上がったのではないかと思います。
尾道という場所も、
この作品の大切なエッセンスですね。
そうですね。尾道って、神聖な場所だと思えばそう感じられるし、退屈だと思えばそうも感じられる、自分の成長過程や心の状態によって見え方が全然違う場所なんだと思います。私も田舎育ちなので、“何もない”ということがどれだけありがたいことか、その環境が、どれだけ自分をクリエイティブにしてくれたかがよく分かるんです。ただそれも、大人になった現在(いま)だから言えることで。私にとっては、尾道の「観光地として発展させたい」「おしゃれな施設をつくるぞ!」という勢いも、昔ながらのスナックに地元の人たちがどんどん集まってくる日常も、暑すぎる気温と涼しい海風も、そこにあるすべてのバランスがとても心地良くて、すっかり大好きな場所になりました。

場所と、人と、作品と―…
一つひとつが気持ちよく響き合って
出来た作品なんですね。
今回、小説家という役柄を演じられましたが、
池田さんにとって「書く」時間は
どんなひとときですか?
私にとって「書く」時間は、バランスをとるためのひとときです。普段から日記をつけているのですが、誰かに見せるわけでもないのに、「人からよく思われたい」という気持ちが出てきてしまい、つい誰かが読む体で書いてしまうことがあって。だから最近は、よからぬことを考えてしまう前に、とにかく手を止めずに今日のことを書き続けるようにしています。そうすることで「これは自分の本音だったな」とか、「これは人のことを思いやって言った言葉だったな」とか、自分のなかにある〈本音〉と〈建前〉の境界線が見えてくる気がして。「そうか、本当はこう思っていたんだな」と、自分の気持ちを整えることができるんです。そういった意味では、メディテーション(瞑想)に近い時間なのかもしれません。
池田さんから発せられ、紡がれる言葉たちは、
とてもあたたかくて美しく感じます。
もしも池田さんがタイムリープできるとしたら、
どこにリープしますか?
自分の人生はこの先経験できるので、たとえば1000年後など、生きている間には絶対に見ることのできない“未来”へ行ってみたいです。本当は「恐竜には毛が生えていたのか?」とか「歴史の空白の150年には何があったのか?」といった過去の謎も知りたいのですが、仮に「クレオパトラは本当に絶世の美女だった!」と知ることができても、それを現代で何かに活かすことはできないと思うんです。でも未来へ行けば、「こんな技術があったよ!」とアイデアを持ち帰り、何かに活かすことができるはず。それだとタイムパラドックスが起きてしまうのですが…(笑)。1000年後の未来では、今の社会から何が排除されていて、何がブラッシュアップされているのか?どんなインテリアがあるのか?そもそも人間はまだいるのか?文明はあるのか…?など、フューチャリスティックな感性が大好きなので、どんどん興味が湧いてきます。

Dear LANDOER読者
映画『リライト』
From 池田エライザ
夏の暑くなってきた時期に上映される本作。暑い外から映画館に入って、ひんやりとしてきた頃に上映がはじまり、そこに居合わせたまったく知らない人たちと映画を共有する。DVDや配信なら「今のはどういうことだったんだろう?」と巻き戻して確認することもできるけれど、映画館ではただ見届けることしかできない。そんな「何だったんだろう?」というモヤモヤした感覚も含めて、ぜひ作品を体感していただきたいです。また、エンドロールで流れるRin音くんの『scenario』の歌詞も、本作の大切な泣きどころの一つ。エンディングを浴びるように聴いて、劇場を出たときにまた夏の暑さを感じて…そんな映画体験が、みなさんのひと夏の思い出として残ってくれたら嬉しいです。

映画『リライト』
全国の映画館にて公開中!
監督:松居大悟
脚本:上田 誠
原作:法条 遥『リライト』(ハヤカワ文庫)
出演:池田エライザ
阿達 慶 久保田紗友 倉 悠貴
山谷花純 大関れいか 森田 想 福永朱梨
尾美としのり 石田ひかり
橋本 愛
配給:バンダイナムコフィルムワークス

Staff Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:RYO(TRON)
スタイリスト:髙橋美咲(Sadalsuud)
インタビュー・記事:満斗りょう
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